戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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五六話

正暦一九三九年 八月一〇日 午前六時

帝国北部の半島 特別訓練施設

 

その日、朝早くに宿舎のベルが鳴る。その音と共にコテージの部屋から同級生達が扉を開けて出てくる。

帝国軍の歩兵用の野戦服を見に纏い、外に出ると彼らは前に立つとこの施設の責任者である、今はディルクと名乗る帝国軍少佐に敬礼をする。

共和国で最低限の訓練をされた彼らは慣れた物であるが、同級生相手に偽名で呼ぶことに若干の抵抗があった。

 

「少佐殿、全員揃いました」

「了解した」

 

そう言うと、ディルクは彼らに言う。

 

「諸君、今日は射撃訓練を行う。〇八〇〇まで此処にに集合しろ。以上だ」

「「「はっ!!」」」

 

そう言い、全員列を整えたままその場を後にする。突貫で訓練する為に彼らにはある特殊な訓練を施していた。

そして此処での共同生活にあたり、彼らの食事を作るのは当番制であり、すでに男女平等にシフトが組まれていた。

その中にはディルクも混ざっていた事から誰も文句は出なかった。

 

食堂に向かう彼らを見届けると、横からシコルスキー大尉が顔を覗かせた。

 

「やっぱり私はいらないんじゃないのかね?」

 

そう呟くも、ディルクはそんなシコルスキーに言う。

 

「大尉には大尉にしてもらいたい事があるのです」

「何かね?」

 

そう聞くと、ディルクは答える。

 

「彼らは帝国軍の魔法兵としての才能は平凡です。魔導適性は高いですが、どちらかと言うと歩兵に近いのです。

自分はずっと魔導演算機を駆使した戦闘を主にしてきましたので、些か特殊すぎるんです」

「あぁ、それで普通の魔法兵としての戦い方を教えてくれ……そう言いたいわけだな?」

「その通りです」

 

そう言い納得したシコルスキーを見て、ディルクはやっぱり頼んで良かったと思うとそのまま宿舎に移動した。

 

 

 

 

 

宿舎の中の自分の部屋に三七式魔導演算機が置かれ、そこでディルクはある連絡を入れる。

魔導演算機とは別に置かれた印刷機と演算機を繋ぎ、電鍵を叩くと少しした後にレシートのように印刷された紙を見る。

それを見ながらディルクは少しだけ目が細くなり、再び連絡を取る。

 

相手は参謀本部内に設置された転移魔法特別対策班だ。教国という見えない敵と転移魔法装置を巡って争奪戦を繰り広げる彼らは諜報戦を繰り広げることとなっていた、

また、此処に独立魔導砲兵大隊を回収しようとする今は旧共和国軍残党もおり、三つ巴の戦いを呈していた。

現在、転移装置の保有は共和国軍残党が持っていると推測され、対策班は追跡をしている。

共和国政府ですら把握していないと言う事は確実にジュール・ファブールが何処かに隠し持っていると思われる。

それに、小野寺輝ことヘイルダム・ルメイは共和国軍の管轄下におらず、何処にいるか把握しきれていない様子だった。

 

 

 

 

 

自由に動ける戦争のエースほど恐ろしいものは無い。

それは抵抗組織に多いなる士気高揚を生み、周りからはその力を振るわれる事を恐れる。

特に小野寺輝と言うエースの四個師団をまとめて吹き飛ばすことができるあの力は共和国政府すら恐れていた。

あれをルテティアに撃たれた場合を想像したらと思うと……共和国政府が血眼になって探すのも理解できた。

それに、抑止力として彼を使いたいと言う思惑もあるのだろう。この前ペッツ参謀総長からこんな話が舞い込んだ。

 

『共和国から共同で白い悪魔の確保をしたいと要望があった。向こうは白い悪魔が転移者である事を把握している様だ』

 

転移者であると分かっていてもその保有する力は国を守る為に必要であると言う事なのだと感じながら俺は一瞬ヒヤッとしたのを思い出していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

通信を終え、外に出るとそこでは射撃場で帝国製半自動小銃(Gew43)や帝国北部に存在する国家、ノルデンランド同盟製の短機関銃(スオミ KP/-31)を撃っていた。

どちらも俺が選定した武器であるが、元々緊急で小銃の訓練は共和国の軍人から教えられていたそう。反動もほぼ同じなので後は整備を覚えるだけとの事。

ちなみに共和国政府も元独立魔導砲兵大隊の人員を捜索中らしいが、彼等の上司は居ないし。彼等に近いヘイルダムもいないから確認もできない。護衛をしていた歩兵部隊も教国の襲撃で全滅。確認する術は無かった。

共和国政府も彼等が転移者である事を知っているからこそヘイルダム程ではないが彼らを探していた。まぁ、絶対に見つからないだろうし。死体はあの時倒した教国の騎士団の身包み剥いで着せて偽装をしていた筈だが……

 

 

 

 

 

そんな事を考えながら射撃訓練を終えた彼等は武器の点検をし、部品の使い方を覚えさせる。

そして元に戻した後。当番が作った昼食を摂り、次に行うはこの世界の立地やこの世界で必要とされる一般教養であった。

 

「ーーーと言うわけで、帝国南西の共和国との間に存在するのがミッドガルド教国だ。

彼の国は聖地条約と呼ばれる国際条約によっていかなる侵攻も許させず。また、魔法裁判と呼ばれる禁術指定された魔法を使用した場合は処刑もしくは終身刑が与えられ……」

 

