「あっ、あぁ……」
首から音を鳴らしながら宿舎を出たディルク。一晩中、二人相手の運動で疲れが流石にあると思っていると、シコルスキー大尉が俺の前に立った。
「やぁ、随分と夜遅くまで訓練していた様じゃ無いか」
「えぇ、お陰で体が痛いですよ」
そう言うとシコルスキー大尉は笑いながら言った。
「はっはっはっ、良いでは無いか。若いのは羨ましいよ」
そう言い、笑い飛ばした大尉を見ていると今日も今日とて訓練の為に広場に同級生達が集まる。
そんな彼等を見ながら点呼をとり、半分に分けたチームで午前と午後で訓練を後退する。
もう慣れた光景ではあるものの通常では絶対あり得ない事だった。既に教養は教え終わったので、俺が次に彼等にナイフの使い方を教えていた。勿論実際にやり合うための実践用だ。体術も教える為に夜までかかっている。
「甘いっ!もっと脇を締めろ!」
「はいっ!」
「そこ!しっかり握ろ!ナイフを盗られるぞ!!」
「はいっ!」
広場で指示をしながらゴム製ナイフを持った同級生達に指導を入れていく。そこに甘えも妥協もない。
「三沢ぁ!足に力が入っとらん!」
「はっ、はいっ!!」
「横田!腕をもっとしっかり振れ!」
「はいっ!少佐殿!」
昼にナイフを教え、夜は話術や自主練。体力の無さに嘆く者達は、今まで蔑んでいた俺に対する対抗心からか諦めるものは今の所いなかった。
飛行場と宿舎を行ったり来たりして走り、森の中を足跡と気配を殺して歩く。
正直此処までやられるとは思ってもいなかった。時折、長めの休みをしながらこんなヘルハードスケジュールをこなして行くと、フル装備で笑って走れるくらいには体力が付いていた。
正歴一九三九年 八月三〇日 午後六時
特別訓練施設前広場
壇上にディルクがフル装備の状態で立ち、同級生達を眺める。彼らはディルクと同じ漆黒の降下猟兵の戦闘服に身を包んでいた。
その傍にはシコルスキー大尉が立っており、彼らを見て満足げな様子を浮かべていた。
「では、今日の訓練は此処までとする。各自武装を確認した後、休息を取れ!」
「「はいっ!!」」
そう言うと同級生達はできた顔つきで解散し、それを眺めながらシコルスキー大尉は言う。
「良い顔つきだな。まだまだ人を撃った事がない、一皮剥けていない顔だ」
「いずれ何人か吐くでしょうな」
「そんな事が起こるのかね?」
「…さぁ?私にはまだ……」
軍事機密の関係で大尉には話さないが、彼等には今度ある任務が与えられる予定である。そこで戦闘になるのはほぼ確定していた。
そのための装備も現在エレニカ技師によって開発、制作されていた。
ベッツ参謀総長達も転移者たちにただ飯を食わせるわけが無く、彼らを抑止力として使う算段をしていた。対教国の為の……
現在、今だに小野寺輝の詳しい居場所は分からないが、このマジック・ソナーによると西南西方向にいるのが分かっている。
実にこの機械は便利だ。俺と蓮子の分が制作しており、これを知った立川の分も製作中である。
一応言っておくと、昨日立川の関係を持つ事になったが、俺に蓮子という先客がいると答えると『じゃあ愛人でもいい』と言いやがった。
立川とは何とも微妙なよく分からない関係で、本気で付き合うつもりなのだろうが、俺と蓮子の関係に混ざろうとは思っていないらしい……が、二人は対立関係にあると来た。なんてこったい\( ˆoˆ )/
と言ってもライバル関係で殺すとかそういうのがないのだけは本当にほっとしていた。なんか昼ドラみたいなのはごめん被る。
「はぁ、やれやれ。何とか形にはなりそうだな……」
そう言うとディルクは広場を後にし、食堂へと向かって行った。
ーーー時は遡り、転移者達が行方をくらませた頃
帝国南東部 ミットガルド教国 聖都ペトロ
白い大理石で建てられた建物が並び、多くの聖職者や魔法師が闊歩するこの地、聖地とも言われる場所にその建物はあった。
ミッドガルド教皇庁
国の名を冠するその建物はこの国の政府機関が並んでおり、より一層豪華な内装が加えられていた。
そんな建物の中の一室、『魔法省魔法管理部統括管理課』と打たれた部屋の一室で一人の男が机を壊しそうな勢いで叩きながら叫んだ。
「何だとっ!?姿が一切消えたと言うのか!?」
そう怒鳴るのはこの部署の管理者であるマッキ・カーター大司教であった。
彼は禁術指定された転移魔法を使った
すると司祭服を着た部下が報告を入れる。
「は…リッテンベルク市内の病院を監視していた部隊が容疑者の移動を察知。拿捕しようとしたところを帝国軍飛行魔法兵が急襲。……その後の行き先は不明です」
報告を終えた途端、マッキは怒鳴り散らす。
「馬鹿者!!直ぐに後続を率いて探させんか!!」
「後続……ま、まさかっ!?」
すると、マッキはニヤリとすると部下に言った。
「あぁ、『黒檀の騎士団』を連れ出すのだ」
「そんなっ!危険過ぎます!!」
慌てて部下が止めようとすると、マッキは言う。
「では、聞こう。この期間で我々の騎士団は何人失った?」
「……」
「転移者を守るのはあの帝国の英雄と称される黒い天使だ。
奴の戦果は恐ろしい。恐らく通常の騎士団を送り出してもやられるだけ。ならば狂った奴には狂った騎士団を送り込むべきだろう?」
