戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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二一話

正暦一九三八年 一二月二四日 午後一〇時頃

ライヒ帝国 帝都レルリン

 

今日は男女の二人組が街を喜んで闊歩し、男どもは血涙を流してその光景を見届ける日だ。それはこの世界でも変わらない様で、後方に戻った自分は街に繰り出してクリスマスを堪能していた。

 

「諸君、戦時下だと言うのに後方でチキンが食えることに感謝したまえ。

酒も用意した。昨日までの酷使の日々を今日は吹き飛ばそうではないか!!」

 

そう言うと俺はグラスを掲げて叫ぶ。

 

「プロージット!」

「「「「プロージット!」」」」

 

同じ様に隊員達もグラスを掲げると白ワインを飲み干す。その後は一斉に男達はチキンにかぶりつく。一部の妻子持ちの隊員は今日は家に戻っている。理由は簡単。昨日まで自分たちは戦線を飛び回り、酷使され続けたためこの日から休暇を申請したのだ。今まで上げてきた戦果から休暇が認められ、隊員達は思い思いの時間を過ごしていた。今日から年明けまでの一週間。自分たちは休暇を取っていた。かく言う自分もこの後は家に戻って義姉や義父と過ごす予定でいる。既に一部のものは給料片手に街に繰り出していき、ここに居るのも数は少なかった。後の事をコンラート大尉に任せると自分は駐屯地を後にした。

 

「家まで頼む」

「はっ!」

 

俺はこれから楽しいクリスマスパーティーだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同日同時刻

フランク共和国 国防省 参謀本部

 

その日、その場所では将官達が集まり険しい表情をしていた。その視線の先には戦況図があった。

 

「現在、北部戦域は停滞。南部戦域も塹壕陣地の構築を完了させ、戦線の膠着を完了させました」

 

報告官の説明を聞き、将官達はこの状況が不味いことを把握していた。認めたくはないが戦況は徐々に共和国に不利になっていると言う事を、彼らは分かっていた。

 

「戦況は芳しくないか……」

「そうだな…」

「特に北部戦域はかつてない程後退している。旧国境も超えている」

「南部戦域でもアシューデル要塞の陥落。これは痛い」

「どうする?このままでは……」

 

参謀会議で物議を醸すのはやはり戦線全体で後退している事に関する問題だった。北部と南部の戦線が後退し、徐々にではあるが中央部が突出する形となりつつあった。そして一人の将官が呟いた言葉にさらに一層表情が険しくなる。

 

「おまけに飛行魔法兵の存在もある」

 

飛行魔法兵

共和国がそう呼称するのは戦線で確認されている文字通り空を飛ぶ魔法兵だ。帝国が開発したものと推測され、魔法兵の活躍の幅を大きく広げていると言われている。実際、飛行魔法兵は非常に有用だ。歩兵の突撃に合わせて先んじて塹壕に突入し、機関銃などの排除を行い、前線を押し上げる。

量産性にも長けている様で現在帝国魔法兵に急速に配備が進んでいるようだ。

上空から魔法弾攻撃をされ、機関銃の射撃も障壁魔法で無効化される。掩蔽壕に隠れても入り口から魔法弾を撃ち込まれる。

はっきり言って戦況は芳しくない。しかし、国民や兵士の士気は高い。前線と後方で感情の食い違いが起こっているのだ。理由は簡単。ある参謀本部直属の強力な砲兵隊が戦線を飛び回っているからだ。

 

 

 

 

 

その部隊の名は《独立魔導砲兵大隊》。参謀本部直轄の部隊であり、強力な魔導砲兵を複数抱える共和国の切り札であった。155mmカノン砲を主戦力とし、機械化率100%を誇る。砲兵は全員が魔導砲兵であり、戦線ではいくつかの帝国軍拠点を吹き飛ばしていた。

二年前の大勝利である《マーチバル攻勢》で活躍した砲兵がいると言う噂も流れており、常に幾つもの戦域司令官から要請があった。

要請の中から参謀本部は特に重要なものを選択し、その戦域に部隊の司令官であるファーブルが部隊指揮官に命令を出す。命令を受諾したのち、完全機械化された足の速さを生かして戦線後方からデカい魔導砲撃を投げ込み、反撃を受ける前に撤収する。それが彼らの基本戦術だ。

 

「しかし、魔導砲撃を撃墜したと言うのは本当なのかね?」

「いや、確認できたのは現場に居たアシューデル要塞指揮官だそうだ」

「なるほど……」

「ならば信憑性は低いか」

 

そこで将官達はこの要塞指揮官の報告書を盛った虚偽と判断し、別の話題に移った。

 

「それよりも問題はこっちだ」

 

そう言い、一人の将校が一枚の紙を出す。そこには一枚の白黒写真が添えられ、クリップで止められていた。

 

「帝国軍はこのような兵士を創設したらしい」

 

そこには漆黒の降下猟兵用の装備に短機関銃や、ガスマスクを装備し、近接戦に特化したような格好をしていた。

 

「この部隊は三時間ほどで要塞を制圧したようです」

「三時間だと!?」

「馬鹿げている!」

 

これも虚偽の報告かと思っていると報告書を詳しく読んだ。

 

「報告書によると……飛行魔法兵が後方から塹壕内を制圧した後、砲台や地上施設を占拠し、地下の弾薬室を爆破したと。報告が上がっております」

「なんと……」

「飛行魔法兵め……厄介な存在だ」

「対策はどうする?」

 

将官らが口々に言う言葉に、灰皿にタバコが押し当てられる。

 

