戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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第四章
三五話


正暦一九三九年 五月二〇日

西部戦線 中部戦域

帝国側 第二防衛線

 

今日も曇天の中を振り続ける砲弾の雨。そして地上では銃弾の閃光が線を描いて地上を塗りつぶしていた。

そんな中、深夜の空をある集団が飛行していた。

すると先頭を飛んでいた黒い降下猟兵服に身を包んだ隊員が両耳に当てたヘッドホンのマイクに口を当てて指示を出した。

 

「ーーーエンジェルより全隊へ、降下開始。エスカルゴを叩き起こせ!」

『『『はっ!』』』

 

するとブザー音が響き、地上から赤い閃光がミシンの様に空に飛んでいく。そんな中、黒い降下猟兵は障壁魔法を展開しながら地上に落下するように落ちていく。

 

「確固目標に合わせて射撃開始。制圧しろ!」

 

そう言うと、その隊員は片手にフェドロフM1916を持ちながら引き金を引く。

フルオートで射撃された小銃弾が共和国兵士の体を貫通。呻き声をあげて倒れ、そのまま帝国兵に押し倒される。

 

『帝国軍が来たぞ!!』

『構えろ!』

『撃てぇっ!』

 

空中より突入した帝国兵を倒そうと塹壕内で機関銃が向けられる。

重機関銃がこちらを向き、引き金を弾く。

咄嗟に展開した障壁魔法で小銃弾を防ぐも、向こうのほうが弾幕は激しく撃ち返す暇がない。

 

「だが……」

 

機関銃で攻撃してくる共和国軍に対し、俺は卵形手榴弾を手に持って青色のキャップを引っ張って中の紐を引っ張り、それを投げつける。

手榴弾が投げられ、慌てて逃げ出す共和国軍兵士。その直後に手榴弾が爆発し、機関銃座が吹っ飛んだ。

 

「行くぞ、ついて来い」

「はっ!」

 

俺は部下と共に掩蔽壕を探し、中に誰かいないかを確認する。すると無線機から通信が入った。

 

『少佐、後方の味方が遅れています』

『少佐、共和国軍が戻ってきました!』

 

報告を聞き、俺は判断を下す。

 

「撤退だ!このままでは挟み撃ちになる」

『『了解!』』

 

通信を終え、俺は部下と共に一斉に空に上がって東に飛んで行く。地上では共和国兵が空を眺め、共和国製半自動小銃を空に向けて撃っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数時間後、後方のテントで兵士達が配給された食事を摂りながらボツボツとつぶやく。

 

「今日の攻勢は失敗に終わったのか……」

「仕方あるまい。ここ最近は共和国も飛行魔法兵の対処に慣れてきているんだ。そう易々と場所を開け渡してはくれんよ……」

 

武装を置き、降下猟兵の服を着たまま隊員達は各々今日の成果を嘆いていた。

そんな中。明かりのついたテントの一つで、第五〇〇陸軍降下猟兵大隊大隊長を勤めているディルクは戦闘服から制服に着替え、紙にペンを走らせていた。

するとテントに副隊長のコンラート大尉が入ってきた。

 

「少佐殿」

「あぁ、どうした大尉?」

「少佐殿の分の食事を持って参りました」

 

そう言い、コンラートは大きめのジョッキのような容器に入ったスープと皿をを持ってきていた。

 

「あぁ、済まない。そこに置いておいてくれ」

 

そう言い、ディルクの横にその食事を置かせるとコンラートが聞いてきた。

 

「何をされているのですか?」

 

今日は戦死者が出ていない筈だし、報告書も書き終えた筈だと思い。不思議に思うと、ディルクが答えた。

 

「あぁ、何。ちょっとした落書きさ」

 

そう言い、紙を纏めるとディルクは食事を摂り始めた。

 

「ふぅ…いかんな。仕事とは言え共和国に行っていた癖が残っている……」

「共和国ですか…どうでしたか、向こうの様子は?」

 

そう言い、コンラートはディルクにそう聞くと彼は苦笑混じりにこう答えた。

 

「フッ…対して帝国と変わらんよ」

「良くルテティアに潜り込めましたな」

「移民になって行ったが、向こうも人手不足が深刻だった。検査も緩かったしな……」

「帝国と似ているのですな……」

「ああ。物価高も、街を歩く人も、貼られている国債購入の広告なんかも…本当に帝国にいるような気分だった……」

 

コンラート大尉は俺が仕事で共和国に行っていた事を知る数少ない人物だ。おまけに俺が共和国に寝返ったかもと疑う様子も無く、頭もキレる本当に優秀な人物だ。やはり副長をお願いして正解だったと思う。

俺から共和国の内情を聞き、何処か帝国とも照らし合わせられるその客観性は優秀な証だと思う。

 

「戦争をするとどこも変わらないんですな……」

「あぁ、全くだ……」

 

少なくとも戦時中だと言うのに街からネオンのか灯りが消えず、戦車7万7247輌、航空機32万4750機、おまけに大量の戦闘艦に輸送艦を作ってしまうあの大陸国がおかしいと言うのが良く理解できる。

やっぱさ、正規空母を一ヶ月で作れるのはおかしいんだよ。そら世界の警察やっちまうわ。

それで本土攻撃したのが潜水艦から発進した航空機の焼夷弾と風船にくくりつけられた爆弾って言うね……(´・ω・)

 

 

 

今日は珍しく静かな戦場の夜。具材が少ない、ほとんどお湯みたいな物を口に流し込みながら俺はコンラート大尉に聞く。

 

「大尉……」

「はい」

「大尉は、この戦争が終わった後の事を考えたことはあるか?」

 

