戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一五八話

その一報を受けたとき、すぐにペッツはディルクの所在を聞いた。

 

「彼はまだコテージに居たままだと?」

 

電話越しにペッツは首を傾げた。異世界人の集団脱走を聞き、彼は裏でディルクが糸を引いており、彼の性格から現場にいなければソワソワしてしまう現場主義であると知っていたからだ。今回の集団脱走において、彼が裏で手を引いているとしか思えなかったからだ。

彼は部下の報告を信じていた。故に疑うことはなかったが、俄には信じられなかった。

 

「(中佐は貸別荘で休暇中か…)」

 

彼は部下の報告で次に古城で連絡のあった異世界人による集団脱走の連絡に違和感を感じていた。

 

「施設屋上は直ちに制圧か…」

 

一撃で魔導レーダーを装備した車両が破壊され、そのレーダーは直前に大きな魔力波を探知していたと言う。脱走を行った異世界人達は拳銃を使って蝶番を破壊して脱走。魔法を使って逃げ出したと報告が上がっている。

 

「…教国での任務中だな?」

 

すぐに彼は教国での極秘任務である禁書保管庫が吹き飛ばされた時の事を思い出す。世界中の大騒ぎになったにも関わらずその真相は一切が不明なあの事件。その時に異世界人は禁術を読み見ていたと言う事だろう。しかし彼は魔術学者ではない為、どの魔法を使ったかは点で定かではない。

 

しかし魔導レーダーを装備したトラックを破壊できたとなると、少なくとも10mm以上の口径の弾丸で破壊をされたこととなる。それほどの弾丸を使える魔法兵というのは意外にも多くいるが、城のほぼ中心に置かれていたはずのそれを破壊できるとなると、至近距離まで近づかれていた可能性が高い。しかし魔法弾は弾頭が大きいほど魔法の展開に時間がかかる為、予め魔法の兆候を感じ飛ぶことができる。しかしそれがなかったと言うことは…。

 

「魔導演算機…」

 

引き金さえ引けば魔法を即座展開可能な優れもの。我が帝国が最初に発明し、無詠唱で魔法を自動的に発動できる、戦争を変えるとさえ言わせしめた発明。抵抗軍がモンキー・モデルを開発した事で帝国軍は震えていたが、落ち着いてその回収したモンキー・モデルを見てその性能が三七式はおろか、三八式ですら遠く及ばない性能で、連中はこれを空中戦ができる機械と間違えているらしい。という結論になった。

 

「おい、魔導演算機の数は大丈夫か?」

「すぐに」

 

そこで運輸課の軍人に命令を出すと、すぐに報告が上がってくる。

 

「…魔導演算機は予定数補完されているか」

 

魔導演算機の数に誤差はなく、彼の使っていた三七式魔導演算機の保有数も狂いはなかった。

 

「では誰が…」

 

ペッツは今回の襲撃犯に幾多が候補に上がる犯人を探していた。

 

 

 

「宜しかったのですか?」

「ん?」

 

その時、部屋で一人の軍属が質問をした。

 

「良い道具は、その価値がわかる人間でなければならないと思わないか?」

「ええ、全くもって」

 

その軍属は頷くと、一個紛失した三七式魔導演算機の書類を見る。

それは数日前に発覚し、しかも幾多の実践投入をされた実証実験機であった為に、発覚した当初こそ大騒ぎになった。しかしその後のいつもの実験中の爆発や、施設全体の改装工事によって次第に埋もれてしまった。

 

「自分の作ったものを壊れるまで使ってられると言うのなら、発明家の本望だよ」

「そうですね」

 

たった今、魔導演算機の保有数に関する問い合わせに答えたばかりであった彼女は、小さく笑みを見せて紛失した魔導演算機の記録に燐寸で火をつけて灰皿に置いた。

 

「常に魔力波の記録は取っているのだろう?」

「ええ、改造時に取り付けた魔力波測定装置がこんな形で役に立つとは思っていませんでしたが…」

 

彼はそう言うと、今でも記録をとっている装置を思い出す。当初の想定通りであれば、魔導演算機を使用した段階で使用者から発せられる魔力波を記録することができる。

 

「しかし総長閣下の問い合わせにあのような答え方は…」

「せっかくの優秀な非検体を持っていった腹いせだ。気にすることはない」

 

エレニカはそう言うと、噂では集団で逃げられたとか言う異世界人の話を思い出す。ペッツが魔導研究局に魔導演算機の数の問い合わせを行った時点でチェックメイトである。

 

まず魔導演算機の数を搬出時期でないにも関わらず問い合わせた来たということは、魔導演算機でなければ行えない問題が起こったと言う事。

まだ民生用の魔導演算機は発売前で、ようやく生産体制が始まった頃だ。そしてわざわざ軍用の魔導演算機の確認をすると言うことは、それを使ったことがある人物がいると言う事。

そして魔導演算機を扱える人物というのはこの国でも限られている。そんな中、最近話題となった人物で一人、魔導演算機を扱える軍人に心当たりがあった。

 

「ディルク中佐…」

 

彼女はかつてこの地を訪れた福音とも思えたある男。過去の経歴は一切が不明で、それはペッツですら教えてくれることはなかった。

結局謎は謎のまま、彼は軍を退役した。今までもそうであったが、彼はあまりにも異世界人と関わりすぎていた。元々、国家機密級の秘匿扱いであった異世界人。

関わる人間を減らす意味合いも含めてディルク中佐は元々国籍が不明な人物であったという理由で抜擢されたと言っても過言ではない。

 

