戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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二〇話

ディルクが要塞を制圧した頃。共和国大砲陣地では・・・

 

「ーー本当にするのかね?」

 

一人の軍人が疑問に思いながら聞く。すると横にいた砲兵隊員が答える。

 

「ええ、帝国軍を一網打尽にする為です。それに、『黒い天使』が居る可能性が高いと聞いております故に・・・」

「・・・・・・」

 

キッパリと言うその青年に()()()()()はやや不満げな表情を浮かべる。

視線の先にあるのは先ほどまで自分が居た高台の砲陣地だ。距離はとても遠く、目の前の砲兵が忙しなく動いている。思えばこの砲兵隊は全員が二十歳ほどの若者だけで構成されていた。しかし、動きは洗練されており、無駄がなかった。砲兵トラックや兵員輸送用の車まで準備された機械化率100%の砲兵隊だ。

自分は上からの命令で最低限の人員を残して要塞から後退するよう指示を出され、従っていた。そして命令の真意を知った時には降格も承知で抗議をした。しかし、命令の撤回はできなかった。

 

「(すまぬ・・・)」

 

司令官は現在要塞に残る味方の顔を思い並べる。少なくともこんな作戦を考えた司令部は中々にぶっ飛んでいると思う。

 

少数の犠牲を糧に戦線に大穴を開ける。

 

少なくとも自分はこの方針には反対だった。必死に反対した。しかし、司令部は誰かに操られたかの様に『変更はできない』の一点張りだった。少なくとも自分のこの階級、大佐という階級では命令変更をするには無理だった。

それに、自分はこの砲兵隊隊長の青年が嫌いだ。はっきりと断言できる。

参謀本部直属の砲兵隊とは言え、味方を意図も簡単に殺す決断ができるこの青年の躊躇の無さに危機感を抱いた。

 

「(この青年を軍に置くのは危険だ)」

 

自分の今までの経験がそう叫んでいた。少佐の階級章を持ち。砲兵隊の軍服を身に纏っているが、中身に棲みついているのは悪魔だ。

言うならば誘惑の悪魔だろうか。彼の指示に一切の疑問も持たずに砲兵が動き回る。そこに不満げな者は居なかった。実に不気味だと思っているとカノン砲の準備が整った。

 

「ーー砲撃用意」

 

砲弾が装填され、尾栓が閉じられる。そして横にいたヘイルダム少佐は自ら発射のための引き金を持った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「っ!!」

 

確保した要塞で、捕虜の引き渡しをしている時に俺は強烈な何かを感じた。

 

「少佐?」

「・・・申し訳ありません。後は任せます」

「え、あ、ちょっちょっと!!少佐!?」

 

空を飛んだ俺は西方を見る。その時、俺はある物を目にした。

 

「あれは・・・!?!?」

 

目に映るのはある一点に集まる光の塊だった。緑白色の・・・魔導砲撃特有の臨界点に近い魔力だった。

 

「この魔力のデカさ・・・この位置・・・くそっ!

 

 

 

 

 

()()()()!!」

 

俺は咄嗟に飛んでついて来た隊員に叫ぶ。

 

「おい!早く高地から撤退させろ!!共和国の魔導砲撃だ!!《白い悪魔》の砲撃が来るぞ!!」

「!!!」

 

その名を聞き、一瞬固まるが。俺の尋常じゃない焦りに即座に地上に降り立って叫んだ。

 

「みんな逃げろ!!《白い悪魔》が来るぞ!!」

 

そう叫ぶと信じられないと言った様子と、混乱から動きがバラバラなのがよく見える。

このままだとおそらく高地ごと吹っ飛ばすだろう。

 

「くそっ!甘い蜜に誘われたか!!」

 

恐らく奴の作戦はこうだ。一度要塞を制圧させ、そこに味方が最も集まる時。

 

 

 

 

 

ーーーつまり、戦闘後の残敵掃討時を狙っての魔導砲撃

 

 

 

 

 

まんまとはまったと思い、悔しげに思いながら俺は打開策を考えていた。

 

 

 

 

 