俺からの問いにコンラートはやや興味深く頷く。

 

「そうですな……今まで考えたことありませんでした」

 

初めて聞かれた内容に少しだけ困った様子の大尉だったが、少し考えた後にこう答えた。

 

「正直言いますと共和国は滅ぶ。と言う事しか……」

「その先は?」

「は……?」

 

するとディルクはさらにコンラートに聞く。

 

「共和国が滅び、帝国が丸ごと共和国を吸収した後。帝国はどうなると思う?」

「……」

 

するとディルクは遠い目をしながら口にスープを飲みながら呟く。

 

「大陸に残された小国家群は帝国という強大な力に恐怖し、結束し帝国に対抗するか。

若しくは帝国に為す術なしと判断し、その軍門に下るか……」

「……」

 

その目はどこまで見えているのだろうか。

少なくとも平和を望む一軍人である事に間違いない。だからこそ、この戦争の行末に世界はどうなるのかと言う未来を考えていた。

自分が今の少佐くらいの時は何をしていたのだろうかと思いながらディルクを見ていた。

 

「少なくとも周りの小国家群は気をつけているんだよ。この二国の大国の戦争の行末を……」

 

そう言うと、ディルクは飲んでいたスープが空になり、懐からチョコレートバーを取り出していた。

 

「この間、帝都に行ったついでに運輸課から貰ってきたやつだ。入るか?」

「何と!!……御相伴に預かっても?」

「ああ、俺の無駄話を聞いてくれているからな」

 

そう言い、コンラートはチョコバーを受け取った後。ディルクの話を聞いていた。

 

「まぁ、どちらに転んでもこの戦争が始まった時点で帝国も共和国も破滅の道を歩み始めているのさ。少なくとも戦争が終わった後はしばらくは超緊縮財政だろうね」

「何故です?」

 

そう聞くとディルクはこう答えた。

 

「向こうも金がないんだよ。帝国もそうだがね。それこそ、賠償金ですら払えるか怪しいくらいのね……」

「それは……」

 

賠償金が貰えないと何が起こるのか予想できてしまう。だからこそゾッとしてしまう。

 

「まさか、そんな事が……」

「ああ、そうだ。今の帝国は賠償金を無理取ればいいと思っているかもしれないが、共和国もこの七年の戦争で予算は火の車。いや、その車ですら灰になっているかもしれない。

 

 

 

無い物を強請っても出てくると思うかね?」

 

 

 

この少年、いや。自分たちの大隊長は未来を冷徹に見ていた。話を聞いていると戦争には勝てば宜しいと言う時代ではないのかと思ってしまう。

するとディルクはその思考を読んだように頷いた。

 

「そう。機関銃や威力の高い無煙火薬、射程距離が伸びるライフリング技術の登場で人は簡単に死ぬようになった……。

大尉、戦争で最も金がかかるのは何だと思う?」

「武器製造……でしょうか?」

 

するとディルクは答えを言う。

 

「正解は……我々人間だよ」

 

するとディルクはその訳を話した。

 

「兵士の給料。腹を満たす食糧。訓練に必要な弾薬。パイロットや戦車兵なら航空機、戦車を動かすための燃料、機械部品。

兵士が死ねばその分弔い金が必要になる。あぁ、言っておくがその弔い金も軍事費の中に入っているぞ?

 

 

どうだ、戦場で最も金が掛かるのは人間なんだよ……」

「……初めて知りました」

 

するとディルクは溜息を吐きながら呟く。

 

「大尉、世界中に存在する情報の中でも我々は知っているのはごく一部でしかない。

生きていく上で無知は罪なんだ……世の中『知らなかった』では済まされないことの方が多いのさ」

 

そう言うとディルクはテントに戻っていく。

これから寝る予定なのだ。寝れる時に寝ておかなければいざ作戦時に倒れてしまう可能性があるからだ。

ディルクが戻る途中、コンラートは彼に聞いた。

 

「少佐殿は…もしかして、この戦争に反対なのですか……?」

 

その問いに彼はこう答えた。

 

「俺は『平和な時代の軍人になりたかった』と答えておくよ」

 

そう言うとディルクは指揮官用のテントに戻って行った。

テントの前でコンラートは暫く呆然となった後に次の作戦に備えて自分の就寝場所に向かって行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

テントに入り、灯りを消した俺は手に銀色の懐中時計の蓋を開ける。

左右にゆらりと触れる長針を眺めるとそのまま蓋を閉じて時計をしまう。

そしてそのまま俺は目を閉じてこれから行われるであろう大規模攻勢を想像していた。

 

俺が戻った直後に隊員を一人喪失した。その際、遺族に書く手紙を書くのは少し思うものがあった。

この任務が終わった後に、俺は視察を兼ねて後方に件の新型戦車を見る事になっている。

 

「(戦場に戻って一ヶ月近く。まだまだブランクが残るな……)」

 

何せ共和国で仕事をしていたのが四ヶ月、共和国で兵士として働いていた分を含めてもまだまだ未熟な兵士の俺だ。戦場から離れてしまった分、ブランクがあると思っていた。

しかしそこで思わず思いとどまる。

 

「(いかんな、これは戦争なんだ。運動とかとは違うんだ…何もかも……)」

 

競技であれば相手は死ぬ事は極めて低い。だが、これは戦争。人を殺す事。殺した数によって優越が決まってしまう。

俺も戦場に慣れてしまった唯の殺戮者でしないのかもしれないと思いながらこの戦線の押し上げの為に仕事をしなければならなかった。

 

「(明日、指揮官と面会して作戦を考えにいくとしますか……)」

 

 

 

 

 




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