幼い頃から自分はなんでも自由にさせてもらってきた。
親がお金を多く持っていたのも知っているし、自分もその恩恵に授かってきた。
見た目も良く、幼い頃から色んな人から好かれていた。そして充実した生活をして来た分、大人の汚い部分も見てきた。
頭を下げて父の足元に札束の入ったアタッシュケースを差し出し、媚び諂う様子を見せる大人達。そして、金を受け取った父はその札束の数を数えながら頷き、その人と話し始めていた。
そんな光景を覗き見して育った子供はどんな風に育つだろうか?
答えは簡単だ。
親の真似をして汚い人間になるか、はたまた親の真似をして汚い人間になるか。
自分は後者を選び、真っ当な人生を歩もうと考えた。
しかし、自分はそこで有る才能を父親に見出されてしまった。
『お前には人を惑わす話術の才能がある。私の息子として誇らしいよ』
そんな事言われ、自分は親の後を継ぐ子としての教育を受ける事になった。
それからの生活はガラリと変わった。徹底した教育に、ギッチギチの予定。多くの習い事もさせられ、満足かと言えばそうでは無い生活であった。
確かに、テストなどで良い成績を取って褒められることはあっても一瞬で終わってしまい、次には何かしらの習い事を提案されている。
だから、自分は一度だけ親に反抗して習い事に行ったフリをして携帯に初めてゲームを入れて遊んだ。簡単なシューティングゲームだったが、それでもその時の自分にとっては最高の時間だった。
しかし、習い事に行っていないのが一回バレただけだったのに、親は激怒して自分を殺す勢いで殴り飛ばしていた。
『このなり損ないが!』
そう言い、殴り飛ばされた挙句持っていた携帯も叩き壊された。そして最後に父は自分にこう言い放った。
『次同じ事をした場合は家から追い出す!お前は私の所有物何だぞ!!』
そう言われ、自分はショックを受け。半ば絶望に近い何かを感じた。
自分はこの父親にとっては単なる所有物でしかなかったのかと思っていた。今まで自分に笑みを浮かべていたのも全部作り物だったのかと……
後から聞いて知ったが、自分は父親が前に結婚していた前の妻との間の子供で、何でも母親が離婚と同時に消えてしまったから仕方なく引き取ったそうだ。自分と血のつながった母親は何処にいるか分からず。父は離婚した直後に別の人と結婚していたと言う事だ。
つまり、あの父親にとって自分は前妻の残した厄介なお荷物でしか無いのであった。
父は新しく結婚した人と暮らしていたが、その人は不妊症を患っており、その治療に躍起になっていた。前の母との写真が全部捨てられていた事から、おそらくそこまで良い関係ではなかったのだろうと容易に推測できた。
だから、自分は家庭内でも疎外感を感じており、だったらこの家を早めに出て行こうと考えていた。あの毒親から叩き込まれた学力で何処かちょうどよく離れた場所で、良い場所がないかと思って調べていた。
幸いにも父は新妻の治療に躍起になっていたお陰で進学先に口を出す余裕すら無かったので、スルスルとその学校に通うことが出来た。
叩き込まれた学力のおかげで学年では有難いことに総代もやらせて貰った。
あの父親から才能があると言われた人を引き込む話し方をして、学内にできるだけ多くの味方を作ろうと思っていた。そうすれば、事が落ち着いて無理矢理別の学校に編入させようとする父の暴挙を少しでも抑えられる理由にもなるからだ。
そして、学校内で多くの人に顔を覚えてもらい、父親に対する反抗をしていた時。自分の目にはある同級生が目に入った。
単発の濃いブラウンヘアに、大きくルビーのような赤い瞳。あまり日本では見かけない見た目をしている特徴的な外見に、一瞬だけ時が止まったような感覚があった。これが俗に言う一目惚れだと分かったのはそれから数ヶ月経った後だった。
何度か話しかけることもあったが、全て華麗にスルーされ。自分には興味無しの様子であった。
多少なりとも恋心を抱く様子のない、その同級生。小山蓮子に自分は興味が湧いていた。なぜ、自分に興味が湧かないのか。そして、その理由を知ればもしかすると彼女と接近できるかもしれない。
二年生になり、運良く彼女と同じクラスになれた事から彼女をよく観察してその理由を探ったら、すぐに理由が分かった。
彼女も、自分が片思いをしている様に。彼女もまた片思いをしている人物がいたのだ。そしてその人物は幸いにも同じクラスにいた。
その者の名は南部茂。名前を聞いただけで誰なのか思い出せた。一年生の頃に二番手の成績を残していた同級生だ。何事も二番手と言うものは人の記憶に残らない事が多いが、その順位の通りに彼は影が薄かった。正直、クラスに居る事も小山さんがそうしなかったら気付かないレベルだ。
