一八四話
朝、電車に乗っていつもの激混み具合に辟易としながら目的地の駅を降りる。駅からは歩いてその場所に向かうと、他にも同じ形の服を纏う若者達が集まって校門を通り過ぎていく。
「…おはよう」
教室にその生徒は鞄を抱えて入ると、全員がいったん視線を向けて白い視線を向けられると、すぐに彼もいつもの光景を前に軽く肩をすくめながら席に座る。
「来やがった」
「まだ学校にいるんだな」
ヒソヒソと彼らは小声でそう話しているのを耳にしながら彼は席に座ると、鞄の中から小説を取り出して読む。そして時間が過ぎるのを待つ。
「なあ聞いたか?」
「何だよ」
そこで廊下でロッカーに荷物を入れていたクラスメイト達は言う。
「小山さんに南部が告ったって噂」
「ああ、それか」
「ガゼだろ?あいつにそんな度胸ねえって」
「でもこの前二人が一緒にいるのを隣のクラスのやつが見たって…」
口々に好き勝手に話しているのを聞きながら本を読み続けている。そして噂好きってのも大変だなと内心で嘲笑う。
「南部くん」
「?」
すると話しかけられて顔を上げると、そこでは小山が自分の顔を見つめていた。
「放課後って、時間があったりする?」
「ん?ああ、悪い。今日は無理だな」
腕時計で日付を確認して彼は言うと彼女はハッとなって南部に言った。
「ああ、そっか。…ごめんね」
日にちを確認して、彼女は彼の予定を思い出して申し訳なさそうにした。
「いいよ、また空いてる日があったら言って」
「うん、分かった」
そこで二人は別れると、そのやりとりを見ていた面々は驚いた様子を見せていた。
「嘘だろ?」
「え?」
「小山さんが…南部と…?」
そこで彼らは一斉にざわつき始めると、次に小山を見た。
「おい、お前まさかマジで告ったのか?」
「さぁ?」
恐る恐る聞いてきたクラスメイトに肩をすくめて答えると、その時の南部の顔は勝ち誇った顔をしており、彼らに苛立ちと驚愕の顔を浮かべさせた。すると部屋の扉が開いた。
「おはよう」
陽気な声。その姿を見て女子達から歓声の声が上がった。
相変わらず女子ってうるせえなと内心で思いながら南部は部屋に入ってきた男子をみる。
「やあ、みんな元気そうで何よりだよ」
「そんな…畏れ多いわ」
すっかり人気者の彼だが少々鬱陶しそうにもしていた。その様子を見て小説を読んでいたのだがそれを閉じて彼は席を立ち上がると、小野寺を囲んでいた女子達に言った。
「ここはライブ会場じゃねえんだぞ。ほれ散った散った」
それだけを言って彼は席に戻ると、そんな彼の対応を見た女子が一言。
「何よアイツ」
女子は彼に不満げな顔をしつつも時間を見ると、もうすぐ担任が来る時間であったために全員が席に着く。
「急に大人ぶってるよな」
「ああ、人が変わったみたいにたぜ」
そしてその様子を見ていた男子達は南部を見てそんな事を口にすると、小野寺が席に着くのを遠目で見ていた。
「悪いね。泥を被ってもらって」
「気にしちゃあいねえよ」
放課後、学校近くのファミレスで小野寺と南部は席に座って話をしていた。朝に人払いをしてくれたお礼をしに来ていたのだ。
「んん〜、美味し」
「新作ですって。期間限定だけど」
その隣では小山と立川が座って新作パフェを堪能していた。
「最近は特にひどくてね。一個下の子まで来る始末だ」
「おまえがどうにかしろよ」
「できたら苦労しないさ」
今の季節は間も無くハロウィン、そりゃあ女子達も気合が入ってくるに違いない。
「お菓子でももらうのか?」
「どうだろうね。バレンタインの方が凄まじいことになるよ」
「だろうな」
そこで二人はパフェを楽しんでいる二人を見ながら自分たちはドリンクバーでそれぞれ飲み物を頼んでいた。
「しかし不思議だ。少し前まで飲んでいたのに、今じゃあ怒られるんだ」
「ああ、僕も同じ事を思っているよ」
制服を着ている二人はそんな事を話していると、隣で小山が呟く。
「お酒ねぇ」
「私も一応飲んだわね。あまり美味しいとは思えなかったけど」
立川はそんな感想をすると、それに小野寺は苦笑した。
「それは僕と飲んだからかい?」
「違うって…純粋に『これならジュースのほうがいいな』って思っただけで…」
彼女はそう言い小野寺を見ると、そこでパフェを食べ終えた二人を見て二人は立ち上がって会計を済ませる。
「俺が払っておくぞ」
「あらやだイケメン」
小山は南部に態とらしくときめく。
「お支払い、頼んだわよ」
「おまかせを。お嬢様」
立川は尻に敷くように小野寺に言った。
そして二人組二組は会計をおこなって店を出る。この組み合わせが学校に広まると色々と面倒であるため、あくまでもまだ秘密の関係であった。
「全く、好かれると言うのも面倒だ」
「だろうな。嫁さん探しには困らねえんじゃねえの?」
「君は阿呆か?」
小野寺は呆れたように南部をジト目で見ると、彼は隣に立つ立川を見る。少し前、二人は図書室で互いに確認をしあったという。
「しかしこの組み合わせは意外だな」
「ええ、私も正直信じられないけどね」
南部の言葉に立川も頷くと、小山もそれには驚いた様子だった。すると小野寺が話題を変えてきた。
「今日のテストはどうだ?」
「おう、テメェに勝つ自信があるぞ」
南部は小野寺にそう帰すと、彼は不敵に笑った。
