「急いで船を出せ!!」
その時、帝国・共和国の軍港では大慌てで出航準備が行われ、先に準備を完了させた駆逐艦などが一斉に港を出ていく。
「出せる船から出せ!トロイのは置いて行ってもかまわん!!」
何ふり構わず海軍士官は檄を飛ばして指示をすると、次々と出航をした艦艇はある場所に向かう。
「通報があった。抵抗軍の拠点が燃えているぞ!」
それは幾多もの通報が行われていた。エスパニア王国船籍のヌヴォ・モーンドゥという貨客船が大炎上をしていると言うものだった。
元々、かの船に抵抗軍の拠点があると把握していた両国はすぐに全艦に出動命令を下してこの攻撃を指示していた。しかしこの日に限って両国は融和と親善を兼ねた共同訓練を西大洋洋上にて行なっており、主力艦艇は本国にいなかった。
そこで速度のある駆逐艦や軽巡洋艦が戦隊を組んで現場海域に急行を行い、帝国は飛行魔法兵も投入していた。
「燃えているってマジかよ」
「テロ組織で内紛でもあったか?」
そこで現場に向かって飛んでいた飛行魔法兵部隊。ゲルハルト・モーデルが率いる部隊は直ちに攻撃を行うために完全武装で飛んでいた。
その中、抵抗軍の司令部が燃えているということに隊員たちは興奮をしてその視界に艦影を見た。
「おい、あれだ!」
「っ、こりゃあヤベェ…」
そこで彼らは双眼鏡を使って海域でほぼほぼ沈みかけている客船と補給艦を見た。その客船は凄まじい煙を上げており、その艦尾を水面から高く上げていた。
ほぼ水没しており、そのことに全員が驚愕をした。現場海域には先に共和国の
「ん?」
ゲルハルトはその沈没地点の水面下で眩く光るものを確認した。
「っ…!総員、対衝撃姿勢!!」
そこで直感的にそれが明らかに常軌を逸した危険物であると認識すると、全員に障壁魔法を展開させた。
「うおっ!?」
その直後、海面が沈没する船を中心に勢いよく吹き飛ぶと、凄まじい勢いで円形の水蒸気の爆発が発生し、その爆発は軽く数百メートルまで水柱を上げていた。その爆発の衝撃波が到達する前、ゲルハルト率いる飛行魔法兵部隊は事前に障壁魔法を展開していて、その爆発でこちらに近づいてくる衝撃波の波を感じ取った。
「ぎゃぁあっ!」
「うわぁあ!?」
しかし展開した障壁魔法ですら破壊され、数名の飛行魔法兵が衝撃波で吹き飛ばされ、内臓がやられて墜落していく兵士もいた。それほどの衝撃。視界の先ではその衝撃波に飲まれていく共和国の艦隊がいた。
この爆発により、共和国は大型駆逐艦一隻が沈没を起こしてしまうほどの多大な被害を与えていた。展開していた全ての艦艇に何かしらの損害を与え、爆心地に最も近かったために起こった悲劇であった。
「何てことだ…全部吹き飛んじまった…」
そこで巨大なキノコ雲が浮かんでいる海を呆然とゲルハルトは見つめていた。
『ペッツ総長。誠に勝手ではありますが、此度の古城の襲撃を主導したことをここに謝罪します。
お気づきでしょうが、私は異世界人の一人です。私は本来は共和国の一兵卒として始末をされる運命でした。しかし運悪く生き残ってしまったことで数奇な運命を歩むこととなりました。この恩を不意にするような行動をすることをお許しください。
我々はこれから抵抗軍司令部に討ち入りを行い、異世界に帰還することとなるでしょう。閣下の手助けができないことは悔やまれますが、断腸の思いで決断することとなりました。
閣下の思い描くクーデターが成功することを祈っております。
ーーディルク・フォン・ゲーリッツーー』
「ふん、遺書のつもりか…」
そこで彼は灰皿に手紙を置いて葉巻を押し当てると、その手紙はゆっくりと燃えて消えていく。
「せめて本名を明かせばよかったものを」
その手紙はかつてその男の部下であった士官から渡された直筆の手紙であった。無論、こんな手紙など見せられるわけもないので彼は読み終わった後にすぐに焼却処分を図った。
「お前の予想通りだな」
「ふんっ、異世界人などやはり信用ならんと言うわけだ」
そこで部屋でコルネリスも手紙を読んで静かに見つめていた。彼を養子として迎え入れていたために、その手紙の量はペッツよりも多かった。静かに彼は手紙を読み終えると、その手紙を持って立ち上がる。
「死んで悲しいか?」
「そりゃあな。異世界人とて、人は人。愛すべき息子だ」
彼はそう言うとその手紙の中に記されていたクーデターの成功を祈っていた文言を振り返って彼は言う。
「だが俺は彼に託された。であるなら、やるべきことをするだけだ」
「ああ、だがまずは…」
そこで彼は受話器を使うとそこで部下に命じた。
「私だ。ディルク・フォン・ゲーリッツに関わる全ての記録を抹消したまえ」
そこで彼に関する全ての情報の抹消を行うように指示をした。
「良いのか?」
「ああ、異世界人に軍が変えられていたなどと知れ渡れば何が起こるか分かったものでもないからな」
元々、軍を退官した際に記録の抹消をすべきか議論がされていた話だ。他の士官が聞いていても違和感はなかった。
「これもあいつの策略か?」
「さぁな。だがアイツはとびきり優秀だったぞ?」
彼はそういうと、ペッツに頼んで手紙を焼却処分させた。
『私は他の異世界人達を連れて帰ります。姉さん達とはもう会えることはないでしょう』
