コンラートの来訪には驚いたが、それでも順調に作業は行われていく。
「やはりこの方法で行くしかないな」
数日が経過し、その中でディルクは目の前の図面を見て確信をする。見ているのはS.S.ルテティア号の設計図。細かく設計されているが、転移魔法を行使するための巨大な施設をおける場所は、いくら改装を加えたところで限られる。
「あるなら食堂だな」
そこで図面を見て彼は確信をする。屋敷の地下室にいっぱいに収まっていた機械を小型化できなかったから、ジュール・ファブールはあの屋敷から黄舞を丸ごと引き抜いたのだ。
そしてあの地下室の規模から機械の大きさは容易に想像が可能でそれが移設可能な場所は、設計図の中でも船体やや前よりにある食堂。ダンスホールも兼ね備えた吹き抜け二階の構造は、あの巨大な機械を設置する上で必要十分な大きさを持っていた。
「兵員は一体どれだけいるのか…」
そしてそのか客船はまず間違いなく武装が施されている。三つの煙突は、報告によればそのままであると言われ、事前に共和国の戦艦がその姿を見ていたという。
「目標はここだな」
ディルクは黙々と襲撃計画を練っていくとあっという間に日は過ぎてしまい、貸別荘を引き払う日が来てしまった。
「よし、こんなものか」
粗方の計画を立案し終えた後、彼は荷物をまとめてゴミを片付ける。この一週間、まともな食事は缶詰で済ませていたので、彼は不摂生な生活を送っていた。最後の日に溜まった匂いを流すためにシャワーで体を洗うと、清潔な服を纏って忘れ物がないかを確認してから貸別荘を後にする。
車内には荷物がまとめられ、魔導演算機も入っていた。色々と迷惑をかけた面々には酒を送っておき、コンラートには遺書代わりの手紙も託した。とりあえず思いつく限りで行えることは全て行なった。
「…」
車のドアを開け、ディルクは貸別荘を見上げてから車に乗り込んでエンジンをかける。そして受付で貸別荘の鍵を返してから車でアウトバーンに乗り込む。
「あっ、あれを買っておかないと」
そしてアウトバーンに乗る前に、彼は市街地で残った現金を使ってある物を購入した。その内容に園芸屋の店主は首を傾げていたが、それで金は払ったのでしっかりとそれを持ってきてくれた。
「…来ているか」
バックミラーで後ろの車を確認し、前にも同様の車を確認すると、彼はそこで近くの下道に降りて少し速度を上げていく。そして急カーブで市街地の角を曲がると、自分を追っていた車は角を曲がりきれずに交差点を通過してしまう。
「悪いね」
そして視界から消える追跡者達を振り払うと、近くの森の中で停車して、魔法を使って車の色を黒一色から白一色に変える。
ナンバーも事前に解体屋で用意していたものとすり替えて偽装を行うと、車は港湾都市のあの倉庫に入れて、中身の荷物を全て下ろした後に色を戻して中古車屋で車を売り払った。
「本当に全部痕跡を消すのね」
「ああ、下手に追っかけられても困るからな」
車を売り、幾らかの現金を手に入れた彼は最後に自分用の弾薬を購入してから帰ってきた。鞄の中には先ほど購入した自分用の弾薬が用意されており、
「…本当に良かったの?」
「何がだ?」
小山の質問に南部は首を傾げると、その反応に彼女は安堵して目の前の男を見た。
「準備は?」
「できてるよ。やり方は覚えたから」
そう言い彼女達は倉庫の中で黙々と準備を行う他の面々を見ていく。たった一五名で抵抗軍の本拠地に殴り込みに行くのだから、側から見れば無謀でしかない。
しかし相手は貨客船。船で指揮をとっている彼らには明確な弱点があった。そして今回はその弱点をつく予定であった。
「おい、余ってるガンオイルあるか?」
「ほら」
全員が黙々と支給された短機関銃の整備を行い、間も無く決行されるであろう作戦を前に、渡された機関銃が絶対に壊れないようにするために、彼らは手慣れた手つきで短機関銃の整備を行なっていく。
「…」
銃身を覗き込み、まるで新品のように中を磨き上げると、一旦分解したパーツを丁寧に組み立てていく。
この短機関銃は一番大きい七一発ドラム型弾倉を装備すると、七キロ以上と最早軽機関銃並みに重たくなってしまうため、力のある男達がこの弾倉を受け取って、整備を終わらせて拳銃弾を装填していく。女子達は比較的軽量な五〇発箱型弾倉を受け取って弾を装填していく。それでも重いので、少し選択を間違えたかなと思っていた。
「皆んな、聞いてくれ」
そこで南部は手を一旦叩いて注目を集めさせると、彼は言う。
「この後ブリーフィングを行う。自分の武器の整備が終わったら魚雷艇の前に集合してくれ」
彼はそう言うと、クラスメイト達は静かに頷いて南部を見た後に自分の命を守る短機関銃の整備を完璧と言えるまでの精度で整えて完了をさせると、全員が魚雷艇の前に集まった。
「よし、作戦の概要を説明する」
そして彼は全員の前に仕入れた客船時代の図面を広げる。そこには無数の赤と青の色鉛筆で色々と詳しく日本語で書かれていた。
「これから我々が総攻撃を行う船舶はヌヴォ・モーンドゥと言う大型の貨客船だ。昔、共和国で運営されていた豪華客船を改装した船舶だ」
