戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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五二話

後に第五〇〇陸軍降下猟兵大隊を象徴する銃として部隊章にも使用されることになるフェドロフM1916。

部隊内でもキワモノを扱うは我らが大隊長の帝国陸軍少佐ディルク・フォン・ゲーリッツ。またの名を日本人高校生の南部茂と言う。

いや、もう二十歳になったから高校生じゃないな……

 

 

 

彼の提案した事、設計は戦争の在り方を大きく変えた。

それもそのはずで未来の世界に似た場所からやって来た男であり、戦争史を好んで学んでいた彼から出てくるのはいわば戦争の答え合わせに近いものだったのだ。

其の為、彼の独創的なアイデアは絶対成功すると言う妄信に駆られ。それは一部の政治家にまで影響していた。

 

 

 

 

 

そして、現在講和会議の使節団代表として共和国との国境近くの館で会議を開いているヴァルトー・ラーテナー外務大臣もその一人であった……

 

「いやはや、この条約案は実に素晴らしい提案だと私は思うのだがね……」

 

そう言い、ヴァルトーは机に置かれた紙を見ていた。

そして反対側の席にはヴァルトーが政治家の暴走を止めるためのお目付役として名指しで呼んだコルネリウスが座っていた。

 

「ええ、この条約には私も賛成です」

「だが、官僚どもが首を縦に降らん。共和国側にも好意的に受け止められたと言うのに……」

 

片手に紙タバコを持ちながらヴァルトーは置かれたうちの一枚の紙を見て再び煙草を吸い始めていた。

 

 

 

『軍需物資の等価交換に関する条約案』

 

 

 

最初にそう書かれたその紙は、要約すると帝国で多く算出する魔石と、共和国で多く算出する感応石を等価交換する物だった。

あくまでも理想系ではあるものの、両国の戦後復興や軍需物資確保にはちょうど良いものだと直感的に思っていた。

会議の後にこっそりと向こう側の使節団代表にこの話を持ちかけ、その人物もこの条約には旨さを感じていた。

向こうからすればただでさえ不足している魔石。それも高純度の魔石を合法的に手に入れられる可能性を感じ、帝国も高純度感応石を手に入れられる。まさに理想的な交換条約であった。

 

 

 

しかし、帝国側の官僚が『戦後の賠償金代わりに感応石鉱山を貰えばいい』と考えており、二人の頭を悩ませていた。

 

「やれやれ、今の帝国に鉱山を確保して管理できる財源はないと言うのに……」

「全くだ、儂も知らなかったら同じ事を思っていたと考えると恐ろしい……」

 

外相の側、実業家である彼は金に関することはとても詳しい。その為、現在の帝国が火の車であることは理解していた。正直今の予算から共和国に数多にある感応石鉱山の管理費を出せる余裕すらないのだ。

おまけに上が変わることで起こる混乱も加味すると共和国にそのまま採掘を担当してもらい、こちらが魔石を準備する方が遥かに安上がりなのだ。

 

「やれやれ、石頭の相手をするのも疲れるなぁ……」

「……」

 

ヴァルトーの呟きに、コルネリウスも内心同じ感情を抱いていた。そして、今の現状を見ていると、どうしてもあの国の関与を想像せざるを得なかった。

 

「(この会議にも教国の連中が混ざっているかもしれんな……)」

 

そう思いながらコルネリウスは警戒をしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『ーーーーと言うわけなのだ。少佐』

「……はぁ」

 

電話越しに思わず、相手が自分の上官である参謀総長だと言うのに大きくため息を吐いてしまう。

まさか、そこまで困窮しているとは……

 

「まさか、そこまで酷いとは……」

『コルネリウスが泣いておるよ。会議が進まなくなってから一週間、一向に官僚が首を振らないそうだ』

 

朝っぱらから総長の電話があり何事かと思っていると、講和会議での現状の報告だった。

共和国側の準備はとっくに終わっているのだが、帝国側が外相、義父の派閥と官僚の派閥で真っ向から対立していた。

 

正直、共和国の占領は夢物語でそんな予算が出せるかと態々講和会議をしている館まで足を運んだ財務大臣のお陰で其方の軍備の方は纏まった。しかし、賠償金やらの戦後補償の方で大揉めに揉めていたのだ。

