「ここで殺された上官の分、カタを付けさせてもらうぜ」
地面を蹴って彼は小野寺にジャブを放つと、小野寺はその攻撃を軽く避けると直後に足を蹴飛ばされて地面に叩きつけられる。
そして次に転倒した小野寺は胸ぐらを掴まれて頭突きをされそうになるが、首を傾けてその攻撃を肩で受け止める。
「くそっ…」
そして直後に彼の腹を膝で蹴り飛ばすと、その痛みで南部は思わず小野寺から距離をとる。
「足技もありなの?」
「ルール無用だ。その方が早く決着がつく」
「ああもう…無茶苦茶だよ」
そこで二人は拳を振って殴り合う。重たい打撃音が響き、二人は神の前で文字通りの神前試合を行っていた。
「本当、男って単純なのね」
「ははは…」
その様子を見て立川は縁側を降りて殴り合っていた二人を仲裁する。
「はーいストップ」
そこで小山も擦り傷を負った南部を後ろから羽交い締めをして距離を取らせる。そして休憩で水を飲ませてから再び二人は殴り合い始める。
片方が顔を殴れば、次に足を蹴飛ばされるか、腹にカウンターがくる。ルール無用と言っていたので、二人は容赦無く卑怯な技も使ってくる。
耳を掴んだり目潰しを敢行しようとしたり、見ているこっちが怖くなるほどである。
「良いのではありませんか?男同士の体をぶつけ合う真剣勝負ほど、美しいものはありません」
そしてその二人のボコボコの殴り合いを見ていた天照大神は、縁側で自分が用意したお茶を傾ける。
彼女は意外にもそう言う趣味があったりするのだろうかろいう邪推を思わず小山達はしてしまう。とは言っても自分達もよく知っている日本の神であるため、恐れ多くて『え?そう言う趣味がおありなんですか?』と聞くことはないが…。
あの後、クラスメイト達全員がこの神社の境内の階段に飛ばされた様子で、何かに誘われるようにこの神社で集まっていた。あの船内で死んだ順番にこの神社に飛ばされた様子で、次々と神社には学校の制服を纏って集まっていた。
学校の制服なんて懐かしいと皆で口々に言い合いながら全員で座りながら現れたこの神様には驚いていたものだ。
小山はそこでマリアンヌとも再会を果たしており、そこで彼女は与えられていた加護を全て解かれた。知らない神様が多数出てきたことでクラスメイト達は驚きつつも、天照大神の説明を聞いてみんなは次々と神社を後にしていた。
ジュール・ファブール…じゃなくて異世界の神様の加護を受けた子達も、傀儡にされていた子達も、皆が日本のあの学校の、あの教室にいた頃の姿になって境内を抜け、鳥居を潜って去っていった。
「ぬぅああぁあっ!」
「っ!」
南部が体を持ち上げて叩きつけると、小野寺は次に体をしならせて彼の足を掴んで引っ張って姿勢を崩していく。
「僕は君が嫌いだったよ。片思いに気が付かなかった恋煩悩め」
「俺も同感だ。小心者のくせにイケメン優等生ぶりやがってよぉ!」
取っ組み合いで喧嘩をする二人は散々有る事無い事、暴言を吐き連ねて顔面を殴り合う。数発のストレートが互いに炸裂をすると、だんだんと二人は疲弊していく。顔を掴み合い、片方の腕で少しでもダメージを出そうと制服を掴んで頭突きや鼻フックまでしてくる。
「敵に駒として使われた阿呆」
「何だい、神様がいなかったら死んでただけの一兵卒」
直後、南部は小野寺に一発殴ると、彼は片目が充血して姿勢を崩した。
「どうした?こっちはまだまだやれるぞ」
そう言いながら立ち上がった彼もその足は震えていた。顔は両頬が赤く腫れ上がり、青痣が至る所に出来上がっていた。
「最初の上官達を殺した分だ。ありがたく受け取れ」
「はっ、ありがたすぎて涙が出そうだよ」
仰け反った彼はそう言うと、足を上に上げて彼の顔にドロップキックを炸裂させた。
「くぁっ…っ!!」
そこで両足の重い一撃を受け止めつつも、その直後には彼の足を掴んで背中に倒れながら小野寺を巻き込んで彼を叩きつける。
「「はぁあっ!」」
地面に転がり、そこですぐに姿勢を立て直して二人は殴りかかると、そこで立川と小山が乱入して二人を背中から羽交い締めする。
「蓮子、今の俺のパンチ見たか?」
そこで顔が充血して腫れている南部が言うと、彼女は苦笑気味に頷いた。そしてまともに喋れなくなりつつある彼を前に口に水を注ぐ。
「次の回でケリを付けてやる」
そこで水を含んだ小野寺は言うと、休憩を加えてから立ち上がって南部を見る。そして血の混ざった水を吐き捨てた。
「珍しくやる気なのね」
「ああ…下手にこの後執着されないためだ」
そして立川に話しかけられて頷くと、クラクラとする頭を押さえて近づく。
「上官殺しが」
「一々、上官上官と…君はしつこいんだよ…!」
顔に傷を作りまくった二人はそこでお互いに腕を伸ばすと、二人のストレートパンチはお互いの顔に命中した。
「かはっ…」
「うほっ」
そして二人は互いにパンチが炸裂したまま地面に倒れた。
「1、2…」
そこで倒れた二人を見て天照大神がカウントを始める。既に二人の肉体は転移前の姿となっており、そのために体力も傷への耐性も全然今までとは違うところが彼らを何よりも困らせていた。体が追いついて来ず、その戸惑いが何よりも大敵となって二人に襲いかかっていた。
