意外とすぐに小山達の幽閉されていた居場所を特定したディルクはモーテルに戻り、そこで魔導演算機を片付けた上で翌朝に市街地に赴いた。
そしてそこで買ったのは箱が必要となる程大量に、一気に食料品を購入した。
箱を抱えたままモーテルに戻ると、部屋の中で箱の中身に魔導演算機を入れて
「中佐、どこにいくんだ?」
「さあ?」
その様子を遠くで監視していた面々は首を傾げつつも、アウトバーンを使って追従を始める。
ペッツから異世界人の次に、退官をしたかつての自分たちの上司を監視するように命じられていた。
「総長は、中佐が裏切るとでも思ってんのかね」
「さあ?」
彼らは職務忠実で、ペッツの身分を守るために自ら泥を被った相手にやや怪訝に感じながら距離をかなり置いて追跡を行う。
「しかし中佐は諜報員としての訓練も受けている。我々の知らない方法で欺いている可能性もあるぞ?」
「中佐がそこまで利敵行為をするとは思えんがね…」
追跡中の車内でそんなことを話していると、無線で連絡が行われる。
『現在、対象の前方を走行中。異常なし』
「こちらも異常無し。送れ」
彼らは無線で短くやり取りを終えると、そこで彼の車が傍に逸れて降りていく。
「対象がアウトバーンを降りた。追跡はまかせろ」
『了解。こちらも次の出口で降りて追跡を行う』
そこで彼らは車で追いかけ始めると、ディルクを乗せた乗用車は貸別荘の多い地域に入っていく。
「ああ、別荘で暮らすわけね」
「ここら辺は首都からも遠いですし、ほとぼりを冷ますという点では十分ですね」
彼らは箱いっぱいに詰めた食料品を買った理由を察すると、ディルクはそこで契約を行なって貸別荘の一つに案内される。
場所は森で鬱蒼と茂っているが、湖畔がよく見える別荘で、ログハウスを意識した比較的小さな場所であった。
「どうだ?」
「よく見える」
そして車はその対岸の道路脇で停車をして双眼鏡を使って別荘を見る。
「カーテンは…閉じられているわね」
「ああ。流石に中佐は追われている身だからな」
そこで彼は今日買った新聞を見る。そこには帝国陸軍の一部部隊が異世界人を独断で極秘裏に、戦争中に確保をし、ペッツ陸軍参謀総長へのクーデターを計画していたというやや誇張された記事が書かれていた。
「はっ、相変わらずブン屋は想像力豊かなこった」
「すっかり中佐は悪者だな。これじゃあもう軍には戻れんな」
一連の行動に対し、ペッツは極めて遺憾であり、当該の士官を懲戒免職にした旨なども記されていた。
「あーでも、実名公表されてないんだな」
「ああ、泥を被ってもらう代わりに色々と便宜を図ったんだろう」
彼らはそう言い、ディルクが退官した後にペッツが全て罪を背負ってもらう代わりにその後の生活の面倒を見るという話を思い出す。
「だが中佐は今まで異世界人の全てを取り仕切ってきた人物だ。他に適任がいなかったとはいえ、彼らがどれほどの力を秘めているのかを最も理解しているのがあの人だ」
「やれやれ、戦争は終わったってのによ」
「戦後の方が忙しいぞ。何せ教国ともこっちはやり合ったんだからな」
彼らはそう言ってディルクの別荘を見ていた。
別荘を借りたディルクは、そこで別荘の窓から付近の景色を双眼鏡を使って確認すると、対岸近くの場所のガソリンスタンドに止まっている一台の乗用車を見る。乗っていたのは顔を知った人物である。
「(やっぱりか)」
そこで部下の顔を確認すると、監査が何人程度なのかを大まか把握してから双眼鏡を外し、視線をその監視している面々に向けて極めて脆弱な認識阻害魔法をかける。
魔法というのは、かかっている対事を認識しなければ対処をすることができない。無論魔法を知っていてもかかっている事に気が付かなければ、魔術師であっても自分にかけられた魔法がどのようなものであるのかを把握することはできない。
あえて言うなら『バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ』と表現するべきだろう。ここでも逃げ道として、最近流行っている事による大人への魔法かけの様にバレても岩川も足らない様に慣れていない様な感じで魔法を展開していた。
心が痛まないのか?と問われたらそりゃあ苦しいさ、完全に信用し切ったかつての部下を騙しているのだからな。
しかし小山達に『日本に返す』と約束した手前、その役目は果たさなければならない。幸いにも、帰る方法は分かり切っている。その為、約束を果たすために今は行動を行なっていた。
「…」
借りた別荘にあの人形を用意すると、魔法で血を落としてからまた新しく血を吸わせて魔力を与える。すでに膨大な魔力を内包している彼は、分身を作ることも造作はなく、また魔力波を抑える方法も学んでいた。
エレニカからそう言ったことは教えられなかったが、加護のおかげでディルクは魔術・非魔術において身を隠す術は卓越していた。
