戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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三八話

正暦一九三九年 六月六日

レルリン 帝国軍統合作戦参謀本部

 

霧の森において新型戦車を視察し終えたディルクはそこで驚くべき話を耳にしていた。

 

「共和国が……?」

 

運輸課で仕事をしていたデニスが俺にある話を持ってきた。

 

『共和国が禁術を使用したのはほぼ確実』

 

まぁ、はっきり言って仕舞えば驚いたのは嘘になる。だが、それよりも……

 

「帝国はこの情報を教国に伝えないのか?」

「あぁ、本部じゃもっぱらの噂だ。しっかし、共和国が禁術を使うなんてな……」

 

そう言い、片手に蒲公英コーヒーを旨そうに飲むデニスに俺は聞く。

 

「……因みにその詳しい内容とかは分かるのか?」

「うーん…そこまで詳しくは知らんな……俺も聞いていない」

「そうか……少し聞いてみるか。丁度、寄る所だったしな」

 

そう思うと俺は参謀本部を歩き、義父の居る部屋に向かった。

 

「失礼します」

 

そう言い、部屋に入るとそこでは義姉と義父が俺を出迎えた。

 

「おぉ、珍しいな。予定にはなかったと思うが……」

「丁度、視察を終えたので駐屯地に行くついでに寄りました」

「そうか、では直ぐに行くのだな?」

「はい、次の命令が待っているので」

 

そう言うと、やや寂しそうにする義姉たちであったが、義父は義姉を部屋の外に出していた。

 

「カミラ、少し部屋を出てくれ。二人で話がしたい」

「分かりました」

 

そう言い、義姉を部屋の外に出すと義父は俺に言った。

 

「ーーーーおそらく、共和国の禁術の話だな?」

「……ええ、父上にその一件でお聞きしたいことがあります」

「あぁ、お前にも詳しく話さなければならん事もある」

 

そう言うと義父は机の引き出しから数枚の資料を取り出した。

 

「これは……」

 

書類には写真がクリップで止められ、そこには大きな機械のような物が映っていた。

 

「禁術を使用する為に使ったと思われる機械と推測している。それがどこで撮られたかも、何をする機械なのかも詳しくは分からん」

「これが……」

「現在、その機械がどの禁術を使用するのか調べている。そろそろ結果が出て来るだろう……」

「……」

 

この機械が俺たちをここに連れてきた元凶なのだと理解すると、俺は義父に問う。

 

「父上、なぜこの事を教国に伝えないのですか?」

 

そう問いかけると、義父は葉巻を一回吸うと煙を吐き出しながら答えた。

 

「我々帝国とて世界を敵に回す禁術を使う気にはなれないが、我々は禁術では無く。『禁術に巻き込まれた者』の確保を重要視している」

 

そこで俺は納得する。禁術を使った事実を自明の理にする為には禁術の確実な証拠を提示しない限り魔法裁判は行われない。

正直これだけ証拠が集まっていてもダメなのかと思っていたが、おそらく帝国の狙いは禁術に巻き込まれた者達から情報を得ようとしているのだろう。

転生魔法であれば転生前の歴史、魔法の情報を。転移魔法であれば元いた世界の技術を、おそらく聞き出そうとしているのだろう。

 

帝国の思惑を考えていると、義父はさらに続けた。

 

「近く行う大攻勢の際にディルク達第五〇〇陸軍降下猟兵大隊はその者達の確保。及び白い悪魔の拿捕を命ずる事になるだろう」

「そうですか……」

 

すると義父は俺を見ると少し疲れた様子で俺に言った。

 

「すまんな、これは信用できる面々でしか話せない内容なのでな」

「そのような任務に携われるだけで光栄です」

「色々と苦労をかけるが。宜しく頼む」

「はっ!」

 

俺は敬礼をしながら返事をすると、義父は最後に俺に言った。

 

「ディルク、この後ペッツの部屋に寄ってくれ。ここに来たらついでに寄って欲しいと言っていた」

「了解しました」

 

そう言うと俺は義父の部屋を後にし、そのまま参謀本部を歩いてペッツ参謀総長の執務室をノックした。

 

「ディルク・フォン・ゲーリッツ少佐であります。コルネリウス・フォン・ゲーリッツ行政参謀総長の命で参りました」

 

この前昇進した義父の役職を言うと少しバタバタと音がした後にペッツ参謀総長の声が聞こえ、扉を開けた。

部屋には机に積まれた書類に目を通しながら葉巻を吸う参謀総長の姿があった。

 

「あぁ、ディルク少佐。……すまんがそこに掛けてくれ。直ぐに終わる」

「はっ!」

 

そう言い、ソファーに座ると総長は書類を置いて席を立ち上がった。

すると俺の反対側に座ると口を開いた。

 

「まず、共和国の調査、ご苦労だった。おかげで我々は白い悪魔に大きく近づくことができた。……ちと遅くなってすまない。本当は呼び出そうとと思っていたのだがな」

「有難うございます。勿体無いお言葉です」

 

そう言うと、総長は秘書に命令してブラックコーヒーを持って来させた。

そして甘党の総長にしては珍しくブラックのままカップに口をつけてついでにショカコーラを口にすると話し始めた。

 

「先にディルク少佐に伝えておこう。コルネリウスから例の写真は見たか?」

「はい」

「では話しは早い、共和国は転移魔法を使った事がほぼ確実となった」

「っ!!」

 

コーヒーを口にしながら言う事なのかと思いつつも、恐らくこの前あった諜報員の一件で奔走していたのだろうと思いながら話を聞き続けた。

 

「だが、肝心の転移装置の場所は不明だ。何せ、共和国にいる諜報員、工作員共にルテティアを中心に通信が途絶えている」

「それは……!!」

「少佐は運が良かったと言えるな……」

 

