戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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四五話

 

 

 

「初めまして、転移者の諸君。私は帝国陸軍少佐、ディルク・フォン・ゲーリッツと言う者だ」

 

敬礼をしながらそう名乗ったディルク少佐、彼は眼鏡を掛けているものの、横田はその人が白装束の集団を撃った人だと理解できた。

思わず警戒してしまうが、少佐はそんな俺を見てもケロッとした様子で続ける。

 

「さて、先程も言ったが。自らの氏名、階級、生年月日及び識別番号等を答えることが出来なければ。君たちは捕虜としての権利を放棄することになる」

 

少佐はそう言うと、横田がそこで質問をする。

 

「……もし言わなかったら?」

 

そう聞かれて、少佐は教えてくれた。

 

「捕虜の権利を捨てると、何をされても文句は言えない。拷問を受けても、殺されてもな……」

「……っ!!」

 

思わず身の毛のよだつ気分になり、ゾワっとなる。

こんなところで死んでたまるかと言う感情が生まれ、横田達は少佐の質問に答えて行く。

一人ずつ名前、階級、生年月日、部隊内での識別番号を話し、少佐は紙にまとめる。

そして全員分のメモが終わった後、少佐は言った。

 

「これで君たちは正式に帝国軍の捕虜となった。君達は捕虜に関する規則は知っているかね?」

「あ、あぁ……」

「では、条約に倣った規則に従ってもらう。君達は()()なのだから……」

「病人……?」

 

少佐の発言に疑問に思うも、少佐は横田に紙を渡した。

 

「ここ部屋の代表者は君でいいかね?」

「?」

 

すると少佐は俺に一枚の紙を渡した。

 

「この施設での規則、及びルーティンだ。目を通しておいてくれ」

 

そう言うと少佐は部屋を後にして行った。丁寧な共和国語を喋る人だったと思いながら横田達は紙を読むと、そこにはここの施設の名前やこの施設での仕事などが書かれていた。

 

「うげっ、俺たちここで仕事するのかよ……」

 

そう思い、思わずげっとなってしまう横田達であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

女子達にも男子達と同じ紙を渡し、名前を纏めたディルクは施設を歩く。

ここは帝国内部の使われなくなった元帝国軍の軍病院であった。

精神科の隔離病棟があった事や、監視もしやすいと言う理由でこの場所に移送していたのだ。色々と騒がれるのが面倒なので軽く認識阻害の魔法を展開しながら彼等と初対面を演じながら接した。まぁ、これからはずっと展開し続けるだろうがな。

 

病院の廊下を歩き、名前などを確認していたディルクはここの警備を担当しているコンラート大尉がディルクに声をかけた。

 

「少佐殿、宜しかったのですか?」

「ああ、これは司令官閣下からの命令だ」

 

そう言うと、ディルクはコンラートに目を合わせながら言う。

 

「大尉、相手がいつ行動を起こすかも分からん。警備は厳重にな」

「はっ!」

 

そう言うと、ディルクは病院の中で割り当てられた一室に入ると、そこで纏めた名前と番号を報告していた。

 

「(転移者は確保した。コンラート大尉には申し訳ないが、やって貰うしかないな……)」

 

そう思いながらタイプライターで文字を打っていた。

 

 

 

 

 

タイプライターで報告書をまとめていると部屋を誰かがノックした。

 

「どうぞ」

 

そう言うと、部屋にこの作戦で昇進したゲルハルト大尉が入って来た。

 

「少佐殿、捕虜達の聴取が終わりました」

「あぁ、そこに置いておいてくれ」

「はっ」

 

そう言い、タイプライターから紙を切り取るとゲルハルト大尉はバインダーを置きながらディルクに聞いた。

 

「しかし本当に現れるのでしょうか?」

 

そう言い、カーテンを開けて外を見ると。そこには多くの小銃を持った兵士が外を囲んでいた。

 

「これほどの警備を抜けられるとは思えませんが……」

 

そう呟くゲルハルトに、ディルクは注意する様に言う。

 

