戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

41 / 150
四一話

正暦一九三九年 七月三日 午後一〇時

西部戦線南西部 最外郭防衛線

 

共和国側の戦線で共和国軍の兵士が煙草に火を付けていた。

 

「今日も静かでいいな」

「あぁ、この調子で戦争も終わってくれねぇかな……」

 

ここ最近、目立った戦闘も起こらず。前線の突撃兵は塹壕掘る仕事もなく、ただ敵が来ないかを確かめるだけの静かな時間だけが過ぎていた。

初めの頃はいつ来るか分からない恐怖に怯えていたが、その状態が何ヶ月も続けば気が緩むのも必然であっただろう。

 

「はぁ、そろそろ交代だ」

「行くか。どうせ今日も帝国軍はやって来ないだろうしな」

 

しかし、何処かの誰かが戦場での掟を説いたことがある。

 

『戦場じゃあ気の緩んだ奴から死ぬ』

 

共和国製半自動小銃を持っていた共和国兵士はそのまま塹壕を移動しようとした時。

 

ドォーンドォーンドォーン!!

 

東の方角から夜の空に響く砲声が聞こえた。その瞬間、見回りをしていた兵士は咄嗟に塹壕から顔を覗かせていた。

 

「っ…!!撃ってきた!」

「帝国だ、帝国軍が来たぞ!!」

 

兵士がそう叫び、塹壕から東を見た時。そこには……

 

「あっ……」

 

大量の見た事ない戦車に追従する装甲車や歩兵。そして空には闇夜に溶ける様に飛行する航空機が現れていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数時間前

西部戦線南東部 塹壕陣地の後方

 

塹壕陣地と砲陣地の狭間に停車する、真新しい斜めに被弾傾斜がされた戦車や装甲兵員輸送車。

鉄十字の印が施されたその戦車の中、一台のSd.Kfz. 250/3に乗る一人の士官。

第七機甲師団師団長エドウィン・ロンネルは自身の腕時計を見ながら目に前に並ぶ戦車群を眺めていた。

 

「……壮観だな」

 

新型戦車であるⅤ号戦車。ここにある戦車、自走砲は全て元は同じ車台で完成していた。

特に中戦車と重戦車に関しては砲身が違うだけと言うあまりにも画期的過ぎる構造をしていた。

間違いなく、世界最強の機甲師団であると感じながらロンネルはこの戦車を設計した青年を思い出す。

 

後に帝国軍の傑作兵器と称されるⅤ号戦車。その真価が発揮されようとしていた。

 

《Ⅴ号戦車》《Ⅴ号重戦車》《Ⅴ号自走砲》

 

その三種類の戦闘車に加え、同じ車両で揃えられた装甲兵員輸送車。

 

世界屈指の機械化率を誇る帝国軍の機甲師団の長を任ぜられたロンネルは無線機のマイクに手を当てる。

開始時刻はすでに決まっている。目標も、我々がすべき仕事を……

 

「師団長より全車……

 

 

 

 

 

戦車(Panzer)前進(vor)!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「司令部!司令部!こちら二四地点!帝国軍来襲!すごい数だ!増援を乞う!」

 

共和国兵士は必死に無線に声を出す。

 

「司令部!応答しろ!こちら二四地点!夥しい数の帝国軍だ!至急応援を……」

 

無線機に必死に呼びかけるも返答は無く。濃密な砲撃が後方の塹壕に降り注いでいた。

 

「えっ…あ……」

 

その光景に思わず絶句してしまっていると頭上を丁度戦車が通り過ぎていく。頭の上から乾いた土が掛かり、思わず顔を下げてしまう。

戦車が通り過ぎた後、その後ろをハークトラックが通過していく。

少ししてハッとなった後、塹壕を隠れながら走る。味方と合流するために……

 

「うおっ?!」

 

途中、共和国製戦車が現れて帝国軍の戦車に砲撃をする。その外れた砲撃が目の前に着弾したのだ。

その衝撃で兵士は吹っ飛び、地面に叩き落とされた。

 

