教国の部隊襲撃から一夜明けた頃。
人を直接撃った事実にやはり気持ちが暗いのが何人か……
砲兵として働いていたいたものの、目の前で直接人が死んでいて訳では無い筈なのだが。ここ二ヶ月くらいの平和な時間のせいでその感覚を忘れかけていたらしい。
「これからこんな事がしばらく起こると思え」
そう言うと、全員解ってはいるのだが気持ちの整理がが追いついていない表情で力無く頷いていた。
「よく覚えておくと良い。俺達はこれから日本に帰る為に多くの者と接し、そして殺す。日本に帰りたい気持ちが残っているのであれば生き残る事を考えろ」
そう言い残すとディルクは戦闘服を着たまま部屋を後にして行った。
「もしかして、君は既にこの事を予見していたのかね?」
「いえ、教国がちょっかいを出してくるのは予想外ですよ」
そう言い、コテージを出たディルクはシコルスキー大尉とそう話す。
実際、ディルク自身。半島近くの街で聞き込みをしていると、帝国の仲間からの通報がなければこうして対処することは出来なかっただろう。
この施設にはプーマとトラック三台、乗用車が停まっており、昨日プーマを運転したのも砲撃したのも同級生達であった。至近距離だったために砲撃も当たったのだ。
トラックは同級生達全員を乗せられ、ついでに物資も運べる。
俺は大尉と共にジェリカンとシャベルを乗せたトラックに乗り込むとそのまま昨日の戦闘痕に向かった。
「相変わらず酷い匂いだ……」
「これは熊が来そうだな。早めに済ませてしまおう」
そう言いながら爆発した車の残骸や散らばる教国の騎士団の遺体を見る。そんな遺体を見て思わずシコルスキーが言う。
「こいつは…黒檀の騎士団だな……」
黒衣の様な衣装を着る彼等を見て、思わず俺はゾワッとなる。
「黒檀の騎士団を出すとは…教国はなぜそこまで躍起になっているのか……」
「禁術を使用したから…にしては執着が過ぎるか……」
「ええ、航空機の写真を持ち出して熱心に聴き込んでいたそうですからね。よほどお熱の様ですよ」
そう言いながら遺体を探し、道端に一箇所に集めると二人は穴を掘る。
ここに懲罰大隊はない、だからこういう死体処理は自分たちでするしかなかった。
「訳も分からん国に雇われた挙句犬死ですか……」
「教国の洗脳教育の賜物だな」
「せめて転生したら幸せな生活を送って欲しいものです」
「転生…ねぇ……本当にそんな事があると良いが」
そう言いながら大尉はジェリカンを取り出す。戦場の時とは違い、ガソリンを使っての火葬ができるのは非常に贅沢な事だ。
自分も部下が死亡した際、こうして祈祷に向かった。
あれは俺がルテティアから帰った直後の原隊復帰の頃だ。共和国の対空砲の直撃を受けて当時軍曹であったハルト・クルッペがそのまま堕とされた。
いや、むしろ部隊としてこの生存率は異様とも言えるのだが、初めて部下を失った時のショックは今でも鮮明に覚えている。
その時、シコルスキー大尉から教わった言葉がなかったら正直、俺は死んでいたかもしれない。
だから俺は亡くなった部下の名前を忘れる事なく、彼の顔も知らない家族に向けて手紙を書いていた。
遺体を埋める為の穴を掘っていると、近くに同級生達が集まって来た。
「来たか……」
「……」
その目は悲しげだが、覚悟を決めた目をしていた。戦線でよく見た兵士の目だ。
俺はそんな彼等を見ながら言う。
「手伝うなら、穴を掘るのを手伝ってくれ。シャベルはトラックにある」
そう言うと、同級生達はシャベルを手に取り無言で穴を掘り進める。名も知らない兵士だが、それでも自分たちが戦った相手。覚悟を決める為に穴を掘った。
そしてその後、中に遺体を運び。その上からジェリカンに入ったガソリンを満遍なく掛ける。
そして、最後に俺はマッチを擦って火を付けるとそのまま穴の中に放り込んだ。
燃えやすいガソリンは一瞬で遺体を火に包む。燃え盛る火のその中で熱で体が曲がり、時折肺に溜まっていた空気が外に出る事で生まれる絶叫に近い声が出る。戦場ではありふれた光景だったが、ここでは非日常の出来事であった。
その光景を見て明日は我が身かもしれないと思いながら彼らは遺体が燃え尽きるまで黙祷をしていた。
「……はい、了解しました。では、作戦は三週間後に開始します」
電話をしながらディルクはペッツ参謀総長と連絡を取る。昨夜の戦闘の事を報告すると、やはりと言った様子で軽くため息を吐いた。
『講和条約が締結したと思ったらこの事態だ。やれやれ、教国が本気で乗り出して来たな……』
「はい」
『しかし、作戦に合わせて隊員に招集命令をしたくても良かったのかね?』
そう聞かれ、ディルクは頷く。
「えぇ、この任務は彼等のみで行います。責任は私が持ちます」
『君が言うならば、勝算はあるのかね?』
そう聞かれ、俺は訓練中の彼等を見ながら答える。
「はい、閣下の期待を裏切らない結果になると思います」
『あぁ、分かった。……では、輸送機の手配はこちらでしておくぞ』
「宜しくお願いします」
そう言い電話が切れるとディルクは外で障壁魔法を展開しながら射撃訓練をする同級生達を見ていた。
