「ーーー君のあの戦車と電撃戦の理論を見た時。私は感動と衝撃を受けたものだ」
霧の森の中にある臨時駐屯地で俺は第七機甲師団師団長エドウィン・ロンネル中将と会談というか、面談というか、話し合いをしていた。
それも俺が設計に混じったあの戦車の上で……
「お褒めに授かり光栄です」
俺はそう答えるとロンネル中将は俺に聞いて来た。
「そこで大隊長を指揮しているディルク君に聞きたい。
良い指揮官とはどう言う基準なのかをね……」
ロンネル中将の話を聞いて俺は納得する。
第七機甲師団はいわば新設された最新鋭の機材が揃った部隊だ。
現在、帝国に存在する機甲師団の内第一〜第四機甲師団は既存兵器の再編で編成された部隊。第五〜第七機甲師団は間も無く実施されるであろう大攻勢の為に新設された新たな部隊であり、機械化された歩兵。機動力に優れた戦車。後方からの迅速な砲撃を可能とする砲兵を有していた。
よく勘違いされるが、機械化歩兵というのは別にSFとかにありがちな外骨格装甲を有した兵士のことでは無く、歩兵戦闘車などに搭乗することによって戦車部隊に追随できる機動力、戦闘力を有する歩兵の事である。
そして第七機甲師団は新設部隊の末尾の部隊であり、帝国は更に後三つの機甲師団を設立する予定であった。
ロンネル中将の問いに、俺は少し考えた後に口を開いた。
「そうですね…個人的に思う優秀な指揮官。…これはあくまでも理想像ですが……」
そう言うと、俺はロンネル中将を見ながら言う。
「戦場を客観的に見ることが出来、補給を大事にする人物……と言ったところでしょうか?」
「ほう?」
ロンネル中将はやや興味ありげに俺の話を聞いてくれた。
「とある国の言葉に『腹が減っては戦は出来ぬ』と言う言葉がある様に今も昔も戦争は補給が重要です。
二〇〇年前などの略奪し放題だった時代の戦争とは違い、近代戦で略奪行為を行えば戦時条約違反で立派な戦争犯罪。その為、今の軍隊は補給の為に一苦労する事になる。
今の指揮官に必要なのは戦術、戦略的視点から戦線を見るのと同様。後方にも目を向けなければいけません。
自分の部隊は五〇人と極少数なので補給に関しても少ない量で済みます。それでも、各戦線を飛び回っている影響で運輸課が悲鳴を上げているんです。
ましてや師団などの大規模な人員ならば最も補給に苦労する筈です。
自分が言うのも何ですが、電撃戦において最も重要なのは進撃速度では無く、補給線構築だと思います」
俺はそう言うと、ロンネル中将は少し考えた後に盛大に笑っていた。
「はっはっはっはっはっ!!実に面白い、自分の意見にすら厳しい件を出すとは……」
そう言うと、ロンネル中将は俺を見ながら興味深くしていた。
「なるほど、参謀総長が君に目をつける理由もよくわかる」
そう言い、偉く気に入った様子で俺にあるバインダーに挟まれた紙を渡す。
「これは?」
「参謀総長から君に渡される命令書だ。恐らく君の部隊にも届いてるはずだ」
「……拝見します」
受け取ったバインダーには数枚の紙が挟まれ、一枚ずつ確認を取る。
一枚は受領書。もう一枚は命令書だった。
「君の部隊の本拠地に明日には到着する筈だ」
「明日ですか……」
そう答えると、ロンネル中将は俺を誘う様に言う。
「どうだ少佐、自分の作った戦車を見ていかないか?」
「はい、是非とも……」
そう言うと、俺とロンネル中将は足元にある戦車のキャノピーを開けていた。
『Pz.Kpfw.V』
この文字を見て何の羅列かわかった人は中々な軍事オタクだろう(多分)。
そう、史実ではパンターの愛称で有名なⅤ号戦車パンターである。
しかし、史実とは違う点がいくつもあった。
まず見た目でわかるのが主砲。70口径75mm主砲ではなく、71口径88mmとティーガーⅡと同じ主砲を持っていた。
まぁ、言って仕舞えばこのⅤ号戦車はティーガーⅡを全体的に一回り大きくした様な見た目だ。
第二次大戦末期、ナチス・ドイツが作り上げた最強の重戦車とも言われるティーガーⅡ。しかし機械的信頼や戦況悪化から満足とは言えない戦果で終戦を迎えていた。
しかし、その装甲の堅牢さは米国をも驚かせていた。
ちなみに砲塔はヘンシェル型を採用している。
他に細かい所を指摘するならばツィンメリット・コーティングはしていないし、懸架方式も違うし、転輪も違った。
ダブルトーションバー?挟み込み転輪?バカモン、そんな整備性終わってる物なんか使うか!!