「兎に角だ、西部戦線で帝国軍は比べ物にならない量の砲弾を使用している。あんな量を使っていれば早晩に弾切れを起こすだろう」

「そうですな。その時に攻勢を行えば…」

「小官も同意いたします」

 

エルドールの意見に何人かの将官が頷き、会議はそのまま終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

しかし、共和国はまだ知らなかった。帝国軍は砲弾の使用口径を限定し、量産している影響で恐ろしい量の弾薬が備蓄されている事に……

 

「やれやれ、せっかくのクリスマスだと言うのにこれでは家でのパーティーすら楽しめん状況だな」

 

エルドールはそう呟いてタバコを灰皿に押し込み、今日でワンカートンのタバコを吸い終えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

参謀本部でその様な会議が行われている頃。共和国側の戦線の後方では…

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

青年少女達がコップに注がれた飲み物を掲げて声を上げていた。戦線から離れた街のホテルではクラスメイト達はクリスマスパーティーを開いていた。音頭を取るのはもちろん輝だった。

 

「今日に休暇が取れたのも皆のおかげだ。感謝するよ」

 

そう言うと彼の取り巻きの一人、神坂雄二が肩を叩きながら言った。

 

「いやいや、輝のおかげだろう?だって俺たちは殆ど何もしていないんだしよ」

「そうそう。手柄は全部輝様が持って行っちゃっているでしょ?」

 

そう言い、一室で盛り上がっている中。輝はある人物がいない事に気づき近くにいた人に聞いた。

 

「あれ?小山さんは何処に?」

 

そう聞くと一人の生徒が答える。

 

「あぁ、なんか疲れたらしくて。部屋で先に寝るって言ってたよ」

「そうか…すまない、少し様子を見てくる」

「えぇ〜、待ってよぉ…輝様ぁ〜」

「後で相手して上げるから」

 

そう言い、部屋を出て、蓮子がいるはずの部屋を探し、部屋の扉を叩く。

 

「小山さん、大丈夫かい?」

『……』

 

返事はない。何か嫌な予感がすると思い自分は申し訳なさを感じつつ、扉を開ける。

 

「小山さん…?」

 

部屋の僅かに盛り上がったベットを見つけ、自分は声をかける。

 

「小山さん。大丈夫かい?」

 

そう問いかけると蓮子は微動だにせずに答える。

 

『……ないで』

「?」

『近づかないで』

 

その声はガラガラで思わず自分は蓮子の体を動かして顔を見る。

 

「か、風邪をひいているじゃないか!?」

 

その顔は赤く、熱を出している様だ。息は少々荒く、苦しそうにも見えた。

この時代、風邪は日本のように簡単に治せるわけではない。なので隔離し、薬を服用する必要があった。その為、輝が次に取った行動は早かった。

 

「すぐに医者に連絡する!すぐに病院に送るから…!!」

 

そう言い、やや慌てた様子の輝はそのまま部屋を後にする。その様子を見届けると蓮子は体を起き上がらせ、大きく息を吸うと赤かった顔は徐々に治っていき、ガラガラだった声もいつも通り綺麗な声になっていた。

 

「はぁ…あんなに分かりやすく動揺するとは…」

 

呆れた表情を浮かべ、蓮子は輝の出て行った扉を見る。そこで蓮子は前々から茂と話していて学んだ知識をフル活用して思い出していた。

 

「普通、上官に逆らったら殴られたりする筈なのに…アイツはそれをしないんだもの…まさかとは思っていたけど……」

 

蓮子はため息を吐きながら手を頭に当てて困惑した様子を見せていた。

 

「あんな悪魔の下に付くくらいなら…」

 

その時、蓮子は思わず窓を見たが、そこで思いとどまる。

 

「まだよね…まだ…何も出来ていないのだから……」

 

空に上がる大きな月を見ながら蓮子はそう呟いていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「エブシッ!!」

「あら、風邪?」

「ただのくしゃみですよ。大丈夫です」

 

俺は思わず義姉の前でくしゃみをしてしまった。現在雪の降る帝都で俺と義姉は外に出ていた。クリスマスの真夜中と言うこともあり、人は少ない。今は性夜なんて言われる時間帯だ。きっと何処かの家ではおっ始めているだろうと思う。自分には一生縁がない行事だ。

マフラーを巻き、黒いコートを着て外を歩いていると義姉が話しかける。

 

「ねぇ、ディルク。少し、聞いてもいいかしら?」

「はい、何でしょうか?」

 

すると義姉は俺に問いかける。

 

「ディルクを救出した時に意識を失ってまで持っていたあのブローチって何?」

「え?」

 

思わぬ問いに思わず変な声が出てしまう。俺は一瞬固まるも、すぐに義姉に答える。

 

「あれは…」

「あ、変なこと聞いた?」

「あ、いえ…そんな事では…ただ……」

 

そう言うと俺は常にポケットにお守り代わりに入れている蓮の花のブローチを思わず手に持つ。

 

 

「自分の昔の思い出ですから……」

 

 

 

 

 

そう答えると義姉は少しキョトンとした後、少し笑う。

 

「フフッ…成程、そう言うことね…」

 

すると義姉は俺の肩を持つと持っていた夜食用のワインを片手に体を引き寄せる。

 

「さぁ、まだクリスマスは終わってないぞ。今日は飲み明かそうじゃないか」

「程々にお願いしますよ。義姉は下戸なんですから…」

「大丈夫大丈夫、ディルクが次いつ家に帰るかわからないんだし、このくらい丁度良い位だわ」

「はぁ…(また潰れる気ですか……)」

 

やや呆れながら俺は義姉と共に帰路に着いていた。

 

 

 

 

 




第二章『西部戦線異常アリ』完

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