下では混乱が起こっており、ドミニク大佐は確認を取っていた。

 

「本当に来るのかね?」

「はっ!ディルク少佐殿が高い魔力を感知し、私も見ました!」

「そうか・・・」

 

話を聞き、数秒考えた後。大佐は指示を飛ばす。

 

「……総員撤退!荷物も置いてけ!捕虜も置いてでも塹壕に滑り込め!!何もかも消えるぞ!!」

 

そう叫ぶと大佐は《第五〇〇陸軍降下猟兵大隊》にも要請する。

 

「君たちも手伝ってくれ。友軍を出来るだけ塹壕に運ぶんだ」

「はっ!!」

 

そして演算機以外の荷物を落とし、近くにいた友軍のベルトを掴んで一気に二人を運び出す。そんな中、大佐は一人の魔法兵にある木箱を渡す。

 

「これをゲーリッツ少佐に渡してくれ。恐らく今の彼に必要な物だろう」

「はっ!!」

 

箱を見たゲルハルト中尉は両手でそれを抱えると空に舞い上がった。それを見届ける間も無く大佐は叫ぶ。

 

「ーーよし、急いで後続にも伝えろ!『一旦要塞は放棄する』と。今は時間が命だ!急いで下山しろ!!」

「お、置いてかないでくれ!!」

 

そう言い、後ろ手で縛られた共和国の兵士達も自分たちと同じ様に走って下山していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「(どうする。どうすればいい・・・・・・?)」

 

上空で俺は必死に考えていた。今まさに発射されようとしている砲撃はあの地獄絵図を作った砲撃だ。本当は真っ先に殺したいと思うが……下にはまだ味方がいる。恐らく撤退は間に合わない。それまでに発射されてしまう。

 

「(どうすれば・・・・・・)」

 

もう、あんな経験はしたくない。しかし、自分の持っている技術で防ぎ切れるか・・・?

そう思った時だった。

 

「少佐ぁ!!」

「っ!ゲルハルト中尉!!」

 

上空に上がってきたのはゲルハルト中尉だった。彼は両手に木箱を持ち、それを俺に投げた。

 

「これを!」

 

そう言い、投げ出された木箱は空中で蓋が開く。中身を見て、俺は勝ち筋を見た。木箱から出てきた黒塗りの細長い物体はスッポリと綺麗に手の中に入った。

 

「感謝するゲルハルト中尉。離れていろ!」

「はっ!少佐もお気をつけて!!」

 

そう言い、高度を下げ、離れていく中尉を見た後。俺は銃を両手で持ち、照準を合わせる。

 

「(これなら・・・行ける!!)」

 

銃を持った俺は意識を今まさに放たれんとしている魔導砲撃に向ける。今出せる範囲で最大の障壁魔法を展開しようとした時、俺の耳元で知っている声がする。

 

『ーー祈るのです』

 

その声は天照様の声だった。耳元で囁かれるとほぼ同時に俺の脳裏に自然に単語が並べられる。思わず俺はその単語を口に出す。

 

「祓えたまえ、清めたまえ、神ながら守りたまえ、幸えたまえ」

 

直後に演算機から光が溢れ、銃を取り巻き、恐ろしい量の魔力が放出される。黄金色の光が銃口から幾多もの魔法陣を引き、一本の銃身の様になる。

溢れるその力は目の前で見ていたゲルハルト達を驚愕させるには十分だった。

 

「あれは・・・・・・」

 

魔法の多重展開に驚きつつ、ゲルハルトは地上に降りるとそのまま兵士達を掴んでピストン輸送をしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「座標固定。目標ーーー敵魔導砲弾」

「照準固定。目標、アシュデールの森ーーー」

 

互いに魔法陣を展開し、照準を合わせる。引き金を引いたのはほぼ同じタイミングだった。

 

「「撃てっ!!」」

 

弾丸と砲弾が放たれ、互いに光の尾を引いて空中で衝突する。

 

臨界状態の魔導砲弾が魔力だけを込めた魔法弾と衝突し、過剰な魔力によって魔力暴走が起こり、魔法陣が崩壊。行き場を失った爆発魔法は術式が瓦解すると共に大爆発を引き起こした。

