戦場からこんにちは   作:Aa_おにぎり

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八二話

戦後に編成された転移者で構成された第四、第五中隊と。第一、第二、第三中隊との決定的な差は前者が諜報の訓練を受けて来たのに対し、後者は戦闘に特化した面々で構成されていることだろう。

時間が無かったからSEREのSEの部分しか訓練出来なかったのは非常に悔しい部分ではあった。

転移者と言ってもこう言う作戦行動に参加している時点で情報も抱えている。もし捕まった場合、拷問を受けた際の訓練が出来ていないのは少し不味いかもしれない。

だが、時間が無いのも事実。だから、敵に捕まらない事を絶対条件であの半島で訓練をさせていた。後は捕まることがなければ良いのだが……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

正暦一九三九年 一二月一八日 早朝

ミッドガルド教国 衛星都市ベニス

 

茂達はその日。ベニスと言う街に来ていた。教国の南部に存在する都市であり、別名水の街と言われるくらい町中に水路が流れていた。

内陸国の教国であるが、此処は巨大な川が街の真ん中を分断する様に流れており、それらの水を使って農業を営んでいた為街の中に数多の水路が作られていた。また、常に雪解け水が流れ出ている事から街全体がやや冷え込んでいた。

 

「うぅ〜…冷えるなぁ……」

 

年の瀬も近くなって来たこの日、茂は郊外の丘上に止まっているビートルの中で毛布に包まりながら思い出したように双眼鏡を持って遠くを見る。

 

「まだ動きはないか……」

 

そう呟くと茂は双眼鏡先に映る塔の空いている窓を見ていた。車内には帝国製半自動小銃が置かれていた。

 

 

 

 

 

現在、茂率いる偵察部隊はミッドガルド教国に入り、教国に逃げ込んだと言われているヘイルダムの追跡を行っていた。ルテティアで逃したのは非常に屈辱であるし、この前の教皇庁の時だってエレベーターで撃たれたのも同様である。

蓮子から受け取ったブローチが無ければ今頃死んでいただろう。

 

「命を救ったブローチか……」

 

そう呟きながら拳銃弾がめり込んだ蓮の花のブローチを見ていると、横でモゾモゾと動きながら蓮子が目を擦りながら起きた。

 

「んはよぉ〜……」

「よく寝てたな」

「う…ん……」

 

まだ眠そうにしている蓮子を見つつも、茂は車に置かれた無線機の電源を入れると、マイクに向かって話しかける。

 

「各員、変化はないか?」

 

そう聞くと、返答があった。

 

『こちら、大湊。異常無し』

『松島も変化無し』

『…異常無し』

 

五人全員の返答を確認した茂はそのまま無線機を置くと、今回持って来た数少ない武器を確認する。

今頃残りのメンバーの内、コンラート大尉達は本国に戻っている頃だろう。俺はディルクと言う仮面をかぶっているから時折手紙が届くのだが、転移者は家が無い。一応、戸籍はあるのだが家無き子の状態で、帝国にいてもしゃあ無いと言う事で慣れている共和国のルテティアの住宅を家と認識していた。

拠点でもあり彼らの家でもあるあのアパートは現在、同級生達が暮らしていた。

実質的にアパートを丸々借りている状況だが、いずれは出て行くことになるのだろう。その時は恐らく……

 

 

 

脳内でそう考えていると、目覚めた蓮子が双眼鏡を眺めていると茂の体を軽く叩く。

 

「どうやら来たみたいよ」

「そうか…じゃ、行くとしますか……」

 

教国内にまだ居ると思われるヘイルダムこと、小野寺輝。この前の教皇庁の爆破の際に彼に地下に行く鍵を渡したのは誰なのか。魔導鍵が()()無くなっており、持ち出したのが誰なのか捜査が始まっていた。

何せ、教国の歴史上稀に見る大惨事だ。警備体制も何もかもが混乱している今、国内でもざわめきを隠せていなかった。

 

 

 

 

 

あぁ、あとそれから。アイスフォーゲルの名称が変更された。

『8.8cm砲搭載型特殊戦闘艇』と言う何処となくかっこいい名称から『Mボート』と言う名称となった。名称変更した理由は簡単で、この兵器が海軍にも採用されたからだと言う。一般公開されてはいないが、陸軍が魔法兵を使った新兵器を試験導入した噂が同じ場所にあるから海軍にも流れており、どんなものかと言った様子でエレニカ技師の所に突撃したそうだ。そして中にあった制作途中のアイスフォーゲルを見て『ウチも欲しい!!』と駄々を捏ねて少し手直しした物を海軍も採用したそうだ。因みに頭のMは魔法兵の頭文字から来ているそうだ。

 

妙に魚雷艇っぽい名前になったと思いながら、茂は軍部内の争いの匂いを感じたが、巻き込まれるのは勘弁だと思っていた。

因みに、採用されたMボートは偽装用の加工がされていない物らしい。あぁ、後年の研究家が泣き出しそうなくらいグチャグチャな事になりそうだと感じていた。

 

 

 

 

 

現在、茂達は人から聞いた情報や噂を頼りに抵抗軍の集会が行われると思われるベニスのとある建物に来ていた。町中に水路が流れている影響で移動が基本的にボートでの移動だ、しかし茂達はボートを手配していなかった。ではどうするべきか……

 

 

答えは簡単、それが出来る物を持ってくれば良いのだ。

 

「今日は宜しく頼むぞ」

 

茂はビートルから降りると、後ろに止まっていた四台のトラック……この前名称変更がされた偽装Mボートを見る。運転席には同級生が乗っており、茂が荷物台に乗ってくるのを見ていた。

