戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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五五話

教官として訓練施設に招かれたシコルスキーは、泊まる宿舎の前の広場で綺麗に整列する彼らを見た。

 

「(すごいな、元々訓練を受けていたように綺麗だ……)」

 

そう言い、ビックリするくらい綺麗に座る彼らに見られながら前に立つとディルクが口を開いた。

 

「今日からこの施設の教官となるヘルマン・シコルスキー大尉だ」

「ご紹介を預かりました。ヘルマン・シコルスキーです。宜しく」

 

相手が転移者だと言う事で緊張しつつもシコルスキーが挨拶をすると、その転移者達も律儀に頭を下げて挨拶をする。

そんな彼らを見ながらシコルスキーが内心驚いているとディルクは言う。

 

「今日からシコルスキー大尉の命令を聞くように。訓練は明日から始まるくれぐれも遅れぬように。話は以上だ。では、解散」

 

そう言うと、彼等は立ち上がって服から埃を祓うと宿舎に戻って行く。

どっちかと言うとコテージみたいな建物だが、よくこんな施設の建設許可が降りたと思いながらシコルスキーはディルクに誘導され施設を案内された。

 

 

 

 

 

「ーーーこちらがサウナ、及び浴場です」

「……」

 

そう言い、最後に案内された場所を見て思わずシコルスキーは思っていた言葉が溢れてしまった。

 

「……此処はリゾートかね?」

 

そう思ってしまうほどに、此処は施設が充実していた。

各部屋は防音仕様となり、こうして大浴場が置かれていた。一応近くには海もあるし、リゾートのようだと言うと、思わずディルクが突っ込んだ。

 

「いや、リゾートにしては環境が悪すぎます教官殿」

「ははっ…いかんな、まだ戦場の癖が抜けていないようだ……」

「まだ終わってから一ヶ月ですからね……」

「講和会議も終わりそうだし、これでいよいよ平和が訪れるよ……」

「……」

 

そう言い、息をするシコルスキーに思わず俺は内心思ってしまう。戦争はまだ終わらない、と……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーーここでは基本的に共同生活ですので、何かありましたら自分に連絡をお願いします」

「ああ、了解したよ。少佐殿」

 

シコルスキー用の教官室で最後にディルクは報告をする。

 

「ここに来てから基礎訓練はさせました。団体行動と銃を持った行軍は出来ます」

「……もう、十分じゃないか?」

 

すると彼は言う。

 

「いえ、まだ銃の分解と整備を行っておりません。それに、まだ全ての装備を持った状態での行軍訓練。肝心の戦闘訓練は出来ておりませんので」

「そうか…ちなみに期間は……」

 

シコルスキーは到着してからディルクに詳しく聞けと言われていた為に彼に聞くと、姿勢を崩さずに答える。

 

「参謀本部から二ヶ月以内に訓練を終わらせるよう命令を受けております」

「了解した。それまでに魔法兵として活躍できるように仕立てれば良いのだな?」

「その通りです」

「既に銃を持って行軍ができるなら二ヶ月でなんとかなりそうだな……」

 

そう答えると、シコルスキーはディルクに言う。

 

「では、明日から本格的に訓練を始めよう。その準備は出来ているかね?」

「はっ!既に必要な物資は揃っております」

 

そう言い、ディルクは確認をとった後に士官室を後にして行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

大尉と連絡し終え、転移者達の住まう宿舎に移動した茂はそこで蓮子の出迎えを受ける。少し髪が濡れており、風呂に入ったのが分かった。

 

「もう、風呂の時間か?」

「ええ、茂くんも入ってきたら?」

「あぁ、そうしよう……」

 

そう答えると茂は制服を着たまま宿舎に入って行った。

中では既に風呂を出た同級生達が俺を見てやや気まずそうにしつつも持ち込んだトランプやチェスで遊びに興じいていた。

 

