戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一六話

ここで一度、帝国と共和国の戦争の整理を行おう。

事の発端は正歴一九三二年の五月。共和国側の越境から始まったとされている。理由は国境沿いにある魔石鉱山の獲得のため。常に魔石鉱山の不足に悩まされてきた共和国は自分達の何倍もの鉱山を持つ帝国に危機感を抱き、共和国を蹂躙されないために宣戦布告した・・・

と言うのが定説になっている。

国境を進んだ共和国だったが、帝国軍によって橋を落とされ、そこで行軍を停止。川越しの塹壕戦となり、そこから今日まで続く地獄の日々が始まった。

 

この戦争・・・後に東西戦争と呼ばれる事になる地獄の戦争はあらゆる技術を発展させていた。この、飛行魔法兵も戦争が生み出した新たな戦争の形の一つだろう。長距離から至近距離まで、地面から上は高度数千まで。偵察、弾着観測、支援砲撃、物資輸送、格闘戦なんでもござれのこの新たな兵科は後に帝国の象徴とも言われる様になった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

正歴一九三八年 八月

 

あぁ〜、夏だけど日本の蒸し蒸しとして、じめっとした嫌になる暑さよりこちらの方の夏がよっぽど過ごしやすい。

どうも。現在、西部戦線から参謀本部に呼び戻されているディルク少尉です。

自分がここに呼ばれた理由。それは・・・

 

「戦果を上げたからな。繰り上げで帰還してもらった」

 

だそうです。確かに、小銃を片手にヒャッハーしていたがまさかこうなるとは・・・。何でも戦果を上げすぎて参謀会議に毎回俺の名前が上がっていたそうだ。それで、通常はもう少し長い期間の実地訓練だが、それを繰り上げての帰還だった。デニスが戦役を終えて大学に行ってから一ヶ月後の事であった。

 

「お疲れ様、ディルク。久しぶりの前線勤務はいかがだった?」

「はっ!非常に緊張しておりました。自分としては戦場の変化に驚かされています」

 

事実である、少なくとも俺の知っている帝国軍の砲撃と比べるとビックリするくらい激しい。おまけに生産が中止となったIV号戦車を利用した改造戦車は前線でその威力を遺憾なく発揮していたのを見て驚いたことなどを伝えた。

 

「なるほど、前線ではそうなっているか」

「はい、北部管区の戦局は比較的優勢と言えるでしょう」

「ああ、毎日の様に地図が変わっているからな。よく働いていると思う」

 

何せ、今日の戦果として戦車四二両、装甲車およびトラック六〇台、火砲一〇八門、航空機五機撃墜。内戦車は一両鹵獲に成功している。

どうやて鹵獲したかって?履帯を爆発術式で撃って切った後に戦車のキューポラ開けて銃口突きつけたんだよ。鹵獲したのは共和国製重戦車ルノーB1bis。旧式ではあるが共和国軍の主力重戦車であった。アハトアハトでなければ撃破できないほどの硬さを持ち、主砲には75mm砲を備えていた。

しかし、75mmは今では完全に帝国では当たり前の口径。この戦場では鉄の棺桶と化すことが大半だった。だから・・・

 

「ここ最近は新型戦車がよく出回っているようで、戦線でよく見かけます」

「あれか・・・」

 

そう呟いてコルネリウスは写真で映った共和国の新型戦車を思い出していた。

 

シャールG1中戦車

共和国軍が開発した新型戦車。全周砲塔に75mm砲を搭載し、帝国軍の主力戦車Ⅳ号戦車と対をなす存在。共和国軍らしい履帯装甲や、画期的な傾斜装甲を利用した共和国が誇る中戦車だ。速度も良好で、装甲も厚く。発見したらアハトアハトを持ってくると言うほどの戦車だった。

 

「あの戦車が出て来たおかげでⅣ号対戦車自走砲(ナールホルン)や、突撃砲の要求が恐ろしいことになっているよ」

「新型戦車の方はどうなっているのですか?」

「目下、製作中だ。お前の設計が生きた様で後はエンジンの問題だけだそうだ」

「そうですか・・・」

 

