ヘイルダム追跡と禁術調査の為に教国に入国した茂達は、そこで迷子の少年を保護していた。
「教国の警察は優秀と聞いている。直ぐに届けよう」
「うん、そうだね」
ホテルの一室でディルクはそう言うと、カセリーヌも頷くと少年がディルクに言う。
「で、でも…もう少しだけ外に居たいです……」
そう言うも、ディルクは少年に諭すように言う。
「だがな、君のような子供を連れて歩くとこっちが捕まってしまう。俺だって豚箱に放り込まれるのはゴメンだ」
そう言うとその少年はディルクの話を聞いて軽くため息をつくと諦めたような声で答えた。
「分かりました……」
しかし、その声色はとても悲しげなものであり。その様子を見て思わずカセリーヌが言う。
「ねぇ、ちょっとくらい良いんじゃないの?」
「?」
「だってさ、この子だいぶストレスが溜まっているみたいだし。息抜きとかさせてあげないと」
その少年と昔の自分を重ねながらカセリーヌはディルクに話しかける。
カセリーヌの意見を聞き、ディルクは少しだけ考えると、松島からの援護射撃も入る。
「そうだよ、息抜き息抜き。ディルクもするでしょ?」
「取り敢えずショタコンは黙っとれ。貴様の欲望に興味はない」
そう言い、しばらく考えた後。ディルクは頭を掻いた後に決断する。
「……せめて着替えさせてからにしろ。祭服じゃ目立ちすぎる」
「っ!!じゃあ!!」
「勝手にしろ。俺は此処で寝ている」
そう言うとディルクはベットに横になってそのまま寝始めた。
ディルクの許可が出て松島はこれでもかとウキウキになって少年の体を見て外に飛び出す。おそらく少年用の服を買いに行ったのだろう。そう思いながらカセリーヌ達は少年に名前を聞く。
「貴方、お名前は?」
そう問われ、少年は少し戸惑いつつも答えた。
「えっと……ジョヴァンニって言います」
「ジョヴァンニ君ね。私はカセリーヌ・モンローって言うわ。宜しく」
「よ、宜しくお願いします」
そう言うとジョヴァンニは律儀に同級生達と挨拶をすると、カセリーヌに聞く。
「えっと、あの人は?」
そう言い、ベットの上で爆睡中のディルクを見ると大湊が教える。
「あいつはディルク・ゲーリック。俺達の友人だよ」
「そうなんですね」
大湊は咄嗟にディルクが教国で使うように言われた名前を言うと、ジョヴァンニは興味ありげな目で彼を見ていた。
正直色んな名前持ちすぎだろ、怪人百面相かよ。まぁ、帝国での名前を捩っただけだが……
大湊達はそんなディルクを他所にジョヴァンニと話で盛り上がっていると松島が紙袋を持って戻って来ていた。
「ただいま〜!」
「おうお帰り。早かったな」
「そりゃ勿論」
そう言うと松島は息をやや荒くしながらジョヴァンニに近づく。
「さぁ、お着替えしようね」
「え、えっと……お姉さん?」
そう言い服を持ってジョヴァンニに近づく松島に蓮子と大湊がほぼ同時にストップをかけた。
「はいはい、ショタコンは離れましょうね〜」
「おう、危険物を押さえとくぞ」
そう言い、松島をジョヴァンニから引き離すとカセリーヌが松島の買って来た服をジョヴァンニに渡す。
「さ、着替え来な。危ないお姉さんが爆発する前に」
「あ、はい……」
そう言い、ジョヴァンニは後ろで揉めている様子の彼等を見つつも、風呂場で着ていた祭服から松島が買って来た私服に着替えるとそのまま外に出た。
「おぉ、似合ってんじゃん」
「あ、有難うございます」
「じゃ、外に行こうか」
そう言うとカセリーヌはジョヴァンニの手を取ってホテルから出て行った。
ジョヴァンニを連れて街に出たカセリーヌ達は、道中で彼に色々と聞いていた。
「年は?」
「今年で十になります」
「おぉ、十歳か。その時は何していたかねぇ……」
