戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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三〇話

正暦一九三九年 三月二八日

 

今日も今日とて国防省で戸籍管理をしているヴァリ・オートランド。輝の痕跡を探す為の調査を行っているヴァリだが、今はカセリーヌ・モンローと名乗る小山蓮子と偶然の再会を果たし、互いに本当の自分を隠したままの奇妙な関係が続いていた。

 

「ふぅ…午前ももう終わるか……」

 

そう呟き、俺は腕を伸ばす。帝国への帰還命令が出てから一週間ほど、後二週間以内でカセリーヌとの関係に蹴りをつけなければならない。

自分の正体を明かしたとしても、蓮子自身が裏切って輝に俺の事を付け口したらと思うと厄介なことになるのは明白だし、面倒なことになる。

まだまだ調査が進まない状態ではあるが、一旦諦めるしかないのだろうか……

 

よくよく考えれば白い悪魔が輝では無い可能性もある。それにジュール・ファブールの存在もある。蓮子と接触して話しているうちにジュール・ファブールの生存はほぼ確実だと推測している。

 

禁術追跡チームからの報告によると、三年近く前に魔法兵が魔法を撃てなくなった時期があったと言う。

その時期は共和国も帝国も攻勢をかけた場所がなかった為に情報が少ないが、二日ほど魔法を撃てなかったと言う報告が双方にあったと言う。

その時、共和国に混乱が起こっていた様子があった事からもしかすると……ジュール・ファブールの独断行動では無いかと思われる。

 

 

 

禁術指定された魔法はそれを使用した確固たる証拠を提示した場合、教国によって魔法裁判が行われた後に判決が下される。

魔法裁判で有罪判決がされた場合。個人の場合は終身刑若しくは全てを処分した上で終身刑、組織の場合は解体若しくは監視下の元教国で再教育を受けると言う判決が下される。

前回魔法裁判が行われたのはなんと一二〇年も前のこと。罪状は転生魔法の使用()()である。

未遂でも有罪なのかと言う驚きもあったが、恐らくこれは脅しなのだろう。『使用せずとも持っているだけで有罪となる』と言う……教国から世界に向けたメッセージだ。

 

 

 

 

 

魔法と言うものは知らない魔法であれば使うことは出来ない。但し、一度魔法の使い方、呪文などを覚えると媒介である感応石や魔導具と呼ばれる物を使用すれば覚えた魔法は使える様になる。

 

戦場でよく使う魔法は貫通魔法・爆発魔法だが、日常的に使う魔法も存在している。その代表格とも言うべきが回復魔法だろう。

回復魔法は切り傷、打撲程度であれば治すことが出来る。俗に神の手と言われるほどの回復魔法を使える者は骨折や病気ですら直すことができるらしい。まぁ、流石に吹っ飛んだ手足を治したり、瀕死の重傷を治すことは厳しいが……

 

 

 

他にもこの前裏切った現地工作員を倒すときに使った魔力弾。通称気絶弾や、共和国の追跡を欺くのに使用した幻影。男を運ぶ為に使用した光学迷彩などなど……

 

ちなみに魔力弾と言うのは文字通り魔力だけを発射する物なのだが、これが人に当たると痛みを与えるらしい。その為頭に当てると安全に脳震盪を起こすことが出来るそうだ。安全な脳震盪とは一体……

 

弾薬には帝国では削り出した感応石の粉が詰められている。なんでも表面積を増やして出来るだけ効率よく魔力を発射する為らしい。流石に感応石100%の銃弾は共和国でしか見たことが無いらしい。

おまけに効果範囲が発動箇所から2m程と極めて短いので一部長い小銃や対戦車ライフルでは使えないし、質量が増えても効果は同じなので効率が極めて悪い。

その為拳銃弾によく使われ、気絶するだけなので血痕などの証拠も残らないからこう言った諜報員御用達の品であった。

引き金を弾くだけで火薬も入っていないので音も出ないなんとも便利な物だ。ただし、ハンマーレスの拳銃だといちいちスライドを引いて排俠をしないといけないのが欠点だった。

 

 

 

 

 

そう、魔法兵というのは諜報員としても活躍できるのだ。まぁ、魔法兵自体が貴重だからよっぽど諜報員と言う常に危険な任務に送ると言う事は余りしないのだが……

 

 

 

 

 

俺が今追っている白い悪魔に関する情報はペッツ参謀総長に行き、禁術追跡チームとの情報も併せて報告が上がる。

現在禁術追跡チームはその魔法が使えなくなった時期に巨大な魔力反応があったと思われる場所を探していると言う。

いよいよ場所も分かるかもしれないと思い、俺は転移魔法に関する情報を全て破壊するための準備を始めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

終業後、荷物を持って職場を後にする俺は裏口から国防省を後にする。何故なら……

 

「お待たせしました。カセリーヌさん」

 

そう言い、俺は裏口で待っていたカセリーヌに声をかける。

建物の窓から少数の女性が何奴といった目線でカセリーヌを見ていたりするが、そんな時は俺がその女性の方を見て軽く手を振って気分を良くさせれば終わりだった。

 

女性職員を散らせた後、俺はカセリーヌと共にあの店に向かって歩いて行く。

俺が誘うと、彼女も喜んで着いて来てくれた。

会う頻度は日に日に増えていた。監視役も最近は来なくなっていた。おそらく仕事を完璧に家内しているから信頼を得たのか、はたまた共和国の監視網が厳しくなりすぎて監視役が付けられる余裕がなくなってきたか……

