正歴一九三八年 一一月一一日
ライヒ帝国 西部戦線 南部管区
その日、一つの部隊が最前線に降り立った。漆黒の降下猟兵の軍服を身に纏い、シュターヘルムを被った者達は周辺の兵士達から見ても異様な雰囲気を持っていた。そんな中、指揮官と思しき若い青年が現地指揮官に敬礼をする。
「《第五〇〇陸軍降下猟兵大隊》大隊長ディルク・フォン・ゲーリッツ少佐であります!」
「初めましてディルク少佐殿。第三八八歩兵科大隊隊長、ドミニク・フォン・フェミウス少佐です」
「本日よりよろしくお願いします」
「こちらこそ。宜しくお願いします」
そう言うと二人は司令所を出て外の景色を眺める。
「あそこの森の制圧を目標としていますが・・・」
「共和国軍の隠匿式砲台があると?」
「そうです。木々に隠された銃座や、砲台があそこには多数あると推定されています」
そう言い目の前の砲陣地から無数の砲弾が着弾しているのが窺えた。
「敵は堅牢に造っているのでしょう。この砲撃でも砲台は生き残っています」
「なるほど・・・」
「そこで貴部隊にあそこの砲台の発見、及び破壊をして貰いたい」
「了解致しました」
そう言うとドミニク少佐は忌々しげに爆発する森を見ながらそう言った。
司令所を出た俺はそのまま部隊が泊まることになるテントに入ると、地図を指差しながら目標を言う。
「諸君、我々に課せられた任務はこの森の中に存在する敵砲台の無力化である」
そう言い、俺は地図に指を指す。
「現在、この森の影響で南部管区全域で前進が困難な状況となっている。高台に存在する為、何処でも見渡せるからだ。そしてこの砲台を叩けば南部管区の戦況は大いに変わるだろう。共和国ではこの砲陣地を《アシュデール要塞》と呼んでいる。大尉、詳しい説明を」
そこで南部管区経験者であるコンラートがこの森の危険性を話す。
「このアシュデールの森は背の高い木々が生い茂り航空偵察も出来ず、足元には多くの有刺鉄線及び埋没した機関銃座や空堀。更に高所からの砲撃が飛んで来る凶悪な場所です。
更に、高所にある関係でここには司令所もあり、戦車もトーチカからの砲撃でほぼ一方的にやられています。
よって通常の攻略は不可能に近い」
大尉の断言に一瞬だけ隊員達は息が止まる。するとそこで俺は口を開いた。
「今、大尉が説明した通りここは強固な要塞。通常の突撃では攻略をするにも多くの血が流れる事だろう。
よって通常の突撃で攻略し得ないのなら、通常じゃない方針で攻略すれば良い」
「では、どの様に?」
隊員の一人がそう問うと、俺は少々顔を顰めつつ、地図を指差す。
「敵司令部を即座に叩けば指揮系統は混乱し、攻略も容易となるだろう。
…しかし、敵司令部の場所は大まかな位置しか分からないと言う事だ」
そう、問題はこれである。アシュデール要塞は元々高地をくり抜いて作った砲陣地。中の構造は多様化し、とても複雑な構造をしている影響で司令部の場所が不明なのだ。一応大まかな場所は諜報のおかげで掴めてはいるのだが、共和国は何を思ったのか
「少佐殿、ではどの様に司令所を抑えるのでありますか?」
説明を終えた後、また別の隊員が聞く。その問いに俺は頭をポリポリと掻くと言った。
「かなり危険だがやってみるか?」
するとその隊員は自身ありげに言い放つ。
「問題ありません。少佐殿の訓練に比べれば命の危機は感じません」
その直後、堪えていたのだろうが。我慢し切れずに隊員達の爆笑が巻き起こった。こいつ等・・・
「中尉、それは禁句だぞ?」
「何をおっしゃいますか。少佐殿の訓練のお陰で我々はここに居るのですぞ」
「それは違いない。が、今は関係ないだろう」
こんな様子で声をあげている隊員達だが、作戦に関しては一定以上の緊張をしていた。
選抜訓練後の徹夜の特訓で慣性制御飛行や、銃火器の扱い方。戦術教義及び戦闘訓練をした彼らは司令部の場所が分からないことがどれだけ危険な事なのかを分かる頭脳を持っていた。
「しかし、司令部の場所が移動するとは・・・」
「エスカルゴ共め、どう言う思考をしている」
「少佐殿。その大まかな場所は何処に?」
そう聞かれ、俺は指を三本出す。
「司令部予想場所は主に三箇所。地下坑道内、地上テント、トーチカのいずれかだ」
「地上テントにあれば最も望ましいですな」
「ああ、爆発魔法で一発だ」
そう言う隊員達、しかし表情は険しくなる。
「で、最も厄介なのが地下坑道か・・・」
「いや、トーチカだろう。爆発魔法が使えない」
「坑道でもさ。爆発魔法なんで使ったら酸欠になる」
隊員達がその様にこぼす中、俺は指示を出す。
「取り敢えず、第一中隊は上空から強襲し、地上施設の破壊。第二中隊は後方から地下坑道及び塹壕。第三中隊は俺と共にトーチカを抑え。深夜より作戦を開始する。作戦準備にかかれ」
「「「「ハッ!」」」」
ここで、《第五〇〇陸軍降下猟兵大隊》の編成を確認しておきたい。
五〇名で構成される一個大隊は十五名の中隊三つと、五名の本部直衛隊で構成されている。
第一中隊はコンラート大尉が率い、第二中隊はゲルハルト・モーデル中尉、第三中隊はハインリム・カウスマン中尉とそれぞれの中隊が率いている。
