戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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二五話

「今日は楽しかったです」

「はい、こちらこそ色々と話しを聞いてくれてありがとうございました」

 

ヴァリ達の入ったビストロの前でヴァリとカセリーヌが話す。

ヴァリは中折れ帽を被り、夜の冷え込みから黒い外套を羽織っていた。カセリーヌも同じように白いマフラーと兵士が着る外套を羽織り、頭にニット帽をかぶっていた。

地下鉄駅まで歩いていると曇っていた空から白い雪がパラパラと降って来た。

 

「あ、雪……」

「この時期になんて珍しいですね……」

 

革製の手袋の上に落ちた雪を眺めながら二人は夜のルテティアの街を歩く。行き先を聞いた所途中まで同じだったのでそこまで彼女を送る事にしたのだ。今はメトロに乗る為に移動していた。カセリーヌと交流を深めながらヴァリは内心懐が寒かった。

 

「(メインにサラダ注文しただけで40フラン(約1400円)*1だと?!物価上がりすぎだろ!!先週は23フランだっだぞ?!)」

 

おかげで現状懐が異様に寒いヴァリはそんな事を叫びながらカセリーヌと話していた。

 

「さっきの店は良い店でしたね。また行こうかな……今日から一ヶ月は休暇ですし」

「ええ、あそこはおすすめですよ」

 

そう言い、二人は駅まで話しながら地下鉄に乗り込む。戦時中という事もあって減便している深夜の列車はあまり人が少なく、席は空いていた。

 

「(最前線では幾つかの拠点が吹き飛ばされたと聞いた。被害から見て輝が白い悪魔で十中八九間違いないだろう……)」

 

北部戦域での戦局は帝国の優勢となっており、その北部戦域で白い悪魔の砲撃と思われるものが多数確認されていた。

 

「(もう少しで作戦が始まる…その時、蓮子や他のクラスメイトも悲惨な最後を迎えるかもしれないのか……)」

 

その時、ふとカセリーヌを見てしまう。今では偽名を使っているが、本当の名前で生活出来る日が来るのも近いと思っていた。だが、よくよく考えれば戦線が崩壊するのだからその中で蓮子も死んでしまうかもしれない。それはちょっと思う事があった。

そして地下鉄が駅に到着し、ヴァリはそこで先に席を立った。

 

「では、またいつか会いましょう」

「はい、その時はまた一緒に食事でも……」

 

連絡先は交換してあるので、電話でも話すことは可能だ。

ヴァリは列車から降りてそのまま借りていたアパートに入る。教えた番号は仕事用。つまり部長からも電話が来る可能性があったが、まぁ滅多に連絡が来ないし、何より個人で登録しているので見張られている事はなかった。

携帯が無くて直ぐに予定を合わせるのが出来ないのが面倒だが、仕方あるまい。

だが、それよりももっと重要で深刻な出来事に今は頭を悩ませていた。

それは先ほどのビストロでの会話の事だった。

 

『本当、自分勝手で、変態で、気持ち悪くて……いっその事、

 

 

 

 

 

殺したいくらいには……』

 

 

 

 

 

単なる上官への冗談混じりの愚痴にしか聞こえないだろうが、あの時の光の無い、瞳には相当の怨嗟があった。

あれは本当に人を殺す目だ。

何が彼女を動かしているのかは分からないが、輝に対する俺の感情と似たようなものを感じた。

 

「ふぅ…少し、ややこしい事になりそうだな……」

 

俺は思い違いであれば良いと思いながら眼鏡を外すと、部屋にある電話機に電話をかけていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

久しぶりに話していて楽しいと思った。

 

いつぶりだろうか、他人といる事で幸せを感じたのは。

もう遠い昔のように感じてしまう。あの頃の記憶……

まだ鮮明に思い出せると言うことはよほど忘れられない。忘れたく無いと言うことだろう。

 

南部自身は覚えていないだろうが、彼と会ったのは高校が初めてじゃ無い。

 

 

 

 

 

幼い頃から私は周りから綺麗だと言われてきた。

一時期は子役として出演させられた事もあり、街に出れば視線が集まる事はザラだった。親も生活の足しにするために私を芸能界に差し出し、私は学校よりも仕事をするようになった。

しかし、そんな生活を続けているうちに私が自分が誰なのか分からなくなってしまった。

 

子役を演じるに辺り、その役に没頭する為に役者と言う仮面を被り、演技をしていた。なまじ当時は他人よりも大人びていたと思っていた私はその役者と言う仕事が嫌になってある日、家から無心に飛び出していた。

小学六年生、一二歳なったばかりの夏のことだった。

私服姿のまま家から飛び出した私は無心で家から離れた場所に向かって走っているうちに何処かの河原に辿り着いていた。

 

此処がどこなのか分からない。

 

途方に暮れた私は河原に泥に濡れることも構わずに座り込んで体育座りで顔を沈めると啜り泣いていた。

どうして自分はこんな事をしないといけないんだろう。

もう何もしたく無い。みんなと同じように遊びたいのに。

 

どうして……

 

そう思うと更に涙が溢れてしまった。

しばらく泣いてしまっていると、ふと私は声をかけられた。

 

「何泣いてんだ?」

 

一瞬ビクッとなってしまったが、恐る恐る声のした方を見ると、そこには自転車に乗った一人の男の子が私を見ていた。背は少し大きく、中学生くらいはありそうだった。

知らない子でまた泣き出しそうになってしまうとその男の子は慌てて私の背中をさすった。

 

