『ーーー少佐か……』
「はい、至急お伝えしたい事があったので連絡しました」
『あぁ、分かった。話してみろ』
無線機に手を当ててディルクはペッツに無線を入れる。暗号化装置を取り付けた傍聴対策のとられた最新機器であった。
「先日、転移者が一時的に暮らして居たという屋敷の調査に向かいました」
『で、結果は?』
「転移装置が置かれて居た痕跡を発見しましたが、屋敷は外海へとつながっていました。既に転移装置は別の場所に移動して居ました」
『そうか…そこに転移装置はなかったか……』
そう言い渋い声を出すペッツにディルクはさらに報告を続ける。
「ですが、運ばれた際。痕跡がありました」
『ほぅ、痕跡が……』
「おまけに二年ほど前にその輸送時に使われたと思われる船を見たと近隣住民が言って居ました」
『その情報は信頼に値するのか?』
「いいえ、まだ確かめる必要が有ります。
……が、それよりも気になった事があります」
『……何かね?』
そんなペッツの問いにディルクは答える。
「教国です。先のヘイルダム・ルメイの時もそうでしたが、教国が転移魔法に執着している理由に少し疑問が生まれました。
魔法裁判にかけるのであれは転移者も含まれるはずですが、ここ最近は全く襲撃の気配がありません。それが気になりまして……」
『うむ、それはこちらでも確認済みだ。教国は今の所転移者を捉える動きがない』
「はい、そして教国が転移者を追わなくなった時期は丁度、教国が抵抗軍に資金援助を初めた頃です」
『ふむ…妙だな……』
ペッツはそこで手に顎を当てて不審に思う。今まで装甲車まで持ち出して転移者を負って居たのにも関わらず、転移装置を持つ抵抗軍と接触をしてから興味を失ったかのように転移者に接触をしなくなった教国。そして抵抗軍に協力をする教国の目的は転移魔法を使用する装置の確保であると推測されている。
教国が転移装置に執着する理由。
条約違反を行ってまで抵抗軍と癒着する理由。
その他、今までの教国の魔法裁判の歴史を鑑みて考えた結果……ペッツはある考えに至った。
『まさか少佐…君は……』
「自分は真相を確かめたく思います。それに、ヘイルダムの発見報告もありますので……」
『だが、危険すぎではないか?あそこで騒動を起こせば……』
するとディルクはペッツに間入れずに答える。
「だから、長期休暇を取るのです。騒動を起こしても責任は個人になりますから」
『はぁ…つくづく君が恐ろしいと思う時があるな……』
そう言うとペッツはディルクに現状を報告した。
『その件は了解しよう。こちらにも相応の準備が必要だ………で、少佐も知っているだろうが。帝国と共和国の間で抵抗軍に対応する為のチームが組まれた』
「はい、ニュースで耳にしました」
『そこで、抵抗軍の資金源となっている教国に非難声明を出したが……』
「結果は?」
『予想通り真っ向から否定した。『我々は依頼を受けて資金援助しただけだ。それが武力行使に使われているとは知らない』とな』
「おおかた予想通り……と言った所でしょうか」
『あぁ、何せ戦災孤児の施設に援助という形だったからな。だが、そこは抵抗軍の偽会社だ。それを知って居て送って居たのは間違いないんだがな……』
そう言い、面倒そうな声を出しながらペッツは話題転換をしながらディルクに話す。
『少佐、教国を調べるのであれば数日後に身分証を発行する』
「身分証?」
するとペッツはディルクに驚きの話を持ちかける。
『あぁ、教国内で活動する為に必要な証明書だ。必要な物は部下に届けさせる。君一人で行くのは無謀だ、誰かチームを組んだほうがいいだろう』
「閣下、その証明書というのは……?」
『無論、魔法省の職員証だ』
その瞬間、ディルクは飲んでいた紅茶を溢しそうになった。魔法省の職員証?この人は何を言っているんだ。そんなものが手に入るというのか?
