ヘイルダム・ルメイの捕縛のために共和国に侵入した彼等は其処で発見した地下道から脱出した後。共和国内のあのトラック倉庫の拠点でその紙を見ていた。
「これは……本物かね?」
その書類を見ながら思わず俺は聞いてしまう。しかし、コンラートは頷いた。
「はい、地下道からそのまま持ってきました。間違い無いかと……」
「だとしたら立派な条約違反だぞ……」
「それを言うなら我々もですがね」
そう言うと思わず皆が苦笑してしまった。今の自分達は共和国に別名と偽のパスポートでトラックと共に堂々と入国していた。
因みに武装はその時にアイスフォーゲルに積めるだけ積んでいた。どんだけ新型短機関銃を気に入ったんだよ……一応、予備武器として共和国で買える武器も買っていた。まぁ、それでも持ってきた新型短機関銃の方が使いやすいと好評だったが……
我々はどちらかと言うと条約違反ではなく違法行為なのだが……
「まさか抵抗軍と教国が手を結ぶなんて……」
そう呟きながら共和国語と教国語で書かれた書類を見ていた。
ーー数時間前
地下道に潜入した第一中隊は其処で接近戦を繰り広げていた。
「狭いな…まるで掩蔽壕だ……」
「いや、掩蔽壕よりもここは良いです。砲撃が飛んできませんし、何より頑丈だ……」
少なくとも魔導砲撃でまとめて吹っ飛ばされる事もあったあの戦線に比べれば怖くなかった。それくらいあの戦場は地獄だった。一度共和国の魔導砲撃があれば地面丸ごと吹っ飛ばされる危険があったあの場所は正に死が隣り合わせであった。
しかし、それはここでも同じだった。現在、我々が追っているのは世界を敵に回す禁術である転移魔法装置、それを持つは共和国抵抗軍。
そして、禁術を執着して追いかける教国の部隊。未だに教国が転移魔法を追いかけている理由は不明だが、何度も転移者達を襲ってきているのは事実であった。
「う、うわぁぁあ!!」ダダダァンッ!!
地下道に隠れていた抵抗軍兵を撃つ。新型のライフル弾を切り詰めた新しい銃弾は狙撃から近距離の戦闘まで出来る素晴らしい物だった。分厚い壁など、貫通力に問題がある場合は機関銃兵が薙ぎ払う。それが今の第五〇〇降下猟兵大隊の戦い方であった。
与えられた新型車アイスフォーゲルには輸送能力もあり、其処に魔石やパンツァーシュレックを装備していた。
現在、我が部隊の人員は八七名、うち二九名は転移者だ。転生者を部隊に組み込む事に初めは司令部の正気を疑ったが、今ではすっかり仲間として認識していた。共和国兵とは言え本当の居場所はここじゃ無い世界。しかも聴取をした時、いきなりここに連れてこられたと言う。
三年前、学校のクラスメイトだと言う彼等は共和国のジュール・ファブールと言う男に言われ、帰るために砲兵としての技術を教え込まれ、戦争が終わるまで砲兵隊の一員として動いていた。その際、麻薬を混ぜ込んだ飲み物を飲ませて見えない枷を嵌めながら……
初め、本当に転移魔法なんてあるのかと思っていた。何せ次元を捻じ曲げるのだ。相当な魔力を必要とするし、危険も伴う。
だが、転移者が居た。それだけで転移魔法が存在しているのだと納得せざるを得なかった。昔に理論は確立していたが、実際に出来るとは思わなかった。
何故そんな転移者達を訓練させたのか……相変わらず少佐殿は何を考えているのか分からないな。
「……」
薄暗い灯りの灯る地下道を進んでいると所々上に続く梯子があるのを見つける。
「奴らはここから逃げたのか……?」
そう思っていると、目の前の曲がり角の先で複数の話声が聞こえる。共和国語だ……
『武器を取れ!』
『地下道を発見されたぞ!!』
『ここにも来るはずだ!』
そう叫ぶのは抵抗軍兵士。共和国からはテロ組織と認定され、我々が追いかけている組織だ。
声が聞こえて、ここが地下道の終点だと感じるとそのまま魔法弾を込めて突入する。
「敵発見!」
「撃てっ!制圧しろ」
部屋にいた抵抗軍兵士は即座に突入した仲間によって撃たれ、鞄を持って梯子を登っていた歩兵も頭を撃ち抜かれていた。
地下道を制圧し終え、即座に捜索をする。ボードや紙が置かれ、ここが司令所であった事は一目で理解できた。
「これは……」
突入した隊員が司令部を探していると、歩兵が持っていた鞄の中を漁っていた。そしてその中に入っていた紙を読んで思わず二度見してしまった。
そしてその後、直ぐに無線を繋いでしまった。
「少佐殿」
報告を入れるために無線を繋ぐと、少佐殿から返答があった。
『何だ?ヘイルダムを発見したか?』
「いえ、ヘイルダムでは無いのですが……恐ろしい物を地下道で見つけました」
そう報告した時、無線機越しで銃声が轟いた。上で何があったのかと思うと無線で少佐殿が叫んだ。
『大尉!すぐに撤退しろ!上で襲撃だ!!』
「りょ、了解!」
すると無線が聞かれ、上では砲撃の音が微かに聞こえた。
「撤退だ!必要な物資を持って上に上がれ!!」
そう叫ぶと、銃を片手に魔導演算機を起動させ隊員達が先に蓋を突き破って地上に上がり、少しの銃声がした後に地下に向かって叫んだ
「後ろを押さえました!!」
「挟み撃ちをします!!」
そう言い、そのまま飛んでいった彼等の跡を追うように鞄を持て上に上がると、農場に赤い銃撃の点が飛び。時々アハトアハト特有の砲声が聞こえた。直ぐに戦闘に加わろうとした時、再び公開無線で声が飛んだ。
『全部隊に連絡、撤退する。展開中の中隊は飛んでアイスフォーゲルに追いつけ!』
