正暦一九三九年 一一月一日
ルテティア市内 茂達が拠点とするアパート
あの小野寺を追い詰めてから三日が経った。このアパートの上半分は俺たちが丸々借りており、空き部屋もあってそこは時々市内に来る奴らの休憩所となっていた。
屋根裏で雨が降る中、真冬並みに寒いルテティアの景色を眺めながら茂は南方に揺れている針を見ながら外を見ている。
ここ数日、抵抗軍の目立った動きはなく。ルテティアにも一時の平穏が訪れていた。
数日前の雷雨で小野寺の本心と狂気を目の当たりにした舞鶴達は半分呆然となっており、小野寺に恐怖する者もいた。正直覚悟はしていたがあそこまでヤバいとは思っていなかった。あれは本当の化け物だ。そう形容するしか無いくらい奴のあの時の憎悪に満ちた表情は恐ろしかった。
「……」
不安定な天候の中、茂は屋根裏で外を見ていると屋根裏に蓮子が上がって来た。
「茂くん」
「蓮子か……」
「そろそろ交代だから……」
「もうそんな時間か……」
時計は深夜三時を示し、もうすぐ夜明けの時刻であった。
小銃を渡すと、茂は聞く。
「下の様子は?」
「殆ど立ち直ったけど、一部はまだ……」
「そうか……」
話を聞き、茂はそのまま下に降りると。そこでは頭を抱えて疲れた様子の舞鶴を立川が介護していた。
実を言うと、自分達を置いていった時点で心の奥底では分かって居たのかも知れない。だが改めてその真意を聞き、それが真実であったと言う事を嫌でも認識させられてしまったのだ。心情を理解しつつも労いの言葉をかける。
「お疲れ様」
「ええ、でも必要な事だから……」
そう言い、立川は目を覚ました舞鶴に食事を出していた。直後よりはマシだが、少し憔悴している舞鶴を見ながら茂は言う。
「気持ちの整理が出来るまで休ませるわけにもいかないが、どうするべきか……」
「命令が来ているの?」
「あぁ、抵抗軍の拠点がある。そこの調査だ」
「場所と時間は?」
「共和国北部、小さな港町だ。抵抗軍が何かを運ぶらしい、それを抑える。予定日時は明後日、そろそろ移動しなければ」
そう言うと、茂はそのまま部屋にいた大湊達に言う。
「アイスフォーゲルは持って行かない。残りはここで通信を保持したまま待機だ」
「「「了解」」」
そう言うと茂は再び階段を登るとそのまま着替え初め。漆黒の戦闘服に着替えて弾倉を入れるホルダーや拳銃入りのホルスターを持ち、三七式を背負って最後にフェドロフを持つ。
「気をつけてね」
「ああ、行ってくる」
そう言うと茂は屋根の扉を開けてそのまま雨の中を外に飛び出していった。
一一月三日
共和国北部 港町リーン郊外
ルテティアから経って二日後。ディルク率いる新編前の第一〜第三中隊はトラックに乗って北部の泥濘地に到着する。ここは魔導レーダーの反応は無い。その為思う存分飛行する事ができた。
『目標を確認』
『接近する物なし』
「よし、荷物搬入を確認次第、襲撃を行う。人よりも荷物が重要だと思え」
『『『了解』』』
「それから、本部より抵抗軍兵を生け取りにしろと命令が下された。例のアンデッドを調査するらしい」
そう言うとディルクは視界端から映るトラックを見た。その車列は泥濘地帯にある倉庫に向かって行った。
「荷物に人が集まったところで攻撃を行え」
「了解」
そう言い、横にいたガスマスクをする兵がその手にパンツァーシュレックを持って照準を倉庫に向けていた。
そんな彼を見たあと、警備をする抵抗軍兵を見ながらディルクはあの時の小野寺の言葉を思い出す。
『僕は決めた……君を殺してやると……』
あの悪魔が取り憑いたような奴の顔を思い返すと思わず呟く。
「望む所だ……」
今日はトラックの搬入作業がある日だ。中には重要な物資を積んでいると言う事で俺たちはこれからこのトラックを船に乗せる任務がある。
数日前に副司令が帝国軍に襲われたと言う情報もあり、警戒に越したことはない。
「荷物を運び出せ。このまま船に乗せる」
「あぁ、畜生。ここに来るまでキツかったぜ」
教国と提携を結んだ俺達は物資が潤沢にある。それこそ、最新の帝国製の突撃銃が手に入るくらいには……
「急げ、時間が命だ」
ここの指揮を任された兵がそう言い、中にいた人員はそれぞれトラックから積み直しをしていた。
倉庫を喧騒が包む中、荷物を運んでいたら………
「うわぁっ!?」
倉庫の天井が吹き飛び、瓦礫が落ちてきた。
「敵襲だ!!」
「急げ!船を出せ!!」
倉庫が燃え、それが攻撃であると理解すると司令官が指示を出していた。すると、倉庫に敵の兵士が突入して来た。その腕前は只者ではないし、恐ろしく早い。
それは自分達が時折、あの戦場で見かけることのあった漆黒の降下猟兵……飛行魔法兵と呼ばれる部隊が着ていた戦闘服を見に纏っていた。
「チッ!帝国風情が!!」
咄嗟に渡された銃の引き金をフルオートで撃つ。しかし、相手は魔法兵。普通の歩兵が単身で敵うはずがなかった。
「うわぁあああっ!!」
そのお返しと言わんばかりに帝国兵から同じ突撃銃のお返しで体を貫かれた。
「急げっ!」
船上で指揮官が怒鳴りつけ、荷物を運んでいた。数少ないが、それでも必要なことに変わりはなかった。
