戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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一七〇話

「そもそも、どうして君は手伝ってくれるんだい?」

「…さぁ、興味があるからかしらね?」

 

第一船倉に侵入をした二人はそこで今までの爆発や騒動が嘘のように静寂になった船内で彼女は肩をすくめる。

 

「転移魔法装置を欲しがっているのは貴方もそうでしょう?」

「無論さ」

 

隔壁のように中のドアを開けて二人は今まで闇のヴェールに包まれていた場所に侵入する。

 

「結局ここでも舞鶴さん達は見つから無いか…」

「彼女達はどこに行ったの?」

 

そしてその部屋に入ってもなおまだ見つからない最初に誘拐された他の四人に首を傾げていた。

 

「もう船からいない可能性は?」

「それはない。船を出入りする人員や物資は全部僕が管理していたんだ。直接全て見ている」

「…そうよね」

 

数ヶ月、彼の秘書として彼と共に移動していた彼女は頷く。この貨客船に出入りするすべての荷物を彼は管理しており、実際に目を通していた。基本的にここには入ってくるものばかりであり、出て行くことはほぼないので、彼は全部出て行く人や物を直接見送っていた。

 

「実は底に穴が空いていて、潜水艇が居るとかは?」

「これ元々客船だよ?改装する時はドックに水が入っていたらから無理だろうし、船底は全部機関室のボイラーと発電装備と燃料庫で埋め尽くされているよ」

 

小野寺は立川の予想を否定すると、それは随分と的を得ていたので彼女は言い返せないために不満であった。

 

「というか、あれだけ船体に爆発があったのにどうしてまだ船は傾いてすらいないんだろう?」

「さあね。ポンプが順調に稼働しているんじゃない?」

 

よくわからない立川は小野寺にそういうと、彼は違和感を口にする。

 

「いや、それにしたっておかしい気がするよ。タイタニックだって二時間四〇分、ブリタニック号なんか五五分で沈没したんだ」

「でも半日くらい保って沈没した例もあるでしょうに」

「魚雷四発に魚雷艇が丸々吹っ飛ぶ爆発でそんな耐えられると思う?」

「…」

 

そりゃあそうだと彼女は思った。よっぽどこの客船の水密構造が優秀な構造をしているにしたって、あの数階分にかけて大きく空いた破口で傾き一つ感じさせないのは違和感しかない。

 

「その謎を解明するためにもこの先に行くしかないんじゃないの?」

 

そう言って立川は中は元が食堂だったとは思えないほどに近代的な研究設備が揃えられていた。

 

「ねえ、貴方ならこの中のこと知らないの?」

「申し訳ない。僕はここら辺の搬入には関わっていない。この転移魔法に関しては全て将軍の管理下にあったんだ」

「はっ、今まで何していたのよ」

「…」

 

軽く貶してみると彼は見るからに肩を落としており、それに立川は改めて『面倒な奴め』と恨み目で見た。

 

「そもそも南部を始末しようとしなきゃこんな事にならなかったんじゃないの?」

「それは…うん。そうんなんだけど」

 

彼は素直に認めて今のこのヌヴォ・モーンドゥでの惨状を前に少し自分でも迷ったように立川に言う。

 

「正直、どうして僕は君や小山さんにあんな事をしたのかの説明がつかないんだ」

「は?どう言うことよ」

 

そこで放棄されて散らばった研究資料を見ながら立川は首を傾げた。その疑問に、同様に研究資料を見ていた小野寺も訳が分かっていない様子で答える。

 

「あの時、僕が小山さんにしてきた事がよく分からないんだ。ただ漠然と、小山さんを連れて移動しないといけない気がしていた」

「恋心?」

「いや、小山さんはすでに南部くんに片思いをしていたことは知っていたし、他人の恋路に手を出すなんて僕には畏れ多いよ」

 

彼はそう言い、床に散らばっていた紙などの研究資料を読んでいく。

 

