俺たちの小隊に上層部の気を伺うような命令が下され、全員が新型小銃片手に何処か浮き足だった様子になっている頃。俺はコードル軍曹に会いに行っていた。
「ーー今まで有難うございました」
「ちっ・・・ドムめ・・・」
あぁ、やっぱりそうだったんですね。俺は魔法兵にするための訓練でしたか。そう感じて思わず心があったかくなりそうに・・・・・・
「新米、よく聞いとけ。俺達は兵士。軍と言うのは規則の塊。俺には地位がねぇ。本当ならお前さんをここに置いていきたいが・・・・・・命令だ。俺たちは遂行しなきゃならん。誰が目を見張っているかわからん。だからお前は塹壕から出たら守るものはねぇ。とにかく頭を下げて走れ。幾ら夜でもサーチライトに照らされたら終わりだ。よく覚えとけ」
「りょ、了解しました」
そう言い、俺は小隊長の警告に敬礼で答えた。さっきの暖かさなどどっかに霧散していた。
数時間後、深夜に砲撃が始まった。それと同時に兵士たちが塹壕から飛び出す準備を始める。片手には新しい小銃を持ち、クリップをはめ込んでいた。
そして、砲撃の嵐が終わると一斉に兵士が飛び出す。夜の為か機関銃座の発砲炎がよく見え、俺は新型小銃に魔法弾を装填して引き金を引く。弾丸が真っ直ぐ飛んで行き、炎を纏わせる。しかし、雨が降っていることもあり日は直ぐに鎮火し、明かりが消える。地面は泥だらけになり、ぬかるんでおり、今にもこけそうになった。
雨の中、サーチライトがさまざまな方向に灯を向け、俺たちの影を探す。サーチライトが照らされた先に機関銃が向かい、銃が放たれる。
その恐怖に駆られていると思わず足がつまずいてしまった。
「わぶっ!?」
俺がこけるも周りの兵士たちはお構いなしで走り抜ける。真夜中大雨の突撃は敵に混乱をさせるもこちらも見えないと言うことで塹壕の穴に転落したり、鉄条網に気付かずに引っかかって怪我をしたり、サーチライトに照らされた影に集中砲火を浴びるなど被害もあった。
敵味方の砲撃が飛び交い、泥が飛び交う。兵士が飛ばされ、中には肉塊となって目の前に飛んできたのもあった。だんだんと慣れてきた光景に俺は落とした小銃を持つと次の塹壕に向かって走る。
「はぁ・・・はぁ・・・」
敵味方の砲撃が飛んでくる中、俺は顔を泥だらけにしながら前進する。今思えばこの時輝が俺を謀殺しようがどうでもよかったのかもしれない。そのくらい俺は夢中で雨の中を走り抜けていた。
その時だった。突如上空に虹色の・・・魔導砲撃特有のオーロラの様な緑白色の光が空に浮かんだ。
「う・・・そだろ・・・?!」
咄嗟に俺は塹壕に飛び込むのを足で静止して来た道を戻る。他の共和国の兵士たちも同じ様に来た道を戻り始め、帝国兵達も同様に今まででも指折りのデカさの砲撃に命の危機を感じて持ち場を捨て始めていた。その直後、
目の前の視界が真っ白に染まり、戦場を明るく照らしていた。
「すごい威力だ・・・・・・流石だ、ヘイルダム君」
一瞬だけ灯り、きのこ雲を形成した戦場の光にファーブルが軽く手を叩いて褒める。先ほどの大規模な攻撃を見て全員が唖然とする中。小野寺輝はヘイルダムという偽名を貰って魔導砲兵部隊で一個砲陣地の指揮を取っていた。
155mmカノン砲から放たれた魔法砲弾の威力は通常とは文字通り桁違いの威力を見せていた。
発射後から数秒経った後、近くにいた士官達から声が上がる。
「やったぞ!!」
「すげぇ威力だ!!」
「勝てる!俺たちは戦争に勝てるぞ!!」
勝てると勝機に湧く兵士たちを横目に、ファーブルはこの攻撃で使用された魔石の量を見て冷や汗を掻いた。
「やれやれ・・・・・・一度の砲撃で魔石箱が五箱も無くなるとは・・・・・・次に撃てるのは早くても一年後だな。その間は何も出来ないか・・・・・・」
そう言い、ファーブルは補給将校に魔石箱の交渉をしなければならないと思うと思わずため息を吐いた。おそらく二回目の発射は無いだろうが、帝国軍を絶望させる心意効果は絶大だろう。但し・・・・・・
「(よりにもよって盛大に前線部隊を巻き込みよって・・・・・・責任はどうするつもりだ)」
ファーブルは目の前にいる小野寺輝と言う青年に危機感を覚えていた。この攻撃は
一体
「ーーーーゴホッゴホッ!」
最前線では至る所から煙が上がり、身体中が痛い。まともに動かすのも辛いくらいだった。どのくらい気を失っていたのだろうか。雨は降り続けていたが、雲の色は明るかった。視界がクリアになり、俺は今ある体力を振り絞って上半身を起き上がらせる。そしてそこに見えたのは・・・・・・
敵味方双方の遺体が転がる地獄絵図だった・・・・・・
戦場と言うには不気味なほど静粛だった。そこで俺は顔に手をやるとそこで耳が切れて血を流していることに気づいた。耳の中の土を指で払い落とし、傷口を初級回復魔法で治す。うっすらと傷口は残るだろうが、男だし問題ない。しかしそれよりも問題だったのは腹の方だった。
「まずいな・・・・・・」
自分の腹には一センチほどの貫通した傷跡があり、そこから血が流れていた。その流れた血の量を見て普通なら失血死しているような量だと自覚した。死にかけだと言うのに俺は周りを見回して他の仲間達を探す。
「小隊長・・・・・・は・・・・・・伍長は・・・・・・」
