抵抗軍副官を務めるヘイルダム・ルメイを捕える為に突入したコンラート達第五〇〇降下猟兵大隊。
新たに訓練された転移者達で構成された第四、第五中隊を見た時は新米に何ができると思って演習をしたが、それは大きな間違いだった。
流石は帝国の黒いダイヤが教え込んだだけあり、その腕は恐ろしく高かった。
魔導適性が高い影響で漏れる魔力がほぼ無く、戦場で感じていた魔力の残骸を感じ取ることができなかった。
少佐殿の場合は魔力が桁違いだが、魔導適性が低い為。溢れる魔力残骸でどこにいても追えることができる。
恐ろしい速度で移動するディルクにコンラートが追いつけるのはこの特異的体質が関係していた。
転移魔法装置を保有している抵抗軍司令官ジュール・ファブールの居場所を知ると思われるヘイルダム・ルメイ少佐を捕える為に最終発見地点である共和国南部の一軒家に突入したコンラート達第一、第二中隊は警護をしていた抵抗軍兵士を倒す。
「良いか、必ず頭を撃て。たとえ死体であってもだ!」
少佐殿が訓練された第四、第五中隊と行った襲撃時に、死んだ抵抗軍兵がアンデッドとなって蘇ったと言う情報を受けていた彼等は撃ち殺した後も持っていた拳銃で必ず一発は頭を撃ち抜いていた。正体が分からない以上、万全を期せねば……
「一階に敵影なし」
『二階を制圧、残敵無し』
『納屋には敵は居ませんでした』
一軒家を制圧し終え、其処でネックウォーマーを取ると其処で息を吸う。今の所、誰もアンデッドとして起き上がっていなかった。やはり頭を一度撃てば問題無いようであった。しかし……
『どこにもヘイルダム・ルメイが居ません』
『納屋も同じです』
一軒家なので隅々まで隈なく探すが、どこにもヘイルダム・ルメイの姿が確認できなかった。念の為、倒した抵抗軍兵の顔も確認するが、どれも渡された写真とは違う顔であった。
「一体何処に……」
少なくとも午前中にこの家に入った事は既に偵察をしていた第四中隊の一個偵察小隊が確認している。見逃したか?
そう思っていると無線機から上から偵察をしているディルクの声が聞こえる。
『第一中隊、報告を』
「はっ!敵が家に見当たりません」
『見当たらない?納屋にもか?』
「はい……」
すると少し間を置いた後、ディルクはある突拍子もない指示をした。
『床を叩いて探せ。納屋の地面もだ』
「は、はい!……おい!誰かハンマー持って来い!!」
そう言い、家にあったハンマーで床を叩くと、リビングの床下に違和感を覚えた。
「ん?音が軽い……」
リビングの机とカーペットを退かすと底には地面に空いた小さな木の板が被されていた。その木の板は外せて、中を見ると其処には……
「あ、穴っ?!」
其処には先が真っ暗になるレベルの細い穴が掘られていた。
『やはりな……ヘイルダムがいるとしたらその先だ。接近戦になる事を想定して障壁魔法を展開しながら降りろ。大尉』
「りょ、了解……」
そう言うと演算機を抱えても入れる位の穴に即席の梯子を伝って慎重に降りて行く。
あの少佐はこんなことも想定していたのかと思った。まさか共和国人がこんな穴を掘り進めているとは誰が思っただろうか……
そう思いながら梯子を降り切って上を見ると其処には5m程上に立つ隊員を見ていた。
「一個小隊は俺について来い。残りは回りを警戒しろ」
「了解」
そう言うと四人が梯子を降り始める。それを見ながら新型短機関銃を持ってコンラートは地下道を屈んで進む。
地下道は電気式のライトが所々設置され、屈まないと移動ができないほどの高さであった。
新型短機関銃を持ってコンラートが進んでいるとふと遠くから微かに声が聞こえた。
『おい、上は……されたらしいぞ』
声が聞こえ、咄嗟にコンラートは銃を握り、足音を殺して接近する。
「っ!!敵っ!!」
その瞬間、出会い頭の先頭でコンラートは引き金を弾く。地下道で狭い空間での戦闘が始まっていた。
地下道を発見した報告を聞き、上空100mで監視をしていたディルクは一台のアイスフォーゲルと無線で通信をしていた。
アイスフォーゲルは円柱形の小砲塔を持ち、左右に二〇度ずつしか回せない。それでもアハトアハトを其処までトラック車台で振り回せるのも凄いのだが……。砲塔周辺の見た目は英国の架空戦車のエクスカリバーみたいになっていた。
車輪は引き込み式となっている様で、外洋を航行する際はハンドルを回して格納するそうだ。
通常は八輪のトラックであるが、中身は大砲を積んだ自走砲、おまけに小型艇としても行動可能。因みに運転席がトラック用と船艇用の二個ある帝国の装甲車らしい設計も取り入れており、水上航行時は砲身側が前になって進むらしい。
主砲には56口径88mm砲を装備し、これはⅤ号戦車の砲身を切り詰めた物で砲弾の共有が可能であった。限定旋回式密閉式砲塔を採用し、副武装に対空マウント用の汎用機関銃を装備していた。
因みに飛行時の推進器は魔導演算機の空圧推力を元に製作し、水上ではウォータージェット推進ができると来た。普段はライトを被せて蓋をし、水上航行時は蓋を開けて小型艇として使える様になっていた。
砲塔と幌の空いた空間に俺達が乗り込み、作戦前に幌から飛び出して行った。
