戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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三四話

正暦一九三九年 四月一〇日

ルテティア リユン駅

 

その日、駅構内で二人の男女がそれぞれ別の服を着ながら向き合っていた。

片方は黒い外套に黒い中折れ帽に眼鏡を掛け、もう片方はホリゾンブルーのトレンチコートを羽織り、薄らと見える胸には共和国陸軍の砲兵の制服と階級章をつけていた。

 

黒い中折れ帽を被る茂は片手に鞄を持ちながら砲兵の制服を着る蓮子を見る。

 

「……やっぱり蓮子に軍服は似合わないな」

「そう?それを言うなら茂くんも今の服装の方が似合っているよ」

「そりゃどうも」

 

二人は駅でそう話していると、茂は蓮子に手を差し伸べながら言う。

 

「蓮子、これを受け取ってくれ」

「これは……?」

 

そう言い、茂から渡された真鍮色の懐中時計を見て蓮子は不思議に思いながら蓋を開けると、そこには文字盤の上で十二時を指す針が見えた。

しかし今は十二時ではないから壊れているんじゃないかと思っていると、茂が付け加えて話した。

 

「その針は俺の居場所を表している。針の向く向きが俺のいる方向。針の振れ幅が大きいほど遠くにいるし、近くにいれば針は動かなくなる」

「おぉ……」

 

まさかの発明に驚いていると、茂はもう二つ。同じ見た目をした銀色と銅色の懐中時計を取り出した。

 

「銀色のは蓮子の分で、それは俺が持っておく。そしてもう一つは……」

 

すると茂は銅色の懐中時計を蓮子に手渡すと、蓮子にお願いをした。

 

「輝の魔力をこの時計に記録してくれ」

「……解った」

 

すると、蓮子は茂が『マジック・ソナー』と名付けたこの懐中時計の使い方を教わる。

使い方はとても簡単で、時計の上のリューズを回して目的の人物の近くに置いておけば良いとの事。もし間違えても一回リューズを上に引けばリセットも出来るそうだ。

正直ここまでの発明ができる時点ですごいと思ってしまうが、自分と同じように神様の加護を受けた茂くんならば……とも思ってしまった。

 

 

 

 

 

茂くんは天照大御神の加護を。私はマリアンヌの加護を受け、それぞれ別系統で強化されていたのだ。

因みに茂くんは私が天照大御神に言われた通りの言葉を伝えた後。茂くんは市販の懐中時計を買ってきて何やらずっと集中していると思っていたが、まさかこれを作っていたなんて……

神様の加護の中に技術も入っているんじゃないかと言う気分だが、茂くんの手先は元々器用だからだろうと考えて突っ込まないことにしていた。

 

マジック・ソナーの使い方を教わった後。次に茂くんは一つの弾倉を渡した。

 

「緊急時用に、渡しておく」

「これは……?」

 

その問いかけに茂くんは一言だけ呟き、それだけで用途は理解できた。

 

「使い方はただの拳銃と同じだ」

「分った。いつか使わせてもらうね」

 

そう言い、弾倉をしまった後。茂は蓮子に抱きついた。

ちょうど蓮子の顔は茂の首元に当たり、茂の胸ポケットに入っている蓮の花のブローチの感覚が手に伝わる。

 

再会した頃に茂くんが返そうとしていたが、私が初めて茂くんに送ったものだったからずっと持っていて欲しいと言い、茂くんはこうして胸ポケットに入れてくれていた。

 

「少しの間だけ別れるけど、また会おう」

「うん、その時をずっと待っているから」

 

そう言い、二人は暫く抱き合った後。二人はそれぞれ別の鞄を持って駅を歩く。

ホームには二本の行き先の違う列車が並んでおり、蓮子が先に出発する為。茂は見送りをしようと思っていたが、蓮子から『目立つからやめてほしい』と言われ、俺と共に列車に乗り込んだ。

ちょうど窓越しに蓮子の姿を捉えることが出来、俺も蓮子も顔を見合わせるだけで特に手を振ったりはしなかった。

 

彼女の行き先は戦場だ。俺もいずれ戻ることになるが、蓮子よりは絶対的に遅い。その間に蓮子が死なないかと心配になってしまうが、俺にはこのマジック・ソナーがある。離れていても大体の居場所が分かるこの道具に俺は少しだけ心の余裕ができる。少なくとも共に生きていることだけは分かるのだから……

 

すると、蓮子の乗った列車が汽笛を鳴らして動き出す。

俺は蓮子を見ながら見送る。蓮子も俺を静かに見ながら駅を出ていく。蓮子が見えなくなるまで互いに目を合わせるが、列車は加速していき、次第に蓮子の姿も見えなくなってしまった。

 

列車のテールランプを眺めながら俺は手袋をした手で銀色の懐中時計を握る。

 

「必ず、迎えに行くからな……」

 

そう呟くと俺はコンパートメントの中で列車が発車するまでその時を待っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

リユン駅で茂…今はヴァリやディルクと名乗っている彼氏と別れた私はそのまま東方に向かう。

この列車に乗っている人の中にはおそらく自分と同じように戦場に向かう人もいるはずだ。

本来であればこんな内地に帰れることなんて普通ではあり得ないのだ。だが、『日本に帰る』と言う見えない楔が私たちを日常から戦場へと戻らせる。

 

茂くんから知らされた転移魔法に関する情報を知った時は驚いた物だ。どうりで私たちは回復魔法や砲撃魔法以外教わらなかった訳だ。それが禁術であると知られたくないが為に……

 

 

 

 

 

と言う事はあのジュール・ファブールという男はなぜ禁術と言う代償を犯してまで私たちを呼び出したのだろうか?

