輝の扇動の後、俺たちはこの宿舎で暮らす事になった。ファーブルも輝を使えばクラスメイトを簡単に扱えると判断し、何かあった時は必ず輝に話していた。
十人単位の相部屋で二段ベット。おまけにクラスから嫌われている俺はいつも部屋の隅で一人で過ごしていた。すると俺は真夜中だと言うのに起こされた。
「おい、起きろ。落ちこぼれ」
布団を剥ぎ取られ、冷たい空気が布団に入ると俺は目覚めた。
「茂、輝がお呼びだ」
そう言い残すとクラスメイトは部屋を後にした。時計を見ると時刻は午前三時、こんな朝っぱらから何すんだと思いつつ俺は宿舎の中で最も広い一室の扉を叩いた。
「ーーー失礼します」
そう言い、中に入るとそこにはパリッとした服に身を包んだ輝が革製の椅子に座って待っていた。
ここに呼び出されてはや二ヶ月。俺たちは戦争に参加するための訓練に励んでいた。小銃の扱い方、持ち方、構え方。もともと平和主義の民主国家で平和にどっぷり浸かった子供達だ。銃を触ったことすらないクラスメイト達は、そのずっしりくる重さに驚きながら銃の扱い方を教官から教えてもらっていた。あとはひたすら装備一式を持って走っていた。
戦局を大きく変える人材。そのため、うちらの情報は秘匿されなければならないので戦線から大きく離れたこの位置でしばらく訓練した後に前線で参戦するそうだ。
そんな風なことを思い出していると輝は徐に俺を見ながら言う。
「君に、私から話がある」
「・・・・・・・大魔法師様がこの落ちこぼれ魔法師に何か御用で?」
そう言うと輝はわざとらしく言う。
「まぁ、あればかりは仕方あるまい。運が悪いとしかね・・・・・・・」
そう言い、思い出されるのはこの世界に転移してから三日後のことだった。
俺たちは一室に集められるとそこには何台もの始めて見る機会が置いてあったのだ。鉄帽のような機械から棒のようなものが突き出し、明らかに怪しい機械が置かれていた。すると現れたのは白衣を身に纏った科学者達であった。するとその中の一人、頭ツルツルのいたって平凡そうに見える男が機械を指差しながら今からする事を教えた。
「さて、君たちにはこれから魔法適正を計測させてもらう」
そう言うと俺たちを椅子に座らせ、機械を頭にかぶせられる。そして機械のスイッチが入るとそれぞれ観測員らしき研究者が紙に何か書き込み、記録していた。すると一人の研究員が結果を見て驚きの声を上げた。
「すごい!魔道適正Sだ!!」
その声がした方を見ると、そこには輝がいた。機械のメーターが振り切れかけている事から研究員が驚くのも無理はなかった。強力な魔道適正を持っている事に半ば期待した様子で他の面々も結果を見ていく。全員が魔道適正の平均値より高い結果が出る中、俺の結果は・・・・・・
「ーーー魔道適正・・・・・・Cです・・・・・・」
俺の結果を見た研究員は少しだけ落胆したような様子を見せた。そこで思わず俺は問いかける。
「あのぉ・・・・・・それって・・・」
「あ、あぁ。君の魔道適正はC・・・まぁ、つまり平凡という事だ」
数値を見ると中の下と言った感じだがね。そう言われた俺は特に驚愕する事なくただただ話を聞いていた。魔道適正がCでも訓練すれば一般の魔法兵と同じ様に戦闘が出来るそうだ。ただし、魔法の連発は適正の関係から最大でも四・五発が限界だそうだ。
そう言われ、検査結果を知ったクラスメイトは自慢する様に結果を言い合っていた。そんな中、俺の結果を知っていた者は早速俺の適正の低さをしながら自慢していた。それからというもの、俺はクラスメイト達から弄りを受けていたのだ。時々、俺を庇おうとした奴もいたが、ごく少数だった。
「・・・・・・君もここにいて嫌気がさしているだろう?」
「どうでしょうね。少なくとも毎日飯が食える時点で十分だと思います」
そう言うと輝は俺に一枚の紙を差し出した。
「君を守る為の措置だと思っていたんだがね・・・・・・」
そこに書かれていたのは前線視察に関する移動届だった。
「君は軍事に詳しい。だから実際に前線に行って戦争がどんな物なのかを僕たちに教えて欲しいんだ。戦争に関する情報を詳しく知るためにね・・・・・・」
「・・・・・・そうですか」
「君が帰ってくるまでに君の周りで起こっている出来事はできる限り解決するつもりだ。君がいると問題が解決しないということもあってね、だから君には先に戦地にってもらいたい。お願いしてもらえるね?」
そう言い、自分は強引に前線視察という名の追放を受けた。
数日後に迎えの車がやって来て、少ない荷物を車に積むと俺は共和国の下士官服を来て車に乗りこんだ。
「せいぜい頑張れよ。落ちこぼれ」
「骨くらいは探してやるよ」
「二度と帰ってくんな!!」
軽蔑する目で自分を見てくるクラスメイト。その中には心配する目をするのもいたが、そんな事も気にせずに俺は今まで世話になった宿舎を後にした。車内で俺は最後に輝の取り巻きが言っていた一言が引っ掛かっていた。
「そのまま前線でくたばればいいのに」
いつも通りの軽蔑した侮辱の様に思えるが、俺は内心まさかと思っていた。