そこで彼は大まかな敵施設の全容を伝える。
「全長二三四メートル、全幅二六メートル。全高二一メートル。最大十階建ての大型船舶だ」
彼はそう言い、目の前の図面はその客船当時の設計図であると説明をした上で、改装で構造が変わっている可能性に留意させる。
「この客船は石油と石炭を併用している構造だ。船を司令部として使っている以上、必ず補給が必要となってくる」
「…狙うならそこだな?」
「そうだ。この魚雷艇に乗り込み、俺たちは補給中を襲撃する。俺は先に飛んで敵を誘引するから、その間に魚雷を全部ぶち込め」
確実に船を傾斜させるために四本の新品の魚雷を調達した。基本的にこの魚雷という兵器は非常に高価な兵器であるため、無駄撃ちはできない。
「まず最初に我々は四本の魚雷を使って片舷に攻撃を行う。そして船体に破口を作ったら、そこから飛び込む」
「マジかよ…」
「馬鹿げているぜ」
ぶっ飛んだ作戦に思わず石垣達は苦笑し、絶句をする。しかし南部はそんな彼の反応にお構いなしに作戦を話し続ける。
「そして魚雷艇に爆薬を積んで自爆もさせる。一度乗り込んだら退路は無い」
片道切符であることを伝えると、全員は息を呑む。あらかじめ変える方法を聞かされていたとはいえ、いささか暴力的すぎるとも思っていた。
「中に飛び込んだら、必ず三人一組で組んで敵施設の制圧を行うこと。前二人が前方を警戒し、後ろを一人が警戒」
「敵を見つけたら?」
「殺せ。全員生きて返さなくていい」
南部は長野の質問にそう答えると、驚きつつも全員が納得をする。なにせこれから襲撃を行うのは散々人を殺してきたテロリスト達だ。彼らに慈悲もへったくれも必要ないというのは共通の見解だった。
「あの…」
「なんだい?三沢さん」
その時、三沢が南部に質問をした。
「その…もし、前橋さん達に出会したら、どうすればいいですか?」
「「「…」」」
その質問に石垣達は『いきなりここで聞く?』という驚きの顔をしていた。彼らにとって、南部はクラスメイトを殺すかどうかという判断が興味はありつつも、恐ろしかったのだ。
「…できるのなら、彼女達の殺しは控えたい」
しかし意外にも彼は優しい判断を下した。軍人としての彼であったなら『裏切り者は殺せ』とでも言いそうな雰囲気があったのだ。
「しかし無理と思った場合。自分が危険と判断したら、その時は君たちの判断に任せる」
「…分かった」
その返答に三沢は納得をすると、石垣達も彼の対応にやや驚きつつも計画の続きを聞く。
「転移魔法の装置が置かれてるだろう場所はここ、食堂と言われている場所だろう。ここまでには相応の重武装がされていると考えていい」
彼はそう話し、小山達にその食堂に向かえる手段を話す。この食堂はいくつかの入り口があり、改装でどうなっているかは定かではないが、この場所に転移魔法装置があると彼は踏んでいた。
「もしかすると俺の予想が違う可能性もある。その時は、俺に連絡してくれ」
「どうやって?」
大刀洗が首を傾げると、そこで小山が言った。
「これを使うの」
そう言い彼女は彼らに一枚の紙を差し出す。その紙は印刷がされており、何かしらの紋様が書かれていた。
「これの紙を飲み込んだら、私と同じように念話魔法が使えるようになるわ。持続時間は三日くらいね」
「マジか」
「そうか…」
そこで魔法を使った通信手段を知ると、彼らは驚いた様子で小山を見た。教国での作戦中に小山は色々と魔法を見たと言う噂があったが、それが事実であった様子に全員は少し羨望の目を向けていた。
「食うなら作戦直前にしてくれ。不味いとは思うが、貴重な通信手段だから我慢してくれ」
南部は言うと、全員が承諾をして紙を受け取る。濡れると効果が減ってしまうそうなので、彼らは絶対に濡れないような場所にしまった。
「主な作戦は以上だ。何か質問は?」
そこで石垣達からいくつか質問があった。
「もし魚雷が起爆しなかったら?」
「俺と蓮子で全員船の中に飛ばす」
「全員倒し終わったら?」
「この食堂の前に集合しよう」
質問に答えていき、南部は全員に忠告をする。
「いいか?敵はジュール・ファブールと小野寺だ。前者は特に何をしてくるかわからん。本気で殺しにくると思え」
そう言い全員の警戒度を上げさせる。そしてブリーフィングを終えると、
「最後に一つ」
彼は小山達にあるものを支給する。
「これを渡そう。君たちにはきっと有用なものだ」
そう言い、彼は小山達に一つずつあるものを配っていく。
「?」
「シャベル?」
そして渡された円匙に首を傾げると、南部は頷いた。
「ああ、見ての通りシャベルだ。こいつは接近戦で最強の武器となる」
そう言い彼は自分用の新品のシャベルを思い切り片手で振るとブンと鈍い音を立てたので、全員が使い方を理解した。
「つまり…鈍器ってことね?」
「そう言うことだ。敵が銃持っていてもやり方次第で盾としても対応できるぞ」
彼はそう言い、全員の装備品の中に円匙を追加させた。
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