「おいおい!う、嘘だろっ!?」

 

慌てた様子で私をあやすその男の子は少しだけ不思議に思えた。

 

「ほらほら、泣くなよ。こんな所で……」

 

そう言うと、その男の子は荷物の入ったカゴの中から何かを取り出すと私に渡して来た。

 

「今はこれしかねえや」

 

そう言い、差し出したのはコーヒー味のシガレット型砂糖菓子だった。

 

「なにこれ……?」

「俺の好きな奴だ。やるから泣くの辞めてくれよ」

 

そう言い、その子に勧められてシガレットを一本取り出して、口に入れた。少し苦いけど程よく甘くて美味しいと思った。

 

「……美味しい。こんなの初めて食べた」

 

ふとそう呟くと、その男の子は不思議そうに聞いた。

 

「お前……食った事ねえのか?」

「うん…お母さんが厳しくて……」

「ふーん……」

 

するとその男の子が聞いて来た。

 

「お前、もしかして迷子か?」

「……うん」

 

そんな問いかけに頷くと、男の子は土手から立ち上がって自転車のスタンドを外した。

何をするのかと疑問に思うと、その子が聞いて来た。

 

「送ってってやる。家の場所は分かるか?」

「えっ……」

 

私は思わず言葉に詰まってしまった。

帰りたくない。あの家に帰りなくたくない。今はまだ帰りたくない。

その感情に支配されて返答が出来なくなっていると、その男の子はややため息混じりに呟く。

 

「やれやれ、家出少女か…困ったなぁ……」

 

すると、その男の子は携帯を取り出すと何処かに電話していた。

 

「……あぁ、もしもし?俺だけど。ちょっと来てくんね?困った子がいてさ……おん…馬鹿、チャリで来い」

 

そう言い、スマホを切るとその子は私を見るとそのまま座布団か何かをぐるぐる巻きにされた荷台をポンポンと叩いていた。

 

「乗れ、そろそろ不良が屯ってくる。タチの悪い奴だ。離れた方がいい」

「え?」

「早く」

「わ、分かった……!!」

 

そう言われ、されるがままに慌てて私は荷台に乗るとちょっとそのまま男の子は自転車のペダルを漕ぎ出した。

太陽が傾き、土手の道を走る中。私は思わず聞いてしまう。

 

「ねぇ!これって怒られないの?」

 

自転車の二人乗りはダメだと言うのを知っていたので思わず聞いてしまうと、その子は答えた。

 

「何、一四歳以下だから問題ない。それに、警官に見つかっても注意されるだけで済むしな」

「やっぱりダメじゃん!」

 

思わずそう突っ込んでしまうと、二人を乗せた自転車は橋桁の近くで止まっていた。

 

「なんで止まったの?」

「ああ、俺の友人が来るのさ」

「友人?」

 

すると、遠くから何台かの自転車に乗って来た人たちが近づいて来ていた。

するとそのうちの一人が手を振って声を上げていた。

 

「お〜い!茂〜!!」

「こっちだ!」

 

茂と言われたその男の子も同じように手を振り返すと、同い年と思われる友人達が集まっていた。

 

「この子がさっき言ってた……」

「ああ、そうだ。それでなんだが……」

 

すると友人達のうちの一人に茂さんは耳打ちをしていた。

その間、私は他の友人達に心配げな声をかけられていた。

 

「大丈夫かい?」

「一人でいたって聞いたけど……」

「わぁ、泥だらけじゃん。どこかで洗濯しないと……」

「茂、お前美少女拾ってってんじゃん」

「うわぁ、変態だ〜!」

「テメェらぶっ飛ばずぞ!こっちだって本望じゃねえよ」

 

そう言い、悪口は出ていても楽しげに話す彼らに少しだけ不思議に思っていた。

 

 

 

悪口を言っているのに怖くない。

 

 

 

それが不思議でならなかった。

悪口なんて怒っている時が愚痴を言う時以外にしか出てこなかったから……

時々子役としてちょっと出てお金を貰っていたが、親から大体飛んでくるのは『もっと真面目にやれ』や『いい仕事取れるように努力しろ!』と言う言葉だけだった。

どれだけ頑張ってもそれは変わらなかった。上には上がいると言うのに……

地方のローカルテレビにちょっと出ただけでこうである。正直親は嫌いだった。だけど、親が喜んでくれるかもと言う思いから仕事を辞められなかった。

 

「ーーーーOK、ちょっと相談してみるわ。で、この後はどうする?」

「同意が取れれば行こう」

「そうだな…正直危ない未来しか見えんが……」

 

すると、茂さん達は私を見ると自転車に乗り始めた。

 

「ど、何処に行くの?」

 

思わず茂さんに聞いてしまうと、茂さんは答える。

 

「今から俺たちの遊び場に行く。君も来るか?」

 

本来なら断るべきシチュなのだろうが、なぜだろうか。私は半ば無意識に頷いてしまった。すると茂さんは少しだけ口角を上げると私を荷台に乗せた。

 

「じゃあ、行くぞ」

「うん……」

 

時間は午後七時、普段なら夕食をとっている時間だが。茂さん達は自転車を走らせるとそのまま河から移動を始めた。

 

「何処に行くの?」

 

すると、茂さんは親切に答えてくれた。

 

「そりゃあ……俺たちの夜の遊び場だよ」

 

 

 

 

 

*1
1フラン=35.81円で計算。




いつか出して欲しいと思うコーヒー味シガレット。

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