「あ、南部」

「何かあったか?」

「ん?あぁ、いやぁ…ちょっとな……」

 

そう言い、原田は茂を一瞬だけ見た後にそのままトランプを友人達としていた。

そのまま茂はそんな彼らを見た後に風呂場に向かっていった。

リビングにいた彼らはそんな茂を見ながら言う。

 

「なんか、気まずいな」

「仕方ねぇだろ。こっちは死んでたと思ってたんだから……」

「接し方が分かんないしね……」

 

そう言い、彼等はここに来た頃の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ーー時は戻り、二週間ほど前

 

病院から移動し、この半島の飛行場に移動した彼等はそこから一緒に載せていたトラックや、空港にあったトラックに乗り込んでコテージのような宿舎に到着する。

 

「おぉ……」

 

中に入り、思わずそんな声が漏れた横田達。すると自分たちをここまで運んだディルク少佐が車椅子に座る立川をリビングに入れていた。

もう骨はくっついて後はリハビリだけなのだが、激しい運動は控えるよう言われていた。

 

ディルクは眼鏡を外しており、視界は大丈夫かと思っていると立川が言った。

 

「ありがとう。南部くん」

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

立川の呟きを聞いていた横田や舞鶴は固まった。いや、この場合は凍り付いたと言う方が正しいだろうか。

しばらく固まった後、恐る恐る横田がディルクを見ながら聞いてきた。

 

「お前…本当に南部茂なのか……?」

 

そう聞くと、糸目をしていた彼は瞼を広げて瞳を見せた後にやれやれと言った様子で日本語を話した。

 

「まさか、ここまで気づかれんとは思っていなかったがな……」

 

そう言い、日本語で話した事に全員が驚愕していた。

 

「ほ、本物なの……!!」

「むしろ俺は一向に気づかんお前らに驚いているよ」

「嘘だろ?!何で生きてんだ?!」

 

そう言って言葉がチグハグになりながら彼等は茂を見ていた。

ここで立川から明かされるかと思いながらも茂は彼等の問い詰めに答えていった。

 

 

 

 

 

少しした後、話を聞き続けていた築城が要約をした。

 

「えっと……つまり、南部は小野寺の砲撃を受けて、生き残って、それでこうして俺たちの前に現れた……っと?」

「ざっくり言うならそうだな」

「「「「……」」」」

 

築城の要約を聞き、全員が絶句すると共に三沢が恐る恐る聞く。

 

「じゃ、じゃあもしかしてここに連れてきたのって……」

 

自分達に復讐するためかと言おうとした時、挟むように茂は言う。

 

「馬鹿かお前らは。復讐するならお前らを見つけた時に全員撃ち殺しているに決まってんだろ。その方が手っ取り早い」

「あ、あぁ…そう言えばそうだな……」

 

混乱しながら横田達は理解が追いつくとそこで舞鶴が立川に聞いた。

 

「ってか、絵里は気付いていたの?」

「ええ、もちろん。最初に会った時にね」

「じゃあなんで言わなかったのよ」

 

そう言うと答えたのは茂だった。

 

「お前らの事だ。正体を明かせば、俺のことがさぞお嫌いなお前らはあそこから逃げ出そうとするだろ?」

「べ、別にそんな事しないわよ!!」

 

舞鶴はそう言うも、茂は更に続けて言う。

 

「じゃあ、聞くが。お前らが立川の話を聞く前だったとしても、同じことが言えるか?」

「「「……」」」

 

茂の追求に誰も反論できなかった。正直、立川の話を聞かなかったら南部が生きていた事実に絶句し、文句や嫌味を言っていたかもしれない。

 

 

 

なぜなら、自分達にとって小野寺の言う事は全て正しいと思っていたのだから……

 

 

 

そう思っていると、茂が苦笑しながら吐き捨てる様に言う。

 

「つまりはそう言う事だ。お前らが小野寺に狂信的な崇拝をした心情も理解できるが、自分で考えて行動する事もしろ。子供じゃねぇんだ」

 

