戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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六話

正暦一九三七年 三月十日

フランク共和国 首都ルテティア 国防省

 

輝が大規模攻撃を行った数日後。そこでは将官らが地下からワインを持ち出して小さな酒盛りをしていた。

 

「いやぁ、准将。君の提案した『魔法兵強化改革案』は素晴らしい戦果を上げてくれた。感謝するよ」

「いえいえ、私は出来る事をしたまでであります」

「これからも戦果を期待しているぞ?」

「はっ!」

 

そう言い、目の前にいる共和国陸軍参謀総長エルドール・ダラティンはファーブルを褒め称えた。理由は言わずもがな輝の行った大規模魔導砲撃。アレのおかげで戦線はあの一帯だけだが、百メートル前進することができた。それは開戦以来の大きな戦果だった。滅多に見ない大きな勝利に共和国軍は湧いていた。帝国に対する大きなアドバンテージを持った共和国軍はこれからの連勝を既に描いていた。そんな中、ファーブルはエルドールに現実的な話をする。

 

「しかし、あの魔導砲兵は兵士たちに多大な負担を強い、更に魔石の消費量も恐ろしい事になっています。ですのであの規模を二度目と言うのは現状では難しいと言わざるを得ません」

「ふむ・・・・・・無理に負担を強いて魔法師を殺してしまうのも愚策か・・・・・・」

「ええ、それにあの砲撃で味方が巻き込まれたのも事実。今後の使用は禁止したほうが宜しいかと・・・・・・」

 

何より戦時国際法に抵触する可能性がある不必要な苦痛を与える兵器にされてしまったらこちらの手札がなくなってしまう。そうすれば戦後処理でこちらが不利になる可能性もある。しかし、それよりも問題なのは・・・・・・

 

「我が国に魔石の産出できる鉱山が少ないのがな・・・・・・お陰で補給が間に合うかどうか・・・・・・」

「全く、地下資源には不公平を感じざるを得ませんな」

 

二人は苦い表情を浮かべていた。

 

 

 

魔石

それは過去から今にかけて、戦争に必要不可欠な物だ。特別な鉱山で採掘でき、緑白色の宝石の様な見た目が特徴的な石だ。魔法兵の魔力充填も行え、魔法行使の際に必要な魔力を供給する。消耗品ではあるが、石炭や鉄鉱石と違い一度採掘しても暫くすれば同じ場所から採掘ができると言うのも魔石の特徴だ。

原理は未だ解明されていないが、ある仮説では消費された魔力の残骸が魔力溜まりと呼ばれる場所に集まり、結晶化しているのだと言われている。

魔法行使の補助をする関係から必然的に戦略物資となり、魔石を産出する鉱山は国営企業によって完全に管理されていた。

そしてここフランク共和国は魔石を産出する鉱山は国内に数カ所抱えるのみであった。これに対してライヒ帝国では魔石鉱山は共和国よりも数倍抱えていた。この戦争の発端はその帝国の抱える魔石鉱山が理由と言っても過言ではなかった。他国に輸出が出来るほど鉱山を有する帝国から鉱山を多く奪取する為に終わりない戦争を始めていた。

 

「何はともあれ。ファーブル君、君の要求は私から通しておくよ」

「感謝いたします。エルドール閣下」

 

そう言うと関係者達はワイン片手に飲み明かしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同日同時刻 西部戦線

 

そこでは内地の国防省と同じ様に前線の砲兵陣地の一角で青年少女達が軽く宴をしていた。

 

「流石だな輝」

「あの砲撃。凄かったね!」

「俺も見たぞ!!」

 

輝達に割り当てられたテントの中でクラスメイト達が歓喜に湧いて片手にジュースを飲んでいた。それは俺たちがこの世界で最初に飲んだ飲み物でグァバジュースに似た見た目で、尚且つ甘いその飲み物はクラスメイト達の間で大好評で、全員がどハマりしていた。

その飲み物の入った瓶を片手に喧騒がテントを包む中、輝が言う。

 

