「「転移魔法の抹消」」
ジョヴァンニの持つ天眼の能力で自分達が加護を受けている事を知られ、期待している様子のジョヴァンニを見てディルク達は答えた。
ディルク達の答えに、一瞬の静粛がこの場を支配した後。ジョヴァンニは前のめりになった体をゆっくりと椅子に戻しながら驚愕した様子を隠しきれずに呟く。
「そうですか……」
ジョヴァンニは見た目よりもよっぽど大人っぽく見える風格が漏れながら、ディルク達を見て言う。
「……もし、僕に何かできる事があったら言って下さい」
「……どうしてだ?」
あまりにも協力的なジョヴァンニにディルクが疑問を投げると、ジョヴァンニは言う。
「何せ、歴史書に残るレベルの人物が目の前にいるんです。興奮しないわけがありませんよ。それに、神託を受けたと言う事は教国の中でも多くの支援を受けられると思いますからね。この目のおかげで僕は教国の上層部でも顔が広いですから」
「は、はぁ……」
「まぁでも…今の教国はもう過去の威光もありませんけどね……」
そう言うと、ジョヴァンニは本当に若い子供なのかと思ってしまう様子で呟く。
「この国は…他国とは違う特異的な部分が多いんです。と言うか、国家予算の三割が信者からの寄付金ってのがおかしな話ですよ」
「「……」」
するとジョヴァンニはハッとなって謝る様にディルク達に言う。
「ごめんなさい。二人には関係ない話でしたね……。今日はわざわざ来てくれて有難うございます」
そう言うと、ジョヴァンニはディルク達を屋敷の外に案内した。
屋敷から出る前、ディルクは貰った精霊石を見ながらジョヴァンニに聞く。
「……なぁ、ジョヴァンニ」
「はい?」
「この、精霊石で使える魔法はどんな物があるんだ?」
「色々ありますよ。基本的に教国に収容されている魔法は全般的に行けますね」
「そうか……有難う。こんな便利なものをくれて」
「いいえ、僕も貴方達と出会えていい経験をしました」
そう言い、屋敷の外で気分的に寄り道してから帰るのでそのまま豪邸の門の前まで出ていく。時刻は午後七時、辺りは真っ暗で街灯の灯りがよく見える。門の前でジョヴァンニはディルクに一枚の紙を渡す。
「ディルクさん。これを、僕につながる番号です」
「あぁ、有難う」
そう言い、紙を受け取るとそのままディルク達は歩いて豪邸を離れていく。それを見届けながら、ジョヴァンニは横に立つマルティーナに言う。
「マルティーナ、両親にはこの事は秘密で頼むよ」
「はっ、畏まりました」
「あの人たちを政治に利用されたくないから。絶対に頼むよ」
そう念を押すと、ジョヴァンニは屋敷に戻って行った。
ジョヴァンニにとって、初めて見た神の加護を受けた人。そんな人物が居て、尚且つこの国にいると言う事実が両親が知れば確実に政治に使う事は確実。変な政事に参加させられ、変に祀り上げられるのはジョヴァンニの望む姿ではないし、神託の遂行が出来なくなってしまう。
二人が与えられた神託は。最近、話題となっている転移魔法の抹消と言っていたな……神が抹消しろと言うくらいだから転移魔法と言うのは残してはならないと言う事だ。
こっちの変な事情に巻き込まない為にもこれ以上の関わりは避けた方が良いのかもしれない。
ジョヴァンニの持つ天眼について詳しく知るために二四時間営業の国立図書館に来たディルク達はそこで情報を集めていた。
「はい。こっちの資料も終えたよ」
「あぁ、有難う」
蓮子が資料を机の上に置いて茂は中の資料を読み漁っていた。今頃、大湊達が車を取りに行っている頃だ。ここに来るまでの間でどれだけ情報を集められるかだが……
「天眼はモンテーニュ家の血筋を持つ家の子孫が継承するのか……」
資料を読んで情報を集めていると、大湊達が到着して声を掛けた。
「おーい、出迎えだ」
「あぁ、分かった」
大湊が呼びに来て、茂達は資料を片付けて出ていくとそこに止まっていたサイドカーに乗り込むとそのまま五人はペドロを去っていく様に走り出して行った。
車を走らせ、少し経った頃。ペドロ郊外にある小高い丘にある場所から双眼鏡を使ってある場所を見ていた。
「一昨日の事件で小野寺がここに居るのは確実だった……」
「えぇ、この国の何処かにいるかもしれないわね……」
横にいる蓮子が車の上に乗って同じように双眼鏡である場所を見ていた。それは……
「教国の戦車も中々壮観で良いわね……」
視線の先には教国の保有する独自の戦車がズラリと並んでいた。
教国は独自の機甲師団を有しており、周りを山々に囲われている影響から快速の戦車が要求されており、それに合わせて軽装甲高軌道の戦闘車が集められていた。
「すげぇな、流石は首都の部隊なだけあって最新鋭の戦車が居るな」
「P38重戦車だったか?」
そう言い、大湊が機甲騎士団……教国の戦車師団の駐屯地を眺めていた。そこには今年採用されたばかりの新型重戦車が並んでいた。特徴的なリベット留めの傾斜装甲を駆使した90mm砲を載せており、史実で言うならモックアップだけで終わったP.43と同じ見た目をしていた。他にもM16/43 サハリアノっぽい中戦車や、某戦車アニメに登場して有名なP26/40重戦車が駐屯地には並べられていた。
