あの、抵抗軍がゾンビみたいに変化した襲撃事件から一週間後。あのアンデッド集団から逃げるように飛んで帰った俺達はそこでまず本部の第五〇駐屯地に向かい、そこで休暇を終えて帰って来ていたコンラート大尉達と合流したその矢先……
「何をやっているのですか……!!」
大隊長室で呆れつつも疲れつつも困惑するコンラート大尉が大きくため息を吐いていた。
「隊員に二ヶ月の訓練をさせた後に共和国に侵入して抵抗軍の拠点に攻撃?……少佐殿、何を考えてそんな事を?」
「何、訓練をさせたらなんとビックリ予想外に腕が良かったからありがたく使わせて貰っただけさ」
「そもそも訓練させるとは一言も聞いていないのですが?」
そう問い詰めるとディルクは当たり前のように答える。
「そりゃそうだ。教国のスパイがいる可能性があるからな」
「だとしてもです。せめて我々中隊長には話を通して下さい。そうすれば、我々が赴いて作戦を行なっています。新人にやらせるなんて前代未聞ですよ……」
「だが、結果的に作戦は上手くいったんだ。『終わりよければすべてよし』と言う諺もあるくらいだしな」
「……」
半ば呆然としてしまっているコンラート大尉を見ながら俺は報告書を纏めていた。
「まぁ、言わなかった事は悪いと思っているよ……すまんが大尉、後で新入隊員達と演習をしてくれ」
「……はっ、内容はどの様に?」
すぐさま意識を切り替えたコンラートにディルクは一枚の紙を渡した。
「対抗戦だ。ルールはここに記しておいた。何か不備があれば無線で相談してくれ」
「はっ!」
「じゃあ、俺は報告書を出しに行ってくる」
そう言うと封筒に紙を入れるとそのまま駐屯地の車に乗り込む。
既に連絡を入れてあり、ペッツ参謀総長などの対策班が調べていた。あの奇妙な、皆がアンデッドやらゾンビやら騒いでいたあの絵面。流石に炎を纏ったゾンビに追いかけられた時は恐怖を覚えた。
しかも横田曰く頭を撃ち抜いたら死んだと言うからマジもんのゾンビ映画見たいだと思ってしまった。
ここは帝都に程近い場所にある駐屯地のため、車で一日もかからずに到着できる。
「おお、待っていたぞ」
参謀本部に到着し、義父が出迎えをした。この前大仕事だったと言うのに疲れた様子もなくピンピンしていた。
「お待たせして申し訳ありません」
「何、ちょうどこちらも調べが付いたところだ」
「そうですか」
報告書を片手に部屋に入ると義姉が苦労を労う。
「共和国まで行くの大変だったでしょう?」
「えぇ、まぁ。特に最近は共和国の暗殺事件があってどこも厳戒態勢でした。装甲車を出してパトロールしていましたよ」
そう言い、街中に警察の装甲車が入っていたのを思い返しながら言うと義父が興味深そうに聞いてきた。
「ほぅ?警察が装甲車を?」
「えぇ、財務副大臣は白昼堂々撃たれましたからね。警察は面子を潰されて躍起になっていました」
「なるほど、それで恩を売って関係を?」
「まぁ、そんな所です」
そう言うと、ディルクは抵抗軍の暗殺者リストを渡す。
「こちらが、抵抗軍の暗殺者リストです。帝国の要人も含まれていました」
「ふむ、ヴァルトー外務大臣も含まれているのか……」
「彼等の資金源は今の所不明です」
「その点は問題ない、別部隊が調査を続けている。元々第五〇〇部隊は主に実働部隊として動いてもらう予定だからな。それまで命令を待っていてくれ」
「了解しました」
報告書の入った封筒を渡しながら話を聞くと、義父はふと聞いた。
「ペッツの突拍子もない提案だったが、どうだね。彼等の様子は?」
「概ね良好と言えるでしょう。元々砲兵で働いていた事もあって砲術は良い腕でしたね」
「なるほど、ではあの即席自走砲でも十分活躍したのか……」
そう言うと義父は報告書を受け取った後、ディルクに一枚の紙を渡した。