「ならどちらが一番を取るか賭けようか」
「私は茂くん」
「じゃあ必然的に貴方で」
立川は小野寺を見ながら答えると、期待されているのだろうかと内心で感じてやる気が出てくる。そして四人は駅に着くとそれぞれ別のホームに向かった。
「じゃあここで」
「また明日ね〜」
そこで立川達と別れると小山と南部は別のホームに立つ。そして待っている間、周りの音を聞きながらふと小山が呟く。
「…なんか、まるで夢を見ているみたい」
「ああ、皆んな同じ事を思っているさ」
彼女に南部は頷くと駅に電車が入ってきて二人は乗り込む。
「しかし悪いな。わざわざ着いてくるなんて」
「ううん。私も行きたかったからいいよ」
軽く首を横に振って彼女は、今は彼氏である男の顔を見上げる。
少し前に彼女は帰り際に話しかけられて色々と『変な夢を見なかったか?』と聞かれて確認が取れた。他のみんなは相変わらずの反応をしていたので、この事を知っているのは今集まっていた四人以外にはいないのだろう。
秘密を共有している仲間みたいで面白いと思う反面、これが本当なのかどうかと言うのはわからない。ただ全員が全く同じ夢を見るなんてあり得ないと思っていたので、多分事実なんだと思う。
そして電車が駅に着くと、そこで南部と共に駅を降りた。
「花を一つ」
そこで花屋で彼は花を一対買うと、学生鞄の中からお線香・蝋燭・燐寸のお墓参りセットを取り出した。
「ねね、じゃあ今は南部くんって一人暮らし?」
「ああ」
小山はそこで軽く確認をすると、そこで彼に提案をする。
「じゃあ今日泊まってもいい?」
「え?まぁいいけど…」
南部の返答に彼女はグッと拳を握った。
「やった。実は私も一人暮らしだからさ。あっ、来年は同棲とかってどう?」
「馬鹿、そんな事を許されると思うのか?」
「大丈夫大丈夫。南部くんだったら」
「どんな信頼だよ…」
そこで二人は霊園に入って彼の祖父の墓の場所まで歩く。毎年、この時期に彼は育て親であった祖父の墓参りに着ているという。私も昔、その人に会った事があったのでその縁ということでこの墓参りに訪れていた。
「…あれ?」
その時、彼は立ち止まってやや驚いた顔をするので、なんだろうかと彼と同じ場所を見た。
「…え?」
その時、小山は首を傾げた。
「お婆ちゃん?」
そこには見知った顔の老婆が手を合わせており、近くには桶も用意されていた。線香もあげており、お参りをしているようだった。すると祖母は小山の声に気がついて顔を上げた。
「あら、蓮子?」
「お婆ちゃん、どうしてここに?」
意外な人がいたことに驚いていると、彼女は小山と南部が一緒にいたのを見た。
「今日は剛三さんの命日でしょう?だからお参りに」
「…祖父を、ご存知なんですね」
そこで彼女の祖母…話では彼女の育て親でもある小山トワ子に挨拶をする。彼は墓参りに来てくれた彼女に頭を下げて挨拶をすると、祖父の墓の前で彼女は話した。
「ええ、剛三さんとは長い付き合いでしたから」
「…」
その時、彼女の反応を見て南部達は色々と察する事ができた。
「まずはお参りをしましょう。色々とお聞きしたい事もあるのでしょう?」
「…はい。失礼します」
そこで南部達は祖父の墓に線香を立てて手を合わせた。小山も昔に泊まらせてもらった事を思い出しながら手を合わせると、その後にお参りを済ませて花も捧げてから霊園を後にする。
「持ちますよ」
「助かるわ」
そこで水の残っていた桶を二つ持って南部は霊園を歩く。
「剛三さんは、戦時中に私の住んでいた村に疎開をしてきた家族でね。その時に知り合ったの」
「…随分と長いお付き合いですね」
帰る途中、彼はトワ子から話を聞く。
「ええ、疎開に来た家族っていうからそりゃあお金持ちだったわ。色々と地元しか知らなかった私に世界を教えてくれたような気持ちでね。次第に片思いをするようになったわね」
懐かしんで彼女は話すと、その意外な事実に小山達は驚きっぱなしであった。
「でも剛三さんは家柄もあったから、田舎者の私とはどうしても不釣合いだったの」
「「…」」
そして無念の破局をした話に二人は黙ってしまう。その後は小山がここにいるように、彼女は別の男性を結婚をしていた。
「だから蓮子が剛三さんと会ったときはとても驚いたわ。こんな運命的な出会いがあるなんて思ってもいなかったものですから」
彼女はそう言い、そこで色々と南部達に話した。
「出会ってからは剛三さんと色々と話したわね。…あの学校に通うように言ったのは私たちだったりするのよ?」
「あっ、そうなんだ」
「…そういうわけですか」
彼女からの暴露話を聞いて、色々と納得がいった気がした二人。妙に力強く言っていたもんなぁと内心で振り返っていた。
「剛三さんは亡くなる前に茂くんに渡す財産を私に預けてきてね。しばらくは管理して、遺産を狙う親戚から守ってくれって言われたの」
「…じゃあアパートに祖父の遺産を送ったのは貴方なんですか?」
そこで南部は驚いた顔で彼女を見ると、頷いて答えられた。
「ええ、驚きましたか?」
「驚きますよ。当然」
南部は驚いてトワ子を見ると、彼女はくすくすと笑っていた。
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