「なに、僕は言われた事をやったまで。十分な補給があったから出来た事だ」

「またまた、謙遜しやがってよ」

「そうよ。輝様は何でも出来るんだから。謙遜しなくていいのよ?」

 

そう言い、テント内は活況を呈していた。

 

 

 

 

 

彼の取り巻きや同級生がテントで称賛の嵐をしている中。一人だけ、別行動を取っている者がいた。

 

「ーーーーっ!」

 

その人物。小山蓮子は言葉にならない声を出し、人知れない場所で膝を抱えて頭をガックリと落として座り込んでいた。

 

「茂くん・・・茂くん・・・・・・」

 

それは自分がこの砲陣地の長である輝が聞いていた報告をコッソリ聞いた内容からだった。

 

『エリク・ピエール二等兵の死亡を確認』

 

その話を聞いた時、目の前が真っ白になった。聞き間違いかと思った。しかし、その報告を聞いた輝の反応にもっと強い衝撃を受けた。

 

『・・・・・・了解です』

 

そう述べ、兵が出て行った後。彼をテントの隙間から見た時、ゾッと震えた。

 

 

笑っていたのだ。

 

 

それはもう満足げに、いつもの輝よりもずっと良い笑みを浮かべていたのだ。その事に自分は輝が茂を謀殺したのだと理解できた。

同級生が死んだと言うのに笑みを浮かべる輝に恐怖と怒りの感情が湧いて出た。元々茂は輝の人気と策謀で異様なまでに嫌われていた。まるで操られているかの様に・・・・・・

 

 

 

私は小野寺輝は顔が整って頭がいい完璧な男という認識だった。だが、それは南部茂にも言える事だった。軍事好きと言うところを抜けば茂も顔もよく、雄弁で頭も良かった。二人の違いといえば出世欲の有無だろうか・・・・・・

だけどそんな事はどうでも良かった。

 

 

 

茂が死んだ。

 

 

 

その事実だけが蓮子の頭を埋めていた。人影のない場所で嗚咽声を漏らしていると地面の土を踏んだ音が聞こえた。

 

「おやおや。ここに居たのか、蓮子さん」

 

そこには小野寺輝がいた。

茂を殺した張本人が。茂が死んでも笑っていた狂人がーーー

思わず自分はキリッと輝を睨みつけるとその片手にはホリゾンブルーのトレンチコートを持っていた。すると輝は表情一つ崩さずに蓮子にコートを渡す。

 

「ーー帰って」

 

少々キツめに言うと輝は持っていたコートを見ると蓮子にコートを差し出した。

 

「・・・・・・君にこれを渡しておくよ」

 

そう言い、一着のトレンチコートを渡す。洗われたばかりのコートはズタズタで、タグの部分には刺繍が施され、名前が打たれていた。それを見た私はそのコートを奪う様に輝から取る。

 

エリク・ピエール二等兵

 

タグの部分に打たれた名前を見て私はコートを大切に持つ。コートを渡し終えた輝はその場をクルリと回ってテントに戻る。

 

「・・・・・・人殺し」

 

その呟きに輝は一瞬だけ反応するも、振り返る事なくテントに戻って行った。

 

 

 

この時、この瞬間から小川蓮子にとって小野寺輝は同級生を・・・・・・ひいては自分が片想いだった人を殺した悪魔に変わった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「・・・・・・ん・・・あ・・・」

 

次に視界が戻った時。俺はぼんやりと明るいランタンに吊るされた木目の屋根を見た。

 

「(ここは・・・・・・)」

 

後方の病院か?

