石炭に引火して燃え盛るボイラー室。そこで半ば焼死体のようになったアルレッキーノを見下ろす。小野寺輝の身体に憑依をしたと言う彼は、そこであっけなく石炭に燃やされて目の前で倒れていた。
「はぁ…はぁ…」
喉も焼かれ、まともに声を出すことすらできない彼は、少し前まで殺しにきた者と考えれば哀れに思えるほどだった。
「…じゃあな、小野寺」
そこで彼は銃剣を握って、その刃を彼の心臓に突き立てた。
「かふっ」
そして赤黒い血が心臓から溢れ出てくると、刀身が全部身体に埋まってから彼の体は漸く動きを止めた。
「…」
そして彼が息絶えたのを確認すると、それが起爆剤かのように船体が一気に傾き始めた。
「…急がねえとな」
そこて彼は小野寺の死体を抱えて装備品も軽くするために装備品を剥がすと、その後にその遺体を抱えて階段を登っていく。急速に船は傾きだし、物が急速に滑り始める。
「はぁ…くそっ、だいぶ消耗したな」
そこで最後の弾薬まで使い切ったボストンバックを捨て、極めて不本意ながらに小野寺の遺体を両腕で抱えながら階段を上がっていく。
「意外と重いな」
そこで彼は背中に背負われた魔導演算機を見てそんな事を溢す。現在、流石にここまでの連戦で魔力切れを起こしてしまった事で魔導演算機は完全にお荷物となってしまっていた。しかし日本に帰るためにこの機会は必要であるため、捨てるわけにはいかない。そのため体力も人体強化魔法の代償の筋肉痛に襲われながら階段を一歩ずつ上がっていく。ここで転倒して頭でも打ったら死んでも死にきれない。
「こう言う時、小野寺が羨ましく思えるぜ」
そこで彼は何も言わなくなった亡骸を見ながら彼は階段を上がる。緊急時の赤色灯が点灯するのを確認すると、上から海水が流れ込んでくるのを確認する。
「ちっ、もうここは水中かよ」
そこで彼はできる限り急足で斜めになった階段を上がると、手榴弾の爆発でボロボロとなっていた階段を抜けて部屋まで移動する。
「…」
そして二人の遺体の横を通過し、部屋の中に入ると、そこで並べられた同級生達の遺体を見る。
「…行けるか?」
そこで出血をした自分の体を見てからとりあえず施設の中に入って小野寺の遺体をとりあえず部屋の中に入れる。まだ魔力は回復し切っておらず、部屋の中では傾いており、視界の先に設置された巨大な水晶球を見上げる。中には電撃のように色とりどりの光を持つエネルギー体が格納されていた。
「…」
圧倒的に血が足りていない状況で、彼は部屋の床に小野寺の体を留置し、次に部屋の中にある配電盤の類を確認する。
ッ!「っ!?」
その時、一発の銃声が部屋に鳴ると、その銃撃に少し間を置いて彼は前に倒れた。
「あら、頭を狙ったつもりだったのだけど…」
するとそこで彼を撃った張本人が少し残念がっている様子で呟いた。
「(あぁ、クソがよ…)」
そこで倒れた彼は、撃たれた首周りにゆっくりと触れる。どうやら弾丸は魔導演算機を貫通したらしい。背中の周りが痛くなる。
「立川…」
「久しぶりね。南部くん」
そこで小銃を持った彼女は、倒れた南部を見下ろして言った。ここで出てくると言う事は、答えは決まっていた。
「小野寺は、囮だった訳だな」
「…あら、そこまで気づかれていましたか」
感心したように彼女は持っていた小銃の銃口を向ける。
ッ!ッ!
そこで放った銃弾は彼の頭を狙ったが、いずれも障壁魔法で塞がれた。
「おや、魔力は使い切ったのでは?」
「生憎、休息は取らせてもらったもんでね」
彼はそこで後ろに立つ立川を見ると、彼女…正確に言うなら、本物のアルレッキーノはつまらなさそうにしていた。
「最後に一人いなかったんだ。違和感はあったさ」
「ふむ、あの乱闘では気がつかないかと思っていましたが…」
「バカかよ。数え間違えるほど衰えていねぇよ」
魔導演算機が重さになって動けなくなっているところを、立川に取り憑いたアルレッキーノは話しかけてくる。
「お前を殺したのは立川だった訳だ」
「ええ、嘘は言っていないでしょう?」
彼女はそう話すと南部も確かになと軽く乾いた笑いをする。すると彼女は魔法を使って南部の体を起こすと、そのまま壁に叩きつけた。
「かふっ…」
叩きつけられると、背中の魔導演算機と転移魔法装置が衝突をして一部破損をする。
「どうします?このまま船は沈降していくことでしょう。いずれはここも水没する事になる」
そう言い、現在進行形で船が傾いている現状に彼女は薄ら笑みすら作っていた。
「私は脱出をしますが、貴方達は全て海の底に沈んで終わりです」
そこで彼女は彼から血溜まりが出ている事を確認する。
「どうやって出るんだ?またお得意の配車サービスか?」
「いえいえ、船にはまだ格納式がありますので、私はそれに乗って帰るだけです」
立川の声でアルレッキーノは言うと、その後に脱出艇に乗り込む算段である事を白状する。
「どうですか?私の部下になると言うのならお乗せしますよ?」
「乗りたいもんだね。その船が安全ならな」
軽く彼は笑うと、そこでアルレッキーノに言う。
「悪いな、泥舟に乗るつもりはねぇんだ」
どのみち、これ以上長続きはしないだろう。彼の無限とも言える魔力量を使えないのは惜しいが、これ以上ここに留まっていても危険であった。
「さあ、話は終わりです。海水か銃弾、どちらをご所望で?」
「…」
そこでアルレッキーノは聞くと、南部は答えた。
「俺は曲がりなりにも帝国軍人だ。情けはいらん」
「…素晴らしい心構えです。その崇高な魂は是非、傀儡の製作に使わせて貰いましょう」
アルレッキーノはそう言うと銃を持って立ち上がった。そして最後に血を流す南部を見た時、
ッ!
