「俺たちの夜の遊び場さ」
茂さんの言った行き先に思わず顔がこわばってしまった。すると茂さんはさらに続けた。
「大丈夫さ、行き先はラブホとかじゃねぇよ。俺の祖父の家さ」
「え?」
予想外の場所に思わず変な声が出てしまったが、茂さん達はそのまま自転車を走らせていた。
これから茂さんのお祖父さんの家に行くんですか私……?
一〇分後、すっかり時間は夜になった住宅街にある一つの家に到着する。
茂さん達は自転車をそのまま家の車庫に入れるとそこで私は自転車から下ろされた。
「さぁ、着いたぞ」
そう言い、他の友人達も自転車を止めて降りる中。私は周りを見回してしまった。
すると車庫に一人の老人が入って来て茂に声をかけた。
「おい、茂……その子が?」
「ああ、ちょっと頼むわ」
「……ったく、面倒な事しよって」
「だが爺さんの得意分野だろ?」
そう言うと、茂さんのお爺さんは半ば諦めた様子で私を見ると茂さん達を車庫から追い払った。
「お嬢さん、少し見せてくれ」
「え?」
すると、いきなり茂さんのお爺さんは私の来ていた服の袖部分をめくった。そして腕を見て唸り声を上げた後に服を元に戻した。
「なるほど…こりゃ、当たりだな……」
そう呟くと、茂さんのお爺さんもまた茂さんのように携帯を取り出し、何処かに連絡を入れた。
「……ああ、俺だ。頼みがあるーーーーー」
すると茂さんのお爺さんは携帯を持ったまま誰かと話した後。私の腕を軽く手に取るとそのまま家に引っ張って行った。
「お嬢さん。名前は?」
「え、あ…こ、小山蓮子です」
その手の温もりから遠くに住んでいるお婆ちゃんを思い出してしまい、少し辿々しくなってしまったが。お爺さんはそのまま私を浴室に連れて行くと
「そこで着替えてくれ。泥まみれじゃせっかくの服が勿体無い」
とだけ言い残して服を脱ぐように言うと部屋を出て行ってしまった。着替えは既に置かれており、その暖かさからなぜか従ってしまい、私は用意されていたブカブカの『紅茶が切れた!』と書かれた白いTシャツを着る事になった。
着替えた後、泥だらけになってしまった服はお爺さんが洗濯をしていた。
お爺さんに連れられ家の中の部屋に入ると、そこでは既にお爺さんが敷布団を敷いており、私をそこで寝かせていた。
「今はゆっくり休んでいなさい。家から飛び出して疲れているだろう」
そう言われ、私はどうしようかと思っていると部屋に茂さんが入って来て、私に話しかけた。
「横になるだけでも結構楽になるよ」
そう言われ、少し悩んだ後。私は茂さんが見守る中。敷布団に入って横になっていた。
「(あぁ、お母さん達に怒られちゃうな……)」
そう思いながら心配からなかなか落ち着かない気持ちになっていると、茂さんが部屋に入って声を掛けてくれた。
「親のことで心配なのか?」
「……」コクッ
確実に怒られるから、そう思って頷くと。茂さんは私を安心させるためか、柔らかい声色で答える。
「大丈夫さ、怒られる事はない」
「どうして?」
どうやって初めて会った人物にそんな自信ありげに言えるのか。それが不思議だったが、布団の温もりと今までの疲労から私はそのまま瞼を閉じてしまった。
ぐっすり寝ていたのだろう。次に目が覚めた時、夜から朝になっていた。
一瞬で時間が経ったように思った私はゆっくりと体を起こすと部屋には誰もいなかった。
「すっかり寝ちゃった……」
しまったと思いながら布団から出ようとすると別の部屋から話し声が聞こえて来た。
あの茂さんのお爺さんの声ともう一つは聞き覚えのある声だった。
恐る恐る声のする方の襖を開けると、そこには茂さんのお爺さんと、遠くにいるはずのお婆ちゃんが楽しげに話していた。
「お婆ちゃん……?!」
思わず驚いた声を出してしまうと、お婆ちゃんは私を見ると一目散に私に抱きついた。
「ごめんよ、気付いてあげられなくて…辛かったねぇ……」
「どうしてここに……?」
遠くにいるはずのお婆ちゃんがここにいる事に疑問に思っていると、お婆ちゃんは教えてくれた。
「剛……このお爺さんに呼ばれてね。無事で良かった……」
そう言い、お婆ちゃんに抱きしめられた私はその嬉しさから思わず泣き出してしまった。
「うっ……うわぁああああ!!お婆ちゃーーん!!ずっと……会いたかった!!うわぁぁああ……!!」
溜まっていな何かを全部吐き出す勢いで私は泣いた。しかしお婆ちゃんはそんな私を優しく抱きしめてくれた。
暫くし、泣き疲れて寝てしまった蓮子を見ながら茂の祖父である南部剛三は蓮子の祖母である橘山トワ子に話しかけた。
「お前さんの孫とは驚いた。何年振りだ?」
「そうね…貴方が疎開して来た時だから……80年位かしらね」
「もう、そんな昔か……お互い随分と歳をとったもんだな」
そう言いながら剛三は蓮子を見ると、ふと呟いた。
「若い時のトワ子さんにソックリだ」
「あら、嬉しい。私の自慢の孫よ」
そう言い、蓮子をソファーで寝かせているとトワ子は茂に対して話した。
「貴方のお孫さんも若い時の剛三さんにそっくりだわ」
「彼奴はちと優秀すぎる部類だがな」
そう言いながら剛三は車庫で友人達と組んで戦車を自作している茂を見ていた。
「元気ね……」
「好きな様にやらせたらこの有様だ。全く、将来が不安だよ」
「良いじゃないですか。自由奔放で」
「まぁ…そうとも言えるかね……」
そう呟いて剛三はワイワイと盛り上がっている茂を眺めていた。
