戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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五三話

「なるほど、そこまで予想していたのか……」

 

車椅子を押しながら病院内を茂は立川に言う。すると彼女は少し誇らしげにするように茂に言う。

 

「えぇ、何もせずに死ぬのは生産性がないでしょう?

それに、南部くんの計画を聞いた後だと余計にね……」

「それはそうだな……」

 

車椅子を押して病院を歩いていると、立川は茂に問いかけるように言う。

 

「でも、良かったの?てっきりこのまま行くと思っていたのに……」

「あぁ、別に言って反発があったとしても、無理矢理連れて行く。これはもう決定事項だ」

「そうね……もし反発したら私からも言っておくわね」

「その時は宜しく頼むよ」

 

二人はそう話していると食堂に入る。

時刻は午後九時。門限近くなり、食堂には多くの同級生が集まっていた。

車椅子を押した後、ディルクは食堂に集まった全員に向けて声を上げる。

 

「皆さん、よく聞いてほしい。明日、ここから移動をするのは皆も知っての通りだが。ここには二度と戻ってこない。その為各自荷物を持って移動用の車両に乗ってもらう。そして飛行場に到着した後はそのまま航空機に搭乗して目的地に向かうことになる」

 

話を聞き、全員が頷く。そして俺は最後に付け加える。

 

「最大限の警戒をしているが、おそらく君たちを狙って来る者達が居るだろう。その為、もし危険が及んだ場合は済まないが自分の身は自分で守ってくれ」

 

そう言い、仕入れた本を読んで自分たちを招こうとした教国の危険性を理解した者はまたも頷いた。

あぁ、こう言う事を理解してくれるのはありがたい。いちいち説明しなくていいからな。

そう感じながら私服姿の彼らを見ながら俺は食堂を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

食堂を後にし、移動する準備が進む中。片付いた士官室で蓮子が片手に荷物を持って茂に渡していた。

 

「いやはや、重かった重かった……」

「あぁ、済まんな。重かっただろう」

 

そう言い、茂は苦労を労う。何せ、彼女が買って来たのは大量の酒だ。ガラス製で重いし割れやすいしで移動だけでヒーコラだった為だ。

 

「台車借りて来て正解だったわ……」

「また随分と買ったなぁ……」

 

そう言いながら木箱に整頓されて入っているボトル群を見ながら呟く。すると蓮子はそのうちの一本を取り出しながら言う。

 

「色々買ったのよ。ワイン、シャンパン、コニャックにバーボン。あとシェリーとかをね」

 

そう言い、赤ワインのボトルを見ながら蓮子は少しだけ浮き足だった雰囲気で言う。そんな荷物を受け取りながら俺は蓮子に言う。

 

「では、この荷物は責任を持って運んでおこう」

「大丈夫?着いたら全部割れてましたとかない?」

「そこは大丈夫だろ。こんなけ梱包されていたら」

 

そう言い、クッション材に木屑が入れられた酒類を見ながら答えると蓮子は私服姿で心配げにしながらも部屋を出て行こうとした。

 

「蓮子」

「ん?どうした?」

 

出て行く直前、蓮子に声をかける。彼女は振り向き、不思議そうにすると。俺は蓮子にある物を渡す。

 

「襲撃があった時。対応できるように渡しておく」

 

そう言い、茂は弾倉の入った共和国製自動拳銃と肩掛けホスルターを渡す。それを見て蓮子はやや驚いた様子を浮かべた。

 

「……良かったの?」

「あぁ、何も抵抗できないよりは何十倍も良い」

「……了解。もらって行くわね」

 

そう言うと、蓮子は拳銃とホルスターを受け取り、ホルスターを背負うと拳銃を脇に差し込んでいた。

 

「誤射には気をつけろよ」

「当たり前よ」

 

そう言い残すと蓮子は上着を着て部屋を出て行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日

時刻は午後八時。

酔い防止の為に柑橘系をなくし、量を減らした最後の食事を摂り終え。彼らは数少ない荷物を持って病院内の車庫のバスに乗り込む。

初めは不安をして自分達を訝しんでいたが、一ヶ月近く生活をして来た事で信用を得たらしく。ここに収容されていた理由も自分達がが薬害の被害に遭っていた事などを知って驚いた時もあった。