「あっそ。で、私を高速道路に突き落としたのもその自分でも理解できない漠然とした恋心によるものなのかしら?」

「まあそうとしか言いようがないよね。言い訳になっちゃうわけだけど」

「…」

 

その話を聞き、立川はそれが嘘をついていないと言うことを理解する。

基本的に彼は素直である上に、それでいて自分のことを整理をしておかなければ気が落ち着かない性格であることも分かっている。ゆえに彼は恐ろしいほど身の回りのことの整理整頓ができている。自分の気が済むまで出したものを片付けない南部とは正反対である。

 

「じゃあどうして?」

「さあ…?」

 

ゆえに立川も彼のそんな感情に疑問を感じて思わず彼の顔を見てしまう。

 

「だけど漠然とした何かが僕を動かしていたのは間違いない」

「…魔法にでもかけられた?」

「だとしたらこんなことをして誰が得をするのかって話になるね」

 

彼はそう言うと、そこでふと顔を部屋の奥に向けて立川を機材の下に押して体を隠す。

 

「誰か来る」

 

彼は片手に拳銃を持って立川と共にうつ伏せになって銃口をその方向に向けた。

 

「「…」」

 

二人はそこで息を殺して彼の警戒した方向を見ていると、足音が聞こえてきた。

明らかに異質で、無機質な足音。何かの水のような音が聞こえると、奥からその影が現れた。

 

「っ…!?」

 

その瞬間、思わず立川は息を呑んでその姿を見た。

 

「(何…あれ?)」

 

その姿はとてもまともなものとは思えなかった。

 

「け、いご…しん、にゅうしゃ…」

 

その姿は泥で出来上がっており、歩いた後には泥が引きずらるように一歩進むと、その後には大量の泥がにこびりついていた。

 

「…ゴーレム?」

 

そこで首を傾げて小野寺は自分の知識の中で類似するその怪物と結びつける。昔、子供の頃に彼がしていた数少ないゲームに登場したゲームのキャラクターにいたことを思い出す。

ゴーレムといえば土でできた人形のイメージがあった。そのイメージの通りのような姿で軽く四メートルはあるゴーレムが歩いていた。

 

「なんでそんなのがここにいるのよ」

「僕に言われても…」

 

そこで巨大な泥人形は明確な意思を持っているように徘徊をしていると、その額に記された文字を見て彼は確信した。

 

「…ヘブライ語だ」

 

その額には羊皮紙が貼り付けられており『אמת』と書かれていた。

 

「あれなら対処は簡単だ」

「どうして?」

 

首を傾げると、小野寺はそのゴーレムを見ながら言う。

 

「あれはヘブライ語で『emeth』。英語だと『truth』と言うんだ」

「へぇ」

 

小野寺は自分が知っている知識について軽く説明をすると、彼女は半分興味なさげに心のへぇボタンを押す。そういえばそうだ、此奴は南部と同じで詳しく知っているために説明が長いんだった。

 

「『emeth』はeを消すと『meth』。つまり『死』って言うこと」

「じゃああの羊皮紙を引っぺ剥がせばいいの?」

 

立川はそこで頭を左右に振って徘徊しているゴーレムを見ていうと、小野寺は首を横に振った。

 

「違う。伝承の通りなら、一番右の言葉を消さないと崩壊しない。『א』の部分を消す必要がある」

「どうして?ラテン語なら普通左書きでしょ」

「べブライ語は右書きなんだ」

 

彼はそう言ってゴーレムを見て立川に提案をする。

 

「いずれにしてもあのゴーレムを倒さないと先に進めない。僕一人ではあいつを倒せないから、協力してほしい」

「…」

 

彼のその提案に少し立川は考えると、今の状況を振り返ってため息を吐いた。

 

「分かったわよ。注意を引けばいい?」

「助かるよ。君は距離をとってくれて構わない。安全な場所から逃げてくれればいい」

 

