買い出しに出かけた街で仕入れた服に着替えて街を転々と移動しながら聞き込みを行う。
「金がつきかけたら、工事現場にでもいって働くさ」
脱走をした厚木はそう言って同じく脱走を行った他の九人達も抵抗軍に接触ができるまで日銭を稼ぎつつ、逃避行を続けようと言うことになった。
帝国軍は事故現場を中心に半径三〇キロ圏内に検問と捜索網を展開し、警察官の派遣も行なっていた。
バレるのも時間の問題となるため、どうにかして逃げる手段や方法を手に入れる必要があった。
基本的に大規模な移動は深夜で、徒歩に限定して移動を行い、西に向かっていた。
だが彼らからの接触は、彼らが思っていた以上に早かった。
「うごっ!?」
「百里!」
深夜に移動を行っていた途中、暗闇で百里桃香の呻き声がして横田が驚いたが、他の者達も一瞬で気絶弾によって鎮圧をされてしまったのだ。
誰かに叫ぶ間も無く、彼らは一斉に制圧をされるとと、深夜の草原に地帯に倒れた。
「対象を確保した」
「連れていくぞ」
気絶弾で倒れた彼らを、暗闇の中からそれを放った者達は真横に乗りつけたトラックに乗せていく。
「丁重に扱えよ?副司令に殺される」
「分かってるさ」
彼らはそう言い荷台に気絶をした一〇名を乗せると、そのまま静かに走り出して行った。
確保された一〇名の異世界人は、その後に抵抗軍の拠点である貨客船『ヌヴォ・モーンドゥ』に飛行艇を使って到着する。
「…」
連れて来られた一〇名は全員が目隠しをされていたが、それが取られると視界が明転して目が慣れなかった。そして瞳孔が光量を調節して視界を確保すると、
「お帰り」
船で彼はその一〇人に微笑んで出迎えた。
軍を退官後、ディルクは一度国を出た。
無論監視されていることは百も承知であった為、教国で人混みの多い場所である人物に手紙を投函する。
「…」
同時期、帝国で異世界人に関する発表がなされ、世界に衝撃を与えた。異世界人とは悪魔と同義であると言うのが一部の聖書主義者は、教皇に従わない跳ねっ返りとして帝国を見ていたが、帝国は現在の人権に基づいて彼等を保護をしたと言った。そして戦時中、彼らを独断で保護をした軍人が彼らを戦力として確保していたと説明をしていた。
意外な事に、この世界ではまだ市民革命というのは起こっていない。諸民族の春は帝国において起こっておらず、優れた統治が行われているかと言われるとまたこれも違った。
「(宗教の概念が曖昧なんだな…)」
ディルクはそこで宿泊したホテルでこの大陸での話を思い出す。永世中立を唱える教国であるが、その実明確に定義された聖書が無かった。あくまでも神話があるだけで、そこから解釈を行ってそれを聖書としていたのだ。それは地方によって異なっており、次第にそれが国教となっていた。そして国ごとの解釈の違いが聖地をめぐる戦争へと変化した。
「…」
そして彼は一泊ホテルで宿泊をすると、そのまま帝国まで蜻蛉返りをして国内の地方に向かう。
退官後にペッツは自分の面倒を見ると言ったが、それは異世界人に関する情報を万が一にでも他国に漏らさないかの警戒も含まれていると分かっていた。
その可能性は限りなくゼロに近似できるが、彼と敵対関係にならないかと問われると否である。何せ今からやろうとしていることはその異世界人使った戦争なのだから。
「…」
アウトバーンで自分の車を走らせていると、彼はそこで帝国の某地方のモーテルに入る。
「ディルクさんね…荷物が届いているよ」
あらかじめ予約をとっていたので、モーテルの受付はディルクにそう言って箱を持ってくる。
「随分と思い荷物だね。何が入っているんだい?」
「大事な荷物なんですよ」
そう話すと、彼は荷物を持って部屋の中に入る。そして部屋の中で彼はその荷物を開けると、思わず口角が上がる。
「助かるぜ、デニス」
そこには手紙と共に三七式魔導演算機改が入っていた。魔導研究局でも彼専用のワンオフ機と化していたこの魔導演算機は、パーツ取りの予備機を含めて数台しか用意が無かった。今まで数多の改造を施されたことで原型が残っている箇所は無いと言って良い。伸縮式の金属アームは汎用機関銃を備えることが可能であり、今は折りたたまれていた。
『最後の頼みをしてきた馬鹿野郎』
手紙には最初にそう書かれていた。字から見てデニスである。
『よく聞け。魔導研究局の復旧作業中の三八式の搬出に紛れ込ませた。だがバレるまでの時間は少ないと見ていただろう。何せ三七式はお前だけの専用機だからな』
手紙には他にも彼から頼まれた物資を、言われた通りに送り届けたと言っていた。
『お前がやろうとしていることは大方予想がつく。無謀だと言ってもお前なら止められないだろうし、気持ちは理解する。死ぬべき場所で死ななかった人間は悪鬼に堕ちるだけだ』
同封されていた手紙は、デニスが直筆で記してあり、その字体から彼が言葉をゆっくりと紡ぐように記したのだと分かる。
『しかし敵は抵抗軍の副司令官だ。蛮勇としか思えん。今のところ、総長はお前の思惑に気付いて異世界人の場所は明かしていない。居場所は総長以外は知らない』
「ああ、そうだろうと思っているさ」