今、財務大臣は忙しくて動くことが出来ない。その為、軍需物資交換条約を後押しするには何かが必要だった。

 

『はてさて、どうしたものか……』

 

電話越しでも分かる疲労に、よっぽどなのだろうと思いながら俺は話を聞くとふとある事が思いついた。

 

『コルネリウスは教国の関与を疑っているほどだ……』

「総長殿」

『?』

 

話し中に割り込んで悪いと思いつつ、俺は思いついた提案を総長にした。

 

「総長殿、こう言うのはいかがでしょうか?」

『……言ってみた前』

 

そう言われ、俺はかつてのある日本の政治家達を思い返しながら参謀総長に提案をした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーーと言うことらしいぞ?」

 

参謀本部の一室でペッツは上質な紙にペンを走らせながら部屋に来ていた人物に話しかける。

すると、その人物はペッツの話を聞き顔を引き攣らせていた。

 

「ハハハ……やっぱりあの子、感性のネジが飛んでいるんじゃないの?」

「仕方あるまい、彼奴の考える事だ。それに、これがあれば官僚を黙らせる事も出来る」

 

そう言いながらペッツは書類を書き終えるとある報告の為に参謀本部に訪れていたエレニカに紙を渡した。

 

「これで良いか?」

「ええ、ありがとう。……でも、皇帝陛下になんか会えるの?」

 

紙を受け取りながら聞き返すと、ペッツは答える。

 

「事前に連絡しておけば会えるだろう」

「……はぁ、いつになる事やら」

 

そう呟くとエレニカは紙を受け取ると部屋を後にする。

それを見届けた後、ペッツはある場所に電話をかけた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

移動直前の外出許可で朝っぱらから街に繰り出した彼らを見送りながら、車庫に来たディルクはそこでは先に空港に向かうハインリム大尉を見送る。

 

「先にお待ちしております」

「あぁ、また空港で会おう」

 

そう言うと先に止まっていたトラックが病院を発つ。それを見届け、ディルクは時計を確認する。

そして時間を確認した後は立川のいる病室に向かう。

 

 

 

部屋に入ると、そこで茂は彼女に聞いた。

 

「行かなくてよかったのか?」

「こんな状態なのに?」

「他のクラスメイトに頼めばよかっただろ」

 

そう言い、茂は彼女のお友達を思い出しながら聞くと、立川は首を横に振った。

 

「今、皆んな動揺していたから……」

 

そう言うと、茂も納得が行った。昨夜、立川から離された事実に小野寺親衛隊は動揺した様子をありありと見せていた。

今も他の者が街に繰り出す中、彼女達はまだ病院に残っていた。

 

「南部くん、車椅子に乗せてもらえるかしら?」

「ギプスは取れたのにか?」

「医者から止められているのよ」

 

そう言い、包帯が取れた腕を見ながら茂は彼女を昨日と同様に彼女を抱えて車椅子に乗せる。

運動を禁止ということは勿論……

 

「このまま屋上まで連れてってくれる?」

「屋上にか?」

「ええ、その方が景色がよく見えるでしょ?」

「……了解だ」

 

そう答えると、立川と茂はそのまま病院のボロい、今にもケーブルが切れそうな音のするエレベーターに乗る。

 

「これ…動くの?」

「あぁ、お前達をここに収容する時に最低限の点検はしている」

「最低限…日本だったら役所の人が出て来そうだけど……」

「ここは帝国だ。日本じゃ無い」

 

そう言い、ゆっくりと上昇するエレベーター。そんな中、横川は自分の座る車椅子を押す茂に聞く。

 

「……南部くん、貴方これから何をしようとしているの?」

 

立川は茂を見ながら聞くと、彼は少しだけ考えた後に彼女に言う。

 

「なに、単純な話だーーー………」

 

すると、上に登るエレベーターの中で茂は立川に言う。

話を聞き、立川は思わず呆れた声が出てしまう。

 

「はぁ……それ本気なの?」

「あぁ、本気だ。既に上官にも話は通してあるし、既に許可も取っている」

 

そう言うと、立川は驚いた表情をした。

 