戦争に勝つ為?

最も真っ当な意見ではあるが、それにしたって代償が大きすぎる。世界を敵に回すような愚行は上が止めるはずだ。それとも余程上が余裕がないのか、はたまた知らないだけなのか……

後者の場合であれば一番厄介だろう。何せ上は知らないのだから、バレた瞬間に混乱が起こるに決まっている。

だとすればわざわざ上に隠してまでジュール・ファブールが転移魔法を使う理由とは……?

自分の死を偽装してまで姿を隠す意味とは……?

 

 

 

 

やれやれ、やはり共和国は共和制であるが故に複雑な思考が絡み合っているな……

その点、帝国のような君主制は上から下まできっちり決まっているので情報の把握はしやすそうだ……

まぁ、私も茂も同じ民主主義の国で育って来たから共和制の方が良いと教育を受けて来ているし、かの有名なチャーチルも『民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば』と言う名言を残しているくらいだし。

 

 

 

 

 

そんな事を思いながら私は車内でコートを脱ぎ、そのまま鞄に畳んでしまう。幸いにもコンパートメントには他に人がおらず、荷物は簡単に片付けられることができた。

砲兵隊の制服を着用し、階級は中尉。二年前と変わらない物だが、私はポケットに二つの懐中時計と受け取った弾倉を入れる。

真鍮色の懐中時計を開くと、そこには三時方向に揺れる長針が現れ。思わず自分もその方角を見てしまう。

そして銅色の懐中時計を開けると中には文字盤の上を綺麗に十二時方向に整えられた懐中時計があった。

 

「頑張ってみるよ……私」

 

そう呟き、私は懐中時計の蓋を閉じていた。

志願したこととは言え、正直ちょっぴりと怖いが、私を片想いしているあの恋愛盲目馬鹿であれば私の安全を最優先するはず。実際そうだったし……

私は茂くん一本なのだ。誰があんな女たらしと付き合うか馬鹿野郎。

 

そう思いながら私は服を畳み、片付けていた。

明日にはもう戦場に到着するだろう。それまでに必要な荷物は纏めておかないと……

今の私に怖いものなんて無いのだから……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

四月一五日

帝国首都レルリン 帝国軍統合作戦参謀本部

 

ミッドガルド教国とマチャ共和国を行きと同じように遠回りして帰った影響で帰還に三日掛かり。一昨日は駐屯地に帰ったことを報告するついでに挨拶に行き、昨日は昨日で書類まとめで缶詰状態だった。とっても忙しいと思いながら俺はここに来ていた。

 

「ディルク・フォン・ゲーリッツ少佐、只今より原隊に復帰致します」

 

帝国軍の士官服を身に纏い、新たに再編された参謀本部の一室で俺は敬礼をする。そんな俺を義父と義姉は出迎えてくれる。

 

「お帰りなさいディルク」

「無事に帰って来れたようだな」

「はっ!五体満足であります」

 

姿勢を崩さずに返事をすると義父が満足げに俺に言った。

 

「報告は読んだ。これは一個軍団に値する情報だ」

「参謀総長が喜ばれていたわ。良くやったわね」

「有難うございます」

 

そう答えると義姉が言った。

 

「楽にして良いのよ?ここには私達以外誰もいないし、今日は誰も来る予定はないのだから」

「そうだ、共和国に行って疲れているだろうしな」

 

そう言い、コルネリウスは俺をソファーに座らせるよう催促すると戸棚からボトルを取り出した。

 

「どうだ?美味いのがあるのだが……」

「父上、私はこれから部隊に向かうのですが?」

「何、一杯くらい問題ないだろう」

 

すると義姉からの援護射撃が入った。

 

「そうよ、たまには家族で飲みたいじゃ無い?」

「……そうですね。では、一杯だけ…」

 

そう言うと義姉がグラスを持ち出してボトルから注ぐとそのまま俺と義父に配り、義姉が音頭をとった。

 

「ディルクの帰還に、プロージット」

「「プロージット」」

 

そう言うと三人は仕事場の部屋の一室でグラスを飲み干していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同日同時刻

西部戦線 中部戦域

共和国側 第四防衛線

 

そこではカセリーヌが砲兵として働いていた。

相変わらずここは臭い。鳴り止まぬ砲声に銃声。空は曇天、地上は泥まみれ。

至る所に死体が転がり、血が流れているせいで土は真っ黒だ。なるほど、これだと質の高い鉄分多めのワインが出来そうだ。

 

「はぁ……」

 

魔導砲兵の一人として私は装填された砲門の引き金を手に持つ。

ここに茂くんは居ないと思いつつも、やはり怖いものがある。しかし、撃たなければ今度は自分が危ない。

茂くんと約束したとは言え、やはりうっかり死んでしまうのでは無いかとも思えてしまう。

だけど、私は絶対に死ねない。死にたく無い理由があるからだ。

 

『…っ撃てぇ!!』

 

号令と共に私は引き金を引く。轟音が轟き、反動で砲身が後退する。その後、発射された砲弾は向こう側に着弾し、爆発する。

一週間はここでずっと砲撃だろうと思いながら私は次の人と交代し、私は有る人物を見ていた。

 

それは自分たちの後ろから砲撃の様子を眺めている一人の男であった。

うざったらしい全てを見るような冷徹な目をし、階級章には少佐の印が貼られた男。

 

かつて茂を死の淵に追いやった男……小野寺輝であった。

 

 

 

 

 

 




第三章『愛の都ルテティア』完

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