そして、そこで小山さんが何度か南部に話しかけているのを見て、そこで南部が小山の恋心に気付いていないのだと確信した。あそこまで露骨に恋心を醸し出しているのに気付かないのかと驚いてしまうが、それが自分にとっては有り難かった。
自分は今まで一度も付き合った人と身体の関係を持とうとは思った事は無い。理由は簡単で、そう言う関係は何かしらのトラブルを起こすからだ。それは父親を見ていればわかる。だけど、小山さんとはそう言う関係になりたいと一瞬だけ思った事がある。
しかし、片思い中の人を…それもガチ恋をしている人を相手にする事は至難の業だし、何より自分の中で決めたポリシーに反する事だと思っていた。だから、片思いだけで終わらせようと思いながらもなかなか彼女の恋心に気付かない南部に焦ったさも感じていた。
そして一学期の半ば頃に、自分は南部に小山の恋心に気付けと言ってやろうと思って彼に話しかけてみた。
が、結果は最悪の一言だ。読んでいる本を切り口に話を切り出そうと思っていたが、南部自身は自分を敵視しており、完全に手順を間違えてしまったし。何より、彼に言われた言葉にショックを受けていた。
『少なくとも女を転がして遊ぶよりはよっぽど歴史の勉強になるからな』
彼から見た限りでは、自分は女を転がしている男の様に見えていたそうだ。その評価はまるっきりあの父親と同じでは無いか。
自分は今まであんな父親の様な生き方はしないと心に決めていたのに、側から見ればその様に捉えられていたのだ。それはもう、親に所有物と言われた時以上のショックだった。
その後、自分は南部と別れて改めて自分の行動を見直していた。では、どうすれば自分は良いのだろうか。そう思い、彼に助言を聞こうと思ったが、此処でさらに悪い状況になってしまった。
自分との話を聞いていた一人の仲間に引き入れていた同級生が、南部が自分に悪口を言ったと言う理由だけで彼に虐めをし始めていたのだ。咄嗟にやめさせようとしたが、もはや壊れたブレーキは止められず、どんどんエスカレートしていった。
高すぎる忠誠心は身を滅ぼすと思っている為に、この状況に頭を抱えてしまった。彼に謝りに行こうにも周りの人間がそうさせてくれない。
父親に抵抗する為に集めた仲間が、此処で仇となってしまった。
そうしてもはや関係が修復困難となったレベルになったまま二学期に入った時。自分達は転移魔法で異世界に飛ばされた。
異世界で、詳しい状況を知った自分はふとそこである悪魔の囁きが脳裏をよぎった。
『此処で南部を始末できれば、小山さんが振り向いてくれるかも知れない』
そしてその悪魔の囁きに自分は争う事が出来ず。操られる様に感情的になってしまって、そのまま彼を絶対生き残れないであろう前線に送りつけた。元々、彼には魔法兵としての才能が無かった事からすぐに死ぬだろうと思っていた。もう後戻りはできない。一度走り出してしまったからには最後までやり遂げなければ行けない……
そして、あの最前線で運良く生き残っていた南部を確実に始末する為に自分は最大出力で魔導砲撃を行った。
しかしその結果は全て裏目に出てしまった。殺したと思っていた南部は生き残り、戦線が崩壊した後に残っていた同級生は自分を敵対視する様になった。そして小山さんからは明確に嫌われて、おまけにビンタまでされた。
その後、小山さんに振られたショックや小山さんと南部が付き合っている事実に怒りを抱き、感情任せで言葉が出てしまった。南部は自分を殺す覚悟があり、実際引き金を引く時に躊躇がなかった。実際、フルトンがなければ死んでいただろう。
「……はぁ…」
よくよく考えれば感情に流される部分も、女を転がしていると見られているのも。あの父親とそっくりでは無いか。
半ば自分自身を卑下するように思考が回っていると、小野寺はベニスの街を眺め。最早どうすれば自分は良いのだろうかと自棄になり掛けながら思考を回す。ここまで来れば自分は悪役を演じるしかない。今まで自分が彼に行ってきた行為を清算する様に。
この先、自分はどうすれば良いのかを考えながら、小野寺は街を見ていると。ふとある事が思い浮かんだ。
自分を殺しにくる事がまるで使命であるかのように動く南部に、この方法は効果覿面かも知れない。
「……やって見る価値はあるか」
そう呟くと、小野寺は部屋にあったメモ書きにペンを走らせ始めた。
「(おそらく彼なら、気付いてくれるだろう……)」
軍事好きで、聡明な彼の考えがあれば自ずと答えに辿り着くだろう。
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