映写機で地図を写しながら教室で俺が棒を片手に必要だと感じた知識を彼等に教える。今日は例外だが、通常であればこれが半分に分けられて交代交代で訓練と授業をしていた。士官学校ではないものの、なるべく必要な知識は叩き込むつもりでいた。

ちなみに彼らの着ている軍服は、あの病院で女子達がミシンで縫った物だった。

 

「まさか、そこまで計画していたなんてね……」

 

授業が終わり、大部屋を出ていく前橋は腕を伸ばしながらそう呟く。そんな彼女に松本は頷きながら答える。

 

「そうね、あんな事考えるくらいだから。そりゃ、小野寺くんが妬みそうだよ……」

「そうだね」

 

二人はそんな事を言いながら施設にある食堂に向かう。

 

 

 

午後六時

そこでは当番の舞鶴達五人が厨房にある機材を使って今日の夕食を作っていた。

 

「今日の夕食はグラーシュよ」

「「「おぉっ!!」」」

 

舞鶴の作るグラーシュは好評で、彼らは嬉しげな声を上げる。

共和国砲兵隊とは違い、きちんとした料理をちゃんとした食材で作られた飯がどれほどうまいか噛み締めていた。

どれだけ日本での生活が幸せだったのか、彼等は理解していた。

皿に注がれるグラーシュを口に頬張りながら彼らは食事を摂っていると、茂が全員に言う。

 

「明日より夜間訓練も視野に入れる。叩き上げだ、ついてこれない奴は置いていく事を覚悟しておけ」

「「「了解っ!!」」」

 

そして、夕食を摂り終えた後は今度は志望者のみで行う補習や追加の自主練、入浴が待っている。

生き残るために必要な術を、既に地獄を生き抜いてきた人から自分達は教わっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

午後一〇時

月が空に上がる中、半島の砂利道をライト無しにある集団が走る。

 

「ゼェ…ゼェ…」

「はっはっはっ!!」

 

走っているのは築城や横田などの同級生達で、彼等は体力作りの為に飛行場と宿舎の間の何もない平坦な場所を月明かりを頼りに走っていた。

自主練の一環で汗を流しながら飛行場との間を走った彼らはそこで肩から息を流しながら地面で横になる。

 

「はぁ…やっべ、体力落ちてるな……」

「仕方あるまい。俺たちは病院で薬抜いていたんだから」

 

そう言い、彼らは病院に収容されていた理由を思い返す。

どうやら自分たちがうまいうまいと言ってがぶ飲みしていたジュースの中に麻薬が入っていた様で自分たちの体は薬中になっていたと知ってショックを受けていた。だが、毎朝痛みに耐えて打たれていたあの注射が治療薬だと話を聞いた三沢から言われ、俺たちは若干信じられないと思いつつも受け入れていたのを思い返す。

 

「しかし、人は見かけによらんのだな」

「あぁ、人間不信になりそうだよ……」

 

そう言い、二人は自分達をここに呼んだジュール・ファブールを思い出す。あの親切な顔の裏には悪魔の様な感情があったと思うとゾッとしてしまう。いつか張っ倒してやると思いながら彼等は飛行場から遠くに見える宿舎の灯りを確認する。

 

「さ、戻るぞ。俺たちも南部に負けてらんないからな」

「あぁ、そうだな」

 

そう答えると彼等は飛行場から再び宿舎に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

同時刻、宿舎の大部屋では茂が集まった数人の同級生達に話術と戦場で使えるテクニックを教えていた。

彼はエレニカから教わった諜報員としての技術を教え込んでいた。深夜まで掛かろうと関係無い。同級生達の中から才能があると感じた者をこの補習に呼び出していた。

 

「ーーーつまり、相手に居心地の良さを与えれば。それは話し手のおかげだと考え、より親密な関係になりたいと感じる。

大量に得られる情報を取捨選択しながら、自分が本当に必要としている情報を得るのだ」

 

あの正体わからんやべぇ研究者と同じ事を言いながら授業をしていると、授業に参加していた蓮子から質問が飛ぶ。

 

「では少佐殿、人を惹きつける方法は理解できましたが。その情報を選択すると言うのは……」

「それはその時の情報を細かく把握し、常に最善の手を考えるのだ。情報収集をする際、自分たちの周りは敵に囲まれている事を自覚し、常に逃げ道を確保し続ける事も必要となって来る」

「了解しました」

 

俺のことをディルクではなく茂と呼ぶことを許されることは無い。常に少佐殿と呼ぶ様に厳命し、ボロが出ない様にしていた。厳しくて辛いと泣き言を言う奴は少しいたが、周りがそれを支えていた。

真夜中まで射撃訓練に付き合ってくれるシコルスキー大尉には感謝しか無かった。

 

「転移者とやらはこんなにも勤勉なのかね?こっちの方が教え甲斐があっていいよ」

 

そう言って大尉もやる気満々になって戦場で学んだ歩兵の知識も彼等に教えていた。

ちなみに、シコルスキー大尉が立川を見た時。驚いた後に心底ほっとした顔をしたのだが、どうやら幹線道路で彼女を助けたのがなんとシコルスキー大尉率いる歩兵部隊だったのだと言う。

奇跡的な話に思わず周りの奴らも驚いた後、立川の肩を叩きながら大尉は言った。

 

『君が無事なのももしかすると神の加護があるからかもしれないな』

 

そう言い、大尉は立川の回復を喜んでいた様だった。

 

 

 

 

 




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