「先に受けた連絡から推測したものだ。ペッツから活用しろとの事だ」
「了解しました」
そう言い、紙を受け取るとディルクはそのまま部屋を出ようとした時、義父が言った。
「
「分かりました。折り返しの電話を入れておきます」
そう言うとディルクは部屋の扉を閉じて参謀本部を後にしていた。
「ーーーんで、この状況か……」
駐屯地に戻るとそこには……
「うぉぉぉおっ!!」
「やっちまぇぇえ!!」
「いけぇぇぇえ新人!!」
駐屯地の演習場となっている建物の中で魔導演算機を取った第三中隊と第五中隊の対抗戦を観戦する他部隊。どっかのプロレス観戦みたいになっていた。
「俺の酒がかかってんだ!頼むぞ新人!!」
「負けるなハインリム中隊長!!」
何をやっているのかと思いながら近くにいたゲルハルトに聞く。
「何があったんだ?」
「はっ、新人隊員の演習が思いの外接戦で皆盛り上がっております」
そう言い、試合を見て大盛り上がりの彼等と頭から水を被って濡れた様子のゲルハルトを見ながら聞く。
「……さてはやられたな?」
「はっ、お恥ずかしながら……」
「正直でよろしい」
そう言う彼に対し、内心『そこまでの実力があるのか?』とも思ってしまった。彼とてあの地獄を生き抜いたエースだ。そんな彼がやられる程の腕を持っているのかと思っていたが、理由を聞いて理解できた。
「普段、我々は飛んでおりますからな。地上での戦闘で汎用機関銃を振り回すのは少し大変でした」
「あぁ、成程……」
ゲルハルト大尉などの汎用機関銃を持つ面々は確かに通常は慣性魔法で小銃と同じ様に扱えるが、魔導演算機の使用を禁止したこう言った演習では重量が嵩張るかと考えていた。それでも10キロ以上の金属の塊をブンブン振り回せる時点で結構おかしいのだが……
新たな課題を確認したディルクはすこし考えているとブザーが鳴り、演習終了の合図が出た。
『勝者、第五中隊』
「「「おぉぉぉおお!!」」」
試合結果に一喜一憂する隊員達、総当たりとは言えこれはなかなか見応えがある。
インク弾で塗装された兵士達に水を掛けながら感想を聞く。
「どうだね?新人の腕は」
「はっ!ハッキリ言えば中々なものです。隊長殿の訓練があったとは言え、転移者と言うのは腕がよろしいのですな」
「そうか、では我が部隊と行動するのに問題ないか?」
「十分かと思われます」
「そうか」
するとその兵士は先ほどの試合中に感じた率直な意見を言う。
「元々砲兵だったからかどうかは分かりませんが、恐ろしく狙撃が上手い奴がいましたね。何人かそれで頭を抜かれました」
「狙撃か……」
最後にそう呟くとディルクはそのまま第四中隊のいる場所まで向かって行った。
少し移動し、演習場裏の水場に行くと、そこでインクで塗装された戦闘服を水洗いする立川達がいた。
「やぁ、よく勝てたな」
周りで誰が聞いているか分からないからあえて共和国語で話し掛けると横田が癖になって敬礼をしながら答える。
「はっ、しげ…ディルク少佐殿」
慌てて言い直すとディルクも満足げに言う。
「途中から見させてもらったが、腕が上がったようで何よりだ」
「はっ!」
ここにいる男子達の根底にある『南部に負けたく無い』と言う感情が彼等をここまで育てたと思うとなんとも言えない気持ちではあった。
「じゃあ、今度の作戦も楽しみにしているぞ」
そう言うとディルクは大隊長室に向かって行った。
大隊長室に移動するとそこで俺は義父から受け取った紙を見ていた。中身は死体に関する魔法を纏めたものであった。
「(こんなにもあるのか……)」
そう思いながら書類を読んでいると部屋にコンラート大尉が入って来た。
「失礼します」
「あぁ、演習は終わったのか?」
「はい、今は歓迎会を始めています」
「歓迎会……」
「ぜひ少佐殿もいらして下さい」
そう言うとディルクは少々申し訳なさそうに言った。