すると総長は俺に新聞を渡した。

 

「これは?」

「一昨日発行された共和国の新聞だ。中を見たまえ」

 

総長に言われるがままに新聞を開くと、新聞の小さなコラムの見出しに『共和国の一部部隊が禁術の研究か?!』と書かれていた。

 

「総長殿、これは……」

「ああ、共和国内部でも禁術を使用した噂が流れ、共和国も調査を始めた。そして恐らく証拠隠滅の為に動くと思われる。それを我々は阻止しなければならない」

「……総長殿、意見を宜しいでしょうか?」

「ああ、構わん」

 

総長から返事を貰い、俺は思わず総長に聞いてしまう。

 

「総長殿、もしや禁術の情報を明かさないのはこの為ですか?」

「……そうだ」

 

あっさり認めるのだと思うと、総長は飲み干したカップをおきながら俺に話す。

 

「恐らく共和国の動きから禁術を使用した者達はおそらく独断行動で動いている可能性が非常に高い。

そして現状、最も禁術を使用した者に近いのは我々だ。

そして、教国の介入は避けなければならない。ちとあの国はやり過ぎる事もあるからな……」

「そうですね……」

 

少なくとも正しい魔法の為と言って魔法の研究を独占しようとしている教国は帝国にとっても、共和国にとっても目の上のたん瘤のような存在。

数百年前に結ばれた条約がある為。誰一人として侵攻をしたことはないが、それはあの地域を支配しても大した旨味がないからと言うのもあった。

大した地下資源もなく、占領したところで聖地に集う巡礼者などからの激しい反発にあい、まともな統治すら出来ない。

この大陸において神聖な場所であるあの国だが、国家予算の三割が寄付金で賄われている時点でなかなかヤベェ国だと理解出来る。カルト宗教みたいになってんぞ……

 

それで、その教国の特性上。おそらく禁術に携わった者全員を処罰するはずだ。……と言うことはつまり、転移者もその罪に問われると言うことだ。

 

これは総長なりの情けのようなものなのだろう。

この世界に無理やり連れて来させられ、働かされ、それなのに処刑される。

望まれない生活の後、最悪な人生を過ごすのは可哀想だという総長なりの考えなのだろう。

 

そう考えながら俺は砂糖を入れて本物のコーヒーを飲むと、総長は俺に言った。

 

「ディルク少佐、後に命令が来るはずだ。中部戦域における脆弱点の捜索命令を撤回。新たな命令書が送られる筈だ、向こうに着いたら読んでくれ」

「了解致しました」

 

そう言い、これで話は終わりかと思っていると、総長殿は俺の前に白い紙を置いた。

 

「この前の会議で決まった事だ。少佐に渡しておくぞ」

 

そう言い、机に置かれた紙箱を開けた際。思わず俺は苦笑してしまった……

 

「総長殿、こんな物を二十歳になったばかりの私が?」

「当たり前だ。この前の戦果を見た時に作戦参謀が仰天しておった。儂とコルネリウスの株を上げる為だと思って黙って受け取れ」

「……了解致しました」

 

そう言い、俺は大人しく紙箱を受け取るとそのまま部屋を後にして行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

参謀本部を出て黒い士官服の俺は敬礼を受けながら外に向かうと、そこでは出迎える人物があった。

 

「お待ちしておりました少佐殿」

「ああ、出迎えご苦労」

 

そう言い、コンラート大尉ので迎えに感謝しつつ車に乗り込む。もう慣れてしまったが、普通の日本人では車での送り迎えなんて超お金持ちでないとあり得ない感覚であった。

 

後部座席に乗った俺はハンドルを握るコンラート大尉に聞いた。

 

「どうだ?追加で送られてきた物は?」

「ええ、皆が興奮していますよ」

「それは結構。出してくれ」

「はっ!」

 

そう言うと、コンラート大尉はクラッチを操作しながらハンドルを握って参謀本部を後にする。

 

 

 

 

 

この前の軍備再編で陸海軍参謀本部が統合され、同じ場所に参謀本部が置かれる事になった。更に空軍という新たな軍部が発足しつつあり、準備が進められていた。

西部戦線も大規模な再編が行われこの前部隊の再配置が完了していた。

後方では新型機甲師団の訓練も完了し、補給を蓄えていた。

 

いよいよ始まる大攻勢を前に共和国内では不穏な空気が漂い始め、複雑な思考が絡み合っていた。

 

「(やれやれ、情勢とやらは複雑怪奇で分からない物だな……)」

 

そんな事を思いながら俺は早朝より渡された柏葉章を俺の付けている騎士鉄十字章の上の部分にはめ込んでいた。

すると、後ろでガサガサしている事に不思議そうに思ったコンラート大尉が俺に話しかけてきた。

 

「どうかなされましたか?」

「ん?ああ、問題ない……」

 

そう言い、先ほど受け取った柏葉章を付けた。柏葉付騎士鉄十字章を首に巻いていた。

 

「少佐殿…それは……」

「ああ、総長殿と父上の株を上げる為だそうだ」

「いやはや、羨ましい限りです」

 

そう言い、コンラート大尉はミラー越しにそれを見て尊敬するような目で俺に言った。

 

「あぁ、全くもってそうだな……」

 

そう呟くと俺は帝都の空を眺めていた。

俺にどんどん戦功賞や勲章を渡すのは俺という実績をあげる兵士のバックにいるのが二人であると認知させ、参謀本部内に自分のシンパを増やそうとしていた。既に半数以上の参謀がコルネリウスとペッツのシンパであるはずなのにこれ以上居るのかと思ってしまうが……まぁ、二人で軍部を掌握できれば色々と俺も楽になるのかと思いながら帝都の街並みを見ていた。




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