部下に最大船速で走らせると突如船が揺れ、後ろを見ると、そこには一人の飛行魔法兵が乗り込んでいた。
「クソっ!!」
咄嗟に指揮官が短機関銃を破茶滅茶に撃つ。無茶苦茶な乱射をするも、魔法兵相手に唯の拳銃弾では効果がなかった、だから……
「であぁぁああっ!!」
片手に銃剣用ナイフを持って突き落とそうと突進した。しかし……
「えっ?」
間合いを詰めた瞬間、その魔法兵は後ろに飛び、指揮官は勢い余って海に転落した。海面に顔を覗かせた時、既に入っていた小型艇は火に包まれていた。
「あぁ……」
するとその炎に照らされるように空中に浮かぶ黒い影が見え、一瞬だけ体から黒い羽が生えているように見えた。
すると、その魔法兵は指揮官を確認するとそのまま海を漂う彼を拾い上げて陸地に戻って行った。
襲撃を終え、指揮官を務めたと思われる少尉の階級章を持つ尉官を捕まえて返ったディルクはそこで荷物を見て何やら騒いでいるコンラート達を見た。
「どうした?」
するとコンラートが車列に乗っていた荷物を見ていた。
「少佐殿、見て下さい。すごい荷物です」
「?」
そう言われ、車両に積まれた木箱を覗き込むと思わず笑ってしまった。
「ふっ……ふはははははっ!!これはスゲェ、何処から持ってきたんだ?」
そこには木箱に収められた重機関銃が収められていた。それはとてもデカくて重厚な見た目をしていた。
「まさかブローニングM2重機関銃を見るとは……」
「これ、使えませんかね?」
「やって見るか?」
そう呟き、煙が立つ倉庫の中で彼らは積まれた弾薬と共に重機関銃を眺めていた。
車列はどうやら銃器を積んでいたようで、船を使って運ぶ予定だったようだ。
他には弾薬箱が入っており、中にベルトリンクされた.50口径弾が纏められていた。
「なるほど、司令が言っていたのはこの荷物ってわけか……」
「お陰で補給は何とかなります」
「なんか盗賊しているみたいな気分ですが……」
そう言い、大量の突撃銃用の弾丸や重機関銃、それ用の弾丸を確認した。
「よーし、運び出せ。テロリストから鹵獲した大事な弾薬だ。うっかり火を付けるなよ」
「「「了解」」」
そう言い、車列のトラック毎荷物を運び出していた。
それに合わせて、抵抗軍の捕虜数名を国境地帯に持って行って例のアンデッドの調査を始めていた。
これは恐らく、総長が指示して。まず原価より高い価格で新兵器の突撃銃とその弾薬を売る。
そして弾薬を一度抵抗軍に売りつけて共和国内に運ばせ、そこで襲撃をさせて弾薬を回収する。確実に俺たちの実力に頼る形だが、上手く行った。教国からの資金援助もあってウハウハな抵抗軍はおそらく帝国の新武器も持ててウキウキだっただろう。その証拠に……
「『くたばれ抵抗軍』……か」
突撃銃の入った木箱の裏に書かれたメッセージに思わず苦笑する。これはおそらくこの弾薬を売りつけた総長の部下の誰かが書いた物だろう。原価の数倍で売りつけて今頃総長達も微笑ましいだろうな。
現在、我々は抵抗軍からいただいた武器を持って撤退をしている。その数十台、中には重機関銃もあり、ついでにその弾丸も全て持ち出していた。すると上空を飛行する兵士から連絡が入る。
『隊長、前方二キロに検問を確認』
「迂回だ、俺たちは武器を運んでる」
「了解です、少佐殿」
「ルテティア市内に運ぶには手助けがいるな……」
そう呟くとディルクは無線機に接続し、ある番号を使って呼び出しをしていた。
同時刻
ルテティア 国家監視局
深夜だと言うのに帰る気配すらない建物の中で回復を受けた後もキリキリと仕事をするアンドレイ・ソルニエ国家監視局局長はその時、自分に与えられた秘匿電話から通信があった。最近導入された自動交換機を使用した盗聴対策の為の自動暗号化装置を取り入れた物だ。
受話器を取るとそのまま電話に出る。
「はい、アンドレイだ」
電話に出ると、相手はあの謎の若い帝国兵だった。
『あぁ、失礼。そちらは国家監視局でしょうか?』
「えぇ、そちらは名無し君でよろしいかな?」
これで確認を取るとディルクはアンドレイに聞く。
『頼みがある。街の監視レーダーが切れる時間を教えて欲しい』
「……見返りは?」
『今回知った抵抗軍の資金源』
話を聞き、アンドレイは頷く。
「分かった。第一第三の金曜の一二時、レーダーの定期点検時に電源を落とす。その時、一時的に魔導レーダーは動かない。荷物を入れるなら、その時だ」
『了解、感謝する。情報はーーカフェで四日後に渡す』
すると電話が切れた。話を聞き、アンドレイは一瞬だけ別の内線電話に手が伸びるが、そこで腕が止まる。
何せ抵抗軍をほんの十秒で全滅させた手練。今までこの警戒体制のルテティアで見つからなかった、と言うことは部下を展開させても負ける可能性が高かった。
「この手は無粋か……」
そう呟くとアンドレイは受話器から手を引いていた。
彼から依頼があるたびに抵抗軍の情報が手に入ると思うなら、それは楽で良かった。こっちはテロを阻止するようにすれば良いだけなのだから……
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