どこかホッとした様子の俺を見ると義父は執務室の机の引き出しから俺に二つの紙箱と一枚の紙を取り出す。それと今日ここに呼ばれた理由である階級章が俺の目前に置かれた。

 

「これを、お前に渡しておく。おめでとう」

「はっ!」

「ま、当たり前でしょうけどね。あんな戦果を上げれば・・・」

 

横で当たり前と言わんばかりな様子の義姉は少しだけ羨ましそうな目をしていた。俺は前の時と比べて縦に長い紙箱を開けるとその中に入っていた勲章に思わず驚く。

 

「騎士鉄十字章に戦功十字章・・・」

 

受け取った勲章を見て内心驚愕する。まだ軍歴二年の俺がこんな勲章を授かっていいのかと思っていると義父は言う。

 

「少なくとも参謀本部はお前をその様に評価している。後方でも前線でも、どちらでも大きな活躍を見せたからな」

「大変光栄です」

 

そう言い、俺は受け取った勲章を義姉に付けてもらう。二つの勲章は自分の首許に下げられる。鉄十字の勲章は部屋の中で太陽の光に反射して煌びやかに見えた。

 

「よく似合っているわよ」

「有難うございます」

 

義姉にそう言われ、俺は内心嬉しく思うと俺は机の上の階級章を受け取る。すると義父が中尉の階級章を受け取った直後、俺の手を持った。そして中尉の階級章を回収した後、俺の手の中に別の物を入れた。

 

「・・・え?」

 

手の中に収まったのは階級章だ。大尉の階級章だった。呆然とする俺を見て義父は満足げな表情を浮かべ、してやったりと言った表情で笑った。

 

「後で辞令が届くはずだ。ディルク中尉いや、ディルク大尉。貴官は北部管区の戦果と、指揮官らの推薦状より君は中尉から大尉に昇進する」

 

大尉の階級章を渡され、思わず呆然としてしまう俺。スピード昇進にも程があると言いたい所だ。

元々昨日付で昇進する事は事前に決まっていた。しかし、昨日は三七式魔導演算機のフルメンテナンスの影響で来ることができないのは決まっていたので、今日取りに来た次第だった。しかし、昨日の今日で昇進とは・・・

俺は義父にやられたと言う意思を出しながら階級章を受け取る。

 

「今回ばかりは驚かされました・・・先ほどの勲章以上に」

「ハハハ、何せこの為にわざわざ言わなかったからな」

「父上、お人が悪いと思われ」

「いやはや、ディルクには毎度驚かされてばかりだったからな。これくらいの返しはよかろう」

 

そう言い、愉快そうにする二人だった。そして階級や、勲章の話で少し盛り上がった後。義姉が持っていたボードから紙を差し出す。一気に空気は真剣そのもので重くなる。

 

「それで、大尉。こちらが君の新しい配属先よ」

「ここでありますか?」

 

すっかり先ほどまでの暖かい空気が消え、ずっしりと重い空気になる。渡された紙を読み、俺は義父の顔を見る。すると義父は自分の配属先がここになった訳を話す。

 

「先日、ペッツ参謀総長と西部戦線の打開策として新しい戦術の意見を交換した。その際に、三七式魔導演算機の飛行能力を活かした全く新しい部隊を創設しようという事となった」

「なるほど、それで陸軍降下猟兵部隊にですか・・・」

「そう言う事だ」

 

降下猟兵・・・分かりやすく言うと空挺兵。空からパラシュートを使い、戦地に降り立つ兵士だ。なるほど、空からでも飛ぶことが出来る三七式魔導演算機にはピッタリか・・・。それに、エレニカ主任達が作っていた廉価版もある訳だし・・・。

 

 

 

 

 

ん?廉価版がある?ん、ちょっと待て?なんか可笑しくないか?廉価版は生産が始まったとはいえ、あんなに大量に居るか?