その手紙には最初にそう記されていた。
『私がこのようなことを成せたのは姉さんのおかげです。あの時、戦場で死にかけていた私を拾ってくれたことは、感謝し切ることは無いでしょう。
私は異世界では両親がいない生活でした。この世界で暮らした期間で知った父親と姉のいる生活を忘れることはないでしょう。素晴らしい日々を送らせてもらいました』
最後にディルクがコンラートに預けた手紙は、しっかりと宛先に届けられていた。検閲を恐れてコンラートに直接頼んだことを、彼はその意味を十分に理解した上で手紙を直接、宛先に届けていた。
『姉さん達と暮らしたことは私の中で最高の時間です。なので姉さんの子供が見れないのはとても残念でなりません』
家の中で静かに彼女はかつてディルク…いや、この手紙に書かれていた南部茂という異世界人の使っていた椅子に座って手紙を読む。
『ですが、私がいなくとも姉さんであれば素晴らしい人に巡り会えると私は信じています
ーーディルク・フォン・ゲーリッツ。本名:南部茂ーー』
そこで彼の名前と、異世界での名前がルビを振って記されていると、彼女はそこで手紙を裏返した。
『追伸。保安局に忍び込んで姉さんが教国に情報を流していた情報は消しました。割と作業が面倒だったんで二度とこんな危ないことはしないでください』
「…」
その文章を読みカミラは一瞬固まったが、直後に笑った。
「ええ、もちろんよ」
悲しさも全て吹き飛んでしまった様子で彼女はその手紙を丁寧に折って、燐寸に火をつけて手紙を燃やした。
「さようなら。私の可愛い義弟」
彼女はそう言い、燃える手紙を見つめた。
また見覚えのある景色だ。
まずはそう思う。アニメにも出てきそうな雰囲気すらある美しい景色の中、境内に立って彼は前を見つめる。視線の先の社では機織り機を動かして織物を作っていた一人の女性。
「全てやることは終えました」
「ええ、ご苦労をおかけしました」
そこで彼女は立ち上がって南部を見つめた。
「よくやってくれました」
「いえ、とても完璧な対応とは言えません」
彼はそう答え、目の前の女性にいまだに自分の中で拘束した異世界の神のことを振り返ると、全てを見ていた彼女は頷く。
「後のことはこちらで行いましょう。全員をお返しします」
全てを無かったことに、元通りにすると彼女は言った。それの意味するところは彼とて容易に推察できた。
「しかし、一度は繋がれた異世界との道。修正するのは些か苦労をしますね」
ましてや異界の神を内包してしまった今ではなおさら。と言う具合だった。その中で南部は彼女に一つ要望を持ちかけた。
「天照様、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、貴方の宿敵との対決ですね?」
全てお見通であった様子の彼女に、思わず南部は破顔してしまう。
「…お願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。その為にここに招致したのですよ?」
彼女はそう言って社の縁側を見ると、そこには三人の男女が座っていた。
「よっ」
「待ってたわよ」
座っていたのは小山と立川、二人は座ってカステラを食べていた。
「この形で話すのは久しいな。南部くん」
そしてその隣で学校の制服を纏って座っていた男を見た。小野寺輝だ。
「ああ、まったくだよ」
そこで南部も軽くため息をつきながら彼らに近づく。
「他の連中は?」
「みんな先に帰って行った。残っているのは、僕達だけだ」
小野寺はそう言うと、そこで縁側に座って彼は文句を垂れた。
「最悪だったぞ?テメェが取り憑かれるから、俺は死にかけたんだ」
「悪かったよ。でも僕だってまさか敵が神話に出てくる人嫌いの神様だとは思わなかったんだよ」
小野寺はそう言い、制服姿の南部を見て肩を落とした。
「あのさ、乗っ取られていたとはいえあの滅多撃ちはないでしょ」
「いや、どう考えてもあそこで確実に仕留めなかったら今頃ここにいないよ」
立川と小山はそう言い、船内で起こった出来事に文句を言っていた。
「と言うかなんで二人とも取り憑かれたんだよ」
「知らないわよ。私があのクソ親父を銃で撃ったら急に気絶して倒れたんだから」
彼女はそう言うと、そこでアルレアッキーノの対処方法を聞いて苦笑していた。
「殺せないからってそう言う方法とる?」
「て言うか、南部くんまた隠し事してた」
「悪いって。隠すべき手札は最後まで隠しておくべきだろう?」
南部はそう言って釈明をする。
「ねぇ、そろそろ始めてくんない?私そろそろ帰りたいんだけど」
すると長引きそうなところを立川が言ったので、南部はため息を吐いた。
「分かったよ。…良いか?」
「僕はいつでも」
そこで彼は頷くと、二人は縁側から離れて境内の庭で姿勢を構えた。
「ボクシング?」
「いや?ただ殴り合いだ。十秒動かなくなるまでやるぞ」
「いいよ。それで行こう」
二人はそこで姿勢を構えると、南部が地面を蹴ったことで二人の殴り合いが始まった。
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