「ごはっ!!」

 

その痛みで動けなくなっていると、ハーフトラックから何人かの歩兵が降りてきて銃を向けてきた。

 

『投降しろっ!!』

 

帝国語はなまじ共和国語の訛りの様な話し方なために何を言っているのかは理解できる。

持っていた半自動小銃もさっきの砲撃で落とした。もう戦う術はなかった。

 

だから俺は痛みに耐えながら両手を上げて降伏の意を示した。

 

 

 

 

 

痛む体を捕虜として移送する為に起こされた時。目の前には先程自分を誤射したG1中戦車は燃える鉄の棺桶と化し、帝国の戦車は遥か遠くに行ってしまっていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

三時間後……

帝国軍総司令部

 

そこでは遂に始まった大攻勢に際し、数多の報告が上がっていた。

 

「北部戦域第一ポイント通過を確認。第二師団は残敵掃討を開始しました」

「中部戦域において第五機甲師団と第四機甲師団が戦線を突破。予定地点まで進行中」

 

古い城塞を近代化改装して作られた総司令部にて戦線を突破した報告が上がり、戦線が大きく動いていた。

職員が送られてくる情報をもとに地図上の駒を動かしていた。

その結果を見て今回の作戦の責任者であるペッツは部下に聞く。

 

「南方はどうなっている?」

「はっ!第七機甲師団は前進を続け、後方より第三機甲師団が追撃を加えています」

 

するとさらに続報が上がって来た。

 

「報告、第二四飛行団が爆撃を開始。戦線を圧迫中」

 

報告を聞き、士官の一人が満足げな様子でペッツに言う。

 

「十分な戦果ですな。参謀総長殿」

「……あぁ」

 

しかし、ペッツは表情崩す事なくある報告が上がってくるのを待っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

第七機甲師団が前進をしている頃。空では二機の黒塗りの輸送機が空を飛んでいた。

機内ではディルク達第五〇〇陸軍降下猟兵大隊が乗り込んでおり、その時を待っていた。

 

「そろそろ作戦開始だ。各自装備点検。魔導演算機が動くか確認しろ」

 

そんな中、目出し帽を被ったディルクは機内で叫ぶと、隊員が一斉に準備をする。

おそらく向こうでも第一中隊を率いるコンラート大尉が確認をさせている筈だ。

この機体には俺たち本部直衛部隊と第三中隊が乗っており、機体が少し揺れる中。俺は報告を聞く。

 

『少佐。間も無く降下ポイントです』

「了解」

 

報告を聞いて俺が最初に席を立った。

 

「……総員降下準備!荷物は大事にしろ、あれは俺たちの生命線だ!」

『『はっ!!』』

 

赤いランプが点灯する機内で、俺は叫ぶ。

 

「よし!全員立て!」

 

そう言うと両脇に座っていた兵士が立ち上がる。

 

「装備を確認。間も無く降下を開始する。

現在第七機甲師団がレーダー施設を破壊して前進しているはずだ。我々はこれより南方司令部に攻撃を仕掛ける」

 

逆探知の反応が一切ないことからロンネル中将がしっかりと破壊してくれている証拠だった。

今度閣下に何か贈り物をしておこう。絶対に……

 

「ハッチ解放。レッドオン!」

 

そう言うと壁にあったボタンを押すと、後ろのハッチが開き、夜の大地が映る。

所々明るい場所があり、それが撃破された戦車や装甲車なのはすぐに理解できた。そしてハッチが開き終わり、ランプが緑色に変わる。

 

「グリーンオン!」

 

そしてランプが切り替わった所で俺は叫んだ。

 

「降下開始!先に装甲車を下す!後から追いつけ!」

 

そう言うと先に真ん中にあった装甲車のロックが外れて落下して行く。中に人は乗っておらず、隊員達が背中の演算機を起動させながら飛び降りて行く。車を運転する兵士は演算機を持つ隊員達に括り付けられていた。

 