そう思った時、義父は俺を見ると不敵な笑みを浮かべる。

 

「ま、まさか・・・」

 

俺は思わず腹が痛くなる感覚になる。すると義父は俺を見ながら盛大に言った。

 

「そうだ。お前にはその部隊の指揮官をしてもらう」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日の夜

帝都ベルリン市内の居酒屋

 

そこで俺は私服でデニスと呑んでいた。予定外の訪問者に驚きつつも事情を話すとすんなりと受け入れてくれた。

 

『まぁ、ディルクだしな』

 

その一言で全部片付けられたのは納得がいかないが・・・

ともかく、俺はデニスに勲章の件を話すと、彼はとても喜んでくれた様だった。

 

「まぁ、戦車を一切傷つけずに鹵獲したのは大きいと思うぜ。ありゃ、大学でも話題だったからな」

「そうなのか?」

「ああ、その時の報告書を読んで俺は驚いたね。『あれ?これもしかして戦車いらねぇんじゃね?』って思ったしな」

「馬鹿言うな。魔法兵の数が少ないのは知っているだろう?戦車はその代替になる。需要は消えねぇよ」

「うんまぁそうだけどな。まぁ、俺の場合。保有魔力が少な過ぎてただの歩兵と同じことしかできなかったけどな」

 

そう、デニスは帝国軍の魔法兵として活躍するには保留魔力が足りないのだ。爆発魔法を一発打つだけで魔力切れを起こしてしまうのだからそれはもう悲惨だ。だから軍大学から後方勤務になることも許されたのだろう。魔法兵が足りない足りないと言うが、使えない魔法兵を使う気にはなれない様だった。

大尉にもらった酒を飲んで以降、俺はちょくちょくワインを飲む様になった。あの味が忘れられないのだ。

俺はここの居酒屋でもソーセージ片手にワインを飲んでいた。

俺はワインを飲むとデニスに相談をした。

 

「いやはや、俺もスピード昇進がすぎるぞ」

「お?お前が大尉になったって話か?」

「そうそう・・・ってなんで知ってんだよ」

「そりゃお前。これでも情報通だぞ?そう言う昇進の話は聞くってもんよ」

「相変わらず耳が長い事で」

 

そう言い、少しだけ談笑していると俺はふと思ったことを口にする。

 

「指揮官ってのも大変なんだろうか・・・」

 

その呟きにデニスが反応する。

 

「・・・おいおい、お前さんらしくねえじゃんか。何か親父さんにでも命令されたのか?」

「・・・まぁな」

 

これ以上は軍機となるので詳しくは話さない。その事を察したから、デニスも何も聞かなかった。デニスは思い出す様に呟く。

 

「前にヘルマン大尉が言ってたっけ。『部下を失う度に悲しんでいては心がもたない』って」

「・・・・・・」

「『だから自分たちに出来るのは死んでいった者達。失った部下の事を忘れない様にする事だ』ってな」

「・・・忘れない様に・・・か・・・」

 

俺はその時、軍曹や伍長の顔を思い出す。

思えば俺は上官を失った。

尊敬していた上官を失った。

 

部下を失う時もあんな風になるのだろうか。

指揮官というのはそれなりに責任も伴う。上に行けば行くほどその責任は雪だるまの様に大きくなっていく。

その重圧に俺は耐えられるのか。

 

日本で散々そう言った人たちの本を読んできたが、いざ自分がその立場になると緊張するものがあった。

義父の言っていた全く新しい降下猟兵部隊。どんな構想を練っているのだろうか。

明日にでも命令書が出される。俺はそこで部隊長に任命されるはずだ。

 

 

 

 

 

元はと言えば俺が入院中に書いた電撃戦の関する論文。俺のここまでの歩みはここから始まった。

帝国にとって新しい戦術。機械化師団を集中的に運用し、戦線突破を目指す。現在の帝国はそのための下準備を行なっている。

果たして戦局は今後どうなるのだろうか・・・

戦後の後始末はどうなるのだろうか。

 

 

 

 

共和国にいる同級生はどうなるのか・・・

 

 

 

 

そんなふうに思いながら俺は居酒屋を出て、そこでデニスと別れた。

 

「今日は無理に呼んですまなかった」

「良いってもんよ。じゃ、また困ったことがあったら言えよ」

 

あぁ、こういう時デニスがいると本当にありがたい。




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