俺が西部戦線に来て一ヶ月。今も後方でフカフカのベットで寝ている君たちにとっては背筋が凍るほど素晴らしい場所でしょう。天気は曇り、時々砲弾の雨。銃弾が地面を飛び回り、兵士たちが阿鼻叫喚しながらの突撃を敢行しています。自分も人を撃つことに慣れてきたような気がします。・・・と言っても人を撃つときの抵抗感は感じますよ。ただそれが前よりもマシになっただけですけど。
数日前の戦闘で小隊長殿に小銃の話を持ちかけた所『そんなの配給所にでも行ってきやがれ』と怒鳴られてしまい、どうしようかと困惑していた時のことでした。伝令兵が軍曹に紙を渡し、それを読んで苦虫を潰した様な表情と困惑の表情を浮かべながら俺に命令をしました。
「エリク二等兵。直ぐに後方の第四二砲兵陣地に迎え。お前を名指しでお呼びだそうだ」
「は・・・はっ!」
どう言うことだと思いつつ、俺は前線から離れる準備をした。去り際に軍曹が『上は何を考えていやがる』とボヤいてるのを聞きながらも、俺は命令通りに指定された陣地に向かった。
陣地に着くと俺は冷や汗を掻いた。いや、この場合は憤慨と言った方がいいかもしれない。何せ目の前にいるのは・・・・・・
「やあ、南部くん。いや・・・・・・エリクくん」
そこには輝とその仲間達がいたからだ。輝の階級章は大尉。この砲陣地一個を任せるには丁度いい位なのだろう。方や土まみれの野戦服を着た魔法兵。方や後方で来たばかりの新人砲兵部隊だった。普通なら出会うはずのない二人だったが、今回は例外だ。思わず俺は輝を睨みつけながら問い掛ける。
「・・・・・・何の様だ。小野寺」
「おっと、そんなに睨まないでくれよ。私だってちゃんとした理由があって呼び出したんだから」
そう言うと輝はここに居る魔導砲兵部隊は殆どがクラスメイト達で構成されていると言う。何が言いたいのかと思っていると輝は机の上に一つの小銃を置いた。それは共和国の半自動カービン小銃RSC Mle1918だった。それを見た俺は思わず輝を見ながら言う。
「これを渡す為だけに俺を呼んだのか?」
「いやいや、これは半分。もう半分は前線の状況を聞きに来た」
「じゃあ、言わせてもらうが。地獄だったと言っておくぞ」
「だろうね、見ただけでよく分かるよ。たった二週間でこうなってしまうとは・・・・・・」
そう言い俺の体を上から下まで見る。トレンチコートは泥が付き、シャワーすらほとんど浴びていないので匂いもすごかった。
「まぁ、君が戦場でどんな経験をしたのかは後でまとめて貰うとはいえ・・・・・・」
「俺が直接行く」
「・・・・・・ほぅ?」
こいつの事だ。多分直接合わせないと途中で報告書なんか焚き火の燃料にされるだろう。だったら戦争の現実を見せてやるまで。お前らが戦争と呼んでいるものはこう言うものだと。
すると輝はそんな俺に対してこう言った。
「生憎と今ここにいるのは半分だけだ。残りの半分は今日の夕方に到着する予定だ」
「そいつは結構。俺は今日から後方の基地で休憩だよ。明日にでも講演会開いてやるよ」
「そうか・・・じゃあ、楽しみにしているよ」
そう言うと俺は新たに供与された小銃を受け取ると陣地を後にした。
テントを後にした俺はそこで見知った人物に声をかけられる。
「茂・・・・・・くん?」
「ん?あぁ、蓮子か・・・・・・」
そこには共和国の魔導砲兵の制服を来たクラスメイトの女子、小川蓮子が心配げに見ていた。彼女は俺が前線に出る事に猛反対してくれた人だった。クラスの中でも美人と有名だった筈・・・忘れかけていた記憶から思い出していると蓮子は俺に言った。
「茂くん、無事でよかった・・・・・・本当に・・・・・・」
そう言うと蓮子は泥だらけの俺に汚れる事も気にせずに俺に抱きついていた。そんな俺は蓮子の行動に驚いていると俺はそっと蓮子を引き離す。
「俺は大丈夫さ。前線でも特に問題はない。悪運だけは強いのさ」
「でもボロボロじゃないの」
「大丈夫大丈夫。俺はまだ死なねぇよ」
そう言うも心配げに見る蓮子に俺は軽く溜息をつくと蓮子の肩を持ちながら言った。
「明日から俺も後方に移動する。今日生き残ればいい話よ。じゃあな」
「あ!し、茂くん!」
そう言い、蓮子は何かゴソゴソとポケットから取り出した。
「これ、持ってて」
「?」
そう言って渡してきたのは蓮の花のブローチだった。
「蓮は幸運を呼ぶ花って言われているの。だからこれを持っていれば良いことが起こるわよ」
「あぁ・・・有り難う・・・貰っておくよ・・・・・・」
そう言い、俺は受け取ったブローチを仕舞うとそのまま小銃を持って前線に足を進めた。その後ろで蓮子は南部を見ながら祈っていた。
「無事に帰ってきて・・・茂くん・・・」
その光景をある一人の男が見ていた事にも気付かずに・・・・・・
輝から受け取った半自動小銃に特に細工はされていなかった。弾薬は配給所から貰ったものなので細工しようがない。第一大尉如きで何かが出来るはずもないのだ。だったらこの小銃は何処から仕入れたのかと思ったが、それは前線に戻って霧散した。