そう言うと、道路を走って逃げていくアイスフォーゲルを確認し、魔導演算機を用いて空に上がると。遠くから青色のランプが点滅した共和国のパトカーが向かってきているのを確認し、そのまま撤退中のアイスフォーゲルに空中から飛び乗っていた。
「ーーーで、確保した書類がこれか……」
撤退後、前にディルク達が前に拠点襲撃の際に利用したトラック倉庫。今では五〇〇部隊が共和国で活動する為の拠点となっている場所で確保した鞄の中身を全部ぶちまけてディルク達は情報を纏めていた。そんな中の一枚を見てディルクは冷や汗を掻きながら呟く。
その紙には教国が抵抗軍と取り決めを交わした内容であった。
「資金援助をする代わりに転移魔法の使用者を差し出せ……って事か」
「ですが、これは明らかな条約違反では?」
内容を要約したディルクにゲルハルトがそう言うと、ディルクは答える。
「いや、条約の解釈次第では違反にならないかもしれないな……」
「どういう事です?」
其処でカセリーヌが聞くと、ディルクは仮説を言う。
「聖地条約の第九条三項の『騎士団は如何なる戦闘行為に加担してはならない』は騎士団を派遣する事であり、資金援助はそれに該当しない……と言い張るかもしれんな」
「それは無理があるのでは?」
「あぁ、だからあくまでも仮説だ。そんなこと言っても既に共和国の要人を暗殺している彼等に資金援助をしていると言う点でこれは厳しいと思うしな」
そう言うと、ディルクは指揮官用アイスフォーゲルに乗ると中にある無線機に手を当てた。
長距離用の暗号を使用した無線を使用して司令部に連絡を入れると、返信があった。
『貴官の報告は了解した。現在、共和国国内で不穏な動きあり。警戒しつつ調査を続行せよ。次の命令は追って連絡する』
雑音混じりの声で命令を受け取るとそのまま息を吐く。
「要するに独自で動いてくれって事か……」
そう呟くとディルクは車両から降りる。
先の作戦でヘイルダム追跡が後手に回ったのと、抵抗軍の豊富な装備を持っていた理由を把握したディルクは教国が其処まで転移魔法に執着するのかを考えていた。
「(おかしい、こんな条約違反を起こしてまで教国が転移魔法を手に入れようとする理由……)」
少なくとも非公式の騎士団を派遣し、こうして条約違反を犯してまで共和国のテロ組織を援助する理由は何故だ?
病院や特別訓練施設の時でもそうだ。彼等は転移者を確保しようとしていた。彼等が何も知らないと言う情報が回って居なかっただけなのだろうか。
あれ以降、転移者を追跡する様子もない。そしてその時期は教国が抵抗軍に資金援助をし始めたのと同時期だ。
追わなくなったという事は、彼等に利用価値がなくなったという事と見て良いだろう。
では利用価値がなくなった理由。……それは彼等が転移魔法に関する情報を持っていないとリークされたからだろう。だが歴史上、魔法裁判に掛けられたのは禁術とそれに関する被害者も含まれている。後世に伝承させない為と言われているが本当にそうだろうか。
「……まさか」
一瞬、ある懸念が浮かんだ。それだと教国が今まで理想でしかないと言われた転移魔法を追いかける理由に説明が付く。だが……
「本当だったら、恐ろしい事になるぞ……」
少なくとも経済の混乱は避けられなくなる可能性が高い……それほどの爆弾だ。少なくともこの条約違反とセットで公表したらまず間違いなく教国は世界からの信用を失う事になる。そして国の信用がガタ落ちすれば、この世界の基軸通貨となっているミッドガルド・リラの価値が恐ろしく下落する事になる。そうしたら、世界恐慌が起こってしまう。
「冗談だったら良いが……」
そう呟くと、ディルクはカセリーヌ達の諜報隊に命令を下し、他の面々には次の作戦に備えるように命令を出していた。
同時刻
帝都レルリン 帝国軍統合作戦参謀本部 地下倉庫
ディルク達のいる倉庫から何百キロも離れた場所で、ペッツやコルネリウスが集まっていた。
ここは近くを地下鉄が通り、いざとなれば其処から逃げ出せるように設計されていた。
そんな地下室の一室でペッツ率いる転移魔法特別対策班はディルクかの無線報告にやや懐疑的な意見をしていた。
「ペッツ、教国と抵抗軍が手を結んだと?」
「あぁ、ディルク少佐が抵抗軍の拠点で見つけたそうだ」
話を聞き、コルネリウスはやや懐疑的に聞く。
「本当ならば条約違反ではないか?」
「いや、資金援助だけならば戦闘行為に加担したとはならないと言うだろうな」
「まさか……」
「いや、教国ならやりかねん。あの国は無理を押し倒す力があるからな」
そう言うとコルネリウスは大きくため息を吐きながらボヤく。
「全く、つくづく聖地条約は厄介なものだな」
少なくともこんな馬鹿げた条約を数百年守り続けているのも恐ろしい話だ。教国は神聖不可侵であると、この大陸に住まう人類の根底に植え付けられていた。この二人も、魔石が法外な価格で取引されてブチギレていた若い日のヴァルトーとクラブで偶然出会っていなければ教国に不信感を抱かなかったかも知れない。
聖地条約に加盟していないと国として認められない言う風習が出来上がり、今や世界にある国家全てがこの聖地条約に批准していた。嫌な風習だと感じながらペッツは部下に指示を出す。
「……エレニカ大佐を呼べ。教国が絡むなら彼女が一番だ」
第五章『水面下の三つ巴』完
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