そう言うと部下は恨みが詰まったマッキを見て心が折れた。
「……分かりました」
「うむ、直ぐに準備を進めたまえ。あぁ、もちろん我々が関わっている事は教皇閣下には悟られるな」
「了解しました。直ぐに出発させます」
そう言うと部下は消えていき、マッキは椅子に深く座り込む。
「ふぅ……」
椅子に座り込んだ彼は外の彼の国のトップが住まうサン・ペトロ大聖堂を眺める。
「我々は確保せねばならない…必ず……」
そう呟くとマッキは拳を強く握っていた。
教国には国を守る武装組織として騎士団が存在する。
一種の義勇兵に近いものだが、それぞれの部隊には白檀や樫、セコイアなどの木の名前が与えられ、それぞれ教国への忠誠で等級が決まっていた。
一番上は黒檀の騎士団と呼ばれる部隊であり。教国の命令を何も疑わずに遂行する事から、内外共に『狂騎士団』と呼ばれていた。
この前、転移者達を捕縛しようとしていたのは話術に長けた事で有名な白檀の騎士団であった。これも、黒檀の騎士団と同じく信仰心の熱い信者で構成されていた。
「見つけたのか?」
「はっ!それらしき建物を確認しました」
帝国のとある田舎にある無人の半島平坦な土地が人がっているものの海風が強い為、夜は寒く昼も晴れていることがあまり無い為に不人気の場所であった。半島に続く道に数台の車がライトを消して停車しており、彼等は黒衣の様な衣装を見に纏っていた。
すると車に乗っていた一人が指示を出す。
「よし、命令は『罪人の連行』である。多少の傷はさせても良い、連れていくのであれば数人で構わないそうだ」
「そう仰るほど、人数が多いのですか?」
「そうらしい」
「成程、了解です」
そう言うと彼等は車に乗り込むとそのまま半島に向かって走り出す。
正直ここの場所を割り出すのには時間がかかった。でかい航空機の写真の噂を頼りに探し回っていたのだ。
そしてここは近くにある街まで車で三時間かかる陸の孤島。平坦な土地が広がっていた。
「……何も無いのだな」
「はっ、秘匿されている様ですから、怪しまれぬ為でしょう」
「そうか……」
不気味な程に進む道を見ていると、遠くにコテージ様な建物を見つけた。
「あれか……」
相手は戦闘慣れしていない素人言われている。もっとも警戒すべきは帝国のエース、黒い天使だけであった。
彼等はコテージに向かって警戒しながら進んでいた。
「……」
言いしれぬ緊張感と、何もなさすぎる事に驚いていると、一人が叫んだ。
「空より敵襲!!」
その瞬間、乗っていた車に黒い漆黒の影が降り立った。
「貴様っ!!」
咄嗟に
「ようこそ皆さん。そしてさようなら」
そう言って手榴弾を投げ込んだ。
それに気づき、咄嗟に車から飛び降りると手榴弾が爆発し、車が吹っ飛んだ。先頭車が燃え、後続のトラックなどが避けて道を走る。
その様子を黒の天使は空から観察していた。
「出たな帝国の黒い天使!!」
「いざ勝負!!」
そう言い、
しかし流石帝国の最新技術、小銃弾では常時展開の衝撃魔法に守られて貫通できていなかった。
「重機関銃だ!撃て!!」
その瞬間、トラックに積まれていた重機関銃が火を吹く。50口径弾は避けなければならないと思ったのか徐々に上空に上がっていく。
「弾幕を張り続けろ。近寄らせるな!!」
そう指示を飛ばし、空を眺めていると黒い天使は片手に拳銃を持つと、空に向かってそれを放った。
「っ!発光弾!!」
「撃てっ!!」
空が明るく照らされた瞬間、コテージの方角から銃弾の雨が飛んできた。
「散会!このままでは的になるだけだ!!」
そう叫んだ瞬間、トラックが一撃で吹き飛んだ。
「何っ?!」
するのその瞬間、森から一台の装甲車が乗り出して来た。
「っ!!装甲車だ!!」
「団長!ここは撤退を進言します!!」
「ちっ、仕方あるまい。やはり手練がいる様だ。正面からは不味かったか……」
そう言うと黒檀の騎士団は一旦離れて行った。
「ーーーー敵の撤退を確認」
コテージの前で目を閉じて椅子に座る蓮子が無線機に向かって報告を入れる。
周りには黒い戦闘服を見に纏う同級生達が片手に小銃や機関銃を握っていた。
すると無線機越しにディルクからの返答が来る。
『了解した。どうせまた来るだろうが……警戒体制は崩すな』
「了解」
そう言い、無線が切れると小銃を持っていた築城が思わず吐いてしまった。
「うっ…ゴホッ!」
咄嗟に地面に吐くと貰いゲロで何人か吐いてしまっていた。地面に胃酸が染み、夕食もついでに溢れていた。
「無理するな、我慢するくらいなら吐き出しとけ」
そう言い、同じ様に小銃を手にシコルスキー大尉が戦場で見慣れた光景を思い返すように諭す。
戦場で生まれた言葉に『兵士は吐いてから始まる』と言うものがある。初めて人を殺すことに抵抗感を示し、死んでいく味方や、漂う死臭からほぼ確実に塹壕で吐いてしまう事から生まれていた。
もう戦争は終わったと言うのに、今度は別の敵かよ。と思いながら吐いた者達の介護と後片付けの為に水入りバケツを持ち出した。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。