戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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四六話

この病院に収容されている同級生達は共和国の捕虜という事で病院内の大部屋で仕事に従事させていた。

女子はミシンを使って衣服を縫っており、男子は病院内の車庫で機械の修理をさせていた。

 

「全く、捕虜になったってのに…こんな仕事ばかりかよ……」

 

そう言い、ツナギを持って片手にスパナを持った築城義樹が工場でぼやく。

 

「まだ、収容所に入れられないだけマシなんじゃない?」

 

そんな築城に答えるのは同じくツナギを着て作業に従事する厚木隆之介であった。

彼は工具を手に持ち、エンジンの弁を弄っていた。

そんな厚木の返事に全員が頷く。

 

共和国の捕虜収容所ですらかなり悲惨だった。食事時に喧嘩ばかりだったあの場所を想像するとゾッとなってしまう。

それを考えたらこの場所は破格の待遇なのだろう。

まぁ、常に帝国兵の監視があるから自分たちの部屋でしか落ち着けないと言う欠点があるが……

 

「なぁ、そういやぁ。ここで一番偉いって言うさ……名前なんだっけ?」

「ディルク少佐か?」

「そうそう、その人。滅多に会わない人」

 

厚木がそう言うと、築城は頷いた。

 

「あの人がどうかしたかよ?」

「いやぁ…俺の間違いじゃなきゃいいんだがな……」

「?」

 

原木の言っていることに疑問符が浮かぶ築城であった。

今ここには他の同級生もおり、他の面々は送られて来たバスのタイヤ交換などをしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同時刻

病院内の大部屋

そこでは女子が足踏みミシンを動かしながら送られて来る黒い布を指定通りに縫い付けていた。

 

「はぁ…なんでうちらこんな事してんだろう……」

「まぁ、仕方ないよ。ウチらは捕虜なんだからさ……」

 

そう呟くのは前橋佳子と松本香里奈だった。彼女らは黙々と渡されて来る横の子が縫い付けた黒い布をミシンで縫い付けていた。

ミスで怪我をしてもすぐに手当てをしてくれたり、毎日ちゃんとした三食の食事が出るあたり、とても良い待遇なのだろう。だが……

 

「こんなに待遇いいならせめて雑誌くらいは読ませろぉ!!」

「まぁまぁ、落ち着いて」

 

そう言い、前橋が奇声を出し、松本が押さえていた。

部屋には銃を持った兵士が立っており、ウチらを監視していた。

そして大声を出した前山をジッと見ていた。

 

「ほらほら手が止まってんだから動かす動かす」

「は〜い……」

 

そう言い、やや疲れた様子でミシンで生地を縫い付けていた。

どうやら自分達がミシンで縫っているのは帝国の戦闘服の様で、完成して行く衣服を見て何となく想像していた。

すると時計の針が一二時を示し、昼休憩を知らせるベルが鳴った。

 

「終わった〜!!」

 

病院着のまま仕事場を出る二人はそのまま食堂に移動する。

 

「今日のメニューは何かねぇ……」

 

そう言いながら食堂に入ると、真っ白で清潔な食堂にツナギを着た男子も入って来ていた。

 

「うわっ、あんた達なんか臭いよ?」

 

そう言い、女子側の代表をする前橋が呟くと、横田が答える。

 

「仕方ねえだろ。こっちはバス直してたんだから……」

 

そう言い、汗を拭うと彼らはすでに食材の置かれたトレーを取る。

ここに来て一週間、もはや慣れた景色だと思いながら席に座るとそのまま食事を摂り始める。

食事中に呼び出されて食事が取れなくなってしまった事もあった戦場に比べたら何倍もいい暮らしだと思っていると、食堂に珍しくあの少佐がやって来ていた。そしてその手には木箱が抱えられていた。

 

滅多に姿を見ないディルクと言う糸目が特徴的な少佐だが、どうやら自分たちと同じ様な年齢で此処の責任者をしているらしい。どこかで見た様な気もするが……

めちゃくちゃ優秀そうだと思いながら私達はディルク少佐を見ていた。すると少佐は口を開けて私たちに言った。

 

「……君たちの要望に応えてここに本屋から何冊か本を仕入れた。ここに置いてくので自由に見ると良い。

また、希望があれば直接部屋にある電話を使って私のところに連絡を入れてくれ。こちらで用意できるものは用意しよう」

『『『っ!!』』』

 

一斉に全員が驚いた様子を見せる。するとディルクはちゃんと読んだら元の位置に戻すように言うとそのまま食堂を出て行った。

 

残った私たちは食事をとり終えてトレーを置くと一斉に仕入れた本を見に行った。

 

「すげぇ、最新版の週刊誌だぜ」

「こっちはファッション誌よ!」

「わぁ!これ共和国のだ!」

「あ、これ読みたかったやつだ!」

「おぉっ!!」

 

少佐が置いていった本は予想外にバリエーションがあって、しかも最新版の物だった為に驚いてしまった。

向こうじゃあそう言うのを読む時間もあまり無かったために常に最新版を読めるのはとても良かった。

 

携帯などの娯楽が使え無くなってしまい、古臭い遊びしか無かった私達は本を読む事や食事、外の景色を眺めるくらいしか楽しみがなかった。

だからこう言う雑誌を読めるのはとても有り難かった。

同級生が呟いていたのを誰かが聴いていたのかもしれない。それで少佐に伝わったのだろうと思いながら雑誌を読み更けていた。

 

しかし、彼らは未だに見つからない二人の同級生の身を案じていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

食堂を後にしたディルクはそこでコンラートから聞かれた。

 