「すまんな、今日は生憎と仕事が溜まっているから行けそうにないな……」
「左様ですか…因みに手伝いなどは……」
「軍機に抵触するから無理だな」
「了解しました」
そう言うとコンラート大尉は大隊長室を出て行き、ディルクは再び書類を眺めていた。この世界において死体を使った魔法は意外にも多く、把握するのは大変だった。
この中からあのアンデッド化した魔法を探すのは骨が折れそうだ。そう思っていると……
「失礼します。今日の報告に参りました」
そう言い、部屋に蓮子……ここではカセリーヌが入ってきた。
彼女は手にバインダーを持って今日の戦闘結果を持ってきていた。そして、そのまま机を見ると、そこにあった紙を見て不思議そうに見ていた。
「これは?」
「死体にまつわる魔法を集めたものだ」
「こんなに有るのね」
「あぁ、中には葬式とかに使う魔法も混ざっているな。あと禁術に関する論文とかな」
そう言うと書類をカセリーヌは眺めるとそのままディルクを労う。
「あまり無茶しないでね」
「あぁ、分かっているよ」
そう言うとカセリーヌは大隊長室を後にして行った。
時刻は午後六時。部屋に残ったディルクはそのまま部屋の書類を読んであの時の状況と照らし合わせながらどの魔法が使われたのかを予測していた。
「何!?全滅だとっ!?」
ミッドガルド教国教皇庁の一室でマルコは驚愕の事実を聞かされる。それは、転移者確保に向かわせた黒檀の騎士団が全滅したと言う情報だった。
報告をしに来た部下がやや震えた声で言うと、マルコは目を大きく開いて驚いていた。
「100名近い人員が全滅……相手は少数なのにか!?」
「はい……最後の報告によれば容疑者は全員帝国軍による訓練を受けていたとの事です」
「なんと……!!」
衝撃の事実に思わず言葉を失っていると、マルコは思わず呟く。
「こうなったら広報枢軸卿に依頼して帝国に容疑者引渡しを要求すべきか?」
すると即座に部下が忠告を入れる。
「それはなりません。そもそも転移者の追跡は魔法省独自の極秘の任務です。そもそも、黒檀の騎士団が帝国に侵入した時点で聖地条約違反スレスレなのです。ここで表立って事を起こされては……」
聖地条約とはミッドガルド教国と各国が結ぶ国際条約であり、ざっくり言うと『ここは聖地だから、お前ら手を出したら世界の敵になるぞ?』と言う物で有る。この大陸と、一部新大陸と呼ばれる場所に存在する国家が調印し、ミッドガルド教国が列強国に挟まれているのにも関わらず今まで侵略を受けてこなかった要因であった。
そして、その聖地条約には次のような条文があった。
『聖地条約第九条第三項
教國はいかなる国家の侵略を受け付けない代わりに、武装組織で有る騎士団を他国に派遣する際は、必ず世界に向けてその情報を報告しなければならない。又、騎士団は他国の如何なる戦闘行為に加担してはならない』
そう、教国の武装組織で有る騎士団は他国に向かう際、その派遣目的を発表しなければならなかった。黒檀の騎士団などは一般的には騎士団では無いと教国ではされている為ーーそれでも結構黒寄りのグレーゾーンーー問題無いと解釈していた。それは、白檀の騎士団も同様であった。
騎士団はあくまでも聖地と教国を守る為の武装組織。そもそも侵攻を受けた時点で世界が敵になるのでそこまで強力な軍隊を必要としていなかったのだ。もしここで教国が帝国に転移者の引き渡しを要求すれば帝国は黒檀、白檀の騎士団の情報を持ち出すだろう。
それなのに言わないのは帝国が単独で転移魔法を追跡しており、その情報を探られないようにする為であった。
「……」
小さく唸り声を溢しながらマルコはこれからの方針を考えていた。
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