戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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六五話

正暦一九三九年 一〇月二二日 午前三時

帝都郊外 第五〇駐屯地

 

新編された転移者達が組み込まれてから一週間。交流を深めて行動ができる様になった彼らはその日、いつもより早く起きていた。

この日の為に一週間で特殊な操縦訓練を受けた彼等はそれが来るのを今か今かと待っていた。

 

早朝の静粛な街に数台のトレーラーが駐屯地にやって来ていた。

そのトレーラーは重牽引車に引っ張られて駐屯地に入るとそこでディルクや横田達転移者グループが待っていた。すると先頭の牽引車から一人の女性が降りてくると、ディルクはその人に握手をする。その目はとても嫌そうであったが……

 

「お久しぶりです…エレニカ技師……」

 

そう言い、挨拶をすると目の前にいるMADはさぞ嬉しそうな目で答える。

 

「やぁ、またモル……君に会えて嬉しいよディルク少佐」

「あの…自分をモルモット扱いしないでいただけます?」

「いやぁ、君のほどの子は居ないからね」

「それで済ませないで下さい…こっちは命がかかっているんですから……」

 

そう言い、ゲンナリした様子のディルクを見て何をされたのかと思う横田達。エレニカに少しだけ怪しげな目をしていた。

しかし、彼女はそんな目線を気にするそぶりすらなく言う。

 

「はっはっはっ!良いではないか!君のおかげで私のところの予算が増えると言うものだ。お陰で新たな可能性を見たのだからな!!」

 

そう言い、エレニカはディルクの肩を叩いた。あの魔導演算機の成功から魔導研究所は予算が増え、魔導演算機の生産を行っていた。独占された技術に加え、エレニカ技師が各国で特許を取得した為に誰も魔導演算機の技術を盗んで勝手に作る事はできなかった。因みに真似ても失敗して爆発事故を起こす危険があるそうで……俺達は常に爆弾背負ってんの?

 

そんな話を思い出しながら俺はエレニカ技師に聞く。

 

「後ろのそれが例の車両ですか?」

「あぁ、是非とも見てもらいたい」

 

そう言うと四台のトレーラーが駐屯地に到着し、何事かと思ってコンラート大尉達も外に出て来ていた。

 

「我が魔導研究所が製作した世界で唯一の技術を駆使して作った新しい君達の移動用車両。そして……私の自信作だ!」

 

そう言うとトレーラーの幌が畳まれ、中から一台の軍用車が姿を現した。

 

「「「おぉ〜……お?」」」

 

その車両を見てコンラート大尉含め見ながら不思議に思った。

 

「普通のトラックじゃね?」

「おん、お前もそう見えるか?」

 

そう言い、幌の中から現れた物を見て疑問に思っていた。そこに乗っていたのは低床に乗せられてすっごい色々とギリギリそうな軍用トラックだったからだ。よくこんなん載せられるなこのトレーラー……

皆が何かの間違いではないかと感じているとふとそこでディルクは違和感を感じた。

 

「(あれ?そういやぁ、このトラック。よく見たらシャーシとか覆われててシュビムワーゲン見たいだな……)」

 

そう思っているとエレニカが言う。

 

「君達の要求に合わせて魔導演算機を大型化した物を主機に使用した。魔導演算機では魔力消費が激しいからな。ある程度の砲撃能力を有し、尚且つ迅速な移動も可能だ」

「このトラックがですか?」

 

横田がそう言うとエレニカは自身ありげに言う。

 

「中を見てばわかる。きっと君たちは驚くだろう」

 

そう言い、言われた通りに中に乗り込むと。そこでディルク含め全員が驚いた。そこには幌にギリギリ入るくらいの砲塔と砲身があったからだ。

 

「すげぇ……」

 

思わずそう呟くとエレニカは言う。

 

「幌を取れば全貌がよく見えるはずだ」

 

そう言われそのままトラックの幌を畳むと、現れたのは傾斜した旋回できる砲塔に砲身がやや切り詰められた8.8cm砲を載せた自走砲が現れた。

砲塔はエレファント駆逐戦車を前後逆にして切ってはっつけた様な見た目で、後ろ方向に取り付けられ。限定的だが旋回が出来そうだった。

 

「8.8cm砲搭載型特殊戦闘艇『アイスフォーゲル』だ」

「戦闘艇?」

 

するとエレニカはなぜ自走砲ではなく戦闘艇なのか理由を教えた。

 

「この車両は各所に魔導演算機の技術を用いた慣性制御魔法に吸排気機構を備え、飛行能力と渡河能力を持っているからな」

「属性盛りすぎでしょ……」

 

要するに自走砲に爆撃機と砲艇をくっつけた陸海空全部行ける車両ですか。おまけに通常はトラックに偽装できると来た。原型は帝国製の六輪改造トラックであり、今では民生用としても共和国や帝国共にかなり放出されていた。渡河能力を付与する為に下部は丸みを帯びたカバーが取り付けられ、シュビムワーゲンとDUKWを合わせた様になっていた。

正直このサイズなら渡河以前に揚陸艇みたいになりそう。

飛行機能を使えば外洋も出られると言う事で本当に砲艇の様であった。アーチャー対戦車自走砲のように砲身が後ろを向いており、即座に陣地転換が可能であった。

 

「凄いですね。流石です」

「当たり前だ。私は帝国一の魔導研究者だからな」

 

そう言い、大興奮の彼等を見ているとエレニカは言う。

 

「これを今回、君達に渡す。上手く使ってデータを私にくれ」

「はい」

「実験はすでに終わっているが、実戦で使えるかは分からんからな」

 

