戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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113話に改訂を加えました。


一五九話

ディルク達を回収し、目的の物を受け渡せたことは秘匿通信を使って教国に伝えられた。

 

「うん、分かった。ありがとう」

 

電話を前にジョヴァンニは頷くと、相手であるアエルフェルに言う。

 

「あっ、くれぐれもあの二人には邪魔をしちゃダメだからね?」

『かしこまりました』

 

彼女は少年のお願いに至極真っ当であるように頷くと、彼は電話を切って直後に安堵したため息をした。

 

「ふぅ…」

 

彼は無事にディルクの注文に答えられたことに安堵していた。

二ヶ月ほど前、久しぶりに彼に手紙が届けられて少年は嬉しかった。歓喜さえしていた。

神託を受けた人に関わりを持てたことは、神に愛された目を有する者からすれば羨ましい限りであった。それはすなわち、神に謁見を許された人物である証なのだから。

 

少なくとも記録上では数百年前に現れたとされるのが最後である神託。それが一気に二人も現れた時代に生きられることは、教国の教皇すら相談に来るような特別な力を持った彼から持ってしても珍しかった。

 

「よかった。カセリーヌさん達の役に立てたんだ…!」

 

彼は内心でニヤニヤが止まらなかった。彼にとって、もはや神託の目的などは正直どうでもよかった。

神託を受け、加護を受けた者。その者に頼られ、支えることができたことが、少年の中にあった無垢な正義感を充足させていた。

 

必要としたのは魚雷艇と短機関銃、汎用機関銃に弾薬。魚雷は四本を所望し、全て満額回答で送り届けた。

彼にとってみれば造作もなく、天眼を持った彼は一つ()()()()をするだけで周りの人間が全てこなしてくれる。特にアエルフェルなどはその筆頭で、普段から無欲のように思われた彼からの依頼に興奮を隠しつつ、少年からの期待に堪えられるように精力的に仕事をした。

 

「役に立った…フヘヘへ…」

 

兎に角、誰かに信頼されて頼まれた。少年の純粋な親切心と正義心がこれほどまでに充足し、嬉しいことはなかった。

まだまだ子供であった彼は、()()()()という一点で嬉しかったのだ。

 

 

 

ジョヴァンニ・アウグスタ・モンテーニュは天眼を持った特殊な目を持つ存在である。

天眼の能力は一代にしか現れず、親から子へ継承される形で今まで受け継がれてきた。

現在、齢十二となる少年は昔から物静かな性格をしていた。

 

「諸君、よく聞け」

 

アエルフェルは、彼に仕える女中として長年彼の生活を支えてきた。一時は家の隙間から使えるべき人物が逃げ出してしまったことを恥じて割腹すら考えていたが、ジョヴァンニの『ずっとアエルフェルといたいな』の一言で彼女は彼が死去するまで使えることを心に命じていた。

 

「これよりディルク・フォン・ゲーリッツ率いる部隊の護衛を行う」

 

彼女はそう言うと、自分の率いる部隊を見る。彼らはジョヴァンニに永遠の忠誠を誓った優秀な部下達。

彼の純粋無垢な正義や慈愛を、この世のあらゆる勢力に汚させないために命を賭す武装集団だ。

 

「ジョヴァンニ様は、彼らが無事に任務を完了させることを望まれている。あらゆる勢力は実力を持ってこれを排除せよ」

「「「「はっ!」」」」

 

アエルフェルの命令に誰も疑わず、誰も逆らわない。それがここの常識であり、彼に命を捧げる者として当然の役目であった。

 

「以上だ」

 

彼女はそう締めくくると、彼らは一斉に部屋を後にしてう出された命令の通りに仕事をこなしていく。

教国の中でも最も恐れられている集団が全力で、帝国も抵抗軍も、他国も、教国も、全て平等に管理を行なっていく。

 

ーー全ては敬愛するジョヴァンニのために。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

あの後、隠れ家に小山達を送り届けてから魔導演算機を使って貸別荘に帰ったディルク。部屋の中はいかにも殺風景で、来週にはここを引き払う予定であった。

 

「…」

 

その貸別荘で魔導演算機を車の中に隠して彼は部屋の中でデコイの人形を回収してから魔法を使って血を消す。

今まで散々使ってきたデコイの魔法。ただ自分の魔力波を、自分の膨大な魔力を使って時限的に動く人形だ。これを使えば、監視をしている者達が魔導レーダーを使っていても、違和感を持たれなかった。

怪しまれないことは隠し事をする上で鉄則である。そのため彼らは今も寝室で爆睡をしているであろう人形を監視しているに違いない。

 

異世界人の脱走の話は、すでに軍内部で大騒ぎになっていることだろう。事実上、これで帝国軍が管理している異世界人はゼロになったのだから。

結局、脱走をした異世界人は見つからなかったが、軍では新たに捕らえた抵抗軍などの話から、脱走した一〇名は確実に抵抗軍に合流したと見られていた。

 

「問題は色々とあるが、まずは抵抗軍が使っている死霊魔術(ネクロマンシー)だな…」

 

死んだとて仮初の命を吹き込んで一時的に動く魔法だ。炎ですら逆に武器としてしまう動く屍の対策をまだできていなかった。

今の抵抗軍の全ての兵士たちはこれを撃ち込まれており、対応部隊は電撃魔法などを使って死なせないことを重きにおいて対応を行なっていた。現状、その魔法の対策としてより強力な魔力をぶつけることで、仮初の命を吹き飛ばしてしまうと言う方法が取られていた。