「情でも移ったか?」

 

エレニカはただ白い悪魔への復讐にのみ燃えていたはずの男を思い出す。思えばあの頃から幾ばくかの時が流れたものだ。

戦争は終わり、今度はテロ組織との戦争だ。

戦争の残滓から産み落とされた怪物は今もなお、戦争を忘れられぬ悪魔となっていた。

 

「…死に場所を見つけたか」

 

彼女はペッツが退役したディルクを疑っていること、そしてその彼に魔導演算機を渡したことに間違いはなかったなと確信していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、隠れ家である帝国領内の港湾都市の一角にトラックは停車する。

 

「ここ?」

「ああ、降りるぞ」

 

そこで彼らは施設に降りると、ディルクはトラックに乗ったまま小山達を到着した倉庫の中に下ろしていく。

 

「中佐は、どうするんだ?」

 

石垣が聞いてくると、ディルクは答える。

 

「生憎、俺は見張られているもんでね。帰って諸々の準備をしてからこっちにくる」

 

そう言い、彼は偽装がバレないようにするためにそのまま夜が開ける前に帰らなければならない。ここから借りた別荘までは比較的近いため、彼はこのまま空を飛んで消える。

そして別荘で幾らか軽く準備を整えた後にこちらに戻ってくる予定であった。

 

「それまで君たちはここが生活空間となる」

 

そう言い、彼は逃げた小山達に倉庫の中で彼らの家となる場所を紹介した。

 

「え?これ?」

「そうだ」

 

そこで彼女達は驚いた様子でこれからの生活空間を見る。

 

「支援者が用意した目的地へのカボチャの馬車さ」

 

倉庫は直接船に乗り付ける構造で、今回支援を依頼した人物が用意してくれた建物だ。元はこの街にある小型船舶の修理工場の完成品保管庫である。そこでは桟橋に一艇の小型艇が係留されていた。

 

「まあ、乗り心地は保証できないがね」

「「「「でしょうね!」」」」

 

その小舟を見て誰もが同じ顔をした。その場所に係留されていたのは帝国海軍の魚雷艇(Schell boot)で、しかもお高い魚雷付きで今回は依頼してある。依頼したジョヴァンニはありがたいことに魚雷を四本も用意してくれた。支払いはその分凄まじいこととなっていたが、今までの給料や危険手当などでなんとか支払うことができた。

 

「こいつの使い方を死ぬ気で覚えろ。こいつが生命線だ」

 

無茶振りとも言える話であったが、彼らはディルクから嫌と言うほどこうした経験は受けていた。

使い方の説明書を受け取ると、機関の動かし方や操縦方法。魚雷の操作方法や装填方法などを彼らはいつ始まるかわからない作戦に備えて準備を行う。

 

「そしてこいつだ」

 

そこでディルクはドサリと鞄を降ろす。その中には帝国で使える紙幣が入っていた。それはディルクが今まで貯め続けてきた給金を銀行から全て下ろした金であった。その金額に小山達は驚いていると彼は言う。

 

「これを使って一ヶ月分の食料品と医薬品を買ってこい。作戦はいつ始まるかわからないと思え」

「「「っ…」」」

 

これからの彼らの生活空間となる場所を前に異世界人達は一瞬息を呑むと、すぐに札束を受け取ってから静かに頷く。

 

「お前達は全員に武装をさせる。武器はお前達が慣れ親しんだものを用意しておいた」

 

そう言い彼は倉庫に用意されていた木箱の蓋を取る。

 

「ああ、こいつか」

「修練は…要らなさそうですね」

 

その木箱の中は短機関銃(スオミ KP-31)であった。彼らにとってみれば訓練中によく使った武器であった。弾倉は七一発を入れたドラム型弾倉や五〇発の箱型弾倉を用意してあった。

いずれも中古で、シリアルナンバーなんかも削れて消されている武器であった。すでに突撃銃を前に旧式化が否めない武器であったが、これから攻撃を行う場所は狭いためそんなことは関係なかった。

しかし中古品やシリアルナンバーを消した取引品であるため、弾薬の類はなかった。

 

「こいつには弾薬の購入費も入っている。自分の給金を使う場合は、この町から離れた場所で一度に一気に使うことを進める」

「分かった」

 

ディルクの忠告に彼らは頷くと、それぞれ全員に武器が与えられる。

 

「俺は一度帰る。ここに俺が戻ってきたら、作戦開始の合図だと思ってくれ」

「ああ、それまでに準備を整えておく」

 

魚雷艇の前で大刀洗は頷くと、ここにいる一五名で敵に突撃を行うのだと改めて理解する。無謀とも言えるが、こちらとてあの古城から逃げ出してきた時点で一蓮托生であった。

 

「使うのは9mm拳銃弾で良いな?」

「ああ。それ以外に弾薬を使うことは俺以外じゃあないんでね」

 

そう言うと、彼は持っていた武器をフェドロフ以外を彼らに預けてからトラックに乗り込んで去っていく。

 

「…」

 

その様子を見て石垣達は、南部が本気で自分たちを日本に帰らせるために精力的に動いていたことを理解した。

 

「行くぞ。俺たちもやることが多すぎる」

「ええ、買い出しと練習で分けましょう」

 

石垣に小山は頷いて、彼らはディルクから渡された現金を持って話し合う。




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