ということで足回りはⅢ号戦車の拡張と言って良いだろう。ちなみに言おう、これでも中戦車である。
Ⅴ号戦車と名付けられた本車両は世界でも無い画期的な構造があった。
「主砲を変えるだけで重戦車にも中戦車にもなると言うのは恐ろしいな……」
そう言いながらロンネル中将は主砲を見ていた。
そう、この戦車は主砲を付け替えるだけで重戦車にもなると言う構造なのだ。
中の砲弾ケースを変更し、主砲を付け替えるだけで重戦車にもなると言う余裕のある設計がなされていた。一般的に《Ⅴ号戦車》《Ⅴ号重戦車》《Ⅴ号自走砲》の三種類が存在していた。
中戦車の場合は88mm砲を、重戦車の場合は12.8cm砲を搭載すれば良い。
何とも帝国らしい変に凝った作りをしているが、元々俺の書いた設計図の寸法を変えるだけでなってしまったのだから恐ろしい。
いざとなった時に12.8cm砲を積む為に砲塔の穴は大きく設計された影響で砲塔内の機銃は重戦車型では廃止されていた。
車長席に座りながら俺は思わず声が出る。
「中は思っていたよりも広いんですね」
「ああ、だが重戦車タイプは砲が大きい影響でやや狭く感じるがな」
そう言うと、キューポラから体を出して戦車を降りた俺は中将に案内され、次の戦車を見せられる。
「これは……」
「Ⅴ号自走砲型だ」
そう言い、主砲に図太い15cm砲を搭載した自走砲を見ていた。
《Ⅴ号自走砲》
砲弾統一の影響で大量生産された15cm砲の砲身をそのまま搭載しており、車台はⅤ号戦車の物を流用していた。ハッキリ言ってやろう、フンメルだ。
その砲口のデカさに驚きつつ、俺は自分の設計した戦車がこうして目の前にある事に驚きと嬉しさを噛み締めながら、俺は中将に彼らの使う装備や訓練中の兵士を見学し、霧の森駐屯地を後にして行った。
駐屯地の入り口ではダークグレーに塗装されたキューベルワーゲンが停車しており、ディルクは駐屯地から出て行き、ロンネルが見送りをしていた。
「今日は色々と見させてくださって、ありがとうございました」
「ああ、また見に来てくれ。その時はもう少し勇ましい姿を見せられると思う」
「ええ、その時を楽しみにしています」
そう言うと俺は車に乗り込むと、そのまま隊員の運転する車に乗って駐屯地を後にして行った。
「面白い青年だったな……」
駐屯地で車を見送ったロンネルはディルクと対談した時の表情を思い返していた。
「彼は天才だな…指揮官としても、設計家としても……
だが、どちらかと言えば指揮官の方が向いていそうだ……やや未熟な所もあるが、それもまた戦場が育てるのかな……?」
そんな事を呟きながら中将は駐屯地に戻り、来るべき作戦に備えて万端の準備をしていた。
正直、言ってあの戦車は予想以上の性能だ。正直速度は諦めていたのだが、それでも整地で時速50kmは出る。
重戦車型は重量の関係から時速40kmに落ちるが、それでも今の時代じゃあオーパーツもいい所。それに、自分達の居た世界では見慣れない装甲もあった。
この世界には振動装甲なる、ある特別な装甲があった。
金属に魔石と感応石を混ぜ込んで出来る、いわば対魔法兵用特殊装甲である。魔法兵の発射する貫通魔法を抑える役割を持っており、分厚い振動装甲を持ち合わせている戦車は貫通魔法が効かないと言うとんでも無い効果があった。
そして振動装甲は戦車には当たり前の様に搭載されるものと、外付けの爆発反応走行のように後付けされている場合があった。
この世界は何とすでに複合装甲の技術を持ち合わせているのだ。おかげで金属加工技術は史実よりも早い段階で進んでいた。
しかし、振動装甲と言え金属で出来ているので成形炸薬はまだ効果があった。
帝国の経済政策で戦前に完成した直線のアウトバーンに乗りながらディルクは帝都に向かう。
帝都に向かう列車に乗る為にディルクを乗せた車は高速を走っていた。
「(美しい…とても戦争中とは思えんな……)」
広大な大地を貫く高速道路。そこを走るは数少ない民用車や軍関係の車列。補給の為に向かうトラックなどであった。
ここ数ヶ月、西部戦線の死傷者は減っていた。その理由はどちらも攻勢をかけていないから。
守りに徹することで被害を抑えられる事を帝国も共和国も学んだ様で、どちらも顔を出すことは無くなったが、戦線がより膠着する要因になってしまった。
「(もうそろそろか……)」
蓮子……今はカセリーヌと名乗る彼女は、帝国側の協力者。そして白い悪魔と同じ部隊にいると言うことから帝国側に相応の対価を用意する様に言っておいた。というかそうさせた。
「(小野寺の魔力を捉えることは出来たのだろうか…‥)」
そんな事を思いながら俺は持っていた銀色の懐中時計を取り出すと、蓋を開けていた。
揺れ動く長針を確認するとそのままポケットにしまっていた。
駅に到着し、車を降りた俺はそのまま駅に向かう。その片手には大きめの台車に乗せられたキャリーケースを持ちながら……
中に入っているのは基本的に装備一式だ。三七式魔導演算機の入った鞄も混ざっており、手を離すことはない。
他には使用している銃、戦闘服一式。余っている弾薬など、戦闘に必要な物は一通り持っていた。
「……」
常に保持しているのは拳銃くらいだろう。前のPPKではなく、戦闘用に渡されるブローニング・ハイパワー。
俺は台車を押しながら駅を登り、事前に購入済みの切符を持って駅舎に入る。
ホームではすでにレルリン行きの特急列車が停車しており、ディルクも荷物を持ったまま列車の中に入る。
これは荷物室に預けられない代物だったからだ。
外套を羽織り、軍帽を被る。騎士鉄十字章を首から下げていると視線を集めてしまうのでこう言う時は外していた。
列車が出るまで待っていると、汽笛が鳴り珍しく時間通りに特急は駅を発車して行った。
元はルテティアまで向かっていた特急だそうだが、今はこの国境近くまでしか走っていないと言う。いずれはルテティアまで走るのだろうかと思いながら俺は車上の人となった。
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