 

「全員乗ったな?」

 

久しぶりに戦闘服に身を包みながらバスに乗った同級生達に聞き、人数確認をする。

バズに乗るは二九名、いや俺も含めたら三〇人か。いやはやこんな事あるのかよと思いながら俺は目出し帽をして彼らを見る。

いつもと全然違う雰囲気に同級生達も目を白黒させながら俺を見る。

先行してプーマが走り、その後ろを同級生の乗るバス、隊員の乗るトラックが追従する。

何処ぞのVIP輸送かよと感じつつも俺はバスに乗るほぼ唯一の戦闘要員兼彼らの護衛責任者としてフェドロフ片手に席に座る。

 

「よし、出せ」

 

時計を確認し。予定よりも少し早めの二〇分に車列は病院を出す。

もし情報が漏れて待ち構えていても情報の手違いで混乱を招かせられればいいと言う考えからであった。

 

 

 

ここから飛行場までは車で二〇分ほど。既に輸送機は飛行場に到着し、物資も載せているはずなのでいつでも飛べる準備は出来ていた。

車庫からプーマが発進し、次にオムニバスが出る。ここに来た当初、彼らが修理したバスだ。

移動中、修理した築城などが子供かよと思いながら仕切りに自分が直したバスに心が昂っている様子だった。

 

 

 

 

 

移動開始から十分後、道中の半分まで来たが襲撃の様子は無い。

すると無線越しにゲルハルト大尉の声が聞こえる。

 

『ーーー閣下、進路啓開完了。不審車は全て抑えました』

「……了解、良くやってくれた。感謝する」

 

どうやら先に飛んだ中隊が予定進路に待ち構える教国や共和国軍残党の排除をしてくれたようだ。

おかげで順調に移送が進む。恐ろしく献身的でありがたいと感じていると、横に座っていた蓮子が小さく聞いてくる。

 

「隊員さん?」

「あぁ、そうだ。お陰で助かっているよ」

 

そう言い、夜の街を走る軍用車列。外に人は数が少なく、視線を集めることも無い。

割れたガラスで怪我をしない為に安全面から前以外の窓ガラスを取っ払った影響で中はめっちゃ寒い。だから上着を支給していたのだが……

 

「ひえぇぇえ!!風が冷てぇ……」

「なぁ!少佐さん!なんでこの車窓がねぇんだ?!」

 

そう言いながらやや凍えた素振りをする横田達。貴様ら狙われている事を自覚していないのか……?

そんな事を考えながら俺は銃を持て運転手に言う。

 

「このままだとどのくらいで飛べる?」

「この時間がもう旅客機は飛びませんからね。早くて三〇分といったところでしょうか」

「そうか……」

 

するとディルクは無線機の電源を入れて前のプーマに乗るコンラート大尉に連絡する。

 

「大尉、予定はこのまま進める。司令部に連絡を入れろ」

『はっ!』

 

途中、建物の影で車に銃口を突きつける隊員を見ながらディルク達の車列はそのまま襲撃を受ける事無く飛行場に入る。

格納庫には二機のJu390Aー2が後ろのローディングランプを開けながら駐機していた。

 

「ご苦労だった」

「はっ!」

 

六発の巨人機を見て感嘆の声を漏らす同級生達を見ながらバスは停車してそのまま同級生達を降ろす。

 

「早く乗ってくれ、席は自由で構わない。すぐに飛ぶぞ」

 

そう言い、機体に同級生達を纏めて載せる。今のところ警戒中の兵から襲撃の報は無い。現在警戒中の隊員達は後続の第二便に乗り込むことになっている。

 

中には既に一台のトラックが括り付けられ、それは先に出て行ったハインリム大尉の部隊のトラックであった。

その後ろの空いた空間に乗るように同級生達は臨時で取り付けられた椅子に座る。

本当はバスをそのまま乗っけられないかと思ったが、それだと今度は荷物が乗せられない事から今回は断念していた。反対側にはプーマとトラックが乗せされており、後から追いかけてくる予定であった。

 

「全員シートベルト着用。しなかった時の安全は保証しない」

 

そう言うと席に座った彼らはベルトを閉める。それを確認し、後ろを見ると後ろから例のワインの詰まった木箱など余った荷物をコンラート大尉達が慣性制御魔法を駆使しながらまとめて積み込んでいた。いつの間にそんな使い方覚えたん……?