「おう、お前さんも新型貰ったのか?」
「あれ?皆さんもですか?」
小隊に戻った俺は伍長や軍曹がMle1918を片手に装弾の練習をしている風景が広がっていた。どうやらここら辺に一斉に半自動小銃が配給されたらしい。半自動小銃を持って若干浮き足立つ小隊の人達。明日には後方で休めると言う事もあり、全員の頬が緩んでいる様にも見えた。するとそこでコードルさんが気を引き締める発言をした。
「気を付けろ。そう言って注意が緩んだ奴が死ぬんだ」
その一言に全員が一斉に緊張感に包まれると小隊長が伝令を受け取った。
「・・・・・・ふん、言った側から命令だ。敵陣地への突撃だ」
「こんな時間にですか?」
そう言い伍長が空を眺める。月が上り、空は暗かった。時間を見ると何と午後七時であった。それに北側からは不暑い雲が接近してきており、雨が降りそうだった。
「嘘だろ・・・?」
「おいおい、上は何考えてんだ・・・」
そう言い、出撃を拒否しようとする兵士達に対し、コードルさんは檄を飛ばす。
「文句を言うな。俺たちぁ一回の兵士なんだ。上に逆らったら俺たちがやられちまう。それに・・・雨が降るなら足音も消えて視界も悪くなる。運が良ければ相手陣地を奇襲できるぞ」
そう言うと他の兵士たちも渋々といった様子で立ち上がる。そんな中、伍長が俺に行った。
「新米、何かあれば直ぐに戻るぞ。このタイミングでこんな命令・・・何かおかしい・・・」
「・・・了解致しました」
「魔法師のお前を失うわけには行かないからな」
そう言うその目はどこか優しい印象を持たせていた。
ここに来て一ヶ月。俺はまだ未成年だったこともあり、状態の中では子供のような扱いを受けていた。クソガキやら新米やら少なくとも本名で呼ばれた事はなかった。
魔法師と言う火力のある歩兵という存在は塹壕戦において必要不可欠でもあった。魔法弾を使用すれば擲弾のように敵兵を広範囲に攻撃でき、また密閉された塹壕に撃ち込めば酸欠症状を起こすことな可能で、更なる被害を生むことができた。だからこそ、後方で魔法を撃ち続ける魔導砲兵よりも通常の魔法兵の方が前線では重宝されるらしい。特に砲兵は独特な音がするから、聞こえた直後に障壁魔法を使われてしまう場合もあるそうだ。そうなったら待っているのは地獄だと言う。特にここの中央戦区は魔導砲兵よりも通常の魔法兵の方が必要としているそうだ。理由は相手も魔法兵を多く配置しているからだと言う。
「本来来るはずがないと思ってた魔法兵だ。お前さんに死なれたら他の参戦に少なからず影響が出るのよ。今まで、お前さんと一緒に他の部隊が飛んでいたのもその影響さ」
伍長はそう言うと俺の頭をヘルメット越しに手を置きながらそう言った。
「新米、もし俺たちが死んでも。お前は必ず塹壕に逃げ込め」
「なぜ・・・ですか?」
「さっきも言っただろう。魔法兵は中央管区では重要な戦力だ。この戦争の時はおそらく俺が死ぬ頃にまだ終わらん。だったらここら辺でも一番若い新米は生き残らなきゃなんねぇ。まだ娼館にすら行ったことねぇ若僧に先に逝かれちゃあ俺たちの立つ瀬がねえよ」
そう言うと他の兵士たちも同じように笑い声を上げた。その声は何処か悲しげにも思えた。すると伍長は俺に言った。
「小隊長がお前さんと話したがらないのも、小隊長にはお前さんと近い歳の子供が居るんだよ」
「初耳です・・・」
「そりゃそうだろう。最初の頃は小隊長『前線に新米兵士を連れて来んな!』って上官に返還させようとしていたからな」
「(マジかい)」
そう思うのも当たり前で俺がコードル軍曹にされたことと言えば。腹を殴られ、塹壕内を永遠に走らされ、酒保に毎日のようにパシらされ、兵士たち全員分の配給を時間内に運ばせる。障壁魔法の訓練と言われ石を目一杯投げつけられ・・・・・・あれ?よくよく考えればこれって訓練だったのか?だとしたら納得がいく。そこで、散々新人いびりかと思っていた事に納得が行った。その時、伍長がやれやれと言った様子で俺を見た。
「はぁ、ようやく気づいたか・・・新米。まぁ、分かったなら今直ぐにでも小隊長に挨拶に手も行ってな」
「は、はい!」
そう言うと俺は塹壕を走り、小隊長の居る場所まで進んだ。その様子を見た伍長はくるりと塹壕を見るとふと呟く。
「真面目だなぁ・・・なぁ、そう思わんか?」
「そうだな・・・」
「俺の子よりも素直だ」
「孤児取ったか?だったら俺の子にしときゃあよかったな」
「へへっ、そいつは無理だと思うぜ」
「なんでだよ」
徐々に溢れる言葉に隊員達も同じ気持ちを抱いていた。そんな彼らを見て伍長は新型銃を片手に聞く。
「お前ら、新米死なすんじゃねぇぞ」
その声に男達は乾いた笑いを返していた。
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