彼女のこめかみを一発の銃弾が貫通した。
「…?」
立川は何が起こったか分からずに困惑をした顔のまま地面に倒れた。その銃を撃った人物に、南部も思わず驚いた顔を見せた。
「蓮子…」
「…驚いた?」
そこで立て続けに拳銃弾を放つと、立川の身体を拳銃弾が貫通していく。彼女の使っていた拳銃は容赦無く立川を確実に死に至らしめる。
「どうして…」
「ごめんね、騙しちゃって」
彼女はそこで驚く顔の南部を見て思わず笑いそうになるところを堪えながら話しかける。
「大丈夫?」
「いや、どうだろうな…」
そこで彼は立ち上がると、そこで軽く誇りを払ってフラフラの状態で歩く。
「気を付けて」
「悪いな」
そこで彼は小山に肩を貸してもらうとそこで聞いた。
「なぁ、あの時確かに俺は心臓の鼓動を確認したはずなんだがな…」
「仮死魔法よ。一時的に死んだようにできる」
「…そうか」
彼女がなぜ起き上がったのかの理由を理解すると、そこで小山は不思議がった。
「でもおかしいわね。茂くんの探知ならわかるような気がするけど」
「…あっ」
そこで彼は思わず呟く。
「数え間違えていた…立川含めたら六人か…」
「…もう、そう言うところ」
思わず小山は笑えない状況で吹き出してしまうと、二人は例の水晶球の前に立つ。
「よっと」
そこである程度回復ができた南部は、背負っていた魔導演算機をその水晶球の中に放り込むと、魔導演算機は吸い込まれるように水晶球の中に入った。
「どう言う仕組みなの?」
「俺に聞くなよ…」
そこで彼は小山の疑問に苦笑しながら答えると、次に部屋の制御盤を確認する。先ほど、投げ飛ばされた事で配電盤の中身が剥き出しになっていた。
「…ここをこうだな」
その構造を見た後、彼はテキパキと回路を繋ぎかえると、ショートを起こして火花が散った。そして一度電源が落ちて真っ暗になるが、直後に再度電流が流れて転移魔法装置に今度は非緊急時の電源が入るようになる。その間も船はどんどん傾いており、紙の資料や転がっていた薬莢などが転がり始めていた。
「うわぁ、派手にやったね」
「魔力切れになるくらい使ったんだ」
彼はそう言うと、常に化け物のような魔力量を持っていたはずの彼に小山は思わず驚くと、その後に彼は指を鳴らして部屋の前で待機させていた遺体をあの赤黒い液体を使って全て部屋に運んだ。無論、この戦闘で死んだ連中も。
「これ何?」
「魔術だ。まあ、今のところ同じ技を使った奴は見た事ない」
先にこれで運ばれていた小山は、その時の記憶がなかったために驚いて安置されていく遺体を見る。
「生憎、まだ俺もよく分からないことばかりなんだがな」
「でしょうね」
そこで舞鶴達改造をされた面々の遺体を確認する。
「え…何あれ?」
「改造をされた舞鶴達だ。アルレッキーノは『傀儡』とか言ってたっけな」
そこで全員の遺体を部屋の中に入れるとその後に赤黒い液体が手のように伸びて鋼鉄製の扉を閉じた。船内の傾き具合からもう持ち上げる事は不可能だろうと確信すると、ほぼ全ての工程を完了させた。二人はそこで室内の水晶球の足元にあった制御盤に触れる。
「…ねぇ、茂くん」
「?」
そこでふと、小山が南部にある提案をしてきた。
「このまま、二人でここにいるってのはどう?」
「…どうしたいきなり」
気が変わったように彼女は言うと、それで首を傾げた南部、
「ほら、もし帰ったら。またいじめられる可能性だって…」
彼女は不安げな眼差しを向けて話してきたので、彼はそんな彼女に少し笑う。
「安心しろ。向こうに帰ったら、普通はこっちと同じ時間で進んでいるはずだ。それなら俺は奇怪な目で見られるだけだろうさ」
彼はそう言って軽く小山を宥めるように言うと、彼女は一瞬身体を振るわせた。その反応を見て、彼は小山に起こっている違和感を言い当てる。
「中に、アルレッキーノがいるな?」
「…うん」
彼女は少し間を開けてゆっくりと頷くと、立川を殺した後から来る自分の悪寒を伝える。
「すごく今、貴方を殺したいと思っちゃう」
「…そうか」
彼女の正直な回答に、小さく頷くと操作盤から手を離す。
「最後の仕上げだ。蓮子」
「…」
その時、彼の目はしっかりと彼女を捉えていた。
「…分かった」
その意味を誤解しなかった彼女は、彼の決意を不意にしないために抱き着いて彼の温かい体温を感じる。
「気を付けて」
「ああ」
そこで彼は彼女を抱擁すると、彼女の首元に鋭く尖った犬歯を当てた。
「ッ…」
その時、彼女は一瞬今まで以上に恐ろしい感覚を味わったが、直後に意識が飛ぶように意識を手放した。そして力無くグッタリと斃れると、そこで血を吸った彼は丁寧に彼女の体を横に倒した。
「さぁ、第三ラウンドと行こうぜ」
そこで彼はゆっくりと瞼を閉じた。
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