そして護衛の第一中隊が乗り込むと俺はパイロットに指示を出す。

 

「ランプ閉鎖。準備完了だ」

「了解です。少佐」

 

そう言い、この前のミョルニル作戦時に自分達を運んだパイロットが頷くとランプの出入り口が閉まり、機体全体が動く。

その光景におぉ〜、となりながら同級生達は機体を見回すと燃料補給が終わり、エンジンが掛かる。

プロペラの回転数が上がり、機体がゆっくりと動き出す。既に席に座った俺や隊員達。

滑走路に向かってそのまま徐々に速度が上がり、後輪が浮き上がり。そのままタイヤの揺れが収まって離陸する。

離れて行く地面を見ながら俺は銃を握っていた。そして先ほどまで自分達がいた街を離れて行くのを見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

共和国との戦争は終わった。だが、新しい時代の戦争が幕を開ける。

 

現在停戦という形の共和国から離反し、戦争は終わっていないのだと豪語する共和国軍残党。

帝国や共和国に浸透し、転移魔法とそれに関連する技術を狙っている新たな敵、教国。

そして転移装置を確保し、その破壊を目的とし。教国を信用していない帝国。

 

様々な思惑が混ざり込み、既に奇々怪界と化す転移魔法争奪戦。

共和国の…それもジュール・ファブールが現在持っていると思われる転移魔法装置。

俺たちですらその全貌を見た事がないその機械に俺達の運命が掛かっていると思うだけで思わずゾワっとなってしまう。

あの話しを提案した俺も俺だが、なかなかぶっ飛んでいるような気もする……

 

 

 

この事実が公表されるとしたら多分何十年も後の事になるだろう。

そして、共和国に辛勝した帝国の行末はどうなるか。これから勝利に渇望し、戦いの時代に移るか。もしくは国民が戦争を許さず、薄氷の上の平和を迎えるか……

あの様な地獄の塹壕戦などの表に立つ大々的な戦争を終え。新たな時代、言うならば『静粛な戦争の時代』と言うべきだろうか……に入ろうとしている。

現在、帝国は共和国をその隷下に納め、大陸随一の国家となった。

残された小国家は帝国の動向に非常に注視している。

恐ろしい事にペッツ参謀や義父などの軍人があの地獄を見て『もう戦争は懲り懲り』と叫び、官僚や外交官などのあの地獄を見た事がない政治家達は『もっと勝利を!さらなる戦争を!!』と訴えている。

実際に戦争を経験した徴兵された者たちは帰還する。そして、再会した家族などにこう言うだろう。

 

『戦争は終わったが、もう二度と戦争に行きたくない』

 

そう、それが普通の感情であり、当たり前の事。かつては短い期間で終わっていた戦争が、この東西戦争では実に八年近い歳月を有した。

そしてそこで広がる景色にその場にいた兵士達は口々に『戦争は懲り懲り』と叫ぶ。

死んで逝った者達の意思が如何であれ、先ずはそう感じざるを得ない。

その為戦争が終わる。少なくともこの戦争を生きた人たちがいる間は……

だが、賠償金は如何なる?この戦争で支払った戦費は文字通り膨大だ。国債発行をしているからその分もきっちり返さねばならない。

だが、彼は知っている膨大な賠償金がのちに悪魔を産んでしまう要因になると言う事を……

 

 

 

 

 

これからの会議の行末で帝国の運命が決まると思いながらディルクは機上の人となって帝国を北に進んでいた。

 

 

 

 

 

 




第四章『終戦と開戦』完

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