そう思ったのも束の間。俺の顔を誰かが覗き込んだ。

 

「起きたかい」

 

顔を覗かせた人物にギョッとして飛び退こうとしたが身体中が激痛で呻き声を上げてしまう。

 

「うっ・・・・・・!!」

「おーおー、動くんじゃ無いよ。君は重傷なんだから・・・・・・」

 

そう言うのは白衣を着た医者の様だった。但し、白衣の下に着ているのは黒色の帝国軍の軍服だったが・・・・・・

頭がぼーっとしていたが、やがて意識がはっきりとすると大慌てでベットから落ちそうになる。

 

「おっと、危ない危ない」

 

ベットから落ちそうになった俺を軍医らしき人が支える。そして取り乱している俺を抑えると俺の顔を見た。

 

「ほら、息を大きく吸って・・・吐く。落ち着きなさい」

 

俺の身体を男性軍医が支えてベットに戻すも、俺は息が荒かった。息をするたびに痛みを感じるが、それよりも恐怖が頭を支配していた。そんな俺に軍医が話しかける。

 

「大丈夫大丈夫。君の権利はジューネル条約で捕虜としての権利を保証されている」

 

そう言われるも、大抵捕虜にされてきた扱いを知っているからこそ、俺は気が気でならなかった。だけど足や腕をギプスでガッチリ固められ、歩くことも満足に出来なかった。おまけに身体中を包帯でぐるぐる巻きにされ、色んなところがもう痛すぎた。

すると軍医が痛すぎてグッタリしている俺を見ると誰かを呼びに行った。もう息もするのが辛くてそのまままた視界がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

「ーーそれで、例の兵士が起きたって?」

「はい、パニックを起こしてベットから転げ落ちそうになりましたが・・・・・・」

 

そう言い、赤十字のテントの幕を上げると軍医がベットに案内した。

 

「しかし、あんな傷でよく生きていましたね」

「あぁ、全くだ。それに、あんな子供を共和国は最前線に送り出すとは。共和国め、酷いことをしやがる」

 

そう言い、野戦病院の一角にあるベットに軍医が案内した。

 

「彼がその捕虜です」

「ああ」

 

そう言い、軍医が見ただけで重傷な一人を見せる。

ギプスで身体中をがっちり固定された少年はぐったりとベットで横になっていた。怯えていたと言うことで私はなるべくフランクに話しかけた。

 

「やぁ、君があの砲撃の生き残りの・・・・・・あれ?」

 

一切返事の無い、明らかに異常な様子に思わず顔を覗き込ませる。すると軍医がデコに手を当てて困惑した様子を浮かべる。

 

「あー・・・気絶してますね」

「・・・・・・マジか」

 

思わず会いた口が塞がらずにそう答えてしまう。まぁ、この傷なら無理もないか。

 

 

 

思えば彼を見つけたのは前線の馬鹿みたいな魔力反応を感知して、その後に自分達が偵察に向かった時のことだった・・・

 

 

 

敵味方関係なく砲撃を受け、屍の山が築かれ、死臭と肉の焼け焦げた匂いが充満していたあの戦場はまさに地獄だった。

そんな中、戦場にずっしりと重い憎悪の感情を感じた。ここの戦場にも幾度と無く訪れているがこれ程まで純黒な感情を感じたのは初めてだった。生き残りがあるのかと思いつつ、その純黒な憎悪を感じた場所まで向かうとそこには若い、それもまだ未成年らしき共和国の兵士が木に倒れかかっていた。雨が降る中、思わず心音を確認すると僅かに脈を感じた。

流れている血の量から失血死寸前だろう。しかし、彼はこの惨劇の生き残り。死なせればこの惨事の情報が消えてしまう。いずれは共和国軍が進軍してくるだろう、しかしそれでは間に合わない。

半ば独断で生き残ったこの若者を背負い、捕虜として情報を聞き出す為に後方に飛んで帰った。

その時、少しでも体を軽くする為にコートを脱がし、地面に放り捨てた。装備品なんかも全部だ、持ってきたのは着ていた野戦服とこの若者が意識を失っても離さなかった花のブローチだけだった。

 

「まぁ、この傷だ。生きている方が奇跡なくらいだから尋問はまた今度にしよう・・・」

 

そう言うとその女性軍人はテントを後にしていた・・・




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