屋台を回りながらカセリーヌはそう呟くと、ジョヴァンニは申し訳無さそうに言う。
「すみません。全部払わせてしまって……」
「あぁ、良いよ全然。遊べる時に目一杯遊べば良いし。何より……」
するとカセリーヌは後ろをついてくる松島を見ながら言う。
「全部彼女が建て替えてくれるよ」
そう言い、心が浮かんでいる様子の松島を見ていた。
「(このショタコンめが……)」
内心毒吐きながら安全のためにカセリーヌは常にジョヴァンニの横についていた。松島の趣味は知っている為にこの現状は非常に危険であった。そもそもジョヴァンニと出会ったのも松島のショタコンが原因でもあった。
カセリーヌは屋台で買った串付きの肉を渡すと、ジョヴァンニは嬉しそうに頬張っていた。その様子を見て思わず嬉しく思うのはやはり相手が子供だからだろうか。
自分達はもう大人だ。こんな若い時もあったのかと思っていると、松島は横で呟く。
「あぁ、カメラでも持ってこればよかった……」
あぁ、やばい。禁断症状に入りそう……
最も危険なのは警官ではなくこの同級生かもしれないと思いながらカセリーヌはふとジョヴァンニに聞く。
「そういえば、君何処から来たの?」
「あ、えっと……」
するとジョヴァンニは返答に困った様子で言葉に詰まってしまっていた。
「あぁ、言いにくいなら良いよ言わなくて」
「そ、そうですか……」
「言いたくないことがあるなら秘密にしておけば良いよ」
そう言うと、カセリーヌは通りのベンチで座りながら灯りの眩しい通りを見ると、ジョヴァンニがポツリとこぼす様に呟く。
「……僕は、ずっとこの景色が羨ましいと思っていました」
「?」
「僕は、ずっと実家で暮らしていたんです。外に出たのも、とても久し振りなんですよ」
そう言うと、ジョヴァンニは先ほど食べ終えた串を見ながら呟く。
「僕の食事はいつも毒味をするから冷めた状態で出される事が殆どだった。……だからこうして温かい食事を摂れる事が嬉しいんです」
「温かい食事か……」
確かに、冷めたスープとかクソまずいシチューの缶詰とか。あの戦場でたまに食べていたマズ飯を思い返すと改めて食のありがたみを噛み締める。
帝国に保護された後の病院食や訓練施設での舞鶴のグラーシュの旨さに全員が泣いていたのは記憶に新しい。
料理が温かいだけであそこまで美味く感じるのも中々無いと思っていると、ジョヴァンニは言う。
「家から抜け出した時、僕は嬉しかった。中々外に出させてもらえなかったから、嬉しくなって街を歩いていたら……」
「迷子になっちゃったと」
「はい…恥ずかしい話ですが……」
「いやぁ、その気持ちはわかるよ。私も似た経験があるし……」
そう言い、カセリーヌは昔の。初めて茂と出会う事になった経緯を思い返す。
「幼い頃に役者やってて、仕事が嫌になって。…ふとした気持ちで家から飛び出して河川敷まで走ったな……」
「カセリーヌさんもそんな事があったんですね……」
ジョヴァンニが共感した様子で言うと、カセリーヌは頷きながら話す。
「そうよ、それで飛び出した河川敷で迷子になったところを助けてくれたのがディルク君だった……」
「あの人がですか?」
「ええ、見た目に反して結構優しいんだよ?あの人」
「……もしかして意見を変えたのって…」
ジョヴァンニの予想にカセリーヌは頷く。
「多分、その時のことを思い出したんだと思うよ」
「なるほど……」
人は見かけによらないとはよく言うものだと思いながらジョヴァンニは食べ終えた串を捨てるとカセリーヌが聞いて来た。
「さ、次はどこに行きたい?」
今日はジョヴァンニの行きたい所を連れて行っていた。
『ごめんなさい。あの子の為に……』
あぁ、懐かしき嫌な記憶だ。久しぶりに見る。おそらく自分が経験して来た中で最も嫌な記憶だ。