俺がこけた時に見失ってしまったのかと思いつつ、俺は雨が降り、視界が絶望的に悪い中を這いずる。近くに銃身がひん曲がった小銃を見つけたのでそれを支えにして体を持ち上げる。
「ゼェ・・・・・・ゼェ・・・・・・」
特に軍曹には家族がいると聞いている。せめてその遺品でもあれば・・・・・・
正直生存は望んでいなかった。この死体の山である。遺体処理だけで相当な時間がかかってしまう。それにこの状況。遺体すら残っていない可能性すらある。せめて遺品さえあれば・・・・・・それに、俺みたいに生き残っている可能性もある。
そんなわずかな希望をもとに俺は満身創痍の体で塹壕跡を歩く。塹壕内も悲惨だった。帝国、共和国、両陣営の兵士の焼けこげた遺体や、一部が欠損した遺体。身体中に木材のかけらが刺さった遺体。判別不可能なほど損壊した遺体もあった。当然落ちている武器はボロボロ。使えるはずがない。
「あの野郎・・・・・・何もかも吹き飛ばしやがって・・・・・・」
俺は輝がこの前線に来たのはこのためだったのだと理解する。俺と言う存在を消すために・・・・・・
たかがクラスメイトにこんな事までするとは・・・・・・やはり奴は倫理観が欠けている。俺を消すだけならここまでする必要はない。人の命をなんとも思わない部類の人間だ。指揮官にしたら間違いなく兵士を遠慮なく消費させるまずい人間だ。戦争の「せ」の字も知らない奴だからこうなるんだ。
おまけに出世欲も強いからデモンストレーションを兼ねてのこの砲撃だろう。つくづく糞だと理解できる。
だが、前線の押し上げに間違いなく寄与するだろう。こんな爆発、塹壕戦の常識を文字通り吹っ飛ばした。戦線に大穴が開くレベルの砲撃。こんなのは戦争じゃない、ただの殺戮だ。
そう考えつつ、俺は塹壕跡を歩くこと十分程。兵士のコートの裏にあったドックタグを見ていると見つけた。
コードル・フォンテーヌ
その下には生年月日や血液型が刻印されていた。その遺体は背中に焼けた跡が残り、トレンチコートは焦げ、かろうじて残っていた塹壕跡にうつ伏せに倒れる形だった。それでも、この戦場の遺体の中では綺麗な方で、顔がまだはっきりと残っていた。
分かってはいたが衝撃を受けた。その時、どんな顔をしていたのかは分からない。だけど、嗚咽声だけはしていた。
「くっ・・・うぅ…!・・・あぁ・・・」
最後の会話は出撃前のあの時だった。もっと家族について聞いとけば良かった。俺がもっと強く進言して出撃させなければ良かった。
後悔先に立たず。
この現状でそう思ってしまうのもある程度覚悟していたからだろうか。少なくとも今はわからない。
だけどこれだけは確実に思っていたのを覚えている。
ごめんなさい
俺たちのつまらない事情でこんなに死なせてしまった。
まだ名前すら呼ばれたことがなかったのに・・・・・・
俺はコードル軍曹の遺体を確認すると近くに他のメンバーもいるのではないかと周囲を見回す。すると簡単に他の兵士たちも見つけた。その中には伍長も含まれていたが・・・・・・
「あぁ・・・あぁ・・・・!!」
その遺体は顔の右半分が吹き飛び、損壊した脳や眼球が垂れていた。見るも無惨な姿になっていた。他の兵士たちも二・三人は遺体の確認すらできなかった。
俺はふらつく身体を支えながら焼け焦げた戦場に残っていた一本の木を見た。数多の屍の上に生き残ったその木は真っ黒に染まっていた。
そこの下まで歩いた俺はそこで立っている体力がなくなり、地面に倒れる。地面に小銃を落として倒れた後はそのまま手を使って時の根元まで這いずり、そこで木の幹に背を預ける。雨が降り、来ている野戦服もずぶ濡れの泥まみれ。腹から流れる血の量的にもう死んでいてもおかしくない。
せめて最期くらいは良く見えるところからこの地獄を見届けたい。
そう思って俺は小高い場所にあったこの場所に来た。もし出来るのならこの惨状を奴に見せつけてやりたい。お前のしたことはこんな事なのだと。もう、この状況でヘルメットも糞もない。俺はどこかに落としたであろうヘルメットも気にかけずに腹を抑える。もう少し長く生きてこの光景を目に焼き付ける為に、少しでも多くの人に弔いの意を示す為に・・・・・・
「は・・・ははは・・・」
思わず乾いた笑い声が響く。
「結局俺は鉄砲玉かよ・・・・・・クソッタレめ・・・ウグッ!」
喋る度に意識が飛んで行く。ここで終わりなのかと思うと、呆れ半分、絶望半分だった。ここでアイツを・・・・・・小野寺輝を殺せない事が悔やまれる。
俺はその事しか頭になかった。もう、同級生なんかどうでも良かった。俺は、自分の地位向上のために全く関係のない兵士たちを巻き込んで、幾万もの命をすり潰したアイツが許せなかった。
血が流れる中、俺はポケットの中から蓮の花のブローチを取り出した。それは最後に同級生がくれたものだ。これを渡した同級生の顔を思い出しながら俺はつぶやく。
「すまねぇ・・・・・・俺、帰れねぇわ・・・・・・」
そうつぶやくと同時に俺はブローチを握ったまま腕を落とし、瞼が閉じ、視界が真っ暗になった。
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