「悪いな」
そこで魔法をかけ、偽物を監視することとなるかつてな部下に心ばかりの謝罪を行うと、彼は別荘を出て近くの街に向かう。
「荷物の受け取りに来ました」
「はいはい、ヴァリ・オートランドさんね。お待ちください」
郵便局で彼は郵便局員少し苦労して荷物を持ってくる。スキー道具と書かれた長い荷物はすこし職員を苦労させていた。
「これが荷物ですね」
「ありがとうございます」
そこでディルクは魔法をかけてその荷物を軽々と運ぶと、そのまま歩いて別荘まで戻る。無論、入り口に見張りがいることを前提に人気のない森から入っていくのだが。
「流石だ」
そして別荘に戻ると、そこでディルクは中に入っていた
携帯式対空機関砲として魔導演算機装備の飛行魔法兵の転用も計画されていたが、まともに使うには魔力が大量に必要で、それだったら使えねぇよとお蔵入りとなった武器だ。ディルクでも十分に魔力を充填された魔法弾を連射して使ったらたちまち魔力が空になるかもしれない化け物である。しかし20mm口径弾から放たれる銃弾の威力は破格を誇る。水雷艇であれば木っ端微塵に吹き飛ばせた。
しかし振動装甲の登場により、戦車に対して魔法弾での攻撃が通用しなくなってしまうと、無用の長物となってしまっていた。
「…魔法弾まで完備か」
そこで二〇発入り弾倉に装填済みの20mm砲弾を確認する。使用期限が近い弾薬で、帝国軍の採用する
夜中になると、魔導演算機を使ってあの古城の近くまで移動して小山と連絡を取る。
「(作戦決行日の前に俺が鍵を奪いたい)」
『懐柔なら問題ないわよ?』
「(任せた)」
彼女は魔導レーダーで監視をされてる中で短く連絡だけを済ませると、その事を点呼の際の集合に合わせて共有をしていく。
「看守の鍵の場所と誰が鍵を持っているかを把握して、交代日時を確認」
「了解」
「OK」
彼女達はこの古城で幽閉されている間、自由時間などを使って城の散策を申し出て立哨をしている兵士達などと話していた。
「君たちの故郷は、こんな城はないのか?」
「ええ、こんな山の上にはあんまりないですよ?こっちは木造ばかりですし」
彼らはそう言って元いた世界の話をすると、兵士達はそんな異世界の話に興味があったのか、初めこそ警戒の色を見せていたが、次第に彼らの話を聞く様になった。
自分たちの知らない世界の、知らない歴史を聞くと言うのは普通はできない体験であり、退屈であった兵士たちにとっても面白い体験であったからだ。煙草を吸い合いながら兵士達は異世界人の発展した技術の話なんかも彼らを興味深くさせていた。
「へぇ、電話がこんなカードみたいなのでできるのかよ」
「すげえな。電話代要らずじゃねえか」
特に彼らの言うスマートフォンなどの電子機器に関する話は自分たちの全く未知の世界の話であり、精々対空砲の信管設定の時に使うアナログコンピュータが限界であった為、彼らは目を丸くしていた。
最近の対空砲弾は近接信管の砲弾が主流である為、そのアナログコンピュータも徐々に出番を失いつつあった。
「ええ、コンピュータも今よりずっと性能がいいぜ?」
そこで話していた石垣は車座となっている中で一瞥をすると、根室や三沢達が鍵の在処やできるなら鍵の奪取をしていく。
「だ、大丈夫かな…」
「やるしか無いわよ。南部の計画に乗らないと私たちは帰れないんだから」
彼らはあらかたの話は聞いていたが、それでも行き当たりばったりな作戦に不安を隠しきれなかった。
しかしこれ以上待てないと言うのも事実である。半分の異世界人は抵抗軍の手に渡ったと見ており、今もそのテロリスト達は反抗を繰り返していた。これ以上は、この国で再び戦争になってもおかしくは無い雰囲気であった。
彼らは仕入れた新聞でディルクが全ての異世界人に関する責任を背負って軍を辞めた事を知った。その動きに彼らは『本気でやる』という意思を感じ取っていた。そしてそれに呼応する様に古城の警備の数が増やされている印象があった。
これより増えると、流石に逃亡をしきれない可能性が高くなる。
「あった」
そして古城の警備管理室の前を通ると、そこで鍵の場所を見て場所を覚えると、次に根室が警備室長に話しかけて気を引いている隙に三沢が警備部隊の交代日付を盗み見た。
「(一週間後に交代…)」
日付を確認し、彼女達は日時の確認を行うと警備室を後にする。そして彼らは部屋に戻る直前に小山と会って情報共有をする。
「一週間後に交代をするって」
「了解」
笑顔で、日常会話をしているように日本語で話すと、この言語を知らない立哨兵達は首を傾げつつも雰囲気から世間話をしているのだと推察していた。
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