「大尉、相手はあの教国だ。開示していない未知の魔法がある事もある。警戒しすぎに行き過ぎたことはない」

「そうですね……了解しました。失礼します」

 

そう言うと彼は部屋を後にし、ディルクはゲルハルト大尉の置いて行った紙を読んでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

彼らを捕縛した後。後方に送られた彼らの血液検査を行った際。血中から麻薬成分が発見された。

どうやらジュール・ファブールは余程手放したくなかった様だ。麻薬で依存体質に仕立て上げ、逃げられない様にしていたのだ。

蓮子に聞いた結果、恐らく俺たちが呼ばれた時に最初に渡された飲み物。あのグァバジュースの様な飲み物に混入していると推測されていた。

あまりの血中麻薬濃度に、結果を見た軍医や共和国の所業に参謀総長や義父がブチギレたのは言うまでもない。

使用された麻薬はちゃんとした治療を行えば治るものであり、彼らにかかる治療期間はおよそ一ヶ月であった。

スッゲェ短いなと思いつつももう突っ込むことはなかった。

 

俺は調書の紙を読みながらタイプライターで文字を打っていると今度は病院内の内線電話が鳴った。

 

「はい、もしもし?」

 

受話器を取ると、相手はハインリム大尉からの定時連絡であった。

 

『閣下、今のところ問題ありません』

「了解、引き続き警戒を怠るな」

『はっ!』

 

そう言い、電話が切れると。ディルクは今日の朝刊を読んでいた。

 

 

 

『戦線突破!帝国軍が脅威の快進撃!!』

 

 

 

この文面を見て今外ではビアホールをする国民で溢れていた。

 

皆が皆、戦争が終わると信じて勝利に酔いしれていたのだ。

かく言う自分たちの部隊だって昨晩は酒盛りで大惨事になったのだ。二日酔いになって俺が叱ったのは言うまでもなかった。

 

今自分たちが守っているのは共和国の戦争の被害者なのだ。おまけに二つの勢力から狙われていると来た。

一つは数日前に彼らと接触を試みて俺達が全滅させた教国。

そしてもう一つは証拠隠滅のために動いていると言われる共和国強硬派と呼ばれる集団だった。

 

まだ、小野寺と立川が見つかったと言う報告は上がっていない。

まぁ、仕方ないだろう。彼らは教国部隊と交戦した瞬間から逃げ出しているのだ。今頃共和国の遠い場所に向かっているかもしれない。

 

 

 

 

 

現在の戦況は極めて良い。西部戦線を突破した帝国軍機甲師団や降下猟兵大隊のお陰でかつてない程占領速度は速い。

 

また、ロンネル中将率いる第七機甲師団が真っ先に共和国国境地帯を占領したおかげで諸外国の火事場泥棒を許さなかった。

正直その進撃速度の速さに司令部の地図が一時間ごとに大きく動いて補給が追いつかない事態に陥っていたが……

 

現在、占領を進めている帝国軍の捕虜となった数は現時点でわかっているだけでも一二万人と言う恐ろしい数だ。進撃が始まってから二週間。そろそろ我々も前線に戻らなければならないのだが……ペッツ参謀総長からのお達しがある影響で動こうにも動けない状況であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

帝国軍の快進撃のニュースはラジオにも流れており。帝都のとある都市の一角でも……

 

《ーーーでは、現在の戦況をお伝えいたします。戦線を突破した帝国軍機甲師団は共和国サル=マテティエール県を通過し、快進撃を続けております……》

 

どこかラジオのアナウンサーの声も高いように聞こえ、明るいニュースが送られる中。アナウンサーはニュースから次のコラムに移る。

 

《……続きまして、今日の音楽のコーナーです。今日お届けする曲はペンネーム、角笛さんより『ラインの黄金』をお送りいたします》

 

ラジオの放送を聞き、その家の住人はピクリとラジオを聞いた後。家にある本棚から一冊の本を取り出すとラジオのつまみを変えて周波数をいじっていた。

すると、先ほどのニュースとは打って変わり、奇妙な放送が流れ出していた。

 

