正暦一九三九年 一〇月八日 午後一一時頃
フランク共和国 リユン郊外
その日、共和国第二の都市と言われるリユン郊外にあるとある納屋で、抵抗組織『共和国正統政府軍』通称抵抗軍の一人が煙草を咥えながら外を見て警備をしていた。一時期は電撃戦を展開した帝国軍が進駐して来た事もあったが、講和条約締結後は帝国軍は撤退していった。
そんな都市を見ながら抵抗組織の一員である彼は銃を持って納屋の警備をしていた。
普段は農夫などが仕事道具を片付けているこの納屋だが、今日は少し様子が違った。
納屋には灯りがつき、何時もより多くの人が警護をしていた。今日はここでとある会議が開かれていたのだ。
「ーーー目標の財務副大臣、国防大臣を処断した」
「やはり警戒が強まっているな。副首相は家から出なくなった」
「だが、目標は達成せねばならん」
共和国の士官服を見に纏う彼等は写真や地図を見ながら会議をしていた。傍に置かれた新聞には要人暗殺と見出しに掲げられたニュース記事があった。
数日前、共和国政府の大臣二人を暗殺した彼等は最終的な目標である共和国政府の実権確保の為に動いていた。
「今、警察が血眼になって探している。少将閣下には連絡がつくか?」
「少将閣下は現在視察に向かっている筈だ」
「視察?」
「あぁ、あれは我々にも必要な物を積み込んでいる。共和国が共和国であり続ける為の……」
その時、納屋の周りに爆発音が聞こえた。
『敵襲っ!』
『共和国軍だ!!』
そう叫び、外に共和国のトラックが走ってくるのを見た。
「逃げるぞ!撤退だ!」
そう叫び、荷物を纏めた詰め込み、三人は納屋から逃げ出す。
裏に停めていた車に乗り込むと運転手が待っていたかのように走り出し。遠くでは銃声や燃える納屋があった。
「危なかった」
「まさか軍隊を投入してくるとは……」
「しかし、何故ばれたのだ?」
そう言い、下士官達は共和国を次の保管場所に向かおうとした時。
「うおっ?!」
「わぁっ!!」
突如車が停車し、中にいた彼等は大勢を崩してしまった。
「どうしたっ?!」
「タイヤのパンクです!」
車が止まった理由を知り、幹部の一人が聞く。
「すぐに直せるか?」
「完全に破裂しています。ここで付け替えるしか……」
いつ共和国軍が来るか分からない。ここでチンタラ待つわけには行かなかった。
「仕方ない、歩いて向かおう。タイヤを直したら拾ってくれ」
「了解しました」
そう言うと抵抗軍三人の下士官は田園地帯を歩いて行く。一刻も早く目的に近づく為に警戒しながら歩いていた。
「こればかりは取られるわけには行かん……」
そう呟いた時。三人の真後ろを銃口が突きつけられた。
「抵抗軍の御三方ですな?」
「っ!!貴様らは……!!」
「あなた方を追いかけている集団。とだけお答えします」
そう言うと引き金が引かれ、気絶弾が放たれて三人はそのまま倒れてしまった。
それを見ながらエリカの花のあしらわれた目出し帽を被る立川が無線で報告を入れる。
「対象を確保。荷物も手に入れたわ」
そう言うと、無線機越しに横田の声が聞こえた。
『こちら01、運転手も確保。トラックに乗せた』
「了解」
すると無線機越しでまたも無線が聞こえる。
『司令部より作戦行動中の隊員に次ぐ。共和国軍が接近中、撤退せよ』
「『了解』」
そう答えると共和国製のトラックが走ってきて彼等を乗せるとそのまま闇夜に消えて行った。
現在、共和国に入って任務をこなすディルク・フォン・ゲーリッツ少佐である。
帝国内での特別訓練を終えた我々は途中、駐屯地で補給を受けた後。共和国に侵入していた。非公式の任務の為、共和国政府の了解は無い。
確実に新編第五〇〇降下猟兵大隊所属の第四、第五中隊は自分が本気で仕立てた部隊であることに間違いはない。
勿論今までのコンラート大尉率いる部隊も手を抜いたわけでは無い。あの時よりも短い訓練期間だったが、彼らと同等レベルまで持って行けた事について触れてほしい。
そんな彼等は現在、抵抗軍の下士官を捉え、共和国の田舎町のトラック倉庫に連れ来ていた。
「件の人物を捉えました」
そう言い、立川が敬礼をすると茂は頷いた。
「了解、あとはこちらで行う」
「はっ!」
倉庫の前でトラックが止まり、中から気絶した抵抗軍の下士官を担架に乗せて運ぶのを見届けながらディルクは立川達第四中隊を労った後、そのまま三人の荷物を確認する。
倉庫の事務所ではすでに荷物を広げて舞鶴達が中身を確認していた。
「少佐殿、こちらを」
そう言い、舞鶴が書類を渡してきた。それを読み、ディルクは一考する。
「ふむ、副首相の暗殺か……」
「共和国内は連日暗殺騒ぎで大騒動です。ここで警察に恩を売ると言うのは?」
「するにしても情報を吐かせてからだな。まだ寝たままか?」
「はっ!」
「尋問はこちらでする。舞鶴達は抵抗軍の補給地点を地図に移し替えてくれ」
「了解です」
共和国軍籍から抹消された彼等は戦死扱いとなり、新たに国籍が与えられた。カバーストーリーはペッツ参謀総長や講和条約という大仕事を終えて帰ってきた義父や義姉が訓練中に作ってくれた。名前はいちいち変更してられなかったのでそのまま使う事にしていた。ちなみに皆帝国軍の野戦服や私服を着ていた。私服を着ているのは街に聞き込みに行った奴らだ。
「聞き込みはどうだ?」