どちらにせよ、俺としては有難いものだった。

 

「今日は何を食べましょうかね……」

「そうですね……色々とありますからね」

 

そんな他愛もない話をしながら俺はカセリーヌと共にビストロに向かう。

互いに正体を隠したままの不思議な付き合いにもどかしさも少し感じながら俺は店の扉を開けて入って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ヴァリさんと会う前、私は決めた。今日会った時に聞いてみると。

もし違ってもそれはそれで諦めがつくし、もし本物であればなんで黙っていたのかを聞くんだ……

私はそろそろ休暇が終わる。次いつヴァリさんに会えるかは分からないし、次会えるかも分からない。だからこれが最後のチャンスだ。

 

「(よし、行くぞ……!)」

 

自分にそう言い聞かせると私はヴァリさんの後に続いていつものビストロの中に入って行った。そして……

 

 

 

 

 

「ーーーーそうですか、そろそろ休暇が終わってしまうんですね…」

「そうなんですよ。はぁ、あの上官に会うのがもう辛くて……」

 

あぁ、だめだ。結局聞けないまま終わっちゃうよぉ〜……

 

 

 

 

 

ビストロに入り、出て来た料理を食べながら私はヴァリさんとつい世間話で愚痴がこぼれてしまう。あぁ、駄目なパターン入っているよぉ……

 

「(何やっているの私!!聞きたいことがあるのに!!)」

 

そんな葛藤が起こっているカセリーヌはそのままビストロでの食事を終えてしまった。

 

「(どうしよう……)」

 

現在会計をしているカセリーヌとヴァリだが、カセリーヌは非常にまずいと思っていた。どうすれば良いのか。どうすれば……

 

「……あっ」

 

少し考えた後。私ははある提案が思いついた。そして流れる様に私はヴァリさんに声をかけた。

 

「ヴァリさん」

「?どうしました?」

 

私から話しかけられて不思議そうにするヴァリさんに私はある提案をした。

 

「ちょっと、梯子しませんか?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ビストロで会計をした後にカセリーヌからの提案で二件目の店に梯子することになった俺は別の場所にあるワイン・ビストロに入った。

薄暗い灯りがつき、その中の椅子に座った二人、そこでカセリーヌはカクテルを、ヴァリはウイスキー頼んでいた。

 

「珍しいですね。カセリーヌさんから誘うなんて……」

「ええ、まぁ……休暇も終わりますしね」

 

そう言い、出て来たカクテルを飲みながら二人はついでにアヒージョを食べる。

そしてカセリーヌは何杯ものカクテルを飲み、それを見てヴァリは少し心配になった。

 

「(アプリコットフィズ、プレリュードフィズにコープスリバイバー……凄い飲むな……)」

 

今までに頼んだカクテルを思い出しながら俺もウイスキーを飲んでいた。

カクテルを飲んだカセリーヌは少し顔が赤くなり、酔いが回って来たのだろうか、最後にXYZを飲んだ後、俺を連れて店を出た。

 

 

 

 

 

もう四月だと言うのにめっちゃ寒いルテティア、日本人の感覚がまだ抜けていない俺はコートを羽織っていると横を歩いていたカセリーヌが酔っている影響で、舌がよく回っていた。

 

「全く……嫌な物ですよ」

 

横で顔を赤くして軽く俺に寄りかかっているカセリーヌがポツリと呟く。付き合いもあるので俺はカセリーヌの話に耳を傾けていた。

するとカセリーヌはポツポツと吐き出すように話す。

 

「こんな世界に来させられて戦争をさせられ……平和な国で暮らして来た私たちに何が出来るんですか?」

 

そう言うカセリーヌに俺も一瞬思ってしまう。もう慣れてしまった事かも知れないが、俺も戦争で人を撃った。まず日本では考えられない事だ。カセリーヌの様に砲兵隊なら直接人を殺した感覚はないだろうからまだ良いかも知れないが……

それでも戦争を知らない俺たちにとってこれは壮絶な経験である事に間違いはない。

 

 

 

 

 

俺はそんな事を考えながらカセリーヌの話を聞く。

 

「私は、寂しい…すごく寂しいんです。…この世界に来させられて一人で生きていくのが……

 

初めは頼りにしようとしていた人がいたんですけどね。……ある日、私の前からいなくなってしまったんです。

止めようと思えばいくらでも止められるはずだったのに…私はそれを止められなかった……

それがとても悔しくて悲しくて……

 

 

 

それで、暫くした後。その頼りにしようとしていた人は戦場で死んでしまった……」

 

 

 

カセリーヌは悲しげにそう話し、俺に更に倒れる力をかけた。

 

「それからずっと私は一人だった……

上官の悪口を言う捌け口も、私が思っている感情を伝える相手すらも……。誰にも言えなかった……。

『私の心の支えだった人は今は墓地に居る』それがとても辛かった……

花を添えに行かなかったことはなかったし、思い出も忘れたことも一度もなかった……

 

 

 

 

 

だけど、私はついに見つけられた……。上司の悪口も、私が思っている感情も伝えられる相手を。

そして……

 

 

 

 

 

私の初恋の人で、今でも愛している人を……」

 

 

 

 

 

すると蓮子は赤くなった顔で俺の顎を柔らかく触りながら問いかけて来た。

 

 

とても懐かしい、久方ぶりに聞く。日本語で……

 

 

 

 

 

「ねぇ、貴方は茂くんなの……?」

 

 

 

 

 




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