戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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二九話

正暦一九三九年 三月二五日 一五時二〇分

ルテティア12区 リユン駅構内

 

戦時下とは言え大勢の人たちが闊歩する駅構内。その構内の一角にあるレストランの椅子にヴァリ・オートランドは座っていた。

机の下には鞄が置かれ、今では珍しくもないかなり不味い代用コーヒーを飲みながら待っていると、座っていた席の反対側に灰色のトレンチコートに中折れ帽を被った男がレストランの椅子に座った。

 

「やれやれ、飛んだ貧乏くじだ。まさか運び屋をする羽目になるとは……」

「いつも頼りにしているさ、デニス」

 

今日はデニスがわざわざ危険を承知で越境してある荷物を届けて来た。

足元にはヴァリが持って来た鞄と全く同じ鞄が置かれていた。

 

「荷物は鞄の中に入っている。ついでに次の司令書とそれに必要な物。お前が頼んだ低純度感応石も同封されている」

「司令書?俺に何をさせる気だ?」

「さぁ?だが、ここ最近共和国にいる諜報員が捕まっている。きっと人手不足なんだろう。出なければ情報部がペッツ参謀総長の命令を受けたディルクに命令をするはずがない」

 

白い悪魔の調査はペッツ総長の計らいで参謀総長が俺に()()()()依頼した事になっている。おかげで有り難いことにかなり自由が効いていた。

 

現在、白い悪魔への調査は俺が行い、禁術調査は別チームが追っていた。まぁ、俺が禁術の被害者だとバレる事は……まぁ、低いだろう。

もしバレたとしても殺される訳じゃないし、追われることになればそのまま何処か遠い場所にトンズラすば良い話だ。

 

「共和国の警備も伊達じゃ無くなって来たわけか……」

「むしろ敵地のど真ん中で平然と仕事をしているお前が恐ろしいよ」

 

そう言い、国防省で一職員として働けているディルクにデニスはやや苦笑気味に話した。

デニスと話しているとディルクは彼に原隊の様子を聞いた。

 

「俺の部隊はどうだ?」

「元気にやっているよ。前線じゃあ北に南に大忙しだ。お陰で運輸課は禿げそうだよ。南北に移動する為の輸送機の手配、物資補給のダイヤ編成。そして今日は敵地にいる兵士の為の輸送任務……」

 

そう言い、第五〇〇陸軍降下猟兵部隊の移動の為に苦労していると遠回しに話すと俺は思わず溢してしまう。

 

「本当は戻って指揮を取りたいんだがな……」

「いやぁ、寧ろお前がいないから隊員は今の方が溌剌としているぞ?」

「まさか……」

 

いや、俺が出て行く前に隊員達が息を吐いていたのを思い出すと間違いじゃないかもしれん……と思ってしまい、顔が少しだけ引き攣ってしまう。

 

「まぁ、でも弾薬統一のおかげで補給は段違いに楽になった。お前のおかげだよ、本当……」

「そう言ってくれるとはな……お前は本当に信用できる奴だ。俺としては心強いよ」

 

そう話していると、デニスは最後に俺に忠告を入れた。

 

「参謀本部でも少し前にスパイが入って大騒ぎだ。それに、共和国内部も少しきな臭くなって来た……お前も気を付けろよ」

「あぁ…分かっている」

 

そして、少し間を置いた後に俺は席を立つ。

 

「……じゃあな、鞄の中に土産がある。デニスの欲しがっていたコニャックだ。楽しめよ」

「ああ、有難う。後で楽しませてもらうよ」

 

そう言うとディルクはデニスの持って来ていた鞄と持ち変えるとそのままレストランを後にする。

ディルクが店を後にする時。デニスは小さく呟いた。

 

「死ぬなよ…ディルク……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

デニスと別れ。リユン駅からメトロに乗り換えた俺はそのまま家に戻って行く。

 