《134、12、6……82、5、6……》

 

数字ばかりが流れ、ラジオを聞いたその家の住人は本を開き、何やら読んでいた。

その光景はいたって普通に本を読んでいるようでもあった……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

正歴一九三九年 七月一八日

帝国領内 転移者達が収容されている病院

 

彼らが収容と治療を始めてから今日で二週間になる。

軍医からは『治療薬の投与が欠けることがあれば激しい頭痛を覚える』と話しており、薬で薬を抜くのかと思いながら今日も聴取で集められた情報をまとめていた。

 

柄にもなく伊達眼鏡を掛けて仕事をしていると部屋の扉を誰かがノックした。

 

『失礼します』

 

そう言い部屋に入って来たのは病院着を着た蓮子であった。

俺と彼女の関係はコンラート大尉ですら知らない事実であったが、どうやってここまで来たのかは何となく想像できた。おそらく休憩と称して仕事場を抜け出した後、隠密魔法なる姿気配を消す魔法を使ってここまで来たのだろうと思う。因みに彼女が協力者だと知っているのはペッツ参謀総長と義父だけだった。

作戦終了後にその事を話したら大目玉を喰らい、呆れられたのだが……

 

彼女は麻薬被害に遭っていない唯一の人物だった。

どうやらあの麻薬入りジュースを飲んだ後の反応や、ジュール・ファブールの胡散臭さから飲んでいなかったそうだ。

 

 

 

俺はコーヒーを淹れる蓮子に聞いた。

 

「どうだ、皆の様子は?」

「相変わらずよ。皆んな悪口が漏れているわ『娯楽がない』ってね」

「そうか……では、その分の手配をしよう」

 

そう言うと、蓮子はコーヒーを渡しながら俺に聞いた。

 

「いいの?だってあの子達は茂くんを虐めていたのに?」

 

そう言い、やや驚いた表情で言った蓮子に、俺は答える。

 

「何、元々気にしていなかったさ。手を出されなかったしな。それに、他人に興味なかったし……」

 

そう言うと、俺は室内でラジオを掛けた。盗聴対策の為だ。

すると蓮子は面白そうにしながら机の上に座った。

 

「なるほど、相変わらず他人に興味がないのも。茂くんらしいや」

「そうかい……」

 

そう言い、コーヒーを飲むと蓮子は茂に言う。

 

「共和国ではヴァリくん。帝国ではディルクくんか……」

「おっと、共和国にはエリクもいるぞ」

「だって、エリク君は死んだでしょう?」

「それは…そうだが……」

 

そう言うと、蓮子は茂に聞く。

 

「ねぇ、立川さんはまだ見つかっていない?」

「あぁ……立川の偽名で捜索をしているが……。いかんせん捕虜の数が多くてな…すまんがまだ報告は上がっていない」

「そう…彼女には申し訳ないことをしちゃったわ……」

「もしかすると共和国の支配域にもう入っているかもしれんな……」

「だとしたら追えないわね……」

 

そう話し、軽くため息を吐くと俺は部屋の電話の受話器を持つ。

 

「どんなのが有れば十分だ?」

 

それが娯楽の類であるとわかると、蓮子は少し考えた後に言う。

 

「そうね……まず雑誌ね。できればファッション誌なんかを……」

「そうか…では、取り寄せるとしよう。後ついでに新聞とかで良いだろうか?」

 

茂はそう聞くと、蓮子が頷いた。

 

「そうね、皆んな共和国の事も気になっている見たいだし、何より立川さん達の安否をみんな心配している」

「輝と共に移動しているなら正直望み薄だぞ」

「ええ、分かっているわ」

 

そう言うと、蓮子は最後に部屋を出て行く時に茂に言った。

 

「きっとみんな、貴方が茂くんだと分かった途端に態度を変えると思うから。……気を付けてね」

「あぁ、忠告ありがとう」

 

そう言うと蓮子は部屋を出て行き、俺はラジオの電源を落とすと調書を纏めて仕事を再開していた。




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