彼はそう言うと周りを見回して元々食堂であったこの場所を見回すと、上に繋がる吊り橋を確認する。

 

「あそこから移動する。君は頭を狙ってくれ」

「了解」

 

そこで立川はゴーレムが反対側に行って消えた所を、小銃を両手に持って走る。そしてその後ろを小野寺は飛び出すと、吊り橋に繋がるパイプにしがみついて登っていく。

 

「っ!」

 

幸いと言うべきか、ゴーレムが歩いた後は足跡がついていたので一発で追跡ができた。しかし…

 

「くっさ。なんなのよこの臭い…」

 

思わず頭がくらっときそうなほどこのゴーレム。とても臭かった。正直、小野寺に言われなくても距離をとってしまうほどの匂いだ。ビシャっと音を立てて靴に泥が付く音が最悪であった。

 

「ったく、工場のヘドロでも持ってきたの?」

 

そんなことを毒吐きながら彼女は持っていた小銃の照星をゴーレムの頭に合わせると、そこで上で吊り下げられた回廊を走って行く小野寺を見た。その手にはナイフが握られていた。

 

「始めるわよ」

「ああ、やってくれ」

 

そこで確認を取ると、彼女はゴーレムの頭に小銃弾を放った。

 

「しんにゅう、しゃ…はっけん」

 

すると小銃弾は過貫通して反対側の管に命中すると、ゴーレムは小銃を撃った立川を視界に捕捉する。

 

「たいしょ、します」

 

その直後、泥の中で顔が作られると、その目の部分から赤い燐光が灯った。

 

「くそっ、どう言う原理で光らせてんのよ!!」

 

彼女は軽く毒吐きながら背を振り向いて走る。するとゴーレムはその巨大な手を大きく振り上げて彼女を叩き潰そうとしてくる。

 

「うおっ!」

 

そしてその掌は大きく開いて攻撃をすると、当たった部分に水分が豊富な泥人形は命中した実験器具が泥を弾けさせた。

 

「…」

 

その後、攻撃をした場所は手の形に変形をしており、思わず息を呑んでしまう。ゴーレムというのは自分でも知っているほどのモンスターだが、流石にこれは恐怖が優ってしまう。

 

「早くしてよ!」

 

そこで彼女はまた小銃を発射すると、その直後にゴーレムの攻撃を避けて後ろ髪に泥を被った。

 

「あ〜最悪もう!!」

 

臭いものが頭についた感触に悪態を吐いていた。

 

「大丈夫。外しはしない…!」

 

その様子を見ていた小野寺は、吊り橋の上でゴーレムを確認すると、彼は柵に捕まって片手にナイフをしっかり突かんでゴーレムの額に貼られた羊皮紙を照準に捉える。

 

「っ!」

 

そしてその直後、ゴーレムの外装に貼り付けられていた革製のショルダーアーマーに乗り込むと、そこでゴーレムの視界がこっちを向いた。

 

「もう遅い!」

 

そこで彼はゴーレムが腕を伸ばして対応をする前にショルダーアーマーから飛んで額の羊皮紙を掴んで右端をナイフを突き立てて切り離した。

 

「うおっ!!」

 

その時、魔力的な力で繋がっていた羊皮紙が剥がれて彼は後ろに倒れる。

するとゴーレムはその名のように不完全な状態から崩れるように一気に泥水に崩壊して、その崩壊の最中の泥水に突っ込む形で地面に背中からダイブした。

 

「ゲホッゲホッ。なんでひどい匂いだ…」

 

白い軍服が泥色になってしまって彼は崩れたゴーレムを見ると、その泥の塊から何か幾つかが彼の足元に流れ着いてきた。

 

「…」

 

その流れ着いたモノは泥で汚れていたが、全員が白衣を纏っていた。

 

「匂いの正体はこいつだったか…」

 

小野寺はそこで悪臭の理由を理解すると、明らかに顔を顰めた。




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