地下鉄で軽い撃ち合いにあってから数日後。
俺は情報屋から貰った写真はそのまま本国に送るための運び屋に押し付け、そのままアパートに戻った。
今は蓮子と同棲している身の俺だが、帰って来た時に何と蓮子が料理を作って待ってくれていた時もあり、正直成り行きと勢いでのあれだったが、こう言う点はちょっとありがたかった。
甘いと言われるかもしれないけど、正直同級生の少女に銃を握らせて手を汚させると言うのも日本人の感覚なのかもしれないが、気が引けてしまうし、やらせたくなかった。
そしてあの日以降、蓮子とはほぼ毎日愛し合っていた。
理由は蓮子が『次いつ会えるか分からないし、出来る時まで一緒に居たい』と言う要望があったからだった。まぁ、俺も年頃だし蓮子の望む所もあったから言う通りにしていた。
情報も蓮子という強すぎる協力者を手に入れたおかげで、白い悪魔と称される魔導砲兵の情報はほぼ集まったと言って良いだろう。
そろそろ頃合いだ。帰ってこいと言う催促の手紙も来るくらいだしな。
あとはその部隊の居場所を常に掴むことができれば……
そんな事を思いながら俺は先にベットで寝てしまった蓮子を横目に小さな彫刻刀を持って感応石を削っていた。
四月八日
国防省 人事課 戸籍管理部
そこで俺は部長に挨拶をしていた。
「今までお世話になりました」
そう言い、頭を下げると、部長もやや名残惜しそうにしつつも諦めがついた表情で俺の肩を叩いた。
「君は非常に優秀な子だった。本当ならば引き止めたいところだが、家族が待っているなら仕方ないな……。今までありがとう……」
そう言い、部長は悲しげにしながらも綺麗に片付けられた机を見ながら次に俺を見た。
「また、職に困ったら此処に来ると良い。私はいつでも歓迎だよ」
「はい……」
そう言うと、俺はそのままお世話になった人たちに最後の挨拶をしながら国防省を出て行った。
俺が退職することに寂しさを覚える人で大半だった国防省。最後に衛士に挨拶を交わした後。俺はこの四ヶ月間の仕事場を目にし、そのまま去って行った。
国防省を退職した後、俺はそのまま蓮子の待っているアパートに向かう。
明後日には、俺は涼しい顔で此処を出ていく。それまで、蓮子と最後の時間を過ごそうと思っていた。
「ただいま」
そう言い、扉を開けるとそこには蓮子が明るく俺を迎えに来てくれた。
「お帰りなさい」
そう言い、蓮子は俺を見ながら布で手を拭き、片付けられた部屋を見ながら行った。
「もう、行っちゃうんだものね……」
「あぁ……」
そう言いながら荷物を置き、リビングの椅子に座ると俺は思わず蓮子に問いかける。
「……本当に良かったのか?俺と一緒に戻らなくても……」
「ええ、私もなぜこの世界に連れてこられたのか気になるし、小野寺輝には私も思うところがあるし。それに……」
そう言うと蓮子は俺を見ながら言った。
「何かあれば、茂くんが迎えに来てくれるでしょ?」
そう言い、俺も一瞬だけ頬を緩ませながら答えた。
「あぁ、そうだな……」
そう答えると、蓮子は台所から作ってくれた料理を持って来てくれた。
あぁ、やっぱり飯はあったかくて作ってもらえるのが一番美味い。
私が茂くんと同棲していたある日の夜、私は夢を見ていた。
薄ぼんやりとした景色の中、私はかつての夢を見ていた。
それは私が初めて茂くんと出会ったあの川の土手だ。夕陽に照らされ、遠くでは電車が鉄橋を通過する音が聞こえていた。
来ている服もあの時に着ていた洋服だった。
夢にしては随分とリアルな感覚だと思っていると私の横に誰かが座り込んだ。
「初めまして、小山蓮子さん」
「貴方は……?」
そこに座っていたのは巫女服に身を包んだ綺麗な女性だった。誰だろうと思っているとその人は少しだけ愉快そうな目をすると、その人は言った。