蓮子……カセリーヌとワインを飲んでから二日が経った。あの日、カセリーヌとただただ話をしただけで終わってしまい。結局何のために家に招き入れたのかも分からなくなったまま別れてしまった。

 

「どうすれば良いのやら……」

 

そんな事を小さく呟きながら俺は辿り着いた家の扉を開ける。

 

今の俺は帝国諜報員。それも白い悪魔と言う帝国の敵を調査している。おおよその当てがあると言うのに俺は嘘を語っている。

 

エリク・ピエール

ディルク・フォン・ゲーリッツ

そしてヴァリ・オートランド……

 

最初に与えられた南部茂も含めると四つもの名前を持っている俺は一体どれが本物なのだろうか……。帝国にいるのだって『自分が転移魔法の被害者です』と言えば済むものをわざわざ遠回りで共和国に来ていた。

 

偶然とは言え、今はカセリーヌと名乗る蓮子に近づいて情報を得ようとしている。一言『俺が南部茂だ』と言えば良いのにわざわざ遠回りをして、俺の正体を明かさずに付き合いをしている。

 

俺は嘘を嘘で固めているのだ。直接言えないのはおそらく告白する事で失う事を恐れているのだろう。

 

 

 

 

 

今でも思い出す二年前のマーチバルの悲劇と呼ばれる大惨事。

おそらくあそこで義姉に見つかっていなければ俺は輝の手で直接殺されていただろう。

 

見知らぬ場所で自分を守るためには自分を嘘と言う殻で囲うしかなかった。

そしてその嘘を何枚も重ねて行くうちに今の自分が分からなくなって来ているのだ。

 

 

 

 

 

今の俺は鬼だ。かつての上官をかつての味方に殺され、復讐を決めた鬼なのだ。

その為に必要な手順として俺は大勢の人の力を借りてここまで来た。

 

だったらなぜ俺は蓮子に正体を明かし、輝の居場所を聞こうとしないのだろうか。

 

 

何故だろうか……

つい蓮子を目の前にすると俺は何も言えなくなってしまう。

緊張からだろうか?はたまた恥ずかしさからか、それとも申し訳なさからか……

 

 

 

何もわからないまま俺はアパートの部屋で荷解きをしていた。

鞄のロックを外し、蓋を開ける。中身は予備のシャツやズボンなどの一見普通の旅行客の物だが、俺は荷物を全部出した後に鞄の底板を外す。

この鞄は二重底になっており、その下から一丁の銃と分厚い封筒が中から現れた。

 

入っていた銃は全長が短く。バナナ型の弾倉を持った木製ストックを持つ自動小銃だった。

 

 

 

フェドロフM1916

 

史実ではロシア帝国がごく少数を製造した自動小銃である。

そう、第一次世界大戦の時代にすでにロシアではアサルトライフルを開発していたのである。

使用弾薬は日露戦争で大量に鹵獲した三十年式実包や三八式実包を使用し、閉鎖方式はモーゼル式ショートリコイル方式を採用している。

 

世界初の近代戦と呼ばれる日露戦争において塹壕戦を経験していたロシア帝国は塹壕戦に対する戦術を考えていた。そこでロシアでは浸透戦術に対応した銃弾をばら撒ける新たな銃の開発に乗り出した。

そして、当時では当たり前の口径である7mmでは無く。弱装の部類であり、尚且つ大量に輸入していた為に備蓄が大量にあった6.5mm口径の三八式実包を使用するフルオート射撃が可能な銃がフェドロフM1916であった。

 

史実ではロシア革命の影響で極少数の生産で終わってしまったが、後の自動火器開発に多大な影響を与えた銃であった。

 

 

 

 

 

そんでもって、小口径とはいえフルサイズ弾薬を連射できるこの自動小銃を俺は個人で購入していた。

小銃弾を使っているため狙撃もできるし、連射できるから敵に対して大ダメージを与えられることができる。口径も小さいから扱いやすいと考えていた。

 