現在、一昨日の教皇庁の爆破事件で国内全体でピリついている教国だが、アンジョラ大司教に事情を詳しく説明しようとした時。教皇庁内部で不穏な空気が流れていると警告を受けた。なんでも、あの爆破を直接指揮した小野寺率いる抵抗軍を内部に入れたのは誰なのかと言う事でアンジョラ大司教率いる内部監査部と教国憲兵騎士団が出てくる大騒動になっていた。
何せ禁術指定書庫が完全に破壊され、中にあったほとんどの魔導書が消失したのだ。魔法省は消失した禁術を記した魔導書の復元の為に奔走しており、とてもじゃ無いが俺たちと会っている暇はないそうだ。一応、魔導鍵は返却したがその後どうなったかは知らない。
そして、霊廟に逃げ込んだ俺たちが何で地上に出たのかもこの精霊石のおかげで納得が行った。
あの禁術指定書庫の中にあった瞬間移動魔法を覚えた蓮子が無意識のうちに精霊石を媒介して俺の魔力を糧に発動させた物であると推測していた。
魔法と言うのは一旦魔導書を見て仕舞えば発動する事ができる。但し、円滑に術を発動させる為には練習を積まなければならない。俺は基本的に戦闘に必要な貫通魔法や爆発魔法。それらを合わせた貫通爆発魔法などを撃つのは目隠しされても発動できる。その代わり、あんまり回復魔法が得意ではないが……
そして、蓮子は魔法技術に関してはトップレベルで相性が良い。一度覚えた魔法は一発で簡単に発動でき、それも高い精度で発射可能だ。
その為、禁術書庫で彼女が見た魔法は全て実践で使えると言って良いだろう。実際、精霊石で禁術の瞬間移動魔法を何の問題もなく発動させていたし……
蓮子曰く、かなりの数の魔導書を見た様で後でどんな物を見たのか詳しく聞こうと思っていた。隠密と言うか、気配殺しの魔法を使える事から今後何かと重宝しそうだと感じながら茂は双眼鏡を仕舞うとそのまま地図を取り出す。そこには教国内の詳しい道などが記されていた。
「行くぞ、奴がどうやって教皇庁の内部に侵入したのかを調べる必要がある」
そう言うと、ディルク達はそれぞれ車に乗り込むと走り出していった。
同時刻
共和国内 某所
暗闇の中を複数の人物が歩く。その内、最も中央にいる一人の少将の階級章を付けた軍人は胸をやや張りながら歩くと、横にいた白衣を着た研究者と思しき人がその軍人に話しかける。
「閣下、装置の移設工事が完了いたしました」
「うむ……」
そう頷くと、その軍人……ジュール・ファブールはやや上を見上げると、その研究者に聞く。
「二度目の魔法発動にはどれ位掛かる?」
「そうですね…何せ移設工事が先ほど完了したばかりですから……。短くて半年…長ければ一年程待たなければなりません」
「そうか……」
するとジュールは視線の先にある巨大な機械を見ていた。
その機会は大きな水晶体の様な透明な球体の中にアーク放電をするプラズマボールのような物があり、その周囲をテスラコイルの様な物が囲うように設置された巨大な機械があった。
そしてその巨大な機械の足元には多くの白衣を着た研究員や魔法陣の彫られた巨大な木板が敷かれていた。
そんな巨大な機械を見ていると、その部屋にやって来た抵抗軍の旧共和国軍服を着た一人がジュールに報告する。
「閣下、貨物船から荷物の積み込みが始まりました。一ヶ月後には艤装が完了します」
「あぁ、分かった。予定通り進めてくれ」
「はっ!」
敬礼して部屋を出ていくとジュールはそんな兵士を見送った後に部下に指示を出す。
「至急、ヘイルダム少佐に通信出来るか?」
そう言うと、ジュールは壁にあった電話から連絡をとり始めていた。
「……私だ、作戦の成功は確認した。……そうだ、次の作戦に移る。君は一旦戻って来てもらう。言うまでもないが、臨時政府と帝国がお前さんを血眼で追いかけている。復帰した黒の天使が追跡に加わったと言う情報もある。鉢合わせたら間違いなく逃げろ」
そう言って、電話を切るとそのままジュールは部屋を出て外を歩く。
するとそこには大勢の人員が溶接機などを持って金属同士を結合させ、火花が至る所で散り。さらに多くの木箱が積まれており、その中には対空砲や重機関銃の姿もあった。
「完成まで二ヶ月…そうすれば安全だな……」
これにヘイルダムの砲撃能力が加われば無敵の要塞となる。後は魔石の確保と生きていた残りの転移者達を確保すればいい。唯、前にヘイルダムがヘマをした影響で転移者達は自分を悪人と思っているところが問題であった。
自分は魔法を使うことが出来ないので相手を催眠などで従順な下僕に仕立て上げるのは無理だ。抵抗軍の中でも魔法兵はヘイルダム以外二、三名ほどしかいないのも手痛い物だ。ただの歩兵が魔法兵に打ち勝つなんて不可能。大体、一人の魔法兵に対して五人の歩兵若しくは五センチ以上の大砲で立ち向かうのが定石である。特に帝国の飛行魔法兵全員で攻撃された場合は勝ち目がない。
はっきり言えば二度目の転移魔法が発動できれば後はどうでも良いのだ。抵抗軍の兵士はその為の捨て駒にすぎない。
戦争を忘れられず、戦争の恐怖に支配されたままの彼らは戦闘員としては実に良い戦力だ。通常の歩兵よりも戦闘力があるが故に実際活躍している。やり過ぎることがるのが玉に瑕だが……
「(まぁ、海に出れば少なくとも此処よりは何倍も安全だ……)」
そう思うと、ジュールは後ろにある巨大な建造物を見ていた。
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