飛行能力を得るため、主機には新型の三九式大型魔導演算機を装備し、乗員五名の魔力を連動させて動かしていた。
よくファンタジーとかである精神同調的な事は起こらないのかと問うと、『使用するのは魔力だけだから魔法を使用する際の精神と接続している訳ではないから問題はない』そうだ。そもそも精神同調なんて思いっきし禁術に抵触するそうで、むしろ『私を其処まで馬鹿だと思っていたのか!!』と怒鳴られてしまった。でも禁術じゃなかったらやってそうだもんあの人……
因みに補助機関としてディーゼルエンジンを搭載していた。通常の移動時は基本的にこっちのエンジンを掛けていた。
そして現在予備機含めて六台あるアイスフォーゲルには同級生達の小隊が乗り込んでおり、内一台は四人でディルクが車長を務めていた。その為、その車両には長距離通信用の無線機が備えられた特別仕様となっていた。
「どうだ。居たか?」
『うーん。今の所見えないね』
そして一台のアイスフォーゲルに乗るカセリーヌがそう言うとディルクは無線で地上にいる突入した隊員達に状況を聞く。
「展開中の各部隊は報告を」
そう聞くと、返答が返ってくる。
『こちら第三中隊。異常無し』
『こちら第二中隊。接近する敵影は確認できません』
『こちら第一中隊、地下道にで偶発的戦闘が起こっています。予想以上に地下道が複雑ですね』
地下から無線が届くのかと思っていたが、どうやら中継地点を介しての通信らしい。
報告を聞き、ディルクは判断する。
「第三中隊は納屋から一軒家に移動しろ。地下道の探索に第二中隊も加われ」
『『『了解』』』
「第四、第五中隊は建物に接近し、襲撃に備えろ」
そう言い、ディルクは再び辺りを見回す。光増幅魔法を使用した暗視ゴーグルは緑色の中に白い影を確認し、それがアイスフォーゲルであると確認する。
「……地下道から逃げたのなら追いかけるのは至難の業か…」
まさか、ハマースの様に地下にトンネル穴を掘るとは思っていなかったが……
しかし、地下道を掘っていたと言う事は何処に逃げ道があると言う事、何処か地上に繋がる場所があると言う事だ。其処から逃げていたら行方は追えない。そう思った時、地下にいるコンラートから無線が入った。
『少佐殿』
「何だ?ヘイルダムを発見したか?」
そう聞くと、彼は答える。
『いえ、ヘイルダムでは無いのですが……恐ろしい物を地下道で見つけました』
恐ろしい物とは一体何なのか。そう疑問に思った時。
「っ!敵襲……!!」
ディルクは視界に映るトラックを追いかける影を確認した。その手には小銃が握られ、中には対戦車ロケット弾を持った兵士もいた。
「後方にバズーカ兵だ!」
『確認している!』
そう松本に答えられるとそのまま幌の中からアイスフォーゲルが射撃をした。搭載していたのが榴弾だったこともあり、砲声と共に接近してきた抵抗軍兵に榴弾の金属片が降り注ぎ、一撃で一個部隊を制圧する。すると、同時にコンラートから無線が入った。
『少佐殿?』
「大尉!すぐに撤退しろ!上で襲撃だ!!」
『りょ、了解!』
そう言うと無線機越しに悲鳴が聞こえてくる。
『わぁあぁあ!!抵抗軍兵が一杯…!!』
『お前は黙って撃て!死にたいか?!』
『こちら二号車。敵の銃撃が凄いことになっています。助けてください』
『こっち三号車、建物に付きました。どこに撃てばいいですか?』
明らかに混乱した様子の彼等を見ながらやや呆れて指示を出す。
「三号車は二号車のいる四時方向、距離五〇〇。榴弾で射撃。二号車、そのまま道を走って建物に接近しろ。三号車が援護する」
『『了解』』
「それから四号車、余裕があるならバズーカ兵を撃て。うつつを抜かすんじゃねぇぞ」
『はいっ!』
指示を飛ばし、砲撃が農園に響く中。アイスフォーゲルは走行中に射撃をし、敵歩兵を攻撃する。その間、ディルクも空中から射撃し、敵歩兵を急襲する。
制圧した建物からも第二、第三中隊による狙撃が行われ、襲撃してきた敵歩兵はどんどんとその数を減らしていく。
「ぐあぁぁあああ!!」
戦闘が始まって三〇分、森の中にいた歩兵を上から銃剣で刺したディルクは其処で不可解な物を見つける。
「これは……」
其処には五芒星の首飾りを首から下げる抵抗軍兵の遺体であった。コイツも教国のスパイだったのかと感じていると。よくよく見たら周りにいた兵士にも同じ五芒星の首飾りがあり、確認すると今制圧した部隊全員に五芒星の首飾りなどの装飾品があり、疑問が浮かんだ。
「何で教国のスパイがこんな一箇所に……偶々なのか?」
そう感じていると道路脇に一台のアイスフォーゲルが停車し、運転席に座っていたカセリーヌが呼び掛ける。
「無線で警察がこっちに来ているって!」
「よし、撤退だ。飛行魔法兵は途中で回収する」
話を聞き、ディルクは其処で撤退を選択し、ヘイルダム・ルメイ捕縛という任務を果たせぬまま空に上がり、接近してくる警察車両を確認していた。
どうやらコンラート大尉が面白そうな物を見つけた様だし後で見させてもらうとしよう……
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