本部直衛隊はパンツァーファウストを持つ重投擲兵や、通信機を持った通信兵がおり、要請を受けて支援に向かったりすることになっている。
一個中隊につき五人が新型汎用機関銃を持ち、通常一個小隊に付き四人は半自動小銃を持って一人は汎用機関銃を持つ編成となっている。
この部隊の編成に際し、俺は指揮官として、重火器を持つ兵士として両手に武器を持っていた。
「いやはや、こんなでかい銃を持つとはな・・・」
そう呟いてテントに置かれた一丁の銃を見ていた。
ゾロターン S-18/100
20mm弾薬を使用する対戦車ライフルである。20mm口径の弾丸は恐ろしい威力を放ち、爆発魔法の威力も大砲に匹敵すると言われている。しかし、魔力消費が恐ろしいので今まで使う者がいなかった物を
重量は弾倉抜きで45kgもあるが、慣性制御魔法を使って自分と一体化すれば一般的な小銃と同じ感覚で扱うことができた。
まぁ、正直デカイ、重い、反動やべえの三拍子だから効率的には帝国製半自動小銃の方が良く。個人で購入した別の銃もいくつか持っているのだが、それはまたいつか出す事だろう。
今回この銃を持って来た理由は試射も兼ねてであった。なのでほぼ確実に二度と使わんだろう。
どうやらこの世界でもエリコン社は存在する様で、俺は受け取った対戦車ライフルの整備をしながら夜を待っていた。
その夜、サーチライトの灯る戦場の上空を夜空に紛れて複数の影が空を飛ぶ。
漆黒の服を身に纏い、空をほぼ無音で飛ぶその姿に気づく者は居なかった。
「総員降下、着陸する」
そのうちの一人が指示を出すと一斉に空を飛んでいた影が地上に降り立つ。着陸するとディルク達《第五〇〇陸軍降下猟兵大隊》は作戦行動を始めた。陽が落ちるとともに後方から飛び立ち、南部を大きく回って要塞後方に回った彼等は高地麓に着地するとそのまま片手に短機関銃を持って要塞に掘られた塹壕に向かって走る。
後方には味方がいると言う安心感からか塹壕の制圧は極めて順調に進んだ。
背後から奇襲し、共和国兵士を持っていたシャベルの面で叩いて気絶させ、猿轡をして隠す。東の方を向いていたので無警戒にも程があった。
「01クリア」
「こちら02問題ありません」
口元を黒い目出し帽やネックウォーマーで隠した隊員達がそれぞれ確認を取ると俺は時間を見る。
「・・・・・・そろそろだな」
その直後に要塞全体にアラームが鳴り響く。共和国の兵士達が騒ぎ出し、配置に着く。どうやらドミニク少佐率いる部隊が囮として部隊を派遣した様だ。
「よし、行くぞ。計画通りにな」
そう言うと部隊は三手に分かれ、それぞれトーチカ、地上施設。地下坑道を走り出す。
俺は第三小隊を率いて砲台が隠されているはずの場所を走る。まだレーダーの技術が成熟していないこの時代。監視は目視のため、見張りを倒せばなんとでもできた。
「て、敵・・・!!」
その瞬間にMP
俺は一個小隊の先頭を帝国製短機関銃を握って走り、階段を登りきる。
トーチカ前の鉄扉のロックを開けると一斉に中に入った。中には十人ほどの共和国軍砲兵隊の軍人がおり、驚愕した目をしていた。
「ご機嫌よう、砲兵隊の諸君。真夜中の砲撃はさぞ疲れていることでしょう。さぁどうぞ、ゆっくり休憩なさって下さい」
そう言い、短機関銃を見せつける。目元まで布で覆われおり、更にライトも付けていないのでおそらく顔は見えていない。砲兵隊は無抵抗のまま捕虜となり、一瞬で砲台を抑えた。すると背中の無線機越しに通信が入る。
『こちら08小隊、砲台を抑えました』
『こちら07。同じく砲台占拠完了』
「了解した。・・・他の部隊はどうなっている?」
トーチカの占拠を終え、捕虜となった共和国兵達を一列に後ろ手で縛り、砲台から出ていた。ここにあった特大の砲台は占拠した。後は中間砲と機関銃の排除だが・・・
ーーードゴォォォォオオオンンン!!
足元から地鳴りがし、高台の壁面から炎が噴き出た。
「何をやった??!!」
思わず俺は無線機越しに怒鳴り散らす。すると帰ってきたのは・・・
『申し訳ありません少佐殿!地下坑道の弾薬に誘爆いたしました!!』
「怪我人は?」
『ゼロ名であります!』
「すぐに帰還しろ。この爆発じゃあ生き残っても酸欠だ」
『了解致しました』
今の所、司令所及び司令官は発見されていない。トーチカに居ないのは確実だし、地下坑道も今の爆発だ。司令所があったかどうかも分からんだろう。とすると残るは・・・
『少佐殿。地上部分の制圧を完了致しました。そして、捕虜からの情報で司令官は後方に向かったと……』
「……了解した。捕虜は人道的に扱え。傷を負っていれは治療だ。それと信号弾発射。外の味方に後を任せるとしよう」
「はっ!」
そうして、砲台の穴から赤い信号弾が打ち上げられる。確認したと言う返事である発光信号を確認し、俺達は捕虜達を高地の地上部分に歩かせていた。
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