今回の襲撃に合わせてルテティアから出て来た彼らは、ヘイルダムを捕える為に街中にMボート運んできていた。

国境の検問も元々が偽装トラックな為に通り抜けることができ、水陸両用車としての特徴を使って街中で走っても怪しまれる可能性は低かった。

 

「もしもの際は誰かに見られている中で撃つことになるかもな」

「流石にそんな事にはならないんじゃ無い?」

 

ビートルの助手席で蓮子がそう言うと、五台の車はビートルを先頭に街に向かって移動を始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

茂達が郊外から移動をし始めた頃。ベニス市内の建物では外を航行する数多の船を見ながらヘイルダム……小野寺は片手に酒を飲んでいた。

此処最近の酷使で少しばかり休養が欲しいと思っていた彼は、目の前に広がる美しい光景を肴に酒を飲んで楽しんでいた。

 

「やれやれ、これから帰還命令ですか…どうやって戻ろうか……」

 

少なくとも小野寺は、数日前に起こした教皇庁の爆破で国中で混乱の兆候があった。

本来であればすぐにでも逃げるべきなのだが、小野寺は用事があったのとこの景色を見ておきたいが為にベニスにある抵抗軍が実効支配する会社を訪れていた。

 

自分が、ジュール・ファブールの手の上で踊らされているのも自覚している。彼は自分が従順な下僕だと思っているのだろう。だが、彼が仕込んだ麻薬入りジュースの件も見破っているし、転移魔法に関する情報も彼の目を掻い潜って休暇中などを使って調べた。そしてそこで、転移魔法が聖地条約と呼ばれるこの世界で重要な国際条約で使用が禁止された魔法であると言う事を知った。

 

戦後で混乱している最中、自分は立川を怒りに任せて落としてしまった後。合流場所であるテリブールに向かい、そこでジュール・ファブールと合流した。真っ先に逃げ出してしまった事は後悔していた。しかし、あの数の同級生達をまとめて助けるのも無茶な話であることも事実。おまけにあの時は状況が逼迫していた為にいつ帝国軍が沿ってくるかも不明だった。

 

そして逃げ出した先で、ジュール・ファブールは生き残った兵士や、降伏した現政府を認めようとしない過激派から人員を募って新たに抵抗軍を結成していた。正直、日本にいた過去から銃を片手に『革命』と叫ぶ彼らを見て愚かな衝動的な感情でしか無いと内心卑下していた。

そして、自分は抵抗軍の副官として働くように言われ、あの時よりも多くの人員を捌く立場で働いた。革命の名の下に正義と称した殺戮を行うのは愚かな事であると思っていた。

 

しかし、自分にはそれ以外にやる事もなかった。戦線の崩壊で同級生と自分が片思いをしていた人を失い、身寄りのない自分はこの世界では弱い存在であった。たとえ、現政府に寝返ったとしても自分の立場を保証してくれるかは分からないし、何より日本に帰れる可能性があったのだ。

 

現在、抵抗軍は様々な会社経営や教国からの資金提供で魔法の研究を行っている。その中でも最も大きなものが転移魔法だ。そう、ジュール・ファブールは二度目の転移魔法を発動させようとしているのだ。転移魔法の手順を見て、これに賭けるしか無いと感じた自分はジュール・ファブールの部下として信頼を勝ち取って行き、魔法の発動と同時に彼を殺す事で発動の権限を奪おうと考えていた。

 

そうして抵抗軍の幹部として奔走している中、とある噂を耳にした。

それは、同級生が生き残っている可能性があると言う事だった。この情報を聞いた時、どれだけ気分が高揚したか。すぐさま調べさせ、転移者を確保しようとした教国の騎士団が全滅したと言う情報が入り、それで同級生達が帝国に保護されている可能性がある事を確認した。

 

一度見つかったが、その後すぐに数ヶ月また居場所がわからなくなると言う事態となった。

しかし、資金提供をしていた教国側からの情報を掻き集めて彼等が何処にいるのかを逐一把握しようとした。これは、信頼できる人のみで行っていたが、功を奏して同級生達は戦場で何度も耳にした憎き仇敵、黒い天使が同級生の護衛をしていると言うでは無いか。これは良い機会だと思いつつも、自分との相性の悪さを感じざるを得なかった。

 

 

 

そして、そんな黒い天使との再会は最悪とも言える形だった。

あの黒い天使の正体はかつて、自分が殺したと思っていた自分の敵と認識していた南部茂であった。

それも、最悪な事に自分が怒りの感情に任せて突き落としてしまった立川さんが生きており、完全に行動が裏目に出てしまっていた。同級生皆から嫌われ、自分が片想いを抱いていた人。小山さんは自分をまるでゴミを見るような目で自分を見ていた、それに小山さんは雨が降るルテティアのビルの屋上で自分にこう言い放った。

 

『この脳内花畑野郎が。私の目の前から失せろ』

 

そう言われて頬をビンタされ、自分は明確に嫌われていたのだと理解するまで時間がかかってしまった。

そして自分はそんな片思いのままで終わろうとしていた関係を拗らせた南部茂に恐ろしい殺意と憎悪を抱いてしまい、つい彼に『殺す』と宣戦布告をしてしまった。

絶望的に戦闘面での相性が悪く。少なくともタイマンで勝ち目はない相手に、自分は宣戦布告をしてしまったのだ。

感情につい流されてしまっての行動だが、言ってしまったからにはやるしか無い。

 

「これで自分は…皆の敵ですか……」

 

そう呟くと、小野寺は悲しげにグラスを揺らしながらベニスの美しい街並みを眺めていた。




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