「冗談でしょう?!……って言ってものその様子じゃあ既に進んでいるのかしら?」

「御名答」

「はぁ…あの人が貴方を敵視していた理由がわかる気がするわ」

「そうか?」

「えぇ、貴方に自覚はないでしょうけどね……」

 

そう言い、立川はため息を吐くとエレベーターは最上階に到着する。

柵を開けてエレベーターを降りると茂はそのまま横の階段を立川の車椅子を抱えたまま登って行く。

 

「わぁ、力持ち」

「お前の体重軽すぎんだろ……」

「あら、失礼しちゃう。女性に体重の話するなんて」

 

そう言い、一回も休憩することなく屋上に続く階段を登り切って扉を開ける。するとそこには……

 

「あっ……」

「えっ……?!」

 

屋上に立つ小野寺親衛隊の同級生が集まって屋上の柵の近くに立っていた。

バッチリ顔が合うと、思わず俺は彼女らに言う。

 

「君達……何をしているのかね?」

「あっ、えっと……」

「その……」

 

困った様子の彼女らを見ていると立川が俺に言った。

 

「ありがとう、少佐さん。送って下さって」

「……分かりました。また戻る時は言って下さい。裏で待っています」

 

そう言い、茂は離れて欲しいのだと理解するとそのまま屋上から出て行く。

そして屋上に立川と友人達が残ると立川が軽く威嚇するように口を開く。

 

「……先に逝かせないよ」

「「「っ!!」」」

 

そう言うと、立川はさらに追い討ちをかけるように彼女らに言う。

 

「飛び降りようとしてもこの高さで死ぬ事はないよ。むしろ下手に打って下半身不随になっちゃうかもね」

「「「……」」」

 

全てお見通しと言わんばかりに立川は話すと、舞鶴が横川を見ながら絶望した表情で言う。

 

「じゃあ、聞くけど……絵里はなんでそんな平然といられるの?あんな怪我をさせられたって言うのに……」

 

そう問われ、立川は車椅子の肘当てに手を遣るとグッと押し込んで立ちあがろうとする。

しかし、すぐに落ちるように車椅子に座ってしまう。

 

「っ!!あぁ、だめね。まだ痛いや……仕方ない」

 

そう言うと、立川は本当はまだダメだが、腕を大きく動かし。車椅子の車輪を回して舞鶴達に近づく。そして彼女たちの近くに寄ると街を見ながら舞鶴の問いに答える。

 

「私はね、知りたいの」

「知りたい?」

「そう、知りたい……」

 

舞鶴は疑問に思いながら立川の話しを聞く。

 

「あの人がなぜ私だと分かった瞬間に凶変したのか。私を車から突き落とすくらい怒ったのはなんでなのか。私は突き落とされるくらいどうでも良かったのか……色々思うことはあるけど、全部直接会って聞きたいの。

そりゃ、初めは怒っていたけどね。なんか一周回って落ち着いちゃった……」

 

そう答えると立川はほんの少しだけ濁った目をして帝国の街を見ていた。すると、そんな彼女を見ながら舞鶴が聞く。

 

「……絵里はこれからどうするの?」

 

舞鶴の二つ目の問い掛けに、立川は答える。

 

「私は、少佐さんについて行くつもりよ」

「……どうして?」

 

そう聞くと、立川は自身ありげに答える。

 

 

 

「あの人なら是が非でも小野寺君を探してくれるから」

 

 

 

「……」

 

何処からその自信が来るのかはわからないが、舞鶴は立川の答えにやや疑惑を持っていると立川は菱田達に言う。

 

「だからさ、皆んなも一回小野寺君に会って話しをしてみるといいんじゃ無い?そうしたら、あの人がどんな事を考えているのかも分かるかもだからさ……

 

 

 

まだ死ぬには早いよ」

 

 

 

そう言うと、舞鶴は驚きで目が若干泳ぎながらも立川を見た。そして最後に彼女は言った。

 

「トモちゃん、この街にメリッサの香水があったら買って来て欲しいな。後でお金払うから」

「分かった……行こ、皆んな」

 

そう言うと、舞鶴達は屋上を後にして行く。その様子を見届けながら立川は最後となるこの街の景色を記憶の中に収め、下を私服姿で出て行く舞鶴達を見送っていた。

 

 

 

 

 




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