「全然、抵抗軍に接触しようにもすっかり地下化しちゃってるわね……」
「あぁ、この前の暗殺事件ですっかりテロ組織認定だ。軍と警察が血眼になって探している」
そう言い、街に聞き込みに行った大湊孝雄が買ってきた飴を舐めながら街の様子を呟く。
戦争が終わって、甘味料が出回り始め。『甘い物で泣く日が来るとは思わなかった』と皆が呟いていた。
「まったく、直前に面倒起こしやがって。お陰で国境越えるのに苦労したぜ」
そう言い、横田が吐き捨てるように言うのを聞きながら、茂は倉庫脇の建物に向かって行った。
「……ぶはぁっ!!あぁ…」
水を掛けられて目が覚める。視線の先には私服姿の男女が立っていた。
「な、何だね君たち!?」
相当かけると、男の方が答えた。
「いいえ、少し聞きたいことがあるんですよ」
「何?」
するとその男は反対側に椅子を置くと、聞いて来た。
「貴方がた正統政府軍のリーダーは誰か、お話いただけますか?」
「っ!!そんなの…言えるわけないだろう……!!」
そう言うと、次にその男は別の質問をした。
「では、正統政府軍の拠点は何処にありますか?」
「馬鹿か、そんな物。お前さんのような若造にいうわけなかろう」
そう言うと、その男はしばらく黙った後。後ろにいた女性に何やら合図を出した。
「……では、口を開かないのであればこちらも相応の手段で行かせてもらいますよ」
そう言うと、その女性は片手に懐中時計のような感応石製の魔法媒介を持ち出して魔法を唱える。
「ま、まさか自白魔法か……!!」
その魔法や状況を見て思わず下士官は冷や汗をかく。
「その通り」
「正気か貴様!!」
自白魔法は相手を廃人にする可能性のある魔法で、条約で禁止するかどうか検討されている魔法であった。
既にその威力から自主的に使用を禁止している国が多数であった。
するとその男は言う。
「あぁ、ご心配無く。彼女の腕は良いですので、廃人にはなりませんよ」
「だったら条約違反で訴えてやる!!」
「それができると良いですけどね」
そう言うと、女性は魔法を下士官にかけた。
「や、やめ…やめろぉぉぉぉおおお……!!」
倉庫の一角で男の悲鳴が上がっていた。
「……ここか」
下士官を尋問して手に入れた情報を元に地図を指差す。
「郊外の旧トーチカですね」
「ああ、戦時中に建てられた物だな……」
横で自白魔法を使用した蓮子が言い、茂は頷く。現在、尋問を終えた下士官達はトラックに乗せられて街に向かって行った。共和国軍にある取引を持ちかける為に。
「状況はどうだ?」
そう聞くと、立川がバインダーを見ながら報告する。
「計画書によると次に抵抗軍が標的にしているのは副首相と後は司法省大臣ね」
「副首相か……」
茂がそう呟き、計画に乗っていたリスト表を見る。一部帝国の要人も含まれており、本国に連絡すべき案件であった。
「……取り敢えず、我々の目標は決まった。取引が完了次第我々も行動を開始する」
「了解」
そう答えると、倉庫に並んだ数台のトレーラーを蓮子は眺めていた。
下士官を連れてトラックに乗った厚木はそのまま町外れの公園に行くと、そこには私服姿の軍人か警官と思わしき人が車に背を預けて待っていた。
「……君かね?通報をしたのは」
「……」
厚木はそこで何も言わずに数枚の紙を渡す。内一枚は茂の直筆の手紙であった。
受け取ったワカメヘアの疲れたおっさん……いかにも刑事をやっていそうな風貌の人は紙を読んだ後、苦笑しながら言う。
「へっ、共和国で一回ドンぱちさせろってか?戦争は終わったんだぞ?」
「……」
一瞬口を開こうとも思ったが、警戒し続けていた。いざとなればこのまま逃げる準備もできていた。
数枚の紙を読んだ後、その刑事は厚木達に言う。
「その容疑者が本物なら、通してやる」
「了解だ……」
そう言うと厚木達は二台から寝袋に包まれた三人を共和国の人間に渡す。中身を見た刑事っぽい人はその顔を見て頷いた。
「……間違いない。指名手配されている抵抗軍の下士官だ」
そう言うと、三人を回収した上でその人は厚木達に言う。
「取引に応じる。一件くらいは軍の訓練って事にして置く」
「了解した」
「……情報提供に感謝する」
そう言い残すと彼等は公園を去って行き、原木達もトラックに乗り込むとそのまま公園を後にした。
「……追跡の類は?」
「今の所無し」
帰還途中、厚木は確認を取るとそのままリユン郊外の田園地帯を走っていった。
現在、彼等に与えられた初任務は抵抗軍の拠点への攻撃。もし可能であれば彼等の指揮官の確認であった。
彼等を飛び出したジュール・ファブールは帝国軍部内では転移魔法使用者の容疑者として似顔絵が描かれ、対策班に配られていた。
共和国政府に邪魔をされたくないがための極秘任務だが、こうして抵抗軍の士官の引き渡しと暗殺情報の提供で借りと繋がりを得ようと試みている彼等の作戦第一段階はうまく行ったようだった。
「はぁ、胃が痛くなってきそう……」
そう呟きながら厚木は助手席で遠くに映る今の拠点を見ていた。少なくともこんなトントンで進むことが逆に怖かった。事前に上から根回しが済んでいるとはいえ、こうもうまくいくものだろうか?
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