今回デニスが運んできてくれた理由は購入したまま放置されていたものを本当は休暇を取って取りに行こうとも考えていたのだが、先に義姉が見つけてデニスに依頼してわざわざ運んできてくれたのだ。本当は原隊復帰後に使おうと思っていたが送ってくれたようだった。

まぁ、帰った後に使おうと考えていたもんだからこっちで買っちゃった武器があるんだけども……

 

 

 

 

 

俺はそんな事を思いながら鞄に同封されていた封筒を開けて中身を見ていた。

中身は何枚かの印の入った地図と、小さな革製の手帳のようなものが何冊か入れられていた。

 

「これは……」

 

俺は紙を読み、そこに書かれていた命令を読んだ。

 

「ルテティア付近にいる協力者に届けてほしい…か……」

 

命令を読み。手帳を見た俺はそれが暗号であると理解し、地図に記された場所に向かって行った。

日時は指定されているので間に合わせなければ……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

アパートを後にし、ヴァリは地図の場所に向かう。

時刻は午後八時。多くの店ではバーが開店し、人が集まって来ていた。

ヴァリはそんな光景を横目に指定された場所に手帳を置くと、去る寸前にパタンと言う小さな音と共に家の中に手帳が吸い込まれて行った。

手帳の渡し方は様々でさっきの様に窓枠などの置くタイプや手渡しタイプなど実に様々だった。

まぁ、手渡しの際は俺を見てこんな若い奴が配達役だということに怪訝な表情をされたが……

 

 

 

 

 

手帳の手渡しをして行く中、裏路地に入ったヴァリはそのまま黒いトレンチコートに黒い外套、黒い中折れ帽を羽織ったまま人を待っていた。

少しした後、裏路地に一人の男が歩いてやって来た。

 

「お前か?」

「……」

 

入って来たのはややボロい服に身を包んだ男だった。全部が真っ黒なヴァリを見てやや訝しむ目をするも、彼に呼びかけるとヴァリは無言のまま懐から持っていたあの革製の手帳を手渡すとそのまま裏路地を後にして行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……行ったか」

 

手帳を受け取った男はヴァリが消えて行ったのを見るとニヤリと笑った。

ヴァルの後を複数の影が追いかけて行くのを見ながら男はその場をクルリと回る。

 

「すまんな、こっちの方が割りが良かったんだ。……悪く思わんでくれよ」

 

そう言いながら男が裏路地から出ようとした時、突如背後に気配を感じた。

咄嗟に銃を持つ前に後頭部に銃口を突きつけられた。

 

「ネズミは貴様だったか……」

「う…そだろ……?」

 

だってさっき裏路地から消えるのを見ていたんだぞ?!一体どこで……

 

「幻影だよ」

 

すると考えているのを読んだかのようにその男は答えた。

幻影だと?そんな事できるのは……

 

「まさかお前…魔法兵なのか……?」

 

そんな問いに銃口を突きつけているヴァリは答える。

 

「さぁな?裏切り者のお前にその答えはいるか?」

「ま、待ってくれ……!」

「じゃあな、金の亡者」

 

そう呟くとヴァリは持っていたワルサーPPKの引き金を引いた。

 

……カチッ

 

引き金を弾く音だけが響き。その直後、男は白目を剥いて地面に倒れた。

そんな男を見ながらヴァリは呆れた様に呟く。

 

「お前なんかの為に殺す訳なかろう。銃弾が勿体無いわ、全く……」

 

そう呟きながらヴァリは弾倉を抜くと中の残弾を確認した。弾薬は排俠される事なく、一発だけ消えた弾倉を眺めていた。

 

「気絶弾の効果様々だな……」

 

そう答えると今頃幻影を追いかけているだろう共和国の諜報員を想像しながら目の前で倒れた男を担ぐとそのまま裏路地を歩く。その途中でヴァリはまるで透明マントを被った様に裏路地から姿を消すのだった……




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