 

深夜の暗闇を爆炎が明るく照らす。その光景は高地からも、砲撃陣地からも見えていた。

 

「何?」

 

ヘイルダムは高地手前で爆発した砲弾に驚愕していた。

 

「(信管異常か?兎も角次の砲撃を・・・)」

 

直後に司令部から伝令が入る。

 

『司令部より独立魔導砲兵大隊。陣地移動を求む。これは、参謀本部の命令である』

 

咄嗟に意見具申しようとしたが、こちらの場所が特定されている以上、直ぐに逃げなければ攻撃が来る。

ヘイルダムは内心舌打ちをしながら撤収を始めていた。その横でどこかホッとした様子のアシューデル司令官を見つつ……

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーーーゲホッゲホッ!」

 

爆発の後。障壁魔法を展開し、衝撃波と爆風から体を守るとそのまま押し出される形で地面に落下し、煙を払って地面に降り立つ。

地面に足をつけると撤退中であったはずの味方が俺を見て称え誉めていた。

 

「神だ・・・」

「神の落とし子だ・・・」

「あんなの初めて見た・・・」

「黒い天使万歳!少佐殿万歳!」

 

そう言い捕虜のはずの共和国兵と肩を並べて大喜びする兵士達を見ているとドミニク大佐が俺の前に立った。

 

「大佐殿。これは・・・」

「いやぁ、良くやってくれたよ。『マーチバルの悲劇』を繰り返さなくて皆が喜んでいるのさ」

 

そう言うと大佐は俺の肩を叩くと言った。

 

「さぁ、ここの戦域は大きく前進した。見張りはこっちでやっておくから。宴と行こうじゃ無いか」

 

そう言うと大佐は煤だらけの俺を飲んで楽しんでいる仲間達の元に案内した。そこでは既に渡された嗜好品片手に騒いでいる帝国兵の姿があった。

 

「お!小隊長殿!」

「なんだ、酒か?」

 

妙にワイン臭が漂い、大声をあげて勝利に喜ぶ隊員達。今回の制圧で銃撃を受けて重傷を負い、後方に移送されていく仲間達を見届け、俺は確保した要塞で嗜好品を少し貰い、その日はテントに戻ろうとした。その際、呼び止められたが、

 

「今日は疲れた。明日に魔力切れを起こしたく無い。自分の分もやるからあとは楽しんでいてくれ」

「「「「おおおぉぉおおお!!!」」」」

 

そう言い、宴がさらに盛り上がったのを見届け。俺は要塞に残った中で一番いい部屋を貸してもらった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日後……

帝国陸軍参謀本部 参謀総長執務室

 

そこでは《第五〇〇陸軍降下猟兵大隊》の初陣の戦果に満足げな様子のペッツとコルネリウスが居た。

 

「初陣にしては十分過ぎる成果だな」

「ああ、事前に綿密な測量。建物の配置図。詳しい内部情報を要求してきただけの事はある」

 

そう言い、ワインの入ったグラスを片手に報告書を読む二人。報告書には南部管区でのアシューデル要塞の詳しい内容が書かれていた。そこで新たな情報を目にし、興味深い内容だった。

 

「しかし、魔導砲撃の術式を破壊するとは・・・」

「現在、エレニカ主任が調査を行っている。本当に魔導砲撃の迎撃が出来るのかのな」

 

魔導砲撃の迎撃

従来、障壁魔法で耐えるか、掩蔽壕に逃げるしかなかった魔導砲撃。その概念を覆す内容だ。何せカノン砲級の魔導砲撃を一発の銃弾で迎撃したのだ。これで驚かないものは相当肝が据わっているだろう。

 

「結果は二日後にでも出る。その際には・・・」

「ああ、魔法兵は小銃で大砲に勝てる方法が見つかる。これは大きな発見だ」

 

そう言うと二人は互いにグラスを掲げるとペッツが言った。

 

「つくづくお前の息子は型破りなやつだ……」

「あぁ、全くだ……」

 

そう言うと二人はグラスのワインを飲み干していた。




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