自分の慣れ親しんだ肉体よりも弱っていたことで思考に体が追いついていなかったのだ。
「茂くん」
「…」
小山はそこで倒れて泡を今にも吹き出しそうな南部を見て不安げに呼びかける。
「起きなさい。宿敵に負けっぱなしでいいの?」
「…」
立川は小野寺に相変わらず無反応で話しかけると、そこで彼は南部よりも先に再起して立ち上がった。
「5、6…」
そしてカウントされている中で彼は体を起こして拳を握ると、それを仰向けに倒れていた南部に向けて放つ。
「っ!!」
そして彼はボロボロの南部を見下ろした。
ゴキ
その時、体ごと振り下ろした小野寺の顎を南部の拳が命中した。
「…カフッ」
不意の命中に頭を揺らされたような彼は、そのまま地面に倒れると、入れ替わるように南部は体を起こした。
「へっ…詰めが甘いところが、相変わらずお前の弱点だな」
「くっ…そ…」
そこで彼は最後に彼の中で今できる最大の毒をつくと、そのまま地面に倒れた。もはや何度も殴られたことで、彼は体を起こす気力すらも残されていなかった。
「これで手打ちだ。上官の件はチャラにしてやる」
「…そうか」
南部は満足をした様子を見せているが、小野寺は納得はいっていないんだなと言うのを理解していた。
無論許されることではないことを彼も分かっていたし、許されることもないだろうと思っていた。そしてそれはおそらく、日本に帰った後もずっと同じことを言われるに違いない。
南部は『転移魔法装置が破壊した時に会えるかな』なんていう妄想をしていたのだが、結局彼らに会うことも叶わなかった。ただあの水晶球から感じ取れた雰囲気の中には人の気配も混ざっていたので、確実に魂に準ずる何かがあそこにいたのは間違いなかったのだ。器を破壊したことで本来上官達が帰るべき場所に帰れただろうか、と言う疑問が新たに噴出しつつも、その通りになっているだろうと言うなんとなくの憶測が彼の中で願望に近い形であった。
会えなかった時は流石に全てが漫画のような展開にはならなかったかと内心でため息を吐いたものだ。
「7、8、9、10…はい。南部さんの勝利です」
そして新たにカウントをした天照大神は最初に決めたルールで南部が勝ったのを見届けると、そこで南部は小野寺に肩を貸して立ち上がった。
「終わったぞ」
「ああ…」
殴り合いを終えて身体中に傷跡を負った二人。二人が倒れないように小山達が見ていると、そこで天照大神は話す。
「この神社を出たら、次に全てが元通りとなります。皆さんはただの日本人の学生として過ごすことになるでしょう」
彼女はそう言い、全てが終わりを迎えることを告げる。
「ここにいた記憶、異世界に飛んだ記憶も消えてしまうかもしれません。どちらが幸せなのかも分かりませんが、皆さんの行く末が良いことを願っています」
彼女はそう言うと、南部や小山に与えていた加護が全て無くなってしまったのを確認した。これで完全に全て元通りである。
「皆さん、どうかお元気で」
「「「「はい」」」」
そこで彼らは返事をすると、そのまま境内を後にしていく。
「あんた達、神様から加護をもらっていたの?」
「羨ましいでしょう」
帰り際、立川が驚いたように二人を見た。まさかこんな状態だとは思っていなかった様子で、通りで桁違いに強いわけだと納得していた。すると小野寺は軽く鼻で笑った。
「いや?どうだろうな」
「おう、痩せ我慢はしなくていいぞ」
四人はそんな事を言いながら神社を後にする。境内に敷かれた石畳を歩くと最後に鳥居の隅を通過し、その直後に全員が振り返って一礼をしてから神社を後にした。その所作を見て礼儀正しい子供達だと内心で感心しながら彼女は手を振って見送った。
「…終わりましたか」
そして神社を後にした彼らを見送ると、そこで彼女は振り返って社の中に安置された籠を見る。その中には一人の赤ん坊が彼女の編んだ織物に包まれて眠っていた。
「まさか、このようなことになるとは…」
その籠の中を見て思わず彼女も驚きを隠せない様子でその子を見た。その赤ん坊の正体はアルレッキーノだ。
南部の中にて封印をされ、転移魔法装置の自爆によって次元の壁を越えた際に彼もまた連れてきてしまっていたのだが、その際に彼は吸血鬼に変質してしまっていた南部の魔術によって封印をされていたのが、次元の境界を超えて変質を起こしてこのような姿になってしまっていたのだ。理由はまるっきり定かではない。
本人は神様パワーでどうにかしてくれたと思っているようだが、実際は問題を全て肩代わりしただけであった。
「つくづく面白い子ですね」
彼女はそこで赤ん坊を見つめると、その籠を持って社を後にする。
「ふふっ…久しぶりに子育てをしますか」
そこで彼女は少し笑い、意気揚々とかつて育てた子供達や家族の元に向かった。
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