これは祖父が亡くなった後の出来事だ。中二の夏に病院で静かに逝ってしまった祖父は残っていた遺産を全て俺に相続すると言う遺言を弁護士に預けていた。
そして葬式の時、それが発表された時は親族が挙って揉めていた。恐らく祖父の遺産が多かったからだろう。名の知らぬ親族までも俺の事を引き取ろうと必死になってウチに来ないかと言って来た。両親を亡くし、親代わりであった祖父までも失い。こっちは心身疲れていると言うのに……
結局俺は何も答えなかったので、とある親戚の家に住まう事になった。ちょうどその家には俺と同い年の子がおり、最初に顔を合わせた時は健気に宜しくと声をかけていた。そしてその親戚の子と同じ学校に通い始め、初めは名字が同じの転校生という事で話題を呼んでいた。だけど、祖父の家の時にいた友人との方が単純に付き合いが長かった事もあり、俺はあまり学校に馴染めなかった。
秋からその中学校に通っていたが、冬にもなると俺はボッチになっていた。
いや、正確には一人にならざるを得なかった。と言った方がいいかも知れない。
苗字が同じで、親戚という事もあり。まぁ、よく何で此処に来たのかと聞かれ、その時素直に『俺の親は皆んな死んでしまったから』と馬鹿正直に言ってしまい。全員が何とも言えない雰囲気になってしまったのだ。それで、それ以降必要以上に接することは無かった。
また、下手に成績が良かったのもいけなかったかも知れない。毎度毎度先生から褒められているのを見て、優秀なんだと同級生は感じ。同じ苗字だったが為にその親戚の子は何かと比べられる事が多くなっていた。
そして、その頃からその親戚までもが俺をやや面倒そうな目で見てくる事が多かった。理由は簡単、祖父の遺産は下手に使えないように細工がされていたのだ。
祖父は、自分の遺産が俺だけしか扱えないように通帳を分けていたのだ。本当の遺産の入った通帳は別の場所に入れていたようで、俺と一緒にやって来たのは生活費分の金だけだったのだ。
それを知り、無論親戚は真っ先に遺産のあり方を俺に聞いて来たが。俺も正直知らなかったので首を横に振っていた。
そして三年生になった頃、学校で運動は比較的平凡だった俺はそこで運動が出来た親戚の子に嫌がらせを受けるようになった。
恐らくテスト毎に点数を比べられる事に腹を立てた事に対する一種の苛立ちから来ているのだろう。
俺は祖父の最後の遺言であった高校に入学する為に準備を進めていた。絶対そこに行けと何度も念押しをされていたので、本当は働く気だったのだが。そこに行く事にした。流石に中卒は周りからの目もあるという事であの親戚ですら高校に行くようにとは言っていた。
部活に行くことも無く、どうせ親戚から嫌味を言われるくらいならと俺は図書館に篭る事が多かった。
そして帰ってくるのは午後九時頃、身長も中学生にしては大きかった為。虐められることも無く、警官に呼び止められることも無かった。
そしてそのままボッチのまま三年生の修学旅行も終わり、受験期を迎えた。
秋口に俺は親戚の両親に呼ばれてこう言われた。
「ごめんなさい。あの子の為に、高校は離れた場所にしてもらえないかしら?」
まぁ、分かっていた。その頃になれば俺とその親戚では決定的に決別をしていた。
初めて会った頃の優しさなど何処かに消え、俺を忌々しく見る目しか残っていなかった。
俺も、半ば別居していたのでその親戚の話を受け、離れて暮らす事にした。元々出て行くつもりだったし、もう会うつもりも無かった。そしてなるべくこの親戚と会いたくないから俺は合格届けが出た瞬間に家を出て、東京に向かっていた。
新生活が始まる事に少しだけ俺は期待をしていた。
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