様々な疑問が飛び交う中、ディルクは思わずペッツに聞く。
「閣下、魔法省の職員証なんてどのように手に入れるおつもりですか?」
『その点は心配するな少佐。教国に詳しい人物に協力を依頼するだけだ』
ペッツが信頼する人物……と言うことはつまり安心できるという事に違いないのだが。恐ろしく警備の厳重な教国の中枢機関にどうやって入るのか。それが気になってしまった。
『調査する為の人数をまた報告してくれ。必要な物資はこちらから送る』
そう言うとペッツ参謀総長は無線を切って居た。
ディルク少佐との通信を終え、ペッツは席を立つと。後ろに立って居た一人の女性軍人に言う。
「仕事だ大佐、魔法省の諸君証の偽造を頼むぞ」
そう言うとその女性軍人こと、エレニカ・ネーデルハイトはため息を吐きながらペッツに言う。
「貴方本気?魔法省の警備は厳重なのよ?」
「いや、少佐は無理はしない。それに彼は帝国まで責任が行かないように対策をしている。何かあっても問題ない」
「はぁ…優秀すぎるモルモット君だ事で……分かりました。何人分作れば?」
「五、六枚ほど頼む」
「了解」
そう呟くと、エレニカは地下室を出る。その様子を見届けながらペッツは椅子に座ると手に半分ほど燃えた葉巻を持つ。
葉巻に火をつけて煙を吐くと、ペッツはふと過去の記憶に浸って居た。
「もう十年にもなるのか……」
そう思いながらペッツは若い日のエレニカを思い返して居た。
ーー十年前
帝国と教国の国境地帯
月に若干の雲が掛かった日の夜。森の中を一人の少女が走って居た。
その少女は身体中に生々しい傷があり、頬には擦り傷があった。
『こっちだ!!』
『あっちに行ったぞ!!』
森の中を男の声が響き。その手には銃が握られて居た。
『最悪撃ち殺してかまわん。撃てっ!!』
その瞬間、白い聖職服に小銃を持った教国兵が持って居た小銃で少女目掛けて発砲して居た。
「うっ…?!」
そして放たれた銃弾の一発が少女の右足を貫通し、そのまま倒れてしまった。
地面に倒れ、疲労と絶望で視界が真っ暗になり、少女はそのまま目を閉じてしまった。
『チッ、帝国軍が来たぞ!』
『撤退しろ!』
『目標は?』
『さっき足を撃った。それよりも我々がここに居る方が問題だ』
目が覚めると、自分は病院で寝て居た。体を起こすと体に痛みが走り、よく見たら足に包帯が巻かれて居た。
外を見ると何処かの駐屯地の様で帝国軍の軍服を身に纏って居た。
ここは帝国領の何処かなのかと思っていると部屋の扉が開き。一人の軍人が入って来た。
「早いな…もう目が覚めたか……」
「……アンタは……?」
するとその軍人は私を見ながら紳士的に答える。
「帝国軍国境警備師団師団長のヴィルヘルム・テオドール・ペッツ中将だ。お前さんが教国からの越境者だな?」
そう言うと、ペッツはベット横の椅子に座ると私に色々と聞いてきた。
「お前さん、名前は?」
「……エレニカ。エレニカ・ネーデルハイト」
「何故国境を越えた?」
「……亡命」
「亡命……」
話を聞き、ペッツはエレニカに聞く。
「エレニカ君、亡命するならそれなりの手続きが必要になるが?」
「……私は教国に帰りたくないだけ」
「そうか……」
ペッツは話しを聞いた後、そのまま病室を出る。
「君を保護した時の状況は把握している。教国が帝国領に向けて発砲したこともな」
そう言うとペッツは最後に私に言った。
「君を保護する。亡命手続きをするから待って居てくれ」
それだけで、私の心は異様なまでホッとして居た。
エレニカ・ネーデルハイトは十五歳の時に教国から帝国に亡命した元教国兵である。
産まれたばかりの頃に教国の広場で捨てられており、孤児院で育てられた私は教国の生活に嫌気がさして当時働いて居た騎士団本部から逃げ出した。
勿論追いかけられて銃撃を受けたが、偶々帝国軍の国境警備隊に保護されて後に参謀総長となるペッツと出会った。
それからペッツは私の亡命手続きを行った後も色々と工面をしてくれた。彼のお陰で自分は士官学校を卒業し、魔法研究に没頭して居た。初めは教国兵時代に培った技術を使ってペッツの周りの防諜を行ったりして小遣いを貰って居たが、陸軍学校生の時に魔法の遠隔操作の技術に興味を持って、その後はずっとその研究者が勤めて居た帝立魔導研究局に身を納めて居た。
教国の追手から逃れるにはそこは丁度よかった。周りはMADだらけで誰も近寄ろうとしない空間に隠れて自分なりの研究に没頭し、いつしか自分がその研究局の代表となって居た。
「……」
教国には色々と今も思うことはある。だが、帝国に亡命し。そこで好きな研究をできることは幸せな事であった。先任の意思を引き継ぎ、二年前。それは完成した。私の人生を賭けた集大成であった。
三七式魔導演算機
かつてない程魔力を有した彼によって成し遂げられた魔法の革命だ。すぐさま軍用に使用されてしまったが。戦争が終わり、今は民生用に小型化の研究をしている。
ペッツが参謀総長になったお陰で随分と動きやすくなった。その代わり、注文が入ることが増えたが……
私は教国兵時代の技術をペッツが選んだ兵士に教え込むバイトをして居た。ペッツが見込んだだけあってほとんどの兵士は付いてきていたが、その中でも一際目立っていたのが彼だった。
ディルク・フォン・ゲーリッツ
かつては戦争中であった共和国の兵士であり、帝国に捕虜として捕えられていた所をその稀な才能から帝国に移籍する異質すぎる経歴を持つ男であった。
戦時中最大の被害であるマーチバル攻勢の唯一の生き残りであり、公式記録では死亡した事になっていた。共和国を捨てて帝国に寝返った、側から見ればとんでもない兵士である。
彼の提唱する『戦争の規格化』と言う論文を読んだ時は驚いたものだが、同時に理にかなっているとも思えた。そしてその才能から私の元に送り込まれた。ペッツからは『君の実験に協力させる代わりに最高の教育を施せ』と言うものであった。
初めはそんな教育を施しても追いつけるのかと思っていたがいざ教育をすると彼は乾いた土のように全部吸い上げ、教えた技を自分の物にしていた。
同時に桁外れの魔力を有す彼は実験機であり、今まで魔力に自信のある連中を悉く沈めてきた三七式魔導演算機を躾けた。あれは彼以外が使ってもただの置き物となる為、そのまま三七式魔導演算機として唯一の機体として採用されていた。あれ以降、毎年の様に新型の魔導演算機を開発し、この前はディルク少佐の要求に応じで大型魔導演算機を搭載した特殊艇を開発したばかりであった。
「はぁ、彼はやはり規格外ね……」
そう呟きながらエレニカは教国の魔法省の職員証を製作していた。
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