「あらあら、あの人とよく似た反応ですわね……」
「……?」
するとその女性を見ていると、その人は立ち上がるとついて来てほしいと言った。
私は何となくこの人に従った方がいいと直感的に感じると、そのまま後を歩いた。
「あの…何方でしょうか?それに此処は……」
そう問いかけるとその女性は教えてくれた。
「此処は貴方が最も大切にしている記憶を再現した場所……そして私は天照大御神と申します」
「!?」
その女性の名前を知って思わず私は驚いた声が出てしまいそうになる。しかし、天照大御神は川辺を少し歩いた後。少し開けた場所に出ると手を軽く振り、その瞬間。地面にござが敷かれ、その上にちゃぶ台が置かれていた。
「さぁ、座ってくださいな。貴方ともお話がしたかったですので」
「は、はい……」
あぁ、なんかすっごい偉い人を前にすると固まっちゃう理由がよくわかる。
そう思いながら蓮子は用意されたござの上で正座をすると、天照大御神がちゃぶ台の上に急須と羊羹を置いていた。
咄嗟にお茶を淹れるくらい自分がやろうと思ったが、なんか踏み入れちゃいけない雰囲気というか場所というか……そんな感じで何もできずに私は神様にお茶を淹れさせてしまった。
「どうぞ、口に合うかは分かりませんが……」
そう言い、差し出された羊羹とお茶。口にしないと失敬になるという日本人の感覚で恐る恐る私は口にする。
それは小豆の味がしっかりと出た高級羊羹にも似た上物であった。お茶もちゃんと直前に炭火の熱で煎じたほうじ茶だとよく分かる。
緊張しつつも出されたお茶と羊羹を食べた後。天照大御神は私に話し始めた。
「いきなり呼び出してごめんなさいね。何せ、貴方に会いたがっている人がいた物ですから……」
「え?」
その時、私の肩を誰かが触った。その時、一瞬ビクッとなってしまった。
すると一人の女性が顔を見せた。その人はフリジア帽を被り、片手にマスケット銃を持ち、白いドレスを羽織った外国の美人さんだった。
その女性に私はどこか見覚えがあった。
「やぁ、驚いた?」
「……」
私は思わず唖然としてしまうと、天照大御神が注意を入れるようにその女性に言った。
「初対面なのに何をしているのかしら?マリアンヌ」
「……えっ?!」
マリアンヌと言えば自由の女神として有名な人だ。『民衆を導く自由の女神』という絵で三色旗を片手に持っている印象が強い人だった。
するとマリアンヌは陽気に笑いながら天照大御神に言った。
「良いじゃないの、珍しいお客さんが来たというのに……」
そう言うと、マリアンヌは改めて私の横に座ると自己紹介をした。
「初めましてマダム小山。私はマリアンヌと言うわ」
「え、あ…は、初めまして。小山蓮子と言います……」
いきなり神様が二人もいることに混乱している蓮子。それを見て天照大御神は蓮子に話しかける。
「大丈夫ですよ。この子が来たのは単に遊びに来ているだけですから」
「酷い言い方だねぇ、天照。これでもやる事はちゃんとやっているのよ?」
「……」
そんな神様二人を見て私はどうすれば良いのだろうかと混乱していると、天照大御神が話し出した。
「小山蓮子さん。今日は貴方にお話があってお呼び出ししました」
一気にほんわかした空気から緊張した空気に変わり、私も思わず姿勢がキュッとなってしまう。
すると天照大御神は私を見ながら此処に呼んだ理由を話し出した。
「貴方は既に南部さんから聞いて知っていると思われますが。転移魔法は禁術であり、貴方がたはそれに巻き込まれてしまった……」
「……はい、伺っております」
そう答えると、天照大御神はさらに話を続けた。