しかしこれは魔力を用いるので、魔力切れになりやすい欠点がある。この魔法を記した禁書保管庫も今は黒焦げの灰ばかりであり、対応策も喪失していた。禁書ということで移しもしなかったのが大きな損失を生んでいた。

 

「…そしてジュール・ファブール」

 

あの城での戦いの時、彼は一才の音もなくこちらに接近して背中を一突きした。魔力の感覚も何もなかったことを覚えている。足音がしたかと問われたらまた違う。

 

「…奴は何者だ?」

 

彼にとって、その男はわずかな期間しか合わなかったために詳しい話は小山達経由で聞くしかなかったが、それでも彼に対する全貌は掴めなかった。

ふと、その時にサーベルで突かれた場所に幻痛が走った。

 

「…」

 

彼はそこで次に事前に仕入れていたS.S.ルテティアの設計図を確認する。それは抵抗軍が司令部として運用しているヌヴォ・モーンドゥの改装前の客船である。事前に抵抗軍の司令部を導き出していた帝国軍であったが、エスパニア王国船籍の船舶を前に尻込みをしてしまっており、それがディルクが帝国軍を見限る理由の一つとなった。

残念ながら改装後の設計図は見当たらなかったが、それでも現地の地図があるのとないのとでは作戦の成功率に大きな違いがあった。

 

コンコンコン

「?」

 

すると貸別荘のドアが数回ノックされ、そのことに首を傾げて彼は設計図や試作中の魔法陣を片付けてからドアを開ける。

 

「お久しぶりです」

「おお、大尉か」

 

ドアの前ではコンラートが私服姿で立っており、そのことにディルクは軽く驚いた。

 

「どうしてここに?」

「中佐の魔力波は近くにいたらわかってしまいますよ」

 

彼はそう言って笑うと、ディルクはかつての部下を前に家に招き入れた。

 

「軍を退役されたとお聞きしましたので」

「ああ。こうも異世界人の騒ぎが大きくなってしまってはな…私が泥を被る事にしたんだ」

 

彼は招き入れたコンラートにグラスを用意する。

 

「大尉、ウイスキーは大丈夫か?」

「ええ、それからもう私は少佐ですよ」

「おお、出世したな。おめでとう」

 

ディルクはそう言いながらテーブルにグラスを用意すると、その中にウイスキーを注いだ。そしてその上から透明な氷を入れた。

 

「氷ですか」

「ああ、近くの山から取ったものだ」

 

彼はそう言い、グラスを傾ける。思えば彼ももう成人を迎えていたんだなとふと思い出し、コンラートは時の流れを感じてグラスを傾ける。

 

「…さぞ、ご苦労なされたのでしょう?」

「いやいや、退役後の面倒を総長が見てくれると言ったんだ。私がここにいるのも、ほとぼりが冷めるまで身を隠すためでもあるさ」

 

彼は久しぶりに訪れた部下にそう話すと、コンラートはカーテンも閉じられた暗い部屋で椅子に座っていた彼を見て、いささか不安を感じていた。

近くの駐屯地にいたが、休暇を取ってきて正解だったと思っていた。

 

「…本当に始められるのですか?」

「何の事だね?」

「ああ、隠さなくても大丈夫ですよ。尊敬した上官殿を売るほど私も薄情ではありませんので」

 

コンラートは今までの付き合いから、このディルクは正直に言えば答えてくれることを知っていた。まだディルクもかなり自分のことを信用してくれていたのを知っていた。

 

「数日前、異世界人が脱走をしたということで我々に出動命令が降りました。付近一体を捜索しましたが、我々は彼らが逃げ出した尻尾すら掴めませんでした」

「…」

 

コンラートはそう言い、ディルクを見つめる。

 

「これほど魔法の痕跡を消せる人物は、私は貴方以外に知りません。教国のスパイだって、貴方ほど優れた才能はありませんからね」

「…そうか。それで?」

 

その時、コンラートは意外な反応をした。その返答はやけに淡々としており、彼が嘘を言っているのかも、本当のことを言っているのかも分からなかったのだ。

 

「中佐、貴方は…死場所を見つけられたのですね?」

「…」

 

一歩踏み込んだ発言をすると。彼は何も答えない。しかしコンラートはそれで十分であった。

戦争中からずっと、年下の上官に支えてきた彼は、ディルクのことを最も間近で見てきていた。

 

ーー黒いダイヤモンド、黒い天使。

 

そんな異名で恐れられてきた彼であったが、本当は部下に優しい面倒見の良い上官であることを知っていた。正直、本当なら彼に銃を突きつけてでも止めるべきであるのだろう。

 

「悪いな。コンラート少佐」

「いえ、上官の望みを叶えることもまた部下の務めだと思っております」

 

ディルクにコンラートは答えると、満足した様子で彼はグラスを傾けてからグラスを置いて立ち上がった。

 

「少佐、これを君に丸々一本やろう。もう私は飲まないだろうからな」

「…はっ。ありがたく」

 

そこでディルクは今開けたボトルを手渡すと、コンラートはそれをありがたく受け取って玄関に向かった。

 

「ああ、そうだ少佐」

 

そして帰り際、ディルクは忘れていたようにコンラートに三通の白い封筒を手渡す。

 

「これを、できたら封筒に書いてある通りの人物に渡してきてくれるか?」

「…わかりました」

 

その手紙はそれぞれ、この国の重鎮にとってみれば知った人物達ばかりであり、同時に彼はこれが彼なりの遺書であるのだと理解した。

 

「必ず、お届けいたします」

 

彼は敬礼をして手紙を受け取ると、ディルクも静かに頷いて敬礼で答えた。




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