そう言うとエレニカはアイスフォーゲルをトレーラーから下ろす作業をさせるついでに転移者達に操縦方法を覚えさせていた。

 

「操縦方法は訓練とほぼ変わらん。ただ、絶対に回転させるなよ。中まで慣性制御は効いていないからな」

 

そう言うと、アイスフォーゲルに乗り込んだ五人組の魔法兵小隊がそれぞれ定位置に付く。

短い訓練だと言うのに戦車の様な役回りをする彼等は実に才能の塊と言えよう。これも転移した時に与えられた物なのかと思いながら四台のアイスフォーゲルを見ているとトラックが動き出した。

 

「「「おぉ〜……!!」」」

 

するとエンジン起動と共にゆっくりと車体が浮き上がり、5cmくらいだが宙に浮いたのを確認した。

そしてそのままトレーラーから下ろす為に横に水平移動するとそのまま地面に着地した。特訓の成果があったかと思いながら腕を動かしてトラックを移動させる。後ろにトラックと思わせる為に荷物置き場まである徹底ぶり。アイスフォーゲル、カワセミの名を冠する特殊な軍用車両が此処に爆誕していた。

 

 

 

 

 

アイスフォーゲルの搬入を確認したディルクはそのまま司令部に連絡を行うと、そのままお返事と言わんばかりに命令書が送られて来た。

 

「(転移装置に近づく為にヘイルダム・ルメイを捕える……か)」

 

そこには共和国のとある都市に向かい、そこで抵抗軍の副官を務めていると言うヘイルダム・ルメイの拿捕を命じていた。

 

「(居場所は掴めているのか……)」

 

いつの間にそこまで行ったのかと思っていたが、よくよく考えれば顔を写した写真が出回っているのだから調査をすれば出て来るか。

 

 

 

現在、ヘイルダム・ルメイは抵抗軍の副司令官を務めており、ジュール・ファブール少将が抵抗軍を率いており、共和国国内でテロ行為を行っていた。

 

ヘイルダム・ルメイが転移者である事を把握しているペッツ参謀総長は彼を他の転移者達と合流させるつもりらしいが、そもそも抵抗軍に加わっている時点で無理だと俺は思っているし、俺は神託から彼を殺さなければならない。ペッツ参謀総長も其処は理解してくれると願いながら作戦準備にかかる。今回も共和国には極秘で移動し、襲撃を行う。場所は共和国南部のとある平原の中の一軒家であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

正暦一九三九年 一〇月二五日 午後二一時頃

共和国南部 ト・ローザ

 

闇夜の静かな小麦畑の畦道を五台のトラックが走る。しかし、速度を上げているのにも関わらず土煙はそれほど立っておらず、それどころか車輪が地面から少し浮いた状態であった。

移動するアイスフォーゲルの中で三七式魔導演算機を背負うディルクが無線で指示を入れる。

 

「これより作戦を行う。周りには何も無い為。やや激しく動いても良いが、なるべく隠密に作戦を行え。目標の確保が最優先だ、それ以外はどうなっても構わない。首謀者のジュール・ファブールに繋がる人物であることに留意し、誤射には注意せよ」

『『『了解』』』

 

国境を再び越え、共和国内に入った彼等は検問を避けながらこのアイスフォーゲルの速度を生かしてたった三日でここまで移動し終えていた。

 

「では、作戦を開始する。納屋は第三中隊が向かい、家屋に第一、第二中隊を向かわせる。第四、第五中隊は監視の任にあたれ。すぐに彼等を回収できる様にしろ」

 

家のサイズからそう考えると全員が無線で頷き、そのままコンラート達魔導演算機を持った部隊が幌を開けるとそのまま飛んで行った。既に蓮子率いる偵察部隊が先に一軒家の監視を行っていた。

今回、ディルクはアイスフォーゲルに乗ったまま後方で待機し、直衛部隊と共に異常がないかを空から監視する役目を追う事となった。

戦後になって配備が始まった新型短機関銃(MP43)といつもの汎用機関銃(MG42)を持ち、彼等は建物に入っていく。正直やってることが現代戦やな、持っている武器がおんなじだし……

一個小隊につき、四丁の新型短機関銃と一丁の汎用機関銃を持ち。中隊全体だと一二丁の新型短機関銃に三丁の汎用機関銃を持っていた。

 

 

 

現在は第五中隊まで存在する我が第五〇〇降下猟兵大隊は参謀本部の意向に従い、現在は抵抗軍の司令官が保有しているとされる転移魔法発動の装置を捜索していた。この部隊に入った者はその内容を口外することを禁じられ、家族にすら話をする事を許されない。

その代わり最新兵器が常に与えられ、待遇も良かった。今回の新型短機関銃だってそうだ。現在軍縮が進む軍部内で最新鋭の銃を持てることは極めて珍しい事である。元々俺の持っていたフェドロフの使い方を見て興味があった彼等は新型短機関銃を受け取ってからその使い方を覚えていた。

 

元々半自動小銃や短機関銃を主装備としていた彼等はこの中間的存在の自動小銃にこうなっていた。

 

『こちら01、外を制圧』

『02、配置につきました』

『こちら03、内部状況把握完了』

 

監視をしていた抵抗軍兵を倒し、建物に張り付いたのを光増幅魔法を使って確認した俺は命令を出す。

 

「周囲に接近する敵影なし。直ちに突入せよ」

 

そう言うと、コンラート大尉達は窓から手榴弾などを投げ込み、爆発音がする。

平原の中の一軒家にコンラート大尉達魔法兵が突入を開始していた。




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