そう言うと、茂はそのまま捲し立てるように話す。

 

「お前らは砲兵隊の一人として戦場を移動していた。後方で大砲を撃つだけの仕事だったかもしれんが、それでも戦場という非現実の中に居た。そこでお前らは何を学んだ?あの世界で一人になったらどうするつもりだった?」

「それは……」

「戦場では何が起こるか分からない。常に状況を把握し、柔軟な思考が必要になる。

この世界で俺たちは孤独なんだ。守ってくれる家族も先生も居ない、非常に脆弱な存在だ。そんな世界で生き抜くためには自他共に嘘をつく必要がある」

「嘘……?」

 

三沢の呟きに、茂は答える。

 

「そうだ、嘘だ。世の中には必要な嘘というものがある。俺が帝国軍人として働けるのもひとえに嘘をついたからだ。

そして、お前達をあの戦場から見つけたのも、お前らの中に嘘をついた人物がいるからだ」

「「「!!」」」

 

それが自分たちの中に内通者が居るのかと理解すると咄嗟に周りを見る横田達だったが、その瞬間に茂は言う。

 

「おっと、まだ言わないぞ。この中にまだ小野寺の信奉者がいる間はな……」

「どうして……!!」

「俺はまだ、お前らを信用していないからだ。その理由は……分かっているな?」

「「「……」」」

 

茂にそう言われ、思わず黙り込んでしまう。彼らには、茂から信用を一切無くさせた事に心当たりがあり過ぎたからだ。

そんな彼らを見ながら、茂は更に話を続ける。

 

「それに、貴様らが望んでいる『日本への帰還』もできるかどうか怪しいからな」

「ど、どうして?」

 

舞鶴がそこで驚いた表情で聞く。

 

「確かにジュール・ファブールは『元の世界に返す方法はある』と言った。だが、それが『五体満足で』とは一言も言っていないだろう?」

「「「?!」」」

 

茂の指摘に一瞬困惑するも理解すると全員が驚く。そして三沢がやや震えた声で呟く。

 

「じゃ、じゃあ私たちは……」

「そうだ、騙されていたんだよ」

「そんなっ!!」

 

心の支え、またこの世界で働く理由であった日本への帰還という目的を潰され、思わず全員が嘘だと言いたくなる所を茂は予想していたかのように懐から数枚の紙を取り出し、転移魔法に関する論文の話を持ち出した。

 

「これは、転移魔法の学術的論文の一端だ。あくまでも仮説でしかないが…転移魔法は世界と狭間にある空間を膨大な魔力を使用し、次元を曲げて接続。その間にホールと呼ばれる通路を作り出し、その中を強力な磁場で守られた人・モノが通過するらしい……まるでフィラデルフィア計画の様だな」

 

そう言い、フィラデルフィア計画を知らない面々は首を傾げていたが、それでもどういう経緯でここに来たのかを聞いた彼らに、茂は説明を続ける。

 

「つまり、俺たちは運が良かった。転移魔法の被害者ではあるものの、こうして全員が五体満足で来れたんだからな」

 

まぁ、神様のおかげだったんだが……

そう思いながら茂は論文を横田達に渡しながら言う。

 

「何、希望を失う事はない。この論文が正しいのであれば帰れる方法は必ずあると言う事だ。

 

 

 

 

 

……俺にある計画がある。乗るかどうかはお前達次第だ。

 

 

 

 

 

危険を承知で、人を殺す事になっても日本に帰れる道を選ぶか。

 

はたまたここで残された人生を静かに平穏に過ごすか。

 

 

 

それはお前達個人が決めろ。決して他人に惑わされるな、己の意思で判断しろ。

俺から言えるのはそれだけだ」

 

そう言うと、茂はコテージに集まった同級生二九名に選択を迫った。

 

 

 

 

 




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