戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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七二話

正暦一九三九年 一一月七日 一二時

ルテティア市内のカフェ

 

周りでは大勢の人が休憩をしたり観光をする中、アンドレイは仕事の休憩傍らコーヒーを嗜んでいた。

ここは例の帝国の兵士から指定されたカフェであり、目の前にはあのテュリューリー庭園が広がっていた。

 

「……」

 

元々宮殿があったが、革命で焼け落ちた。絵画でしか残されていないが、残った庭園の美しさからさぞ宮殿も煌びやかな物だったのだろうと思いながら、その跡地を人々が闊歩する中、アンドレイはその人物が来るのを待っていると。ふと、後ろに誰かが座った。時計を見てアンドレイは呟く。

 

「さすが、帝国人は時間を守るな」

「……仕方あるまい。こっちは癖なんだ」

 

この声は間違いない、あの男だ。声からして若いと思うが、相当なエースだろう。初めて会った時に彼が背負っていたのはおそらく例の魔導演算機。それを背負っていると言うことはつまり彼は魔法兵。それも、軍の中でも実力があると認められた飛行魔法兵。

 

魔導演算機は帝国以外で成功した例がない画期的な道具だ。媒介なしで魔法を発動できると言われており、帝国を象徴するような兵器であった。今まで感応石や魔導書、詠唱などを媒介にしていた魔法が考えるだけで発動できるのは本当に画期的であった。一部は戦争時に鹵獲したと噂があったが、当時は陸軍少将であったジュール・ファブールによってその情報は全て抵抗軍に奪われていた。戦争中にジュール・ファブールが提案した『魔法兵効率化計画』と言われた魔法兵を訓練し。魔導適正を上げる訓練と言われたそれは、実際は異世界から人を攫う転移魔法であり、聖地条約違反の代物であった。戦争後期にその噂が囁かれ、当時の第三共和政政府が独自に調査を開始。教国も一度調査団を派遣したが、証拠が無く。その時は何もせず帰って行った。

 

 

 

しかし戦争終結間際になってそれが事実であるとほぼ確定したのだ。理由はどこからか流れて来たとある一枚の写真にあった。

その写真はゴテゴテとした機械装置であり、よく見るとそこには複数の魔法陣が浮かび上がる魔導装置。一目でそれが大規模魔法である事は理解出来た。この写真を送ったのが誰か、この装置はなんなのか。一切が不明のまま共和国はこの写真に映る魔法陣を調べると、それは次元を捻じ曲げてつなげる物であると発覚。それが転移魔法の一部であると確定した。

 

そして同時に、数年前に大陸全土の魔力が一時的に消えた時期があったと言う情報も入った。そしてそれはジュール・ファブールが魔法兵効率化計画を実行に移した時期と同じであった。それで彼を捕らえようとした時。帝国軍の大規模攻勢が起こり、その混乱に乗じて彼は姿を消した。

 

戦争が終わり。講和条約を締結した段階で新たに共和国正統政府軍と名乗る組織が結成され、共和国内で活動を始めた。その構成員の殆どが元軍人である事や行方不明となっていたジュール・ファブールが司令官を務めていると情報が入ってから警戒度は一気に上がった。

そして一ヶ月前、視察中の所を狙撃され。先ず財務副大臣が頭を撃ち抜かれた。その四時間後には国防大臣が窓ごと対戦車ライフルで撃ち抜かれ、死亡した。

この暗殺事件で警備を担当していた共和国内務省の面子は潰され、総力を上げて抵抗軍に対抗する事が決まった。

かの組織をテロ組織認定し、ルテティア全体で厳戒態勢を取っていた。

しかし、その包囲網を抜けられ、自分は誘拐された。そして恥ずかしい事に、同じく潜入していた帝国軍の部隊に救出された。

 

 

 

 

時間を十五分ほど遅れてくる事がマナーであるルテティアの中で時間通りに来るのはかなり異質であったが。今回は都合が良かった。

自分と背中合わせに座る帝国兵は自分に紙袋を渡しながらとある話をする。

 

「本国からの連絡で、『貴官に協力を願う』と命令を受けた」

「協力?」

 

すると帝国兵は詳しく話し出した。

 

「そこにも書いてあるが、抵抗軍は厄介な所と組んだ。帝国単独では対処不可能と判断しての結果だ」

「正気かね?数ヶ月前まで戦争をしていた国だぞ」

「敵の敵は味方と言うだろう?お互い抵抗軍の攻撃で被害が出ているのは同じだ。それに、面子回復は内務省の急務であると思われますが?」

「……」

 

帝国軍兵から話を聞き、アンドレイは少し考えると紙袋を持って席を立つ。

 

「返事は中にある番号に折り返す様にと言われています。良い返事を待っていますよ」

 

そう言い、帝国兵はアンドレイがカフェから出て行くのを見届けていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「尾行は?」

「居ない。追いかけてくる気配はない」

 

カフェを出た茂は横にいる蓮子に聞くと、彼女は頷く、それを確認した後。茂はそのままメトロに乗り込んでそのまま拠点に戻って行った。

昨夜、魔導レーダーの反応が切れたのを確認した彼等はそこで奪取した抵抗軍の物資を慣性制御魔法を使ってダイナミックに街の上を飛んで屋上から直接荷物を運んでいた。そして屋根裏に重火器や弾薬を入れるとそのまま必要な分だけを持って市外にトンズラしていた。

そのため現在、屋根裏には今まで以上に武器弾薬が積まれていた。

 

 

 

帰宅途中、メトロに乗った二人はそこで半年前を比べて変わった光景を目にしていた。

 