「宜しかったので?」

「……あぁ、娯楽を置いてなかった俺のミスだ。それに、人には息抜きが必要だろう?」

「そうですな……」

 

そう言い、廊下を歩いているとコンラートはディルクに報告を入れる。

 

「少佐殿、昨夜四名ほど不審人物を捕らえたと報告がありました」

「……結果は?」

「全員黒でした」

「そうか…やはり仕掛けて来たな……」

 

そう呟くと、ディルクは顎に手を当てながら廊下を歩くとコンラートに言った。

 

「警戒レベルを引き上げるとしよう。何かあった時の為に車両を動かせるようにしておけ」

「はっ!」

 

そう言うとコンラートは去っていった。

 

 

 

 

 

ディルクは一人廊下を歩いているとふと俺は声をかけられた。

 

「少佐殿」

 

するとディルクは足を止めて声のした方を見るとそこには一人の病院着を着た一人の転移者が壁に背を預けて立っていた。

 

「君は確か……」

 

すると壁に背を預けていた原木は俺に近寄るとド直球に聞いて来た。

 

「お前……南部茂か?」

「?」

 

すると築城は吐き捨てるように日本語で言う。

 

「眼鏡かけて糸目にしときゃ良いっていいってか?ザルすぎんだろ」

「?すまんが何を言っているんだ?」

 

そう共和国語で返すと、原木はそんなディルクに言う。

 

「惚けるなら言ってやるよ」

 

そう言うと築城はディルクを追い詰めるように言う。

 

「お前さんが持って来た本だ。確かに俺達は娯楽がないとは言って来た。だがな、それは()()()()()だった。帝国の人間が分かるわけねぇんだよ」

「……」

「それにこの場所に日本語を理解できる奴なんでいない。であれは方法は二つ。

誰かが話を聞いてお前に言ったか。若しくは日本語をわかる人間がいて、それで必要な物を持って来させた。

そして、この場所にいる日本語を理解できる人間は俺たち以外は居ないはず()()()……」

 

すると築城は思い返すように言う。

 

「昔な、俺たちがここに呼ばれて、すぐにおっ死んじまった奴がいるんだよ。そいつの名前が南部茂という名前だった……」

 

そう言うと、俺は一言共和国語で築城に言った。

 

「すまん、何を言っているんだ?」

「は……?」

 

キョトンとした顔をしながら築城はディルクを見ると、そのままディルクは築城を見ながら言った。

 

「何もないなら失礼するぞ」

 

そう言い、ディルクは廊下を後にしていった。

築城は意味がわかっていなかった様子のディルクを見て困惑していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

築城に問い詰められたが、あっさりとかわせたと思うとゲルハルト大尉がやって来てある紙を渡した。

 

「少佐殿、ペッツ参謀総長から連絡です」

「分かった。ありがとう」

 

そう言うとゲルハルトは去っていき、俺はそこで紙を見る。そこで紙を見た俺は思わず目が見開いてしまった。

 

「コンラート大尉、至急来てくれ」

 

 

 

 

 

そうして部屋に呼ばれたコンラートに、ディルクは命令を出す。

 

「大尉、捜索者の一人が保護された。そこで大尉にその人物の移送を命令する」

「はっ!編成は如何いたしますか?」

「一個中隊を連れて行け。向こうで移送手段は確保してある。場所はここだ」

 

そう言い、印の施された地図を渡すとコンラートは敬礼をして部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

そして屋上に上がった第一中隊はそのまま魔導演算機を使って空に上がる。

車で移動よりも圧倒的に速い為に彼らは慣れた手つきで巡航速度で飛行する。

場所は帝国が支配した共和国領の捕虜収容病院。襲撃部隊の追撃を考慮して少し遠回りをしながら向かって行った。

 

 

 

コンラート達は地上20mを飛行しながら指定された場所に向かう。

時間が命だ、教国の連中が情報を掴むのも時間の問題。できるだけ早く飛行して行くと、予定された時間よりも早く到着してしまった。

 

「ここまで四時間か…復路は時間がかかりそうだな……」

 

そう言いながら到着した病院に止まる一台の救急車を見た。

護衛は第一中隊が担当し、対象者が搬入されたら移動が始まる。

コンラート大尉は少し待っていると病院から担架が運ばれて来てそのまま救急車に乗せられた。

 

「コンラート・ゲルニッツ大尉ですか?」

「はい、私がコンラートです」

 

すると医者はやや怪訝な目をしつつもコンラートに紙を渡した。

 

「骨は回復魔法で繋げましたが、安静第一ですので……」

 

そう言うと医者は病院に戻って行った。

よくよく考えればここは共和国。帝国の事を怪訝に思う輩もいるはずだった。

おそらくこの医師も共和国の軍人だったから治療をしたかもしれないが、これが帝国兵だったら分からなかった。

兎も角、担架を載せた救急車に運転手が乗り込み、病院から一台のトラックが走り出した。

 

自分たちが守りの要であると思いながら救急車に乗り込んだコンラート達はディルクから指令された命令をこなしていた。

 

 

 

 

 

後に彼はこの時の事を自分の手記にこう綴っていた。

 

『あの時、戦争はまだ終わっていなかったと自覚した。我々は内外に敵を持ち、その対処には相当な苦労をかけた。

 

そして私はつくづく思った……

 

 

 

あの人は恐ろしいほど邪悪な思想をしている。腹黒さで右に出る人は居ないだろう。敵においても味方においても……

 

 

元帝国陸軍中将コンラート・ゲルニッツ』

 

 

 

 

 




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