「(流石の奴も同級生を陥れるか?いや、でも奴のやり方から考えられん事もない・・・・・・)」
他人を貶め、自分が成り上がるのは奴の常套手段。しかし、日本人だからそんな事は・・・・・・
「まさか・・・・・・」
そこで俺は急激に血の気が引いた。まさか、奴は・・・・・・小野寺輝は本気で殺しに掛かっているのかもしれない。
「なんて事だ・・・・・・」
いくら
戦闘教本などは読んだが、まさかの堡塁式の事しか書かれていないのだ。まだまだ黎明期だが航空機が存在するこの世界。堡塁式なんて使えるはずも無くイラナイコ宣言。近代戦に関する本などはほとんど無かった。
茂が輝の考えている事に困惑し、冷や汗をかいていた時。宿舎の一人部屋では輝が出ていく車を見送りながら呟く。
「ーーーさようなら、南部くん。君を排除できたのは実に嬉しい誤算だった」
そう呟くと輝は出ていく元クラスメイトの顔を思い出す。自分の知る南部茂という男は初めは何も持たないただの平凡な人物だった。
しかし、話してみると見た目に反して雄弁な口を持ち、尚且つその時自分が好いていた女子は彼の雄弁さ故に彼に恋している事を知った。自分があの時ちょっかいを掛けていなければ自分にとってこの上ない脅威となっていたかもしれなかった。だからこそここで排除できたのは実に幸運だったといえよう。
ファーブルに彼の魔道適正の低さを話し、『そんな奴に無駄飯を食わせるなら前線で命を張らせて国に貢献したほうが良いでしょう?』と提案し。ファーブルは驚きつつも、納得してくれた様子で彼を前線視察と称して死地に送り込むことが出来た。
後は彼の遺体を墓に埋めて黙祷を捧げるだけだ。
もとより嫌われていた存在。いずれ彼の事なんぞこれからの戦争の混乱で消えてしまうだろう。
彼はそんな風に考え、車が見えなくなった所で自室のデスクに座って書類にサインをしていた。自分を含めて三一人だったクラスメイトは三十人となり、嫌いだった奴が出ていった事で清々した者が多かった・・・・・・
正暦一九三七年 二月六日
共和国東部のとある駅
一人の若い青年が最前線に向かう駅に到着する。男の名はエリク・ピエール、今日付けで西部戦線に送られて来た若い新米兵士だった。
荷下ろしされる貨物列車に繋がれた客車と共に戦地に赴任して来ていた。
「ここが・・・・・・西部戦線・・・・・・」
エリク・・・もとい共和国国籍を与えられた茂は配給された小銃、ルベルM1886を片手にその後も弾薬や水筒なども渡されると自分はそのまま割り当てられたその場所に向かう。
「し、失礼します!今日付けで配属されました!エリク・ピエール二等兵です!」
若干強張る声で叫ぶと目の前にいる強面の軍服を着たおっさん達がタバコ片手にこちらを見ていた。するのその中の一人、最も奥にいた髭を無精に生やした同じホリゾンブルーの兵士が俺を見ると問いかけた。
「・・・・・・あぁ、オメェが増援か・・・チッ」
するとその人物は自分を見ると愚痴りながらこっちに近づいて来た。するといきなり自分の腹を蹴りました。
「ゴフッ・・・・・・」
今までで一番強い腹蹴りをくらい、思わず吐きそうになる。よろめきながら土の地面に倒れると目の前にいる兵士は俺を貶す様に見ると言い放った。
「こんな新米のお守りをさせろってのか上は?!ふざけんな・・・!!」
そう言うと他の兵士の一人、灰髪を持つ男性が口を挟んだ。
「そこら辺にしといたほうがいいっすよ。小隊長殿」
「上は何を考えていやがる・・・・・・俺は魔法兵を要望したはずだぞ・・・・・・」
ああ、なるほど。この人が自分の上司となる人ですか・・・・・・。何やら騒ぐ小隊長殿と一人の兵士に気まずくなりつつも手を上げて半分ヤケクソで話に割り込んだ。
「えっと・・・・・・その魔法兵が私です・・・・」
「「・・・・・・はぁ?」」
言い合っていた二人は俺を見ると同時に信じられないと言う声が上がっていました。
「・・・・・・お前。魔法は?」
「教本の最低限は行いました」
「何発撃てる?」
「爆発術式を四発・・・・薬を使えば五発いけます」
あの後、俺は二、三度ほど同じ事を聞かれ、同じ様に返答すると小隊長殿・・・名前をコードルさんと言う人が仰天した様子で自分を見ていました。コードルさんと話していた人、この第一三〇小隊突撃分隊隊長のドムさんも同じ様な反応でした。まさか十七歳の新兵が来るとは思っていなかったそうです。
「魔法師の人では深刻だと聞いていたがまさかここまでとは・・・・・・」
深刻そうな表情を浮かべるドムさんを見つつ、自分はコードルさんの質問に応え終えました。するとコードルさんは俺を見るとこう言いました。
「よく聞けガキ。俺は魔法兵を呼んだ。新兵に期待はせんが、その青い尻蹴り上げて俺について来い」
「はっ!」
そう言われ、赴任早々に自分は暴行を受けました。だけどその内心、自分は実銃が撃てるのだと興奮していました。
だけど、そんな事は実に愚かだったとのちに感じる事になりました。
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