そこで彼は魔力で手紙を燃やすと、箱に収納された魔導演算機を見る。退官後すぐで警戒をされている可能性があるが、そもそもこの異世界人の大騒ぎである。いくら責任を押し付けたとはいえ、この騒ぎはしばらく収まりそうにない。ほとぼりが冷めるまで身を隠すと言う意味でも彼は帝国の中でも人気のない場所まで移動する予定であった。
そしてペッツが自分の想定通りの動きをしているのなら、隠れている場所は今後も明かすことはないだろう。
一目につかない場所で彼は帝国でのクーデターを行うための戦力として異世界人を隔離している。おそらく幽閉目的でどこかの人目につかない場所…と言ってもディルクの知らない場所に彼らを幽閉しているに違いない。
「…夜だな」
そこで彼は窓の外で落ち掛けている太陽を見つめると、魔導演算機を取り出してタンクに水を注いでいく。
蛇口を捻り、魔導演算機に装備された水タンクに水道水を入れていく。重力を相殺し、魔導演算機の魔法使用時に発生する熱を用いて水蒸気を作っていく。仕組みだけでいえば蒸気機関車のようなものだろう。
体を傾けて蒸気噴射口を制御して動きを制御する。魔導演算機はその過程を全て自動で行なってくれ、使用者の思考に合わせた動きを可能としている。
清潔な水が必要であったため戦場ではなかり苦労していたのだが、今は平時である。どこに行っても水道水が使えるのはありがたかった。水タンクに満杯で水を入れると、彼はそこで周りをリュックサックに見えるように偽装を行ってから背負う。
そして手元に自分の髪の毛を入れた安い人形を置くと、ナイフで手を切って人形の綿に自分の血を染み込ませて、そこに自分の魔力を放出してダミー人形を作った。
これで部屋から魔力を使った監視が行われていても欺くことができる。
「よし」
夜になったところをモーテルを裏から出て、離れた場所で空に飛んでいく。この時期は水蒸気もすぐに白煙となってしまうため、注意が必要であった。
「魔力は最小で…静かに…」
魔導レーダーがいまだに主力として全国に配備されている帝国。飛行機や日常生活を助ける上では大変役に立っているが、今の状況では問題であった。魔法を大規模に使うと、それが魔導レーダーに反応してしまうのだ。
「…まだ遠いか」
そこで彼は銀のマジック・ソナーを使って文字盤の長針の動く向きに向かう。その振動中心にこの魔色波を覚えさせた相手がおり、先に居場所を把握しておく必要があった。銅のマジック・ソナーはこれからの作戦を行う上で重要な要であり、今もポケットの中に入っていた。
マジック・ソナーはとても便利な魔導具で、どこにいても相手の居場所が分かってしまう。あくまで本人から溢れ出る魔力波を感知しているため、本人ですら勘づくことはない。この魔導具の存在はペッツですら知り得ない一品であり、彼ですら予想外の方法でディルクは異世界人達の隔離先を探していた。
「…」
長針の動きを参考に大まかな位置を確認しながら正確な位置情報を参考に飛んでいく。
徐々に左右に振れていた長針は間隔が狭まっていくと、そこで視界の先に暗闇の中にある古城を見た。石造りで、とても古い城である。
「あそこか」
しかし構造が山の上にあり、その山も坂が急である。生きて逃げることは不可能と言っていいだろう。
「…」
その古城を遠くから俯瞰すると、トラックに積載する形の魔導レーダーが用意されて数名の陸軍兵士が立哨を行っていた。これ以上の接近は危険であると直感的に彼は理解すると、立哨中の兵士が暗視魔法でこちらの存在に気が付く前に彼は山間の斜面に着地する。
「こんな場所に幽閉かよ」
気合い入ってんなあ、なんて内心で感心しながら見上げる。異世界人達を幽閉しているその山城は見上げるだけでもゾッとするほどの場所に作られていた。
「(蓮子?)」
『っ!もう見つけちゃったの?』
念話魔法で呼びかけると、その声に小山は早速気がついて反応をした。すでに異世界人逃亡から二ヶ月ほどが経過しており、思っていたよりも早い連絡に彼女は驚いていた。魔導レーダーに引っかからないように出力を最小に落としての連絡であった。
「(悪いな。時間がないから手短に話す。これから非定期的に連絡をする。蓮子は聞かれたことだけに答えてくれるか?)」
『分かったわ』
おそらくすぐにでも魔導レーダーが反応をして、兵士たちが飛んでくることとなるだろう。その前に彼はすぐに斜面から飛び去っていった。
真夜中、星空が綺麗な場所で彼女達は古い古城の中で幽閉されていた。
毎日の点呼や軽い訓練はあるものの、私たち残った異世界人達はこの施設の中で暮らしていた。
「蓮子?」
「うん?」
そんな中、窓の外をぼんやりと眺めていた彼女は話しかけられた。
「大丈夫?」
「ええ、今のところはね」
この古城の中で、異世界人達は全員が個室に入れられており、彼女達は通路を挟んだ部屋で話していた。
「…どんな感じ?」
「そうね…もしかすると、カナリアが鳴くわね」
彼女はそう話すと、その返答に長野はゆっくりと頷いた。
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