ミッドガルド教国は大陸中央部に存在する内陸国であり。国内に聖地と呼ばれる場所があり、そこを目指して大陸中から観光名所や巡礼者が多く訪れていた。教皇庁と呼ばれる政府機関が上に立ち、その下に各省庁が置かれていた。
そして、教国には大陸唯一の魔法省と呼ばれる政府機関が存在し。大陸に存在する魔法を管理していた。禁術指定をするのも魔法省が管理をし、その術式は厳重な警備の元、入る事はとても厳しかった。
正暦一九三九年 一二月八日
ミッドガルド教国 聖都ペドロ
純白の大理石で設計され、一種の神界の様なその場所に魔法省は存在した。多くの司祭服に身を纏う職員が多く出入りする中、鞄を片手に白い司祭服と修道服に身を包んだ二人が魔法省に入り、そこで検査を受ける。
「御用は?」
「アンジョラ大司教に面会の為、参りました」
荷物検査を受けながら警備員にそう言うと、そのまま二人は警備員にゲートを通される。ボディーチェックも行い、そのまま魔法省に入る。その横では銃を持った警備兵に追い払われる人がいた。
魔法省の中に入り、司祭服を身に纏った二人はそのまま魔法省の中にある『魔法省内部監査部』と書かれた一室に入る。すると中にいた職員が一斉に二人を見て何事といった目を向けていた。
「失礼します。アンジョラ大司教はおりますでしょうか?」
そう聞くと、職員が納得をした様子で部屋にやってきた二人を案内する。
「こちらです。少々お待ちを」
そう言い、部屋の前で秘書と思わしき人がこっちを見ながら椅子に座らせて待たせた後、そのまま部屋に案内した。
部屋に入ると電話片手に椅子に座って外を眺める一人の人物がいた。
「……えぇ、それで構わない。進めてくれ」
何やら仕事の話をしている様子のその人物は声的に女であると確信すると秘書と思わしき人がその人物に言う。
「大司教様、お客様です」
「あぁ、分かった。……すまんが出てくれ」
「はっ……」
そう言うと秘書が部屋の扉を閉め、三人しかいなくなったところでその人物は椅子を回転させると俺たちを見て、受話器を置いた。
「やぁ、君がペッツ参謀総長からの使者だって?」
「はい、ペッツ参謀総長より手紙を渡しに……」
「あぁ、そう言うのは良い。連絡は届いている。君たちの望みは『禁術魔法を管理している場所へ行く事』だとね」
「そうですか……」
すると目の前に座る女性、魔法省内部監査部部長アンジョラ・マルケッティ大司教は俺たちをソファーに座らせる様促す。
言われるままにソファーに座るとアンジョラに持っていた鞄を渡す。二重底を開けると、中には酒と紙煙草がしこたま入れられていた。
「おぉ、これこれ。これを待っていた」
そう言いながらアンジョラは鞄から酒瓶を取り出す。彼女は教国内の帝国側の人間で、ペッツ参謀総長と過去に関わりがあったそうだ。見た目はさすが美魔女と言われるあたり、年齢詐欺レベル肌が瑞々しかった。事前情報では五十代と聞いていたのだが、二十代後半と言っても差し支えないくらいだ。てか本当にペッツ総長と同い年なの?
そんな疑問を持ちながらディルクは酒を早速開けようとするアンジョラに聞く。
「アンジョラ大司教様」
「アンジョラで言い。君の要求する禁術指定書庫に行くのであれば、ハッキリ言ってしまう。
無謀だ」
「……それは承知です」
そう言うとアンジョラはグラスに酒を注いでそれを飲み干すと答える。
「まぁ、禁術指定書庫の場所は教えておく。地図を渡すから、あとは君たちで判断すると良い。君たちが挑戦するのであれば、私は何も言わない。必要な物を調達するだけだ」
「分かりました」
「気を付けたまえ。数日前の二国間非難の影響で魔法省の警戒は高まっている」
「ええ、分かっています」
そう言うとアンジョラから教皇庁の建物の設計図を記した紙を受け取りながら鞄を片付け、ディルクはそのまま席を立つ。
「また連絡するかもしれません。その時はよろしくお願いします」
そう言うとディルクは顔を隠してついてきたカセリーヌと共に部屋を後にした。
ディルクが出て行った後。アンジョラは片手に彼が鞄の中身と共に渡した紙を見て呟く。
「フッ…あの若僧、なかなか良い腕じゃないか。えぇ?」
そこには教国が戦災孤児の施設に流した金の元出、銀行口座が記されていた。
「これでライバルが蹴落とせる。感謝するぞ」
そう呟き、アンジョラは再び注文して持ってきてもらった。教国では制限されているウイスキーを昼から嗜んでいた。
現在、魔法省ではアンジョラとマッキが次期魔法省枢軸卿を狙って争いをしていた。
片方は内部監査部、もう片方は魔法管理部。どちらも重職であると同時に実績もほぼ互角であった二人、しかしアンジョラは教国出身ではない事からややマッキの方が優位に立っていた。
「騎士団を教皇の許可なく動かして全滅。おまけにテロ組織に資金援助…奴を追い詰めるには十分か……」
アンジョラはそう呟くと外を歩くディルクと言う青年を見ていた。
「相当優秀な部下を持ったらしいな。……ペッツ」
そう呟くと遠く懐かしい目をしていた。
教皇庁を後にし、町に繰り出したディルクとカセリーヌはそこでその喧騒に舌を巻く。
「噂には聞いていたが、凄いな……」
「ね、本当に。京都に来たみたいだよ」
そう言い、観光客で大騒ぎの通りを見ながら茂は蓮子と店を見ながら回る。
出店が多く出店し、串に刺した焼肉などが売られていた。
「マジで観光名所だな」