俺の技であるが、銃口のみ穴を開ける事で障壁魔法を展開したまま射撃をする事ができる。障壁魔法は小銃弾を耐える事ができるが、機関砲レベルの銃弾を防ぐ事はできない。しかし、接近戦においてその様な重機関銃を持ち出す事はほぼ無い為、実質障壁魔法は強い。
しかし、この障壁魔法に穴を開ける所業はかなり気を使う為に戦場で上手く使うには練習が必要だった。
初めはドーナツ上に障壁を作り、徐々にその穴を狭めて銃口に合う様にしていた。
基本的に魔法はイメージで完成する事が多い為、強く意識すればその物を作る事が出来た。そしてこの技は、魔力を大量に消費する事から、同時にある名物が弊害で起こっていた。
「ぎぃぃぃやぁぁぁああ!!」
「頭がぁぁぁあぁああ!!」
そう言い、頭を抱えてのたうち回っている横田と舞鶴。そう、魔力切れによるあの二日酔いみたいな激しい頭痛である。
俺の真似をして同じ様に魔力切れになったハインリムを思い浮かべながら彼と同じ様に錠剤の入った瓶を渡す。
「みんな飲んどけ。じゃなきゃこうなるぞ」
そう言うと全員が頷き、置いてあった箱から瓶を取り出すとそのままあわてて口の中に放り込んでいた。
因みに前にエレニカ技師にこの薬の材料を聞いた事があるのだが、なんとこの薬には魔石の粉末が混ぜられているそうだ。
石を混ぜるんですか?!と思いながら話を聞いていると、どうやら魔石を体内に入れることで中で魔力と本人の体が馴染んで魔力貯めながらを増やす事ができるらしい。
じゃあ、その錠剤をめちゃめちゃ食べれば良いのではと聞くと、今度食べ過ぎると魔力酔いで見るも無惨なゲロまみれになるらしい。そしてその後の処理が大惨事になるのでやったら看護兵にぶっ飛ばされるそうだ。
そうして障壁魔法を使った後に必ず服用するこの錠剤、魔導適正は個々の能力の為訓練しようにもできないが、魔力はこうやって育てる事ができる。
俺の魔力保有量が多い一端にあの悪魔の日々があったのは否定出来ない。
頭痛でのたうち回る二人を横目に俺は同級生達に言う。
「では、次の訓練を始める!!」
俺からの号令に全員が改めて気を引き締めていた。
目が覚めると、視界にはベトンで出来た薄暗いアーチ状の天井が見える。
戦場よりはマシなスプリングのベットから起き上がると一人の私服を着た兵士が敬礼をする。
「お疲れ様であります。閣下!」
そう言われ、体を起こしたヘイルダムは報告を聞いた。
「閣下、本日の連絡事項です」
「あぁ…分かった。報告有り難う」
そう言い、兵士が部屋から出て行き、ヘイルダムは再びベットで横になった。
きっかけはあの後だった。小山に偽装していた立川を怒りに任せてそのまま車から落とした後。自分は共和国の抵抗組織に匿われていた。
そしてここは共和国のとある都市の地下室であった。元々ワインセラーとして使われていた場所なだけあってやや冷え込む。
今では共和国の抵抗組織が数ある保管所の一つとして使用し、武器弾薬を蓄えていた。
彼等の目的は帝国の下僕となった現共和国政府から本来の共和国を取り戻す事だった。彼から言わせれもらえれば『敗北を受け入れられない戦争に取り憑かれた亡霊』と言うべきこの組織だが、彼はある人物と会う為に渋々この組織に協力していた。
「閣下、本部より通信です」
共和国正統政府軍と名乗る彼等は小銃を片手に敬礼する。自分も形だけの敬礼をした後、彼等に言う。
「ありがとう、繋いでくれ」
「はっ!」
そう言い、受話器を受け取るとヘイルダムは電話をする。
『……こちら本部、ヘイルダム少佐。聞こえているかね?』
電話に現れたのは自分達をこの世界に呼び出した胡散臭い将官、ジュール・ファブールであった。
相変わらずの声だと思いながら電話を答える。
「はい、ヘイルダムです」
そう答えると少将は電話越しにある命令を下す。
『本部より命令を伝える。これから送るリストの殺害を命令する』
「……それは暗殺命令という事でよろしいでしょうか?」
『その様に受け取ってもらって構わない』
「了解しました」
そう言うと、印刷機から名前の入ったモールスの打たれた紙が印字される。
それを手に取り、中を見ると思わず目が細くなってしまう。
「(ここに乗っている人物は講和条約に調印した人物ですか。……できるだけ引っ掻き回して混乱させる算段ですか……?)」
そう思いながら命令を見た彼はそのまま部下に命令をする。
「大尉、命令です。共和国副首相、国防大臣、財務副大臣の狙撃を行います。準備して下さい」
「了解致しました!!」
「この場所をバレてはいけません。くれぐれも注意してください」
「分かっております」
そう言い、一人の兵が出ていくと、ヘイルダムは司令室で大きく息を吐く。
そしてそのまま近くにあった椅子に座るとそのまま真っ暗な天井を見ていた。
「皆んな…どうしているかな……」
小さくそう呟くと、今はどこにいるか分からない同級生の身を案じていた。
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