「大分銃を持つ人が増えたな」

「そりゃ、抵抗軍の攻撃があるからね。みんな警戒しているんだよ」

 

そう言い、蓮子も上着の下に隠しているモーゼルをチラリと見せる。

蓮子の持つモーゼルは弾倉を取り外す事ができるマシンピストルのタイプを持っているが、俺もブローニング・ハイパワーを持っていた。

護身用として銃の携帯が許可されている共和国、特にここ最近は抵抗軍のテロ行為に警戒して国民はかなりの割合で拳銃を持っていた。

帝国でも抵抗軍のテロ行為で民間人に死傷者が発生し、何より帝都で爆発騒ぎがあったのだ。

参謀本部の近くで起こった爆発に軍は警戒体制を敷き、ついでに教国との繋がりを考え。ペッツ参謀総長は参謀本部内にも網を張っていた。

 

転移魔法特別対策班はこれ以上単独で転移魔法を追跡する事は諦める事にした。何しろ相手が教国と手を組んだせいで恐ろしく勢力を拡大しているのだ。むしろ良くここまで単独で行けたと感心するレベルだ。既に規模は軍のみならず警察、一部政治家までも巻き込んでいるのだから恐ろしい。しかし分かるのは、抵抗軍の動きに頭を抱えるのは軍だけではないと言う事だ。一々共和国に楯突くほどの余裕もなかったのだ。

 

まぁ、転移魔法に関する情報は明かさない抵抗軍の対策本部と合同で。という事になるが……

 

 

 

 

 

帰宅途中、茂は思わず呟く。

 

「立川の元に行かないとな」

「大分落ち着いて来たしね」

「自殺まで行こうと思わなかったのが幸いだよ」

 

特に拳銃という簡単に死ねる武器が近くにあると言うのに頭を撃ち抜こうとしたかったのは本当に良かった。そうなったらこっちが手を撃ってでも止める事になる所だった。

 

「まぁ、立ち直ったのなら良かった。これで計画が……」

 

メトロで乗っている時、突如茂の口が止まる。すると蓮子がその異変に何があったのかと思って聞いてくる。

 

「どうした?何が「しっ!」…?」

 

すると茂はメトロの中で蓮子の口を閉じさせると。そのままメトロの中にいた一人の男に近寄り、背中に手を当てた。

その瞬間、手に持っていた魔法拳銃弾を媒介に感応石から魔法が発動。そのまま目の前にいた男は倒れてしまった。

 

「おっと、飲みすぎたか?」

 

そう呟くと茂は男を連れてそのまま駅を降りて行った。慌てて蓮子も追いかけるとそのままメトロを後にして行った。

 

 

 

 

 

「ちょっと!どうしたのよ」

 

男を担いで駅から出た茂に思わずそう話すと、茂は人のいない公園のベンチにその男を置いた。

 

「悪い、この男の動きが変でね……」

 

そういうと茂は気絶した男の来ていた上着を取ると、そこで思わず蓮子は顔を青ざめていた。

 

「これって……」

 

そこには手榴弾を大量に巻きつけたベストを着用する男の姿が居た。それを見ながら茂は言う。

 

「抵抗軍の自爆兵……と言った所か」

「自爆兵……?」

「あぁ、テロでよく使われる残虐な方法だ、まだ遠隔操作技術がないこの時代で助かった」

 

そう言いながら茂は巻きついた手榴弾が着圧か、時限式かを確認した後。慎重に手榴弾を取り外して行く。

 

「共和国製の時限式の手榴弾だ。爆発まで四秒の実戦用だな……」

「よ、よくそんな落ち着いていられるね……」

 

そう言いながら蓮子は苦笑していると、茂は慣れたように言う。

 

「着圧式じゃないんならコイツが動かない限り爆発しないから怖くない。手順さえ間違えなければな」

 

そう言い、茂は信管の無い、安全な状態の手榴弾の列を地面に置くとそのままピンの付いた信管付き手榴弾だけ手に取って川に放り投げた。

手元にはピンだけが残り。投げられた手榴弾はそのまま水中へと没して爆発する。水柱が起き、何事かと騒ぐ市民を見ながら茂は涼しい顔でその場を後にしていた。

 

 

 

 

 

戻ると蓮子が寄って来て茂に聞く。

 

「どうやって気付いたの?」

 

その問いかけに茂は答える。

 

「あの男の体付きだ。顔の痩せ具合にして腹が出ていたからな。おまけに目の焦点があっていなかった。恐らく催眠術か何かを使って自爆兵に仕立て上げたんだろうな」

「なんて非道な……!!」

「テロ組織というのはそんなもんさ」

 

そう言い、茂は抵抗軍の残虐なやり方に怒る蓮子と共に地上を歩いてバスに乗って帰って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「なんという事だ……」

 

国家保安局の局長室でアンドレイはディルクから受け取った資料を見る。確かに彼らの持つ武装は敗残兵にしては充実していると思っていたが、まさか教国から資金援助を受けているとは誰が思っただろうか。

 

「これじゃあ、条約違反ではないか……!!」

 

そう叫んで思わず机を叩きつけそうになってしまうが、アンドレイは抵抗軍の金の動きをまとめた帝国の資料を読んでいた。

確かにこの規模となれば帝国単独で抵抗軍を追いかけるのは無理だ。帝国が共和国に協力を仰いだのも理解できる。

 

「…共同戦線か……」

 

少なくとも教国に不信感を持っていたアンドレイは少し考えた後。信用できる部下を呼び出し、ある命令を出した。

 

「至急、対策チームを編成する。私が人員を直接選ぶからリストを寄越せ」

 

あぁ、先ほど川で爆発があったと通報があったばかりなのに忙しい……

 

 

 

 

 

 




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