少しして、トワ子は蓮子を引き連れて実家に帰って行った。もう、仕事もしないし、蓮子の好きなようにさせると言う。
これから幸せな生活になることを願いながら剛三は二人を見送っていた。
茂の性格から面倒臭いと言いそうだったし、蓮子の要望から茂に見送らせることは無かった。
友人達と戦車作りで暫く盛り上がった後。俺は家に戻ると、そこにあの女の子はいなかった。
「あれ、あの子どうしたの?」
俺は祖父にそう問うと、祖父は答えた。
「ああ、あの子は帰って行った。迎えが来たからな」
そう言われ、俺は納得をした。もう迎えが来たのかと。
あの女の子と会った時。俺は違和感を見覚えと違和感を感じた。
まず、あの土手でうずくまっていたのは最近ここら辺で話題になっている子役だと言うのは直ぐにわかった。
しかし、泣いていたし、夏だと言うのに長袖でいた事が少し怪しかったので声をかけた。
おそらく着の身着のまま家を飛び出したのだろう。慣れない革靴で走った為に泥だらけになり、服も汚れていた。
実際、彼女は両親から虐待を受けていることが判明し、上からの指導と共に彼女の祖母を呼び出すこととなった。
遠い場所にいたようで、てっきり迎えはもう少し遅いかと思っていたが……
まぁ、何にせよ。あの子が無事ならそれで良かった。
俺はあの女の子が無事に引き取られたのを知り、そのまま作業に戻っていった。
「……んぁ」
ふと目が覚めた。どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。スーツを着たまま俺は懐かしい夢を見ていた様だ。
今思うと不思議なものだ。
爺さんが頑なに今通っている高校を譲らなかったから仕方なく受験して、引っ越しまでして一人暮らしを始めたけど……
「あれ以降、あの子役が見る事はなかった……おそらく虐待で親戚に引き取られたんだろうな」
そう言えば名前も歳も聞いていなかったや。まぁ、その方が良かったかもしれんが……
「いつ死ぬしかわかんしな……」
そう呟いていると、部屋の扉を誰かが叩いた。
『ヴァリ・オートランドさん。お荷物の配達に来ました』
「はーい」
もう来たのか。さすがはデニスだと思いながら扉を開ける。
現在、デニスは運輸課に配属されており、時々個人的に注文をする事があった。文句は言われるがコニャックを奢れば大体仕事をしてくれるからお安いご用だ。俺、今フランクに居るし。
扉を開けると運送業者がリヤカーの上に置かれた荷物を運んで来ていた。
「少し、重いので気を付けてください」
そう言い、重そうに木箱を部屋に置くと俺は伝票にサインをして業者は消えて行った。
俺は届いた木箱を開けると、中にはオパール原石にも似た虹色に光る白い十センチ四方の石材が詰まっていた。
その内の一つを手に取ると思わず呟く。
「流石だな、グレード毎の感応石を送ってくれるとは……」
重さにして約10キロ、数は十個程ある感応石のブロックを見ながらヴァリは机に座り、引き出しから道具を取り出していた。
俺に両親は居ない。
何故なら二人とも俺が四歳の時に交通事故で亡くなっているからだ。当時の事はあまり詳しくは覚えていないが、親が居なくなったと言う事実にひたすら虚空間に襲われたのは覚えていた。
両親がいなくなった俺はその頃からずっと祖父の家で暮らしていた。
祖父は元自衛官だった。自衛隊創設期から定年になるまで現役で活躍し、定年後も教官として多くの自衛官を育てて来た凄腕の人物だった。
そんな祖父に育てられて来た俺は、モロに影響を受けてそう言った軍事が好きになっていた。特に軍事史や、設計思想を学ぶのはとても面白いと思っていた。
それぞれのお国柄や金、政治的思惑など、実に様々な策謀が混ざり合っているのを見るのは興味深かった。
その人間模様を見ているのが好きだったから、俺は誰にどんな事を言われようとこの趣味を止める事はなかった。
例え、学校で罵られたとしても……
祖父が亡くなったとしても……
学校を辞めて、それで天国にいる祖父をガッカリさせたくないから学校に通っているだけで、本当は直ぐにでも働こうかと考えていた。
祖父が亡くなった後の事はまたいつか思い返す日が来るだろう。
またその時はつくづく反吐が出るだろうな。
今は祖父が残してくれた遺産と親戚の援助、バイトの掛け持ちで何とか食い繋いでいた。
まぁ、何にせよ。帰れるのであれば帰りたいと思っているのはこの為だった。
自分をここまで育ててくれた祖父と、殆ど覚えていないが両親の墓は残しておきたいからだった。
いずれは誰も管理する人がいなくなってしまうが、それでも残したいと思うからだ。
戦争は嫌いだけど、戦争ごっこは好き。
殆どの軍事好きに共通して言える事だが、自分の心の中で唱える座右の銘である。元々はとあるアニメ映画のキャッチコピーだが、俺は好きだった。
しかし、俺はするべき事をしなければならない。そうしないと、帰れないから……
俺は人から頼まれた事を断れない性格だと言うのは理解している。復讐に向いていないのも分かっている。だか、人に頼まれた事を断る……それも、神様からの依頼なんて断れるはずがない。
次の術式発動までの時間はあと三年、それまでに事を片付けなければならない。
「さて……ちょっと実験をしてみますか……」
そう呟くと、俺は卓上に広げた道具を使ってあるちょっとした工作をしていた。
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