「そこで私は以前南部さんとお会いした際、転移魔法装置の破壊を依頼しました」
「……」
蓮子は内心茂なそんな事していたのかと思っていると、天照大御神は蓮子に言う。
「その代わりに私は南部さんに私の加護を授けました」
「そ、そうなんですね」
「そして南部さんは着実に転移装置に近付いている」
「転移装置……」
自分たちをあの世界に送った悪魔の装置の名前を呟くと、天照大御神は言う。
「そう、貴方と南部さんが出会い、急速にこの事件解決に進んでいますが。いずれは大きな壁が立ちはだかる」
「は、はい……」
一体どう言う事だろうと思いながらも、天照大御神は私に言った。
「そこで私達はその壁に南部さんと立ち向かえるよう、急遽貴方に神託と加護を授けることになったとお伝え致します」
「え…えぇっ?!」
まさかの話に思わず驚くと、隣にいたマリアンヌが口を開いた。
「事は急を要するの。それに、貴方には加護を受ける素質がある」
「……」
するとマリアンヌは私を見ると片手にゴルフボールほどの光球を生み出し、それを私の胸に当てて押し込んでいた。
「南部さんが戦闘と知識、運で加護を受けたから、貴方は隠密と援護、技術といった感じかしらね」
「?」
どう言う事だと思っていると、天照大御神は私にこう言った。
「貴方と南部さんの二人で足りない物を補い合えば、きっとこの困難に立ち向かうことができるでしょう」
するとマリアンヌが私に言った。
「小山蓮子さん、私からの依頼よ。『転移装置の設置場所の発見』をお願いするわ」
「っ!は、はいっ!!」
その時、私はマリアンヌさんの依頼に一瞬だけ気持ちが強張ってしまったが、マリアンヌさんは柔らかな表情で言う。
「そこまで緊張しなくても、貴方ならできるわ。頑張ってね」
そう言うと視界というか、意識がグーンと伸ばされる感覚になった。どんどん視界が真っ白になっていく中。天照大御神が私に言った。
「向こうに帰ったら南部さんにお伝え下さい。『魔力波の距離は永遠である』と……」
「?わ、分かりました」
何を言っているのかと思いつつ、私は何と無くこれから夢から覚めるのかと思っていると、最後にマリアンヌが私に言った。
「ウチらをもっと楽しませてね♪」
そう言ったのを最後に私は視界が完全に真っ白になり、完全に何も聞こえなくなっていた。
蓮子が帰って行ったのを見ながら天照大御神とマリアンヌは殿にやや顰めた表情で向き合う。
「やれやれ、馬鹿どもがやりよっやわ」
「そうね、まさか禁術を繰り返し使おうとしているとは……」
「おまけに今度は死霊魔術の実験とは……」
マリアンヌはそう言うと、天照大御神も
「今、アテーナーやブリタニアが大慌てで対処中よ。
はぁ…まさか『神々の契り』で面倒になるとは思わなかったわ……」
神々の契りとは、この神界に存在しうる神々の間で取り決められた約束事であり。内容は『神は一人の者にしか加護を与えてはならぬ』と言う物であった。
加護を受けた者が死に至れば、また次の者に加護を与えることが出来るが、一度に複数人の加護持ちを抱えるのは許されないのであった。
この約束を破ればすなわち邪神と看做され、この場所より追放される運命にあった。
「馬鹿と無知ほど怖いものはないわね……」
マリアンヌはそう呟くと、天照大御神は湯呑みを傾けた後。用意していたお茶を飲み干し、ちゃぶ台に置くと夕日を見ながら呟いた。
「我々は今ここで出来る事をするのみです。後はもう、彼らに任せるしかない……」
「ええ、そうね……」
そう答え、マリアンヌも同様に蓮子の記憶から作られた偽の世界の夕日を眺めていた。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。