目の前を装甲車がゆっくりと滑り落ちて行き、ちょっとばかし安全性が……と思ってしまうが。その後すぐに隊員達が飛び降りて装甲車を捕まえに行く。

 

魔導演算機の特徴で魔法を媒介なしで指向する事ができる。その為、自分たちの姿勢制御ができればあとは落下して行く自分たちの担当の装甲車を見つければ良かった。

 

「……あれだ」

 

飛んだ瞬間に演算機を起動させ、そのまま俺の担当する装甲車を見つけてそのまま腕を出して慣性制御魔法を使用する。

落下する装甲車に魔法がかかり、徐々に落下速度が落ちて行く。

そして装甲車は地上30m程でゆっくりと落下し始め、ピューマに乗る隊員達が近づいて来た。

そして俺と同じ様に装甲車に触るとそのまま森の中にゆっくりと着地する。

空を見ると他の三台の装甲車も一定の速度で落下しており、無事に空挺が上手くいったと感じる。

 

「各部隊、報告を」

 

そう問いかけると直ぐに通信が帰って来た。

 

『こちら01、機体に問題ありません』

『こちら02。予定地点に降下』

『03、降下完了しました』

「よし、これより作戦行動に移る。各員、予定地点に集合せよ」

『『『了解』』』

 

闇夜の共和国領内に漆黒の狼が降り立った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「直ぐに歩兵師団を向かわせろ!砲兵もだ!!」

 

南部司令部では司令官が怒鳴り散らしながら状況を見ていた。

どうやら全戦線において帝国軍による大規模攻勢が始まった様で、ところどころで突破を許したらしい。

 

「突破した部隊を叩いて押し戻せ!!」

 

司令官はそう怒鳴っているとある指示を出した。

 

「独立魔砲隊にも砲撃要請だ!師団ごと吹っ飛ばしてやれ!!」

 

そう言い、指示を出したのだが……

 

「司令!通信が繋がりません!」

「なぜだ?!」

「電話線が……」

 

その瞬間、司令部全体を衝撃が襲う。

 

「な、何だ!?」

 

すると司令室の扉が開き、兵士が慌てて入ってきた。

 

「てっ、帝国軍です!帝国軍の攻撃です!!」

「何っ?!」

 

すると副司令が指示を投げる。

 

「敵襲!敵襲だっ!」

「必要な物資を持って逃げろ!!」

「兵は武器を持て!接近戦になるぞ!!」

 

共和国兵が慌てる中も司令所は揺れ、更に続報が入ってきた。

 

「敵が中に突入してきました!!飛行魔法兵です!!」

「くそっ!入り口を固めろ!此処はもうダメだ!機密資料は……」

 

その瞬間、司令所の天井にヒビが入り、その瞬間司令所に貫通魔法が炸裂し、天井が落っこちてきた。

 

土煙が舞い、そこにいた兵士が咳き込む。

 

「ゲホッ!!ゲホッ!!」

 

粉々になったベトンや埃で視界が悪くなり、司令が辺りを見回すと顔に銃口を向けられていた。

 

「南部方面軍司令、アンドレイ・ヘリクトン大将ですね?」

「貴様は……」

「帝国陸軍第五〇〇降下猟兵大隊大隊長、ディルク・フォン・ゲーリッツ少佐と申します」

「降下猟兵…………」

 

帝国製ではない軽機関銃のような見た目の銃を持つ兵士はそう名乗ると、アンドレイに言う。

 

「既に本司令所は帝国の管理下にあります。無駄な殺傷を起こさぬ為にも降伏を提案いたします」

「……」

 

天井までガラ空きとなった司令室を見あげると、上空を鉄十字の帝国軍機が飛んでいた。

 

万事休すと言ったところかと思いながらアンドレイは辺りを見ると同じような格好をした帝国軍兵士が先程の崩落で生き残った者に銃を向けていた。

 

「……分かった。降伏しよう…」

 

そう答えるとアンドレイ司令は両手を挙げていた。

 

 

 

 

 




お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。