そんな出店通りを見ながら茂はそう呟くと司祭服のまま片手に鞄を持ちながら歩いていた。その脇では蓮子が茂の腕を持って指差していた。
「ねぇ、茂くん。あそこ行って見ない?」
「待て、まずは着替えてからにしろ。修道女服のまま出歩けるか」
「あ、うん。そうだね……」
そう言い、蓮子は修道女服を着たまま一旦教国で取った宿に入ると、そこで司祭服を脱いで私服に着替えていた。
「はぁ…初めて来たけどこんな場所なんだね」
「あぁ、人で一杯だ。少なくと世界中からの観光客でな」
「この中に諜報員がいると?」
「あぁ、俺が戦争中に共和国に入った時の様にな」
あの時は一瞬で通り過ぎてしまったが、まさか教国に入る事になるとは思わなかった。
人生何が起こるのか分からないと思いながら茂はアンジョラより受け取った見取り図を開く。
「禁書指定書庫は教皇庁の地下にあり、入る為には専用の魔導鍵が必要…おまけに出入り口は一つか……」
「うわぁ、そりゃあの人が無謀って言うわけだ」
そう言い、蓮子が微妙な顔を浮かべると部屋の扉がノックされた。咄嗟に広げていた地図を片付け、茂は少し警戒しながら扉に近づくと見知った声が聞こえた。
『俺だ』
それが大湊であると認識すると茂は扉を開けた。
「何だ、お前らか……え?」
私服姿で出た茂はそこで思わず変な声が漏れてしまった。その理由は……
「誰だ、その子?」
大湊と共について来た同級生、松島と柚子の間に立つ十歳くらいの子供を見て思わず変な声が出てしまった。
その少年は子供用の祭服を着ており、教国でよくいる聖職者の子供なのだろうと予測できたが……
「何でお前らに子供が居るんだ?攫って来たのか?」
「馬鹿でしょ、そんなことする訳ないじゃない」
「いやぁ、その……」
すると大湊はこうなった訳を話した。
教国に入った茂と、諜報隊と呼ぶ蓮子達四名はそこで宿を取った後。茂達が教皇庁にいる協力者と接触する間、街の調査を命じていた。まぁ、調査とは名ばかりで観光地の欲望に負けて飲み食いをしていたのだが……
そんな中、町に出ていた大湊と松島は屋台全制覇を目指して街を歩いているとふと不思議な子を見た。
「ん?どうした?」
街を歩いているとふと視線が止まった松島に、大湊が声を掛けると彼女は通りの端で出店を見てボーッとしている少年を見た。
「いや、ちょっとあの子がね……」
「ん?」
「ほらあそこ」
「あぁ…あの子供か……」
すると松島がとんでもない事を言い出す。
「すっごい好みの男の子なんだけど」
「おい、ショタコン。金槌で頭叩かれたいか」
そう言い、大湊がガチトーンで言うと松島はそんな大湊を気にするそぶりすらなくその少年に話しかけた。
「坊や、大丈夫?」
「ふぇっ?!え、あ、えっと……」
いきなり声をかけられて困惑している少年に大湊が真っ先に松島の頭を叩いた。
「馬鹿野郎、いきなり話しかけんな」
「えー、だってぇ〜……」
そう言って頭を摩りながら松島は大湊にゴネると大湊はその少年に謝る。
「すまんねこの馬鹿が。さっ、行くぞ」
「あーん、待ってよぉ〜……」
そう言って松島の首根っこを掴んで離れようとした時、その少年が叫ぶ様に言った。
「あ、あの……」
「「?」」
「その…ま、迷子なんです……」
「「……え?」」
少年の言葉に思わず二人は目が点になってしまった。
「うーんと?つまり、外で遊んでいたらここが分からなくなった……って事で良いの?」
「はい…そんな所です」
適当に入った店で話をようやくした松島に大湊は大きく息を吸って聞く。
「すぅ〜……どうする?」
「どうするって言ってもね、親御さんの所に届けないとね……」
するとその少年はすかさず彼らに懇願するように言う。
「あ、あの…出来れば。家にはその……折角抜け出せたので…もう少し探索してからで…お願いします……」
「「……」」
抜け出したと言う嫌な言葉を聞いた二人は直ぐにでも警察に連絡した方がよさそうな案件だが、その必死さにどうすれば良いかと困っていた。
「どうする?」
「取り敢えず聞いてみようよ。ディルクに」
「あぁ、そうするか。その方が一番手っ取り早そうだしな」
二人は少し話した後、茂に相談してどうすれば良いかと判断してもらおうと決めていた。
「ーーーで、どうすれば良いかと?」
「うん」
「はい、そうです……」
ホテルの一室でベットに座りながらディルクは二人を見ると真っ先に言う。
「貴様ら、まず正座。話はそれからだ」
「はい……」
「ういっす……」
そう言い、部屋で二人を座らせるとディルクは真っ先に二人に怒鳴った。
「馬鹿タレが!!子供を引き連れて誘拐認定されたらどうするつもりだ!?」
「「誠に申し訳ございません」」
同時に土下座をする二人を見て茂は頭を抱えながらその少年を見る。その少年は蓮子が買って来た教国の屋台の料理を食べて満足げにしていた。
「全く、相手は聖職者の子供なんだぞ。恐らくこのホテルにいるのも見られている。直ぐに警察に連れて行くぞ」
「えぇ〜……」
「えぇ、じゃねえ。迷子なら警察に連れて行けば保護される。俺達よりよっぽど安全だろうよ」
そう言い、ディルクは大湊達にこの少年を警察に連れて行くように言っていた。
その間、少年は蓮子と茂の事をやや驚いた目で見ていた。
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