現在帝国で白い悪魔の調査のために共和国で役員として偽名を使って働いていた南部茂は、そこで思いも寄らない再会を果たしていた。
「(は、蓮子……?!)」
「え…茂くん……?」
ぶつかってしまった女性に思わず言葉が出なかったが、俺だと感づかれないために咄嗟に言葉を紡いだ。
「あの……どうされましたか?」
なんとか紡いだ言葉を聞き、蓮子はハッとして言葉を返す。
「ご、ごめんなさい。少し友人に似ていた者でして……」
「は、はぁ……」
似ているも何も多分本人だよ!!…と言うかなんでここに蓮子が居るんだ?まだ調べていないけど前線部隊に居るんじゃないのかよ!!
様々な思考が巡る中、茂は不思議そうな表情を作りながら蓮子に話す。
「あ、じゃあ自分はこれで……」
「あ、はい。すみませんでした」
そう言い、二人はそれぞれ通路を反対方向に歩いて行った。
「(あっっっっぶねぇぇぇぇ!!まじでビビった!と、とりあえずバレていないよな??)」
内心ヒヤヒヤしながら茂は職場に戻って行った。
生きていたの……?
まず最初にそう思った。そう思ってしまうほど、その男性は彼に似ていた。
眼鏡をかけており、背もとても大きかったが。顔立ちはそっくりそのままだった。
世界には自分と似た人が三人いると言う都市伝説があるが、そんな話ですら信じたくなってしまう出来事が起こった。
通路を去って行くその男を見届け、一旦自分の仕事をしなければならない。
今日から一ヶ月。私は休暇を貰っており、ここルテティアで静かに過ごそうと考えていた。
理由は簡単で茂君の死の悲しさを誤魔化すためだった。
茂の死から二年が経過した。もうクラスメイトの中でも南部茂の名前を忘れ掛けている者が大半だ。一部の人は覚えているかも知れないが毎日の様に移動と砲撃を繰り返していればその忙しさから一人いなくなった生徒なんて誰も気にして居なかった。
もし会えるなら……
どれだけ思った事だろうか。彼は現在集団墓地の一角に偽名で十字架が建てられている。休暇毎に必ず立ち寄り、花を添えている。そしてこの後も献花に行くつもりだった。
しかし、先程見た男性が気になってしまい、少しだけ受付の人にその男性の特徴を言うと、すぐにピンと来たようで色々と教えてくれた。
彼の名前はヴァリ・オートランド。
マチャ共和国の田舎から都会に出て来た今年で二十歳となる青年だそうで、戸籍管理部部長のお気に入りであるらしい。人当たりも良く、職場では男女問わず人気があるそうだ。
受付のおばさんにヴァリさんの話しを聞いた後に『あら、貴方もヴァリ君に惚れた感じ?だとしたら恋敵が多いから気を付けてね』と忠告を受けてしまった。別にそんな気は無いと思うのだが……
兎も角、あの男性に関する情報を得た私は終業後にその男性に会って見ようと思うのだった。
「ーーアチッ」
あの後、急いで仕事場に戻った俺は封蝋印をする為の蝋燭で軽く火傷をしてしまった。すると部長が声を掛けてくれた
「大丈夫かね?ヴァリ君」
「あ、はい。大丈夫です……」
蓮子とバッタリと会ってしまい、少し焦りが出てしまったのかも知れない。先ほどからちょこちょこミスが起きていた。いつもとは違う様子の俺を気に掛けて部長が声を掛ける、
「少し無理が祟っんだろう。今日はもう帰るかね?」
「そう…ですね。今日は早めに上がっても良いですか?」
「ああ、早めに帰ってゆっくり休みな。あぁ、もし良ければ私の家族に連絡を入れておこうか?」
「お気遣い感謝します。ですが、大丈夫です。一人で帰れるので」
そう言い、広がっていた道具を仕舞い始める。珍しく早上がりのヴァリに何があったのかと思いつつも次々に送られてくる資料に追われて気にする事も出来なかった。
すると、部署の内線電話が鳴り、部長が出た、
「はい、こちら戸籍管理部……はい……はい?分かりました。少々お待ちを」
すると部長が受話器を置くとヴァリに伝える。
「ヴァリ、すまんが言付けだ『終業後に裏口に来て欲しい』と……大丈夫か?」
「ええ……大丈夫です」
道具を片付け終え、部長からの言付けを聞いたヴァリは動かしていた腕を止めると、部長がある提案をした。
「君が大丈夫なら仮眠室を使うかい?そこで時間まで休んでいると良い」
「良いんですか?」
すると部長は和かに答えた。
「ああ、少々臭うかもしれんが……兎も角君は休んだ方がいいからな」
「では…お言葉に甘えさせて頂いて……」
そう言うとヴァリは鞄を持って職場を出て行き、上の階にある仮眠室(倉庫)に向かった。
仮眠室では既に何人かが地面に雑魚寝で寝ており、中には何日も帰っていないんじゃないかと言う人も混ざっていた。
「臭いが、戦場ほどじゃない」
基本的にトイレが限られており、我慢出来ずに野糞をする奴がいた最前線よりかは数段マシだと思いながらヴァリも空いていた端に荷物を置くとその横で地面に横たわっていた。
「(思えばもう三ヶ月は戦場に居ないのか……)」
大尉に預けた部隊は無事なのだろうか。仕事だからと言う理由で指揮官を押し付けてしまったが……まぁ、初任務で軽口を叩いたくらいだから大丈夫だろう。
そう感じながら俺は鞄を守るように軽めの睡眠に就くのだった。
「ん…あ……」
目覚めると、差し込んでいた太陽は地平線に没し、月明かりが窓を照らしていた。こんな時間になるまで寝てしまっていたのかと思いながら鞄を確認する。
深く寝てしまっていたが。触られた様子もなく、ホッとしていると咄嗟にここに来た用事を思い出すとやや慌ててジャケットとコートを羽織って裏口に向かう。
三月とはいえルテティアはまだまだ肌寒い。国防省の裏口にも衛士が居り、何台かの車が車道を走っていた。
時間は午後八時、終業時間から一時間が経っていた。
「(女性を待たせるなんてなんたる失態。義姉だったら説教されてしまう……!!)」
そう感じながら慌てて辺りを見回すと車道の反対側の街灯の下でやや上を向きながら待っていた一人の女性が立っていた。
「……」
街灯の灯りに照らされてその姿は月下美人という言葉が似合いそうであった。一瞬見惚れてしまうものの、俺は車が来ない事を確認し、車道を走った後にその女性、蓮子に声をかけた。
「あの…私を呼んだのは貴方でしょうか?」
恐る恐る声をかけると蓮子は俺を見て一瞬だけぼぅっとした後に気を取り直して頷いた。
「はい……迷惑でしたか?」
「いえいえ、此方こそ待たせてしまい申し訳ありません」
そう言うとヴァリは蓮子に名前を聞いた。
「失礼ながら、お名前をお聞かせ願っても?」
「あぁ、そういえば言っていませんでしたね。私はこや……カセリーヌ・モンローと言います」
「カセリーヌ・モンローさんですね。初めまして。ヴァリ・オートランドと申します」
おい本名漏れかけとるぞ。と言うかやっぱり蓮子も偽名貰ってたんだな。後で照会掛けておくか……と思いつつ、俺は蓮子……いや、カセリーヌさんに挨拶を済ませた。
「取り敢えず立ち話も疲れますので……近くの店で如何でしょうか?」
「あ、そ、そうですね」
片手に鞄を持ちながらヴァリとカセリーヌは石畳の歩道を歩き始めた。
道中、ヴァリはカセリーヌに自分を呼び出した理由を聞いていた。
「それで……私を呼んだのはなぜでしょうか?」
「あぁ…お昼の一件を謝りたくて……」
「あぁ、その話でしたか……お怪我はありませんでしたか?」
「はい、私は全然大丈夫ですよ」
そう言い、二人は昼の一件で話しているとあるビストロの前に到着した。
「此処です。さ、お先にどうぞ」
そう言うとヴァリはビストロの扉に手をかけると先にカセリーヌを入れて中に入った。
中には多くの人が酒を片手に食事を楽しんでおり、空いていたソファー席に二人は座っていた。
適当にフランク料理を頼み、料理が出てくるまで二人は世間話などをしていた。
「良いお店ですね」
「ええ、私の上司が教えてくれたんです」
「実は私、ルテティアに来るのが少なくて……」
情報収集も兼ねてヴァリは話しを聞く。
「普段はどんな仕事をされているのですか?」
「私は軍人で、砲兵隊の隊員を務めています」
「砲兵隊ですか……さぞ御活躍されているのでしょうね……」
そう呟くと、カセリーヌは少しだけ不満げな表情を浮かべていた。
これは地雷を踏んだかと思いながらヴァリは戦争とは関係ない話しをしようとした時。カセリーヌが聞いて来た。
「……と言うか、初対面だと言うのに親切なんですね」
「ん?ああ、私の地元じゃあ周りに知り合いしか居なかったのでね。人と接するのには慣れたものですよ」
「そんなものなのかな……?」
少しだけ疑問に思いつつも、カセリーヌは無理矢理納得する。まぁ、俺も知らんし。俺の出身は日本だしお寿司……
そんな感じで次第にカセリーヌと話しで盛り上がっていると、注文した料理が運ばれて来た。二人はその料理を食べていると、不意にカセリーヌがポツポツと言葉をこぼす。
「まだ数回しか来ていないけど、ここは良いです」
「?」
「私、最前線で砲兵隊で砲兵をしているんですけど……あそこは灯火管制が厳しかったりする事もあって真っ暗なんですよ」
「……」
話しを聞き、ヴァリも思わずディルクとして活躍していた西部戦線を思い返す。
「それに、最近は飛行魔法兵なんていう帝国の新しい兵器が登場した影響で砲兵も危なくなって来ましたしね」
「ほう?」
それは興味深い。是非とも聞いておきたい事だ。もしこのまま喋ってくれたらいいが……
「まぁ、これ以上は軍機に触れちゃうかも知れないので話せませんけど。対応が後手後手になっているんですよね」
あぁ、やはり言うことはなかったか。蓮子のしっかりした性格が滲み出ていると感じるとカセリーヌが呟く。
「ここ最近は見かけませんけど、戦線では『黒の天使』なんて言われている飛行魔法兵が今まで幾つもの砲陣地を吹き飛ばしているとか……それで去年、アシューデル要塞が黒の天使によって堕とされたって有名な話しですし……」
Oh、蓮子ですら俺の異名になってる奴を知ってんのかい。なんかスッゲェ恥ずかしい……
そう思いながらポトフの煮込み肉をナイフで切って口に入れる。口の中を肉汁が広がり、旨さが実感できる。
すると、カセリーヌがまた呟く。
「特に私の所属する連隊の隊長が私苦手なんですよね」
「ほぅ……?」
ふと仕事の愚痴のように聞こえるカセリーヌの呟きに、思わず手が止まってしまう。これは輝とのつながりを集められるかも知れないと……
だからこそ俺は半ば無意識にカセリーヌの呟きに注聴していた。
「本当、自分勝手で、変態で、気持ち悪くて……いっその事ーーーー」
「ーーーえっ……?!」
